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第13章 コード・オブ・デイドリーマー
第242話 すべてが終わって……
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週の頭から風邪をやって、ずっとダウンしてました……。
まあ、インフルじゃないだけよかったですが。
季節の変わり目だからですかね……皆さんもお気を付けください。朝晩は冷えますし、場所によっては湿度低くて喉いためたりしますし。
また、明日、書籍版7巻該当部分のWEB版を差し替える予定です。
ご承知おき下さい。
あと、感想返信追いつかなくてすいません……がんばります。
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「それでは皆様……本日は夜も遅くに、このようにお集まりいただいたこと……」
「堅苦しい挨拶は抜きだ、アクィラ。報告を始めてくれ」
ここは……ネスティア王国・王城。その、特別会議室。
時刻は、午後10時を回ったところ。普段ならば、仕事などとっくに終えて皆帰宅し、晩酌を楽しむなり、家族と語らうなりしてゆっくりと休んでいる時間帯。寝ている者も多いだろう。
にもかかわらずこうして、国王アーバレオン以下、国の要職についている者達が勢ぞろいしているのは……それだけ重要な議題と、それに関する報告事項を、アクィラが持ち帰ったということを意味している。
誰が言うでもなく、わかっている。その中身が……3日前に隣国『リアロストピア』で起こった、ある大事件にかかわるものであると。
「かしこまりました。では皆様……お手元の資料を随時ご参照の上お聞きください。これより、先日リアロストピアにて発生した『革命』についての、真相および詳細をお伝えします」
☆☆☆
3日前……ネスティア王国の隣国、リアロストピア共和国にて『革命』が起こり……わずか一昼夜にて政権が転覆するという大事件が起こった。
共和国内のいくつもの主要都市および重要拠点にて、現政権に不満を抱えた民衆たちが蜂起。同時多発的に暴動が発生し……王都を含む全ての都市が、翌日の夜明けまでに陥落してしまったのである。
こういった際に収束にあたるはずの国軍は、なぜかその直前――革命が始まる前から大混乱に陥っており、統制が全く取れないままに壊滅、制圧された。
いくつかまともに機能した部隊もいたにはいたが……それらの存在に迅速に対処するかのようにやってきた、革命軍側の戦力によって撃破されてしまったそうだ。
今回の革命のために、凄腕の傭兵か何かを雇ったのではないか、という見方がある。
あれよあれよという間に、行政府の機能・機関の全てが掌握されてしまい……翌朝には、現政権の指導者たちは全員逮捕・投獄され……革命の指導者たちが、新たな政権……議会による意思決定を行う国家の建国を宣言し、民衆たちから歓声が上がる……というまでに至っていた。
……と、ここまでなら、ある程度の情報網を持つものならば、すでに知っている範囲だ。
言ってしまえば、この会議に参集した者達も、この程度はすでに聞いているだろう。
彼らが本当に聞きたいのは……ここから先の話。
アクィラが持ち帰った、この革命もそうだが……その直前に起こった、ある冒険者とその仲間たちによる、国家その他を相手取った盛大な大喧嘩について、だ。
冒険者チーム『邪香猫』。
その頭目……『黒獅子』ミナト・キャドリーユ。そして、その仲間たち。
彼らに手を出したリアロストピアの現政権とその尖兵、および、それを裏から操り、国家の乗っ取りを狙っていた、『ハイエルフ』を中心とする亜人の軍団。
そして、彼らを利用して――ミナトが王族であるという点は伏せて――現政権の転覆と、旧王制の復古を狙っていた『旧王家派』の暗躍。
それらの小競り合いに巻き込まれたがために、ミナト・キャドリーユの逆鱗に触れ……その結果、三者は三様に、悲惨な末路をたどることとなった。
リアロストピアの現政権は、大軍団を組織してミナトの捕獲あるいは討伐に乗り出したものの……ものの見事に壊滅。襲撃から決戦に至るまで、合計で軽く10万を超える兵士が戦場に散り……軍事力を大幅に削られた結果として、革命に対抗できず、国家の崩壊を許した。
亜人の軍団はさらにひどい。ミナトと国軍が消耗した?ところを見計らって意気揚々と出ていったはいいが……人間主体の国軍よりは善戦したものの、まるで歯が立たず。
加えて、ミナトのみならず、その仲間たちが参戦してきたことで、別動隊も次々に壊滅。
それぞれの種族の主力たちが参戦し、一時は互角以上に戦ったらしいものの……最終的には、信じられないほどの力を発揮したミナトによってあえなく全滅。その際……報告内容の真贋を疑うようなことがいくつも起こっている。
そして、『旧王家派』の者達については……これらについては、直接はミナト達に何かされたわけではないようだが……革命と同時に一斉摘発が行われ、危険因子として、今回樹立した新政権によって逮捕・投獄されている。
その内何人かは、処刑も検討されているとのことだった。
おかしいことではないだろう。新政権や、それを支持する民衆達にしてみれば……彼らもまた、『旧王家』などという、今更持ち出されても別にあがめる気にもならない過去の遺物を掲げ、王族による集権的な政治を作り出そうとしている、歓迎できない『危険因子』なのだ。
加えて、自分たちが危険にさらされる可能性も当然あったにもかかわらず、色々と裏工作まで重ねて潜伏していたこともある。彼らを擁護する声は、まったくと言っていいほどに無く……彼らもまた、負の遺産として表舞台から完全に排除されていく運命をたどるのだった。
……これについては……摘発の迅速さや、情報の拡散などについて……どうも、何者かが革命軍サイドを手助けするように動いた痕跡がいくつか疑われているのだが……それについて詳しいことは、残念ながら明らかになっていない。
この一連の大騒動が事前に起こっていたことにより、革命よりも前にすでに大きく力を落とし、混乱の真っ只中にあってまともに機能していなかった政府は……泣きっ面に蜂とばかりに起こった革命によって、あえなく倒れてしまったのだった。
国そのものが半壊状態になるほどのダメージを、少人数……というよりも、ほぼ単騎で叩き込んでのけた『黒獅子』の所業に、会議参加者たちの表情が凍る。
特に……最後の戦いで見せたという、およそ1人の人間の手で起こせるとは到底思えない、超大規模破壊の数々。これに関してばかりは、『何かの間違いでは!?』と、アクィラの報告の内容に疑問を唱える者も多かった。
……しかし、現実は残酷である。
「残念ですが……全て事実です。間違いなく」
地面を溶解させてマグマを満たすほどの熱や、雷霆を思わせる威力と轟音の雷を放ち、
光の旋風で周囲全てを薙ぎ払い、切り伏せ……斬撃と同時に竜巻を発生させ、
凍り付く冷気の一撃で全てを砕き、見上げるほどの巨人を一刀両断し、
そして……飛び蹴りの炸裂と同時に、とてつもない範囲に大破壊をもたらした。
特に、最後の一撃について聞いた時の貴族たちの反応、そして心中は……筆舌に尽くしがたいものであったことは言うまでもない。
「把握している限りですが……周囲半径数百m圏内が完全消滅し、チリ一つ残っていません。中心部には戦略級魔法発動時以上の大きさのクレーターが残っており、さらに爆風は、最大で半径3km超にまで広がった様子で、範囲内では倒木などの影響が見られました」
