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第13章 コード・オブ・デイドリーマー
第246話 『伝説』のステージ
しおりを挟む『リアロストピア』が倒れてから……そろそろ2週間。
僕は、その北西部にある荒野に来ていた。
そこは、一番近い町まで数十キロはあろう場所。
不毛の荒野で、動物はもちろん……魔物すら出ない。当然、人なんか通るはずもない。
そんなところに、何の用かって?
そんなところだからいいんだよ……気兼ねなく、思いっきり暴れられるから。
「でぇぇえやあぁぁああぁ―――っ!!」
地面を踏み抜き、蹴り砕いて勢いをつけ……前に跳ぶ。
その勢いを乗せて、思いっきり拳を振りぬく。暴力的なまでの魔力をまとわせて。
その拳を……母さんは、同じく魔力をまとわせた拳ではじいて反らす。
そして、体勢を崩した僕のみぞおちに、鋭い角度で貫手を繰り出してくる。
とっさに僕はその場で跳躍し、その上を転がるようにして回避しつつ、母さんの肩に手をついて、全身をばねのように使って真上に飛んだ。
その僕を追って、母さんの髪の毛が触手みたいに伸びてくるけど……それを僕は、さらにそこから上に飛んで……浮遊し、滞空することで回避する。
で、そこから母さんに向けて、何もない空間に拳を突き出し……その拳圧を衝撃波と暴風に変えて、遠距離攻撃にして叩きつける。
前から使っている『ジャイアントインパクト』……では、ない。これは、僕の新技能。
「ほー……見事に使いこなしてきたわね……」
感心したように言いながら、母さんはそれを片手で『パァン!』と払いのける。
不可視に加え、戦車砲くらいの威力はあったと思うんだけど……つくづく底知れない人だ。
しかし、予想できないでもなかったことなので……すぐに動く。
空気を踏みつけて足場にし、それを蹴って立体的に移動。母さんの後ろに回り込む。
同時に、空気中の水分をかき集めて右手の5本の指先に集め……圧縮。
横凪ぎに、ひっかくように振るうと同時に、それを開放し……水の刃にして放つ。
母さんはそれを、手からノータイムで放った火炎弾をぶつけて蒸発させ、相殺する。
そして直後、その水蒸気の向こうから、太さ1mはあるビームが飛んできた。
僕は目の前に手をかざし、魔力と空気を圧縮して障壁を形成……それを受け止める。
止むのをまって、手を払うように振るって障壁を消した。
今度は母さんは追撃をせず、代わりに……にやり、と楽しそうな笑みを浮かべた。
「もうすっかり実践レベルね、その『精霊魔法』」
「まあね……いろいろ模索しながらだけど、コツつかんでからは早かったかも」
そう、さっきから僕は……アドリアナ母さんから受け継いだ『シャーマン』の力を使った、新しい魔法技能……『精霊魔法』を使っている。
通常、人間が使う魔法とは異なる仕組みやら何やらで放たれるそれは、それゆえに、放出系魔法の才能がない僕でも問題なく使うことができる。
僕の大弱点の1つだった『遠距離攻撃』をカバーするのにもってこいだった。
精霊魔法というのはその名のとおり『精霊』の力を借りて使う魔法、とされているものの……ちょっと工夫すれば、別に精霊に働きかけなくても使える。
要は、自然の中に存在する魔力に干渉するものなので、本来精霊に補助してもらうところを自分でできれば、近くに精霊がいなくても使える。
それに、自我や意思のない精霊とか、その力の残滓とかだけでも使えるので、便利だ。
細かいところを除けば、基本、普通の魔法と同じように使えるのだ。
ただし、僕はそこの才能がないせいで……若干、精霊魔法でもできないこともあるけど。
できることとできないこと、今検証している最中だけど……今のとおり、だいぶ実践で使えるようになってきた。
「さて、じゃあ、そろそろ……本題に移りましょうか。ミナト、アレを使ってみなさい」
「ん……了解」
と、母さんに言われたと同時に……僕は、準備に入る。
足は肩幅。両手を開いて左右に伸ばし……あの時の感覚を呼び覚まし、術式を発動。
