魔拳のデイドリーマー

osho

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1巻

1-1




 第一話 転生先は森の洋館!?


 春――それは始まりの季節。
 花々が咲き乱れ、動物達は冬眠から覚めて野山をにぎやかす。
 白黒だった世界は色とりどりの命によって彩られていく。
 そんな季節に、人は多くの転機を迎える。
 小学生が中学生になったり、学生が社会人になったり、内気だった子が突然○○デビューする……ものの失敗したり。
 前文に出てきた微