さらに……と続けるアクィラ。
「爆心地を中心として、およそ1~2km圏内においてですが……現在、極めて異常な気象状態になっている模様です。場所によって温度、湿度、風向、それに空気中の魔力密度等が頻繁かつ支離滅裂に変化し、天候も快晴、暴風、雷雨、降雪と目まぐるしく変化しています。これは過去の文献に記録のある、異常気象型の大規模魔力災害に酷似した現象と解釈できるかと」
「……彼の放った最後の一撃が、冗談でも比喩でもなく、天災に匹敵する規模の異常現象を引き起こした……いや、今も引き起こし続けている、ということでいいのか?」
「は……そうとしか考えられません」
きっぱりと言いきったアクィラ。
それを聞いて……会議室の中は、全員の絶句という形で沈黙に包まれた。
それから少し間をおいて、議題となったのは……やはりというか、これを引き起こした『ミナト・キャドリーユ』という存在の有用性、並びに危険性だった。
単なるいち冒険者や傭兵の枠にはもはや収まらない、その力――個人の戦闘能力然り、チームないし組織として保有する軍事力然り、放置していていいものではない。そんな意見が多く出るが……しかしならばどうするか、という段階になって、ほぼ全員が一斉に口をつぐむ。
理由は、至極簡単。手が出せない。
この場に集まっているような、時に国のかじ取りにも意見を述べることができるような……上級貴族の中でも一握りの者達は、総じて、清濁併せ呑む度量を持つものが多く……それゆえに、国益あるいは家の利益を得るため、時に手段を択ばない対応をすることもある。
やや過激かつ強引な者になると、話に上がったものの弱みを握って優位に立つことを考えたり、さらに過激になると、危険因子として排斥することを唱える者もいるのだが……今回に限っては、日頃そういった気風を持つ者も大人しいありさまである。
今回アクィラが持ち帰った報告を踏まえれば、考えるまでもなくわかることだが……ミナトは、一旦敵と認識し、敵対姿勢をとることを決めれば……相手が国だろうと容赦せず、さらにそこに大打撃を与えて壊滅させうるだけの力を、冗談でなく持っている。
敵に回せば……どう甘く見積もっても、大国1つを敵に回すに等しい脅威となる。
「私の娘の評価は的確だった……と言うべきなのだろうな、これは」
「そういえば……メルディアナ殿下は以前より、かの『黒獅子』殿に目をつけておられましたな……よもや、こういった事態が起こることを見越して、などということは……」
「さすがにそれはありますまい。ただ……その者の底知れぬポテンシャルを見抜いていた、という意味ではその通りなのでしょうが」
「聞けば、以前から比較的友好的な関係を築いていたご様子……加えて、それによりもたらされたいくつもの恩恵という実績がわが国にはあります。まあ、多少強引なところもあったようですが……ひとまず、悪印象を抱かれているということはないでしょう」
「ならば……とりあえず今後、我が国との間に友好関係を築いていくにはプラスということか」
第一王女メルディアナがミナトをであった時から気に入っており、何かにつけて勧誘したり、依頼等の形でつながりを持っていたことは、情報に敏い者ならば知っていることだった。
ゆえに、今ある土台を有効利用する形に……今後ミナトとネスティア王国の間に、排斥ではなく友好関係を築いていくという形で方向性が定まるのは、ある意味必然だった。
決して怒らせるべきではない。が、国としてあまり下手に出るわけにもいかない。
どういった形で付き合いを作るか……贈り物を送るなら、いつ、何がいいか。今何を欲しがっているのか……そもそも、どういった人物であり、趣向や価値観はどのようなものか。
ひとまず今日この場では、時間も遅い上に急な会議だったこともあり……決められることだけを手早く決めることに。
細かな対応は、情報を詳しく集め、整理してから、改めて協議されることになった。
「……ドレーク、アクィラ。お前たちならばわかるか? ミナト・キャドリーユ……弟君と、いかにして付き合う形が理想的か……」
「……肩の力を抜いた形にすべきでしょうね。あまり堅苦しい関係は、あの子は嫌いですし。それこそ、こう……気やすい感じ、とでも言いますか……庶民的な、友達付き合いのように」
「メルディアナ殿下が丁度、意図的な公私混同により両面からアプローチをかけております。また、軍や騎士団に何人か、友人関係として仲のいい者がいますので、その者達を通して関係を形作るのも手かと。無論……私やアクィラも含めて、ですが」
「なるほどな……これはひょっとすると、小難しく考えると、逆に袋小路に入るかもしれんな」
敵対するつもりがないのであれば、やはり友好的な関係にもっていきたい。
となると、どういった形で対応するのが有効か……と、国王は考えていく。
(気やすい間柄、か……立場がある私や、半ば本能的に国益に結び付けて動くメルディアナには、少々不得手なアプローチだな。……案外、リンスレットあたりに自由にやらせてみるのも手かもしれん……何より、本人が俄然乗り気のようだしな……)
ネスティア王国の今後を左右しかねない、重要な方策を決める場であることは間違いない。
しかし、そうとわかっていながらも……それによって相手にすることになる、童顔で優しく誠実、しかし無邪気で子供っぽい性格が特徴的だった少年のことが頭に思い浮かび……それと同時に、傍目からでもわかるくらいにその少年に熱を上げている自分の2番目の娘のことを思い出し、何というか、ほほえましいような気分になってしまう国王であった。
あの2人なら、案外上手くいったりするかもしれない。本人たちさえ良ければ、背中を押してみようか、などと考えるくらいに。
☆☆☆
さて……と。
終わってみれば……案外あっけないものだった、と言えるのかもしれない。
まあ、戦い自体はかなり激しいものだったことは確かだけど、その後はこう……拍子抜けするくらいにとんとん拍子にことが進んだので。
とりあえず、簡単に振り返ってみようと思う。僕が、正規軍と亜人軍団を壊滅させたあの夜以降……いったい何が起こって、最終的に誰がどうなったのかを、順番に。
あの後……というか、それ以前から準備含めて始められてたことらしいんだけど、『リアロストピア』では、民衆達によるクーデターが発生した。
現政権を打倒すべく立ち上がったという、『革命軍』を名乗る者達によって。
事前にウェスカーから聞いてはいたものの、あらためて細かくその手管を聞いてみると、感心するというか、お見事というか……。
僕らを討伐するために兵力が大移動し――さらにそれらがそっくりそのまま壊滅――その結果、都市ごとの守りが大なり小なり薄くなったところを見計らって、同時多発的に蜂起。
それも、ただ単に力押しをかけるのみならず、内通者を使って警備の隙をついたり、あらかじめ食事等に薬を盛ったりして入念に下準備を進め、場所によっては強力な助っ人として傭兵などを雇い、すさまじい速さで都市ごとの行政府と軍拠点を落としていった。
半日と経たずに、王都『ネオリア』を含め、軍事・政治上の重要拠点は全て制圧され……残りの準重要拠点についても、それからさほど時間をかけずに落とされるか、不利を悟って自ら降伏してくる形となり……わずか1日にして、革命は成功したそうだ。
そしてこの革命、どうやら『ダモクレス財団』が前々から絡んでいたわけだけど……必要な武器を売りつけてたのみならず、戦力まで派遣してたらしい。
あの日、ウェスカーを含む『ダモクレス』の戦闘要員の何人かが革命軍に混じって動いてたらしいし……さらにそうやって戦いつつ、色々と裏工作も進めてたんだとか。