僕の周囲に、金と黒の魔力光でできた魔法陣が現れ……すぐに、1つに重なる。そして、これまたあの時と同じように、頭上から、僕の体をすり抜けて地面に焼き付いた。
そこから吹き上がる魔力が渦になり……その中心で、僕は『×』の字に腕を組み……
「アルティメットジョーカー!!」
あの時の姿……『覚醒』と同時に生まれた、現時点における最強フォームへ姿を変える。
ライダースーツのような装甲付きの装束に、はためく黄金のスカーフ、龍の頭のバックルのベルト。そして……金髪に、翠の目。
母さんはそれを見て、満足そうにうなず……きかけて、
「……んー、やっぱまだ問題アリね」
「……さいですか」
頷いてくれなかった。
☆☆☆
そのまま僕らは、シートを敷いて地面に腰かけ……昼もいい時間なので、母さん手作りの弁当を食べながら話し出す。『アルティメットジョーカー』は発動したままで。
あー、懐かしい……母の味。落ち着く。
……え、『アルティメット』に『ザ・デイドリーマー』まで発動したのに、戦わないのかって? いいのいいの、今回は……戦うことが目的じゃないから。
「もう話したと思うけど……『ザ・デイドリーマー』は基本、頑張った時、必要な時に補正がかかる類の力なのよね。力っていうより……在り方とか、性質、体質に近いかも」
「うん、聞いた。要するに、気合いで常識とか理論をぶっ壊すんでしょ?」
「まあ、それでいいわ。でね……それには、イメージというか、『やればできる!』『絶対にやってやる!』ってな感じの……自信みたいなものも関わってくるんだけど……クローナとも話したんだけど、そこがまだ、ミナトには足りてないのよね、見た感じ」
「あくまでも実践じゃなくて訓練だから、必死さが足りてない、とか?」
「そうじゃなくて……いやまあ、それもあるんだけど……コレよ、コレ」
言いながら、母さんは手鏡を取り出し……僕に向ける。
そこには、僕の……金髪翠眼になった顔が映っていた。頭の前側半分弱だけ金色で、後ろ側は黒いままっていう、何とも言えない……微妙な髪色。
「この変化は間違いなく、『ザ・デイドリーマー』の発動によるもの。コレ見て、どう思う?」
「母さんみたい」
「そう、私。あなたが思う、力を最大限発揮できる姿……最強フォーム、だっけ? そこで、私に似た特徴が出る……その意味、わかる?」
その問いに、少し考えて……1つの仮説に思い至る。
「……僕の中で、『最強=母さん』のイメージがある、から?」
「そういうこと。あなたの中で……『最強』のイメージは、あくまで私なの。そしてその姿は、私のトレース。あなたはいまだに、私の背中を追いかけてる状態、ってわけ」
……まあ、それはむしろ……納得できる。
僕はまだ、母さんに勝てるほどには強くなってはいないだろうし……母さん=世界最強だと思ってる。あこがれる強さとか、目標にしてきたのは、まぎれもなく母さんなのだ、
あと、純粋に大好きだってのもあるかもしれない。マザコン上等。
そのイメージがあるから……僕はこの力の発動時、『母さんに近づこう』という意識が働いて、母さんに近い姿になってしまう……と。
「もっとも、半分黒髪が残ってるところを見ると、ある程度はあなた自身の強さ……ってもんを心の中に据えてもいるみたいね。そこは安心したわ」
「あ、そうなんだ……まあ確かに、母さんの強さと僕の強さは違うもの、って意識はあるよ」
放出系魔法のように、母さんにあって僕にない才能は依然としてあるし、その逆もある。そういうのはきっちり認識してるし。
「それは純粋に良かったわ。もし、あなたの目指す強さの完成形ってのが、100%、あるいは限りなくそれに近いところまで私と同じだったりした日にゃ……まずかったかもだし」
「まずいって……具体的には?」
「トレースが髪と目だけじゃすまなかったかも。戦い方や、使える技能、思考回路まで私と同じか似た感じになったり……最悪、体ごと女の子になったりしてたかもね」
怖っ!? 怖いなおい!? 何だそのすさまじい予想図!?
