[R-18] 火消しの火遊び:おっさん消防士はイケメン俳優に火をつける

山葉らわん

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第三章 親分の長い非番日 ※【地雷:男女恋愛】

くノ一小雪

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 ふたりの視線が合い、そのまま時間がとまった。
 健悟は、目のまえの小さな女の子を怖がらせないように、微笑みつづけることを意識した。それにしても好い女だ。この世で女と呼べるのは小雪だけだ。
「……親分さんこそ、どうして?」
 小雪が探るような声で云った。
「此処から、待機宿舎が見えるだろ? 俺は――」健悟は窓の外に目を遣った。「あの二階の右端の部屋に住んでいた。初心に帰るため、いつも此処に寄って帰ることにしている」
 小雪は、そうなんですね、と云って同じ方向を見た。
 私服のほうがもっと小雪に似合っている。健悟は、今一度、横にいる小雪をちらりと見た。肩まで伸ばした淡い栗毛色の髪は、つい撫でてやりたくなる。肩から伸びるか細い腕は、男の保護本能をくすぐってやまない。健悟はあからさまな視線を悟られないように、また待機宿舎のほうを向いた。それからコーヒーをひとくち咽喉に流しこんで、目を閉じた。
 ああ、いろっぽい女だ。小娘だから小雪と名付けた俺は、何を見ていたんだ。
 小雪は少しくすんだ白のワンピースを着ている。肩をぜんぶ出さないデザインなのが慎ましい。女の服について詳しくはないが、夏だからきっと薄い生地なのだろう。細かなレース編みのしたに透けて見えたのは、素肌か? いや、生地を重ねているはずだ。しかしその生地のいろは、小雪の白磁のような素肌のいろとほとんど変わらない。境目もなくひと続きだ。小雪は、今、素っ裸で俺の隣りに坐っているのも同然だ。
 アドレナリンが全身を駆けめぐる。火災現場とはまた違う、ぞくぞくする感覚だ。全身の血液が相棒に注がれ、むくむくと勃起してゆくのがわかる。
 ――おい、健悟。小雪は、まだ男も識らないような小娘だぞ。
 ――あん? こんな好い女が隣りにいるんだぜ? 男なら誰でもこうなる。
 ――嫌われるぞ。俺は自制するからな。
 ――小雪が飲んでるの、甘ったるいあのコーヒーだぜ?
 相棒は素直になった。
 健悟は、目を開けて顔だけを小雪に向けた。同じタイミングで小雪も健悟の顔を見た。
「親分さんにも、新人の頃があったんですね」
「あたりめえだろ」
 ふたりは同時に、ぷっと噴きだした。
 ひとしきり笑ったあと、小雪が話を切り出した。
「実は、朝から此処にいるんです」
「見張りか」
「はい」
 すると健悟は神妙な顔つきになり、芝居がかった口調で、
「お茶屋の看板娘だとばかり思っていたが、此処で見張りをしているってことは……。さてはおまえ、くノ一だな」
 小雪は、ころころと玉を転がすような笑い声を洩らした。「親分さんったら。わたし、ただの町娘です」
 そして肘で健悟の腕をつつこうとした。しかし、それより一瞬早く、健悟が小雪のカップをひょいと取りあげた。
「おっと。危ねえ。『コーヒー、こぼすな』って云っただろ」
 小雪は、顔を赤らめた。健悟は小雪のカップをカウンターにおくと、悠々と窓の外を向いた。右肘を立てて頬杖をつき、懐かしそうに待機宿舎を眺めた。
 好い感じだ。小雪は、出初式のときのことを思い出している。すでにネクタイは緩めているし、シャツのボタンはみっつ外している。あとは、袖をまくっておいて、それから会話をしながらタイミングをはかって、今だってときに小雪のほうを向いて、俺の軀を見せつけてやるだけだ。そうだ。脚もしっかり開いてやろう。ただし、あくまでも自然なポーズで……。
「背広、しわくちゃになりますよ」
 ふと思いついたように小雪が席を立った。健悟は頸を回して小雪を追った。小雪は健悟の背中を回り、右に立ってカウンターに無造作におかれた背広を叮嚀に畳みはじめた。
「親分さんって、黒づくめだとボディガードみたいですね」
「今日の朝も云われたばかりだ」袖をまくりあげながら健悟は応えた。
 脱いだらボディガードじゃなくなるんだぜ……。大きな背広と格闘している小雪を隣りに感じながら、健悟は小雪がベッドのうえで乱れる姿を想像した。コーヒーを音を立てて啜る。