そしてその『裏工作』の中には、僕のサポートを目的としたものも含まれていた。
最初に聞いた、僕の手柄を(表向きには)革命軍の戦果とする、っていうのに加え……ウェスカーたちには、僕らの邪魔になる連中の根絶のために動いてもらっていた。
その1つは……ご存じ『旧王家派』。血筋だけを理由に、僕やレジーナを祭り上げて昔を懐かしもうとしている、ぶっちゃけて言えば、生産性のない妄想の好きな人たち。
過激派を含む『旧王家派』の連中は、現体制に厳しくマークされているため、正規のルートで武器やら物資の調達が難しく、必然的に裏ルートからの入手となる。
その一番の大口が『ダモクレス』であり……必要な時に必要な量の武器を供給してくれる財団は、色んな地下組織につながりを持っていた。
そのつながりを利用して逆に相手のことを調べつくしており、ダモクレスは、国内の『旧王家派』の連中を、規模から所在、拠点に至るまで、完璧と言っていいほどに把握していた。
それゆえに、ウェスカー達には……革命が起こると同時に、そいつらを全員摘発して速攻で無力化して捕獲する、なんてことが可能だったのだ。
もっとも、実行したのは革命軍の人たちだったらしいが。情報買って。
で、そんな感じで『旧王家派』の連中をゲットしたウェスカー達と革命軍の皆さんは、事前に僕の船から受け取っておいた『小道具』こと、ガルパンのおっさんら――『旧王家派』の中心人物たちを揃えて、『革命』の仕上げのために有効利用することにしたのだった。
ガルパンは前に言っていた。この国の民たちは皆、疲れている……と。
それは間違っていない。長いこと……それこそ、実に20年近くもの間続く、内戦の時代に、このリアロストピアの民たちは、心底疲れていた。うんざりしていた。
『旧王家派』の理念は、それを憂いてのものも確かにあったんだろう。
……ただし、自分たちもその原因の1つだってことに気づかない、あるいは無視していた。
ひっそりと何もせず、おとなしく隠れているだけだったらまだよかったんだろうけど……中途半端にテロ行為とか繰り返したりするもんだから、現政府を刺激してにらまれ、締め付けがきつくなり……そのとばっちりを民たちも受けていた。
彼らを取り締まるための増税とか、彼らが隠れ住んでたことによって『かくまっていた』とみなされての粛清とか。
しかも、その『旧王家派』の連中そのものが、直接的に迷惑をかけることも多々あった。
『気の毒だが、我々の大義のためだ』とかなんとか、わけのわからない主張と共に。
現政権の側……軍とか貴族とかに納品される物資を、襲撃かけて強奪したりとか、自分たちが潜伏しやすいように裏工作して、寒村を意図的に作ってそこに住んでる人たちを困らせたりとか。
とまあ、そんな感じなので……ふつーに彼らも憎まれてるんだよね。現政権同様、民達に。
そんなことも知らず……『現政権がぐらついた! 今こそ我らの決起の時!』とかほざいてた連中は、一網打尽にされた後……民衆のわかりやすい憎しみのはけ口になってもらう、という役目を担うことになったのである。
『革命』によって、確かに現政権は倒れ、民衆は救われることとなった。
しかし、民衆の多くは『何か知らないうちに国が変わってた』という感じにとらえている。それはまあ確かに良かったんだけども、実感はわかないし……何より、今までの鬱憤をまだ晴らしておらず、ため込んでいる者が大半。
そんな方々のストレス解消……っていうと軽く聞こえるけども、溜飲を下げ、明日への希望と英気を持たせるために、彼らには役に立ってもらうそうだ。
まあ、平たく言うと……憎しみを背負って公開処刑されるだけの簡単なお仕事。
しかも……王や貴族たちといった、『現政権』の中枢の連中と共に。
『現政権』の連中は、暗愚な頭による圧政と、汚職にまみれた役人の横行に苦しめられてきた恨みを晴らすために、『旧王家派』の連中は、生産性のない勝手な目的のために巻き込まれ、不要な苦しみを背負わされてきた恨みを晴らすために……それぞれ消えてもらう、というわけ。
両者は同じ日、同じ時に、同じ場所で、同じ方法で、同じように民から憎まれて死ぬ。
まるで、よくできた物語の結末のように、皮肉のきいた最期。
おそらくどちらも、絶望と恐怖、そして悲嘆と無念の形相の中で死んでいくんだろうと考えると……民たちの溜飲も、効果的に下がるだろうなと予想はつく。
よく考えられてるなあ……ウェスカーの話だと、コレ決めたのあいつの上司と、クーデターの首謀者らしいんだけど。僕はただ、全部キレイに始末してほしいって注文しただけだし。
ちなみに、ウェスカーからは『せっかくの機会ですし、当日の死刑執行人とかやってみません? 祭り上げるはずだった人に処刑されるとなれば、彼ら、スゴい表情になると思うんですよ』って、本気かどうかよくわからない誘いをされたけど、遠慮しておいた。
その表情にちょっとだけ興味はあるけども……これ以上連中にかかわるのヤダ。
そもそも、公開処刑自体、見に行かないつもりだし。面倒だから。
プロパガンダにも興味はない。きちんと消してくれればそれで結構。勝手にやってくれ。
それともう1つ……僕らにちょっかい出してきそうな懸念勢力がいる。
亜人の連中の生き残りだ。
攻めてきた連中は、僕の最後の『クライマックスファイナルエンド』――今思うと、すごい名前考え付いたもんだな――で1匹残らず消し飛ばしたし、『邪香猫』+αの皆も、自分の戦場に来た奴は1匹も逃がさず仕留めてくれた。
しかし、後詰め的に後方に控えてた連中や、そいつらが住んでいた集落の連中なんかはまだ残っているわけで……その辺の対処も課題だった。
が、この部分についても『ダモクレス』が、集落の場所とか規模とか調べてきちんとフォローしてくれたことに加え、思わぬ援軍が3つもついてくれたので助かった。
1つは……アクィラ姉さん。
そして、スウラさんとギーナちゃん率いる、ネスティア王国の兵隊さんたち。
指揮系統を失って暴徒化した国軍の連中を、自衛および民達を守るためってことで鎮圧し拘束したりしてたのに加え……その一部や、本隊の敗北を知って逃亡を企てた連中が、寄りにもよってネスティア王国の方に逃げていこうとしてたのを止めたりしてた。
逃がしたら確実に賊にでもなりそうな連中だし……わざわざ面倒ごとが自国の中に入っていこうとするのを見逃すこともない。幸い、今ここ国中が大混乱だから、ちょっとくらい越権行為したり暴れすぎたりするくらいはうやむやにできるってことで、ガンガン対処してた。
その際、スウラさんとギーナちゃんにも、僕の発明のうちのいくつかを貸してあげて役立ててもらった。『邪香猫』の皆の装備と同様、『否常識』をいっぱいに詰め込んだ力作を。
それを駆使して、2人とも一騎当千……とはいかないまでも、他の追随を許さない圧倒的な力で大活躍してたわけなんだけど……直後に、そのインパクトが薄れてしまうほどの出来事が起こった。
広範囲に散って逃げる連中に、数の差で対応しきれなかったスウラさんたちのカバーをする、ってことで……なんと、アクィラ姉さんが動いたのである。
殺してしまっても問題ない……というか、立場とか目撃証言とか考えると、むしろきちんと殺しておいた方がいいってことで、容赦なしに発動されたアクィラ姉さんの魔法。
その一撃で……東京ドームくらいならすっぽり入ってしまいそうなくらいの広範囲が、一瞬で火の海になり……1人の打ち漏らしもなく、連中は消し炭になった。
その光景に……現地で見ていたギーナちゃん達も、モニター越しに見ていた僕らも、あっけにとられていた。