強化変身と同時にTSって……誰得だよそんな展開!? やだ、そっちでも変身とか! 笑えん!
よかった、僕の中の強さイメージと母さんの実像に開きがあって! 普段の僕ベースの強化でよかった! 特撮好きでよかった!
「まあ、見た感じそこまでになる心配はなさそうだからいいとして……もし、あなたの『ザ・デイドリーマー』が完成する時が来るとしたら、その時は……ありのままの姿のあなたの、真の『最強フォーム』とやらが見られる時でしょうね」
「ありのままの僕……か……」
手鏡の中から、翠の目で見返してくる僕の像を見ながら、そんなことをつぶやく。
いつか、それが見られる日が来るんだろうか……?
もし、そんな時が来るとしたら、それは……母さんを超えた時。
あるいは……母さんの背中を追いかけることにとらわれない、それこそ、『僕だけの強さ』ってやつを、見つけた時……になる、のかな? 今の話だと。
……いつになることやら。先は長そうだ。
☆☆☆
それからさらに数日……『リアロストピア』が倒れてから、およそ2週間ちょっと。
僕らは、あの国でやることをとりあえず全部終わらせ……ネスティア王国『ウォルカ』に帰ってきていた。
この2週間……特に、最後の数日間で、色んな事があったり、決まったりした。
簡単に振り返っていこうと思う。
まず、国王以下、貴族連中や軍部高官、および、『旧王家派』の幹部連中の処刑が、つつがなく執行された。別に見に行ったりはしなかったけど。
同時に、これで『リアロストピア』および『ベイオリア』の中枢部が完全につぶれた。
これにより、この国は正式に『暫定自治政府』によって民主化?が進むそうだ。国名はまだ決まってないけど、近々変えるらしい。『リアロストピア』でも『ベイオリア』でもない名前に。
この動きには、ネスティアやジャスニア、フロギュリア等の周辺国もおおむね肯定的らしい。
速やかな自治府の構築が行われたおかげで、無政府状態の無法地帯なんかができることもなく、今後きちんと1つの国として……なんなら、以前よりもましな形になりそうだってことで。
多少なり、援助の名目で介入はするらしいけど、それはさすがに立て直しの段階で必要な協力支援だろう。
ただ一点……今回の『クーデター』に際して、その指導者として見られている人物が、どうも看過できない問題人物であるらしく……その点についてだけは、国際社会が注視している。
何せ、ドレーク兄さんの直筆の手紙が来て、近々僕から事情を聴きたい、って言ってきた。
詳しくはまだ聞いてないけど、どうもその首謀者とやら……国際的な大犯罪者なんだとか。
まあ、あの『ダモクレス』が絡んでるわけだから、まともな人物である可能性は低いとは思ってたけど……国家規模で警戒されるような人か。そんな人がいたとは。
今回は色々、結果的に助かったけど……『ダモクレス』の連中も含め、あんまり関わり合いになりたくないもんである。
次に……レジーナ達について。
多分、『旧王家派』の連中を拷問した結果漏れたとかだと思うけど、僕とレジーナが『旧王家』の生き残りだってことが、『暫定政府』の人たちの一部に知られていた。
で、そこの人たちから勧誘を受けたけど……僕もレジーナも一蹴。
……したんだけど……話はそこで終わらなかった。
といっても、『旧王家派』の連中みたいに強引な勧誘が続いたとかじゃなく……純粋に僕らの今後を心配してのことだった。
自治政府にかかわりたくないなら、それはそれで構わないけど……こまごまとした不穏分子は、まだあちこちにわずかに残っている。
クーデター当日に別な場所にいたせいで、摘発を免れたらしい連中が……『現政権派』と『旧王家派』、それぞれについて。
そいつらは、再起を狙って、あるいは復讐のために僕やレジーナを狙ってくる可能性もある。
もちろん、検挙するためにこれからも全力で動くけど、それらから僕らを守るために、協力させてほしいとのこと。
親切心から、というよりは……下手に身柄を抑えられて、テロの旗印にでもされたら困るから、っていう政治的な理由が大きいようだけど。