「――ですか?」
 小雪が何か云ったが、聞きそびれてしまった。
「あん? 聞こえなかった」
「柳川さんにですか?」
「したにいるバイトの兄ちゃんだ」
「そうなんですね」
 小雪は、背広を畳み了えると足早に元の席に戻った。あくびをひとつする。いろっぽかった。
 ふたりはまた顔を見あわせた。
「ところで、おまえ、何時に此処に来たんだ?」
「八時半ちょっとまえです。親分さんの退庁時間にあわせて」
よろずがそうしろって云ったんだな?」
「本当は、六時から待機するように云われていたんです」
「俺たちの起床時間じゃないか」健悟は呆れかえるのと同時に殺意が湧いた。
「ささやかな反抗です」小雪はコーヒーをそっと飲んだ。「萬屋主任、柳川さんのこととなると手段を選ばないんです」
「事務所にマークされているそうだな」
「詳しいんですね」
 女の勘は鋭い。
「兎に角、此処で見張っていても時間の無駄だ。見た目は普通のアパートだが、あれは公舎だから柳川は入居できない」健悟はため息を吐いた。
 すると小雪もため息を吐いて、
「わたしもそう云ったんです。でも『ルームシェアするかもしれない』って」
 待機宿舎はすべて狭いワンルームだから、ルームシェアは無理だ。そのうえ部外者立入り禁止で、健悟が入居していた頃は、女を連れこむのでさえ命懸けだった。
「それで萬屋は何処で何してるんだ? おまえに此処で見張らせておいて、家で優雅にイギリスの泥水でも飲んでいるのか?」こう云って、健悟はカップを手に取ってコーヒーを啜った。
「それが聞いてくださいよ、親分さん。『寝不足はお肌の大敵』って週末はお昼過ぎまで寝てるんです」
 思わずコーヒーを噴きだしそうになった。あの ひのえ うまは、もう何をやっても手遅れだ。
 小雪の愚痴は続いた。つぎからつぎへと萬屋の計画が暴かれていった。このままでは柳川が危ないし、小雪に対するパワハラも許せない。
「ひとつだけ教えてやっても好いぞ。柳川は俺の当番日に来る。俺がお目付け役になったからな」健悟は賭けに出た。
 小雪はカップを両手で持って、
「じゃあ昨日、来ていたんですね」そろそろとコーヒーを口に含む。
 おかしい。柳川は、昨日署長室で小雪に会ったと云っていた。これは何かある。
「さあな」
 健悟はうそぶいて、コーヒーを咽喉を鳴らして飲んだ。そうしてから、はっと気づいたように、頬杖をついたまま左手を額にあてて、
「おっと、うっかりしゃべっちまった」
 と云って、左手で顔を撫でおろし、膝のうえにおいた。
「やっぱり、いたんですね?」
 小雪が愉快そうに笑った。
 健悟は、なおも取り繕ってみせた。
「ファンのおまえがわからなかったんだったら、いなかったってことだ」
「親分さん、ちゃんと顔に書いてありますよ」
 小雪は、カップをおいて、くすくすと笑った。
 今だ。
 健悟は、小雪のほうを向いて、巨軀を開いた。
「おい、くノ一小雪。いろ仕掛けでこの俺をたぶらかそうたって、そうはいかねえぜ」茶目っ気のある顔を作って、片眉をあげた。「柳川が云ってたぞ。昨日、署長室でおめえさんに会ったってな」
 小雪は目を丸くした。その拍子に両手で囲ったカップが倒れそうになったが、そこへ健悟が毛深い左腕を、さっと伸ばした。
「コーヒー、こぼすなよ」
 健悟は、差しのべた手を、小雪の両手からそっとはなして膝のうえに戻した。
「ご存じだったんですね。黙っていてごめんなさい」小雪は、恥ずかしそうに健悟の顔だけを見つめて云った。「それと、わたし、ただの町娘です……」
 健悟は、ふっと笑った。
「おどかして悪かったな。訳ありのようだが、何も云わなくて好い」
「親分さん?」
「デビュー当時から応援してるんだってな」
「はい」
「なら、話は簡単だ。小雪、俺と附合え」
「え?」小雪は突然の告白に目を丸くした。
「柳川のいる三ヶ月間、くノ一小雪として、俺と情報交換するんだ。どうだ?」
 それならと、小雪はLINEのアドレス交換を申し出た。それは部下たちが喉から手が出るほど欲しがっていたものだった。
 健悟は、勝負はあったと確信した。
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