……しかも、コレで全然本気じゃないってんだから怖い。
姉さんいわく『本気……というか、私が一番得意な魔法使うと、それだけで私だってばれちゃいますから』とのこと。よくわかんないけど……改めてすごいなうちの家族は、と思った。
で、援軍の2つ目が……オリビアちゃんである。
と、いっても……オリビアちゃんが兵を率いて動いてくれたとか、兵を派遣して討伐してくれたとかいうわけではない。彼女が助けてくれたのは、情報面だ。
どうやら彼女……および、彼女をフロギュリアから迎えに来た人たちの耳にも、亜人連中が大規模に動いているという話は届いていたらしい。それを気にして情報を集めていた彼女たちは……主だった連中の動きをいくつかつかんでいた。
目立たず動こうとした結果、変なところで物資の移動が起こったりして逆に目立ってしまったりとか、そういう例を調べ上げてリストアップしてくれていたのだ。
しかもそのいくつかは、ダモクレスも把握していないものだった。
表の権力者が堂々と本気を出して調べた結果、ということなのだろう。お見事。
これにより、そこを調べ上げて迅速に連中の生き残りを殲滅できた。実働部隊としては、スウラさんたちに動いてもらって。
で、思わぬ援軍、最後の1つが……一番頼もしく、一番恐ろしい人たちだった。
その存在を知ったのは、つい昨日のこと。
戦いを終えての小休止ってことで、エルクの膝枕を堪能していた僕らのところに……突如、何の前触れもなく……手紙をもってあいつがやってきた。
相変わらずというか、見事な羽毛を金色に輝かせて羽ばたきながら……ストークが。
で、そいつが持ってきた手紙で、僕は知った。
我らが母……リリン・キャドリーユが、今回の件について大層ご立腹だということを。
手紙の内容を簡潔に説明すると、
『えーとね、ミナト。私らが150年前に掃除し損ねたゴミ共が、埃っぽくて煙たくて迷惑かけちゃったみたいでごめんね。うちの可愛い息子と未来の娘、そして仲間たちに手を出してくれるとか、あの耳長の骨董品共はホントに――
――しばらく罵詈雑言が続くので中略――
――ってことで、残党共の後始末はこっちで、私とクローナとテーガンできっちりしておいたので安心してね。さすがに今回の一件に無関係な連中……穏健派の、ホントにひっそり平和に隠れ住んでる亜人集落なんかには手は出してないけど、いらんこと考えてたハイエルフ共をはじめ、我が家に害悪だと判断できる連中は集落ごと消しておきました。
あと、最後になるけど……ミナト、『ザ・デイドリーマー』覚醒おめでとう。近いうち、お祝いと説明、そして特訓のために、直接会いに行きます。テーガンがあなたに会いたがってたので、その時一緒に連れてくかも。待っててね♪ ……母より。
――追伸。
ちょっと暴れすぎちゃって、一部、局所的に地図を書き直す必要があるみたいでした。エレノアに頼んで作ってもらった測量情報を同封します。何かの参考にしてね』
…………まあ、ツッコミどころは満載だけど……とりあえず、僕らのために怒ってくれたのは確かなようで、そこは素直に喜んどく。
そして、ハイエルフの集落……とうとう滅んだか。
まあ、自業自得ってことで。同情は特にしない。
しかし、ハイエルフって亜人の中でも特に数が少ない種族の1つだったよな……?
今回の戦いで僕、若い年頃の戦士を百人単位で消し飛ばしたはずだけど……その上母さんに集落ごと消されたとなると、相当な数が消えただろう、この数日間で。
……そろそろ本気で絶滅するんじゃなかろうか?
ま、仮にそうなったところで知りゃしないけども……ああいや、ドレーク兄さんとかいるから『絶滅』はしないか、別に。
とまあ、そんな感じで、亜人勢力の残敵討伐もほぼ済んだ。
それでも、わずかに逃げ延びた連中もいないことはないようだけど……ここから勢力を盛り返して何かできるだけの力は、もう間違いなく残っていない。
野盗か傭兵、冒険者にでもなって身ひとつで出直すか……失意の中で隠居し、追っ手におびえながらひっそりと隠れて生きていく、くらいのことしかできないだろう。
……もしかしたらそれすらもできずに、悲惨な末路をたどることになるかもしれないけど。
なんかウェスカーが、『行き場のない希少な亜人……それも罪人同然で、いなくなっても誰も気にしない……ふふふ、儲け話の匂いがしますね』とか言ってたし。
逃げ出した、あるいは隠れ住んでる大体の位置は、把握あるいは予測してたはずだ。
加えて、あいつらの組織って確か奴隷も取り扱ってたような……まあ、別にいいけど。
それはさておき、だ。
クーデターにしろ、亜人の後始末にしろ、そんな感じであらかた片付いてしまっているので……その辺に関して、僕の方からやることはあんまりない。
というか、最早何もしなくていいと言えるだろう。
どうやらクーデターの首謀者とやらは、成功した後どうするかまで綿密に考えていたようで……すでにこの元・リアロストピアには、暫定的な政府というか、統治機構が発足しつつある。これなら、無政府状態を理由に他国に過度に介入される、なんてこともほぼなさそうだ。
大きな混乱もなく……ただ頭が挿げ替えられて、今までよりも統治がまともに行われるようになっただけ。その過程で、ここから政治的に大きく動いていく、なんてこともあるだろうが……僕らには関係ないだろう。
血筋狂いの懐古主義者共はもういない。となれば、血筋だけを理由に、どこの馬の骨とも知れない踊り子や冒険者風情を、中央の政治に取り込もうとするような奴も、それだけを理由に排除しようとするような危険な輩もいまい。議会制の民主化するらしいし、なおさらだ。
そういうわけで、今後僕らはリアロストピア――どうも近々名前変わるらしいけど――から何かちょっかい出されることは、おそらくないだろう。
だから僕は、心置きなく……今、僕がどうにかしなきゃいけない問題の方に向き直ろうと思う。
……うん、あるんだ、問題。国とか関係ないところでなら……割とおっきいのが、いくつか。
まず何と言っても、母さんの手紙にもあった……あの戦いで僕が開眼した、『ザ・デイドリーマー』をはじめとした、いくつもの能力についての調査・分析。
次に、冒険者ギルドからの呼び出し。しかも、アイリーンさんの名前で。
もっとも、急ぎじゃないらしいので、落ち着いてからでいいらしいけど……一体何の用だろう?
さらに、ネスティア王都からも呼び出しくらった。ドレーク兄さんの名前で。
何やら、事情を詳しく聞きたいらしい。なる早で来てくれ、とのこと。
後は、レジーナ達の今後について。
まあ、これは彼女たち自身の問題だから……僕らがやることと言えば、ちょっと相談に乗るくらいだろうけど。
あと、僕の戦果についても、少々アレなことが。
ウェスカーとの取り決め通り、そしてさっき話した通り、僕の今回の戦果は表向き『革命軍』の戦果ということになってるけど……それは『正規軍』についてのもののみだったりする。
亜人連中を全滅させた件については、僕の戦果になってるのだ。クーデターに乗じて国内で暴れようとしていた亜人の暴徒軍団を壊滅させた、っていう形で。
それがらみのごたごたは、今後あるかもしれない、らしい。
で、極めつけは……あの戦いの中、ほんの数秒、呼ばれていった『幻想空間』の中で出会った……ある1人の女性について。
これについては、あと何度か潜って対話する必要があるだろうと思う。
そんな感じで、対処しなきゃいけない課題は多いんだけども……
……今は、何よりも……
(…………とりあえず……どういうことなの、コレ……?)