僕はむしろ返り討ちにできるからいいけど、レジーナはそうはいかない。
なので、折衷案とでも言うべき手段をとることになった。
一言でいえば……イメージキャラというか、『観光大使』みたいなもの。
地域振興のための、象徴的存在というか、興行のためのアーティストというか……この国について、いくつかのグループないし個人が設定されるその1つに、レジーナ達が就任した。
地域活性のために、あちこちを回って歌ったり踊ったりしつつ……公認のエンターテイナーってことで、国が堂々と護衛するそうな。
活動方針や内容は基本的に自由で、たまに国から『○○に行って歌って』とかいう、営業じみた注文も来るらしいけど、その他堅苦しい規則は基本設けないらしい。
安全が保障されるのはうれしいし、むしろ活躍できる幅が広がったってことで、レジーナ達も肯定的だった。
今後は、レジーナやステラさんが中心になって、『知らされてなかった組』の皆さんを主にまとめて一座を再編成し、今までと同じように楽しく歌って踊って旅を続けるそうだ。
なお、この事業については、ネスティアやジャスニアの支援政策の1つになるらしく、向こうの国やその関係機関が支援がてらきちんと監視するので、おかしな横やりが入る心配はない。
何せ……こっそり見せてもらったその名簿の中に、フレデリカ姉さんの名前があった。これ以上ないってくらいに安心できる。
……キャドリーユ家がこの国にも勢力を伸ばし始めた、とも取れなくもない、けど。
そして、今度は僕らについて。
唐突だけど……何とこのたび、僕ら『邪香猫』、土地がもらえることになった。
前に話してた……『ローザンパーク』に拠点を作りたいな、っていう話、覚えてるだろうか?
あれに関連してくる話なんだけど……正確には、僕ら『邪香猫』に、っていうよりも、『ローザンパーク』に土地が提供、というか『割譲』されることになったのだ。
暫定政府は、今の国力で統治するには国土が広すぎる+北部が未開と荒野ばかりで生産性もないし、開発する余裕もないってことで、そのへんの土地を『ローザンパーク』に譲ってくれることになったのである。
その代わりに、隣国として今後友好的な関係を……ってことらしい。
そして、その割譲される土地の中に……アドリアナ母さんの故郷も入っていた。
恐らくは、僕が『王妃アドリアナ』の息子だってことを承知の上で、狙ってそうしたんだろう。
これを受けて、僕は今後、本格的に『ローザンパーク』に拠点を作る方向で動くことにした。
イオ兄さんと簡単に話はしてある。今後細かいところは調整するけど……すでにある家屋のうち、家主がいなくなっている空き家を使ってもいいし、何なら自分で作ってもいいそうだ。
多分、後者で行くと思う。
僕が『拠点』に臨むものはかなり多いし、条件的にわがままなので……空き家を改造するより、一から自分で作った方が多分早いし、確実だから。
加えて、今回追加される土地の大部分は、僕が好きなように使っていいとのこと。
もともと先方もその意向で渡してくれる土地だし、今ある土地の管理だけでローザンパークの自治府は手いっぱいだから、だそうな。
これについては、今後色々と準備が必要になる。
資材も、金も、時間もかかるだろうから……まずは計画を立てるところから、1つ1つ、気長にやっていこうと思っている。
……さて、と。
ここまでがざっとあげられる大きな出来事だけど……今日これから、もう1つ、かなり大きな変化が起こることになっている。
言ってしまえば、ただ単に僕の身の上1つの問題ではあるんだけど……それでも、かなり大事だ。僕は当然気にするし……仮に僕が気にしなくても、周りが気にするだろう。
それも、噂話になるなんてレベルじゃなく……国家規模で気に掛ける事案になるはずだ。
自分で言うのもなんだけど……今から起こるそれは、そのくらい、各業界を震撼させる。
☆☆☆
僕らがギルドに到着した時……そこには、いつもの3倍くらいの人が集まっていた。