「えっと……ミナト、よね?」
……説明がだいぶ遅くなって失礼。
今、僕は……『オルトヘイム号』の自分の部屋、そのベッドの上にいる。
そこで、隣に座っているエルクの、戸惑いやら動揺やらがごちゃ混ぜになった視線を受けながら、僕は今……彼女に借りた手鏡を覗き込んでいる。
そこに移っていたのは……当然のことながら、僕である。
ただし、なぜか……見た目どう見ても、5歳児ぐらいの背丈と体つきになっていたが。
……え、何で縮んでんの僕? 何コレ? マジで何!?
まあ、インフルじゃないだけよかったですが。
季節の変わり目だからですかね……皆さんもお気を付けください。朝晩は冷えますし、場所によっては湿度低くて喉いためたりしますし。
また、明日、書籍版7巻該当部分のWEB版を差し替える予定です。
ご承知おき下さい。
あと、感想返信追いつかなくてすいません……がんばります。
********************************************
「それでは皆様……本日は夜も遅くに、このようにお集まりいただいたこと……」
「堅苦しい挨拶は抜きだ、アクィラ。報告を始めてくれ」
ここは……ネスティア王国・王城。その、特別会議室。
時刻は、午後10時を回ったところ。普段ならば、仕事などとっくに終えて皆帰宅し、晩酌を楽しむなり、家族と語らうなりしてゆっくりと休んでいる時間帯。寝ている者も多いだろう。
にもかかわらずこうして、国王アーバレオン以下、国の要職についている者達が勢ぞろいしているのは……それだけ重要な議題と、それに関する報告事項を、アクィラが持ち帰ったということを意味している。
誰が言うでもなく、わかっている。その中身が……3日前に隣国『リアロストピア』で起こった、ある大事件にかかわるものであると。
「かしこまりました。では皆様……お手元の資料を随時ご参照の上お聞きください。これより、先日リアロストピアにて発生した『革命』についての、真相および詳細をお伝えします」
☆☆☆
3日前……ネスティア王国の隣国、リアロストピア共和国にて『革命』が起こり……わずか一昼夜にて政権が転覆するという大事件が起こった。
共和国内のいくつもの主要都市および重要拠点にて、現政権に不満を抱えた民衆たちが蜂起。同時多発的に暴動が発生し……王都を含む全ての都市が、翌日の夜明けまでに陥落してしまったのである。
こういった際に収束にあたるはずの国軍は、なぜかその直前――革命が始まる前から大混乱に陥っており、統制が全く取れないままに壊滅、制圧された。
いくつかまともに機能した部隊もいたにはいたが……それらの存在に迅速に対処するかのようにやってきた、革命軍側の戦力によって撃破されてしまったそうだ。
今回の革命のために、凄腕の傭兵か何かを雇ったのではないか、という見方がある。
あれよあれよという間に、行政府の機能・機関の全てが掌握されてしまい……翌朝には、現政権の指導者たちは全員逮捕・投獄され……革命の指導者たちが、新たな政権……議会による意思決定を行う国家の建国を宣言し、民衆たちから歓声が上がる……というまでに至っていた。
……と、ここまでなら、ある程度の情報網を持つものならば、すでに知っている範囲だ。
言ってしまえば、この会議に参集した者達も、この程度はすでに聞いているだろう。
彼らが本当に聞きたいのは……ここから先の話。
アクィラが持ち帰った、この革命もそうだが……その直前に起こった、ある冒険者とその仲間たちによる、国家その他を相手取った盛大な大喧嘩について、だ。
冒険者チーム『邪香猫』。
その頭目……『黒獅子』ミナト・キャドリーユ。そして、その仲間たち。
彼らに手を出したリアロストピアの現政権とその尖兵、および、それを裏から操り、国家の乗っ取りを狙っていた、『ハイエルフ』を中心とする亜人の軍団。
そして、彼らを利用して――ミナトが王族であるという点は伏せて――現政権の転覆と、旧王制の復古を狙っていた『旧王家派』の暗躍。
それらの小競り合いに巻き込まれたがために、ミナト・キャドリーユの逆鱗に触れ……その結果、三者は三様に、悲惨な末路をたどることとなった。
リアロストピアの現政権は、大軍団を組織してミナトの捕獲あるいは討伐に乗り出したものの……ものの見事に壊滅。襲撃から決戦に至るまで、合計で軽く10万を超える兵士が戦場に散り……軍事力を大幅に削られた結果として、革命に対抗できず、国家の崩壊を許した。
亜人の軍団はさらにひどい。ミナトと国軍が消耗した?ところを見計らって意気揚々と出ていったはいいが……人間主体の国軍よりは善戦したものの、まるで歯が立たず。
加えて、ミナトのみならず、その仲間たちが参戦してきたことで、別動隊も次々に壊滅。
それぞれの種族の主力たちが参戦し、一時は互角以上に戦ったらしいものの……最終的には、信じられないほどの力を発揮したミナトによってあえなく全滅。その際……報告内容の真贋を疑うようなことがいくつも起こっている。
そして、『旧王家派』の者達については……これらについては、直接はミナト達に何かされたわけではないようだが……革命と同時に一斉摘発が行われ、危険因子として、今回樹立した新政権によって逮捕・投獄されている。
その内何人かは、処刑も検討されているとのことだった。
おかしいことではないだろう。新政権や、それを支持する民衆達にしてみれば……彼らもまた、『旧王家』などという、今更持ち出されても別にあがめる気にもならない過去の遺物を掲げ、王族による集権的な政治を作り出そうとしている、歓迎できない『危険因子』なのだ。
加えて、自分たちが危険にさらされる可能性も当然あったにもかかわらず、色々と裏工作まで重ねて潜伏していたこともある。彼らを擁護する声は、まったくと言っていいほどに無く……彼らもまた、負の遺産として表舞台から完全に排除されていく運命をたどるのだった。
……これについては……摘発の迅速さや、情報の拡散などについて……どうも、何者かが革命軍サイドを手助けするように動いた痕跡がいくつか疑われているのだが……それについて詳しいことは、残念ながら明らかになっていない。
この一連の大騒動が事前に起こっていたことにより、革命よりも前にすでに大きく力を落とし、混乱の真っ只中にあってまともに機能していなかった政府は……泣きっ面に蜂とばかりに起こった革命によって、あえなく倒れてしまったのだった。
国そのものが半壊状態になるほどのダメージを、少人数……というよりも、ほぼ単騎で叩き込んでのけた『黒獅子』の所業に、会議参加者たちの表情が凍る。
特に……最後の戦いで見せたという、およそ1人の人間の手で起こせるとは到底思えない、超大規模破壊の数々。これに関してばかりは、『何かの間違いでは!?』と、アクィラの報告の内容に疑問を唱える者も多かった。
……しかし、現実は残酷である。
「残念ですが……全て事実です。間違いなく」
地面を溶解させてマグマを満たすほどの熱や、雷霆を思わせる威力と轟音の雷を放ち、
光の旋風で周囲全てを薙ぎ払い、切り伏せ……斬撃と同時に竜巻を発生させ、
凍り付く冷気の一撃で全てを砕き、見上げるほどの巨人を一刀両断し、
そして……飛び蹴りの炸裂と同時に、とてつもない範囲に大破壊をもたらした。
特に、最後の一撃について聞いた時の貴族たちの反応、そして心中は……筆舌に尽くしがたいものであったことは言うまでもない。
「把握している限りですが……周囲半径数百m圏内が完全消滅し、チリ一つ残っていません。中心部には戦略級魔法発動時以上の大きさのクレーターが残っており、さらに爆風は、最大で半径3km超にまで広がった様子で、範囲内では倒木などの影響が見られました」