職員の数は、いつもと変わらない。それ以外……冒険者や、出入りする業者、情報屋、国の役人、そして新聞記者――正式名称忘れたけどそんな感じのマスコミ的な連中。
加えて、冒険者の中にも……普段はめったに見かけないような、本物の強者のオーラを放っている者たちが、ソロで、あるいはチームで、何人もここに来ている。
結果、人口密度がいつもの3倍くらいになってる。
その人たち、おそらくは全員の視線が……僕に集まっている。
そりゃそうだろう。この人たちは……おそらく、いやほぼ間違いなく、これから僕に起こることを見に来た連中だろうから。
僕はそれに、特に何も反応を返すことはせず……ギルドの中央に向けて歩いていく。
すると、待っていたかのようなタイミングで――実際、タイミングを見計らってたのかもしれない――奥の扉から、バラックスさんを伴って、ギルドマスターであるアイリーンさんが現れる。
その瞬間、僕に向けられる注目が……より一層、力と熱のこもったものになる。
それを気にせず歩き、僕とアイリーンさんは、ちょうどギルドのホールの真ん中で向かい合って立つ形になる。
僕の後ろには、『邪香猫』の皆が、アイリーンさんの後ろには、バラックスさんが控える。
そして、バラックスさんは……黒塗りのお盆の上に、1枚のカードを乗せて持っていた。
「『リアロストピア』では、色々大変だったみたいだね。お疲れさま」
そんな中、アイリーンさんが口を開いた。
「受けてたもともとの護衛は、失敗しちゃいましたけどね」
「ああ。でも……ノエルちゃんにはちょっと悪い言い方になるけど……その後に打ち立てた功績に比べれば、些細なことだと言っていいだろう。動乱に乗じて国家転覆を狙って決起した、超大規模な亜人の武装勢力の掃滅。報告は上がってきてるよ。お見事、の一言だ」
あの一件、対外的には今アイリーンさんが言った感じの解釈になってる。
僕は『リアロストピア』の現政権と正規軍をぶっ潰したことは、革命軍の手柄になってるけど……それと同時にぶっ潰した、ハイエルフ主体の亜人軍団については、ただの武装勢力の一斉蜂起を、たまたまそこにいた僕が叩き潰した、っていう認識。
結果として、あの夜僕が手にかけた数は、人数的に大幅に減ってるものの……強力な種族を含む亜人の軍団を壊滅させたってことで、とんでもない武功になっているのだ。
「それに加え……この間正式に発表され、認可された、君が発明した薬の数々……『蝕血病』の特効薬をはじめとしたそれら数十種の開発、およびそれらに関連した疾病にかかる研究論文の学術的価値、さらにその他マジックアイテム等の開発等による、冒険者業界内外における功績の大きさは、最大級の評価を下すに値すると判断した。と、いうわけで……」
そこで一旦切って、アイリーンさんはバラックスさんから、お盆の上のカードを受け取る。
僕が、昨日来た時にギルドに預けていった……冒険者カードを。
そのカードは、一晩のうちに加工が施され、昨日までのそれとは全くの別物になっている。
黒色の魔法金属で作られたカードに、金色で細やかな装飾が入っている。
その一部分に……金色の『蜘蛛』をかたどった模様が入っていた。
「いやー、大変だったよ。何せ、コレが世に出回るの、150年ぶりだし。当時の資料掘り起こして、様式とかデザインとか機能とか調べて、反映させられるように機材も用意して……まあ、おかげで納得のいくものに仕上がった」
うんうん、と、アイリーンさん自身が嬉しそうな楽しそうな表情になって、手に持ったカードを、表裏何度もひっくり返しながら眺めていた。
そして、ふいにこっちに視線を向けてにやりと笑い、すっ、とそのカードを差し出してくる。
その表面には……
ランク:SS
「ようこそ、ミナト君……『伝説』のステージへ」
そう、小声で語り掛けてきたアイリーンさんの顔は……心の底からうれしくて、楽しそうなそれだった。
この日、僕は……全ての冒険者の頂点に立った。
世界でたった1人だけの、SSランクとなって。
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