さらに……と続けるアクィラ。
「爆心地を中心として、およそ1~2km圏内においてですが……現在、極めて異常な気象状態になっている模様です。場所によって温度、湿度、風向、それに空気中の魔力密度等が頻繁かつ支離滅裂に変化し、天候も快晴、暴風、雷雨、降雪と目まぐるしく変化しています。これは過去の文献に記録のある、異常気象型の大規模魔力災害に酷似した現象と解釈できるかと」
「……彼の放った最後の一撃が、冗談でも比喩でもなく、天災に匹敵する規模の異常現象を引き起こした……いや、今も引き起こし続けている、ということでいいのか?」
「は……そうとしか考えられません」
きっぱりと言いきったアクィラ。
それを聞いて……会議室の中は、全員の絶句という形で沈黙に包まれた。
それから少し間をおいて、議題となったのは……やはりというか、これを引き起こした『ミナト・キャドリーユ』という存在の有用性、並びに危険性だった。
単なるいち冒険者や傭兵の枠にはもはや収まらない、その力――個人の戦闘能力然り、チームないし組織として保有する軍事力然り、放置していていいものではない。そんな意見が多く出るが……しかしならばどうするか、という段階になって、ほぼ全員が一斉に口をつぐむ。
理由は、至極簡単。手が出せない。
この場に集まっているような、時に国のかじ取りにも意見を述べることができるような……上級貴族の中でも一握りの者達は、総じて、清濁併せ呑む度量を持つものが多く……それゆえに、国益あるいは家の利益を得るため、時に手段を択ばない対応をすることもある。
やや過激かつ強引な者になると、話に上がったものの弱みを握って優位に立つことを考えたり、さらに過激になると、危険因子として排斥することを唱える者もいるのだが……今回に限っては、日頃そういった気風を持つ者も大人しいありさまである。
今回アクィラが持ち帰った報告を踏まえれば、考えるまでもなくわかることだが……ミナトは、一旦敵と認識し、敵対姿勢をとることを決めれば……相手が国だろうと容赦せず、さらにそこに大打撃を与えて壊滅させうるだけの力を、冗談でなく持っている。
敵に回せば……どう甘く見積もっても、大国1つを敵に回すに等しい脅威となる。
「私の娘の評価は的確だった……と言うべきなのだろうな、これは」
「そういえば……メルディアナ殿下は以前より、かの『黒獅子』殿に目をつけておられましたな……よもや、こういった事態が起こることを見越して、などということは……」
「さすがにそれはありますまい。ただ……その者の底知れぬポテンシャルを見抜いていた、という意味ではその通りなのでしょうが」
「聞けば、以前から比較的友好的な関係を築いていたご様子……加えて、それによりもたらされたいくつもの恩恵という実績がわが国にはあります。まあ、多少強引なところもあったようですが……ひとまず、悪印象を抱かれているということはないでしょう」
「ならば……とりあえず今後、我が国との間に友好関係を築いていくにはプラスということか」
第一王女メルディアナがミナトをであった時から気に入っており、何かにつけて勧誘したり、依頼等の形でつながりを持っていたことは、情報に敏い者ならば知っていることだった。
ゆえに、今ある土台を有効利用する形に……今後ミナトとネスティア王国の間に、排斥ではなく友好関係を築いていくという形で方向性が定まるのは、ある意味必然だった。
決して怒らせるべきではない。が、国としてあまり下手に出るわけにもいかない。
どういった形で付き合いを作るか……贈り物を送るなら、いつ、何がいいか。今何を欲しがっているのか……そもそも、どういった人物であり、趣向や価値観はどのようなものか。
ひとまず今日この場では、時間も遅い上に急な会議だったこともあり……決められることだけを手早く決めることに。
細かな対応は、情報を詳しく集め、整理してから、改めて協議されることになった。
「……ドレーク、アクィラ。お前たちならばわかるか? ミナト・キャドリーユ……弟君と、いかにして付き合う形が理想的か……」
「……肩の力を抜いた形にすべきでしょうね。あまり堅苦しい関係は、あの子は嫌いですし。それこそ、こう……気やすい感じ、とでも言いますか……庶民的な、友達付き合いのように」
「メルディアナ殿下が丁度、意図的な公私混同により両面からアプローチをかけております。また、軍や騎士団に何人か、友人関係として仲のいい者がいますので、その者達を通して関係を形作るのも手かと。無論……私やアクィラも含めて、ですが」
「なるほどな……これはひょっとすると、小難しく考えると、逆に袋小路に入るかもしれんな」
敵対するつもりがないのであれば、やはり友好的な関係にもっていきたい。
となると、どういった形で対応するのが有効か……と、国王は考えていく。
(気やすい間柄、か……立場がある私や、半ば本能的に国益に結び付けて動くメルディアナには、少々不得手なアプローチだな。……案外、リンスレットあたりに自由にやらせてみるのも手かもしれん……何より、本人が俄然乗り気のようだしな……)
ネスティア王国の今後を左右しかねない、重要な方策を決める場であることは間違いない。
しかし、そうとわかっていながらも……それによって相手にすることになる、童顔で優しく誠実、しかし無邪気で子供っぽい性格が特徴的だった少年のことが頭に思い浮かび……それと同時に、傍目からでもわかるくらいにその少年に熱を上げている自分の2番目の娘のことを思い出し、何というか、ほほえましいような気分になってしまう国王であった。
あの2人なら、案外上手くいったりするかもしれない。本人たちさえ良ければ、背中を押してみようか、などと考えるくらいに。
☆☆☆
さて……と。
終わってみれば……案外あっけないものだった、と言えるのかもしれない。
まあ、戦い自体はかなり激しいものだったことは確かだけど、その後はこう……拍子抜けするくらいにとんとん拍子にことが進んだので。
とりあえず、簡単に振り返ってみようと思う。僕が、正規軍と亜人軍団を壊滅させたあの夜以降……いったい何が起こって、最終的に誰がどうなったのかを、順番に。
あの後……というか、それ以前から準備含めて始められてたことらしいんだけど、『リアロストピア』では、民衆達によるクーデターが発生した。
現政権を打倒すべく立ち上がったという、『革命軍』を名乗る者達によって。
事前にウェスカーから聞いてはいたものの、あらためて細かくその手管を聞いてみると、感心するというか、お見事というか……。
僕らを討伐するために兵力が大移動し――さらにそれらがそっくりそのまま壊滅――その結果、都市ごとの守りが大なり小なり薄くなったところを見計らって、同時多発的に蜂起。
それも、ただ単に力押しをかけるのみならず、内通者を使って警備の隙をついたり、あらかじめ食事等に薬を盛ったりして入念に下準備を進め、場所によっては強力な助っ人として傭兵などを雇い、すさまじい速さで都市ごとの行政府と軍拠点を落としていった。
半日と経たずに、王都『ネオリア』を含め、軍事・政治上の重要拠点は全て制圧され……残りの準重要拠点についても、それからさほど時間をかけずに落とされるか、不利を悟って自ら降伏してくる形となり……わずか1日にして、革命は成功したそうだ。
そしてこの革命、どうやら『ダモクレス財団』が前々から絡んでいたわけだけど……必要な武器を売りつけてたのみならず、戦力まで派遣してたらしい。
あの日、ウェスカーを含む『ダモクレス』の戦闘要員の何人かが革命軍に混じって動いてたらしいし……さらにそうやって戦いつつ、色々と裏工作も進めてたんだとか。
そしてその『裏工作』の中には、僕のサポートを目的としたものも含まれていた。
最初に聞いた、僕の手柄を(表向きには)革命軍の戦果とする、っていうのに加え……ウェスカーたちには、僕らの邪魔になる連中の根絶のために動いてもらっていた。
その1つは……ご存じ『旧王家派』。血筋だけを理由に、僕やレジーナを祭り上げて昔を懐かしもうとしている、ぶっちゃけて言えば、生産性のない妄想の好きな人たち。
過激派を含む『旧王家派』の連中は、現体制に厳しくマークされているため、正規のルートで武器やら物資の調達が難しく、必然的に裏ルートからの入手となる。
その一番の大口が『ダモクレス』であり……必要な時に必要な量の武器を供給してくれる財団は、色んな地下組織につながりを持っていた。
そのつながりを利用して逆に相手のことを調べつくしており、ダモクレスは、国内の『旧王家派』の連中を、規模から所在、拠点に至るまで、完璧と言っていいほどに把握していた。
それゆえに、ウェスカー達には……革命が起こると同時に、そいつらを全員摘発して速攻で無力化して捕獲する、なんてことが可能だったのだ。
もっとも、実行したのは革命軍の人たちだったらしいが。情報買って。
で、そんな感じで『旧王家派』の連中をゲットしたウェスカー達と革命軍の皆さんは、事前に僕の船から受け取っておいた『小道具』こと、ガルパンのおっさんら――『旧王家派』の中心人物たちを揃えて、『革命』の仕上げのために有効利用することにしたのだった。
ガルパンは前に言っていた。この国の民たちは皆、疲れている……と。
それは間違っていない。長いこと……それこそ、実に20年近くもの間続く、内戦の時代に、このリアロストピアの民たちは、心底疲れていた。うんざりしていた。
『旧王家派』の理念は、それを憂いてのものも確かにあったんだろう。
……ただし、自分たちもその原因の1つだってことに気づかない、あるいは無視していた。
ひっそりと何もせず、おとなしく隠れているだけだったらまだよかったんだろうけど……中途半端にテロ行為とか繰り返したりするもんだから、現政府を刺激してにらまれ、締め付けがきつくなり……そのとばっちりを民たちも受けていた。
彼らを取り締まるための増税とか、彼らが隠れ住んでたことによって『かくまっていた』とみなされての粛清とか。
しかも、その『旧王家派』の連中そのものが、直接的に迷惑をかけることも多々あった。
『気の毒だが、我々の大義のためだ』とかなんとか、わけのわからない主張と共に。
現政権の側……軍とか貴族とかに納品される物資を、襲撃かけて強奪したりとか、自分たちが潜伏しやすいように裏工作して、寒村を意図的に作ってそこに住んでる人たちを困らせたりとか。
とまあ、そんな感じなので……ふつーに彼らも憎まれてるんだよね。現政権同様、民達に。
そんなことも知らず……『現政権がぐらついた! 今こそ我らの決起の時!』とかほざいてた連中は、一網打尽にされた後……民衆のわかりやすい憎しみのはけ口になってもらう、という役目を担うことになったのである。
『革命』によって、確かに現政権は倒れ、民衆は救われることとなった。
しかし、民衆の多くは『何か知らないうちに国が変わってた』という感じにとらえている。それはまあ確かに良かったんだけども、実感はわかないし……何より、今までの鬱憤をまだ晴らしておらず、ため込んでいる者が大半。
そんな方々のストレス解消……っていうと軽く聞こえるけども、溜飲を下げ、明日への希望と英気を持たせるために、彼らには役に立ってもらうそうだ。
まあ、平たく言うと……憎しみを背負って公開処刑されるだけの簡単なお仕事。
しかも……王や貴族たちといった、『現政権』の中枢の連中と共に。
『現政権』の連中は、暗愚な頭による圧政と、汚職にまみれた役人の横行に苦しめられてきた恨みを晴らすために、『旧王家派』の連中は、生産性のない勝手な目的のために巻き込まれ、不要な苦しみを背負わされてきた恨みを晴らすために……それぞれ消えてもらう、というわけ。
両者は同じ日、同じ時に、同じ場所で、同じ方法で、同じように民から憎まれて死ぬ。
まるで、よくできた物語の結末のように、皮肉のきいた最期。
おそらくどちらも、絶望と恐怖、そして悲嘆と無念の形相の中で死んでいくんだろうと考えると……民たちの溜飲も、効果的に下がるだろうなと予想はつく。
よく考えられてるなあ……ウェスカーの話だと、コレ決めたのあいつの上司と、クーデターの首謀者らしいんだけど。僕はただ、全部キレイに始末してほしいって注文しただけだし。
ちなみに、ウェスカーからは『せっかくの機会ですし、当日の死刑執行人とかやってみません? 祭り上げるはずだった人に処刑されるとなれば、彼ら、スゴい表情になると思うんですよ』って、本気かどうかよくわからない誘いをされたけど、遠慮しておいた。
その表情にちょっとだけ興味はあるけども……これ以上連中にかかわるのヤダ。
そもそも、公開処刑自体、見に行かないつもりだし。面倒だから。
プロパガンダにも興味はない。きちんと消してくれればそれで結構。勝手にやってくれ。
それともう1つ……僕らにちょっかい出してきそうな懸念勢力がいる。
亜人の連中の生き残りだ。
攻めてきた連中は、僕の最後の『クライマックスファイナルエンド』――今思うと、すごい名前考え付いたもんだな――で1匹残らず消し飛ばしたし、『邪香猫』+αの皆も、自分の戦場に来た奴は1匹も逃がさず仕留めてくれた。
しかし、後詰め的に後方に控えてた連中や、そいつらが住んでいた集落の連中なんかはまだ残っているわけで……その辺の対処も課題だった。
が、この部分についても『ダモクレス』が、集落の場所とか規模とか調べてきちんとフォローしてくれたことに加え、思わぬ援軍が3つもついてくれたので助かった。
1つは……アクィラ姉さん。
そして、スウラさんとギーナちゃん率いる、ネスティア王国の兵隊さんたち。
指揮系統を失って暴徒化した国軍の連中を、自衛および民達を守るためってことで鎮圧し拘束したりしてたのに加え……その一部や、本隊の敗北を知って逃亡を企てた連中が、寄りにもよってネスティア王国の方に逃げていこうとしてたのを止めたりしてた。
逃がしたら確実に賊にでもなりそうな連中だし……わざわざ面倒ごとが自国の中に入っていこうとするのを見逃すこともない。幸い、今ここ国中が大混乱だから、ちょっとくらい越権行為したり暴れすぎたりするくらいはうやむやにできるってことで、ガンガン対処してた。
その際、スウラさんとギーナちゃんにも、僕の発明のうちのいくつかを貸してあげて役立ててもらった。『邪香猫』の皆の装備と同様、『否常識』をいっぱいに詰め込んだ力作を。
それを駆使して、2人とも一騎当千……とはいかないまでも、他の追随を許さない圧倒的な力で大活躍してたわけなんだけど……直後に、そのインパクトが薄れてしまうほどの出来事が起こった。
広範囲に散って逃げる連中に、数の差で対応しきれなかったスウラさんたちのカバーをする、ってことで……なんと、アクィラ姉さんが動いたのである。
殺してしまっても問題ない……というか、立場とか目撃証言とか考えると、むしろきちんと殺しておいた方がいいってことで、容赦なしに発動されたアクィラ姉さんの魔法。
その一撃で……東京ドームくらいならすっぽり入ってしまいそうなくらいの広範囲が、一瞬で火の海になり……1人の打ち漏らしもなく、連中は消し炭になった。
その光景に……現地で見ていたギーナちゃん達も、モニター越しに見ていた僕らも、あっけにとられていた。
……しかも、コレで全然本気じゃないってんだから怖い。
姉さんいわく『本気……というか、私が一番得意な魔法使うと、それだけで私だってばれちゃいますから』とのこと。よくわかんないけど……改めてすごいなうちの家族は、と思った。
で、援軍の2つ目が……オリビアちゃんである。
と、いっても……オリビアちゃんが兵を率いて動いてくれたとか、兵を派遣して討伐してくれたとかいうわけではない。彼女が助けてくれたのは、情報面だ。
どうやら彼女……および、彼女をフロギュリアから迎えに来た人たちの耳にも、亜人連中が大規模に動いているという話は届いていたらしい。それを気にして情報を集めていた彼女たちは……主だった連中の動きをいくつかつかんでいた。
目立たず動こうとした結果、変なところで物資の移動が起こったりして逆に目立ってしまったりとか、そういう例を調べ上げてリストアップしてくれていたのだ。
しかもそのいくつかは、ダモクレスも把握していないものだった。
表の権力者が堂々と本気を出して調べた結果、ということなのだろう。お見事。
これにより、そこを調べ上げて迅速に連中の生き残りを殲滅できた。実働部隊としては、スウラさんたちに動いてもらって。
で、思わぬ援軍、最後の1つが……一番頼もしく、一番恐ろしい人たちだった。
その存在を知ったのは、つい昨日のこと。
戦いを終えての小休止ってことで、エルクの膝枕を堪能していた僕らのところに……突如、何の前触れもなく……手紙をもってあいつがやってきた。
相変わらずというか、見事な羽毛を金色に輝かせて羽ばたきながら……ストークが。
で、そいつが持ってきた手紙で、僕は知った。
我らが母……リリン・キャドリーユが、今回の件について大層ご立腹だということを。
手紙の内容を簡潔に説明すると、
『えーとね、ミナト。私らが150年前に掃除し損ねたゴミ共が、埃っぽくて煙たくて迷惑かけちゃったみたいでごめんね。うちの可愛い息子と未来の娘、そして仲間たちに手を出してくれるとか、あの耳長の骨董品共はホントに――
――しばらく罵詈雑言が続くので中略――
――ってことで、残党共の後始末はこっちで、私とクローナとテーガンできっちりしておいたので安心してね。さすがに今回の一件に無関係な連中……穏健派の、ホントにひっそり平和に隠れ住んでる亜人集落なんかには手は出してないけど、いらんこと考えてたハイエルフ共をはじめ、我が家に害悪だと判断できる連中は集落ごと消しておきました。
あと、最後になるけど……ミナト、『ザ・デイドリーマー』覚醒おめでとう。近いうち、お祝いと説明、そして特訓のために、直接会いに行きます。テーガンがあなたに会いたがってたので、その時一緒に連れてくかも。待っててね♪ ……母より。
――追伸。
ちょっと暴れすぎちゃって、一部、局所的に地図を書き直す必要があるみたいでした。エレノアに頼んで作ってもらった測量情報を同封します。何かの参考にしてね』
…………まあ、ツッコミどころは満載だけど……とりあえず、僕らのために怒ってくれたのは確かなようで、そこは素直に喜んどく。
そして、ハイエルフの集落……とうとう滅んだか。
まあ、自業自得ってことで。同情は特にしない。
しかし、ハイエルフって亜人の中でも特に数が少ない種族の1つだったよな……?
今回の戦いで僕、若い年頃の戦士を百人単位で消し飛ばしたはずだけど……その上母さんに集落ごと消されたとなると、相当な数が消えただろう、この数日間で。
……そろそろ本気で絶滅するんじゃなかろうか?
ま、仮にそうなったところで知りゃしないけども……ああいや、ドレーク兄さんとかいるから『絶滅』はしないか、別に。
とまあ、そんな感じで、亜人勢力の残敵討伐もほぼ済んだ。
それでも、わずかに逃げ延びた連中もいないことはないようだけど……ここから勢力を盛り返して何かできるだけの力は、もう間違いなく残っていない。
野盗か傭兵、冒険者にでもなって身ひとつで出直すか……失意の中で隠居し、追っ手におびえながらひっそりと隠れて生きていく、くらいのことしかできないだろう。
……もしかしたらそれすらもできずに、悲惨な末路をたどることになるかもしれないけど。
なんかウェスカーが、『行き場のない希少な亜人……それも罪人同然で、いなくなっても誰も気にしない……ふふふ、儲け話の匂いがしますね』とか言ってたし。
逃げ出した、あるいは隠れ住んでる大体の位置は、把握あるいは予測してたはずだ。
加えて、あいつらの組織って確か奴隷も取り扱ってたような……まあ、別にいいけど。
それはさておき、だ。
クーデターにしろ、亜人の後始末にしろ、そんな感じであらかた片付いてしまっているので……その辺に関して、僕の方からやることはあんまりない。
というか、最早何もしなくていいと言えるだろう。
どうやらクーデターの首謀者とやらは、成功した後どうするかまで綿密に考えていたようで……すでにこの元・リアロストピアには、暫定的な政府というか、統治機構が発足しつつある。これなら、無政府状態を理由に他国に過度に介入される、なんてこともほぼなさそうだ。
大きな混乱もなく……ただ頭が挿げ替えられて、今までよりも統治がまともに行われるようになっただけ。その過程で、ここから政治的に大きく動いていく、なんてこともあるだろうが……僕らには関係ないだろう。
血筋狂いの懐古主義者共はもういない。となれば、血筋だけを理由に、どこの馬の骨とも知れない踊り子や冒険者風情を、中央の政治に取り込もうとするような奴も、それだけを理由に排除しようとするような危険な輩もいまい。議会制の民主化するらしいし、なおさらだ。
そういうわけで、今後僕らはリアロストピア――どうも近々名前変わるらしいけど――から何かちょっかい出されることは、おそらくないだろう。
だから僕は、心置きなく……今、僕がどうにかしなきゃいけない問題の方に向き直ろうと思う。
……うん、あるんだ、問題。国とか関係ないところでなら……割とおっきいのが、いくつか。
まず何と言っても、母さんの手紙にもあった……あの戦いで僕が開眼した、『ザ・デイドリーマー』をはじめとした、いくつもの能力についての調査・分析。
次に、冒険者ギルドからの呼び出し。しかも、アイリーンさんの名前で。
もっとも、急ぎじゃないらしいので、落ち着いてからでいいらしいけど……一体何の用だろう?
さらに、ネスティア王都からも呼び出しくらった。ドレーク兄さんの名前で。
何やら、事情を詳しく聞きたいらしい。なる早で来てくれ、とのこと。
後は、レジーナ達の今後について。
まあ、これは彼女たち自身の問題だから……僕らがやることと言えば、ちょっと相談に乗るくらいだろうけど。
あと、僕の戦果についても、少々アレなことが。
ウェスカーとの取り決め通り、そしてさっき話した通り、僕の今回の戦果は表向き『革命軍』の戦果ということになってるけど……それは『正規軍』についてのもののみだったりする。
亜人連中を全滅させた件については、僕の戦果になってるのだ。クーデターに乗じて国内で暴れようとしていた亜人の暴徒軍団を壊滅させた、っていう形で。
それがらみのごたごたは、今後あるかもしれない、らしい。
で、極めつけは……あの戦いの中、ほんの数秒、呼ばれていった『幻想空間』の中で出会った……ある1人の女性について。
これについては、あと何度か潜って対話する必要があるだろうと思う。
そんな感じで、対処しなきゃいけない課題は多いんだけども……
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「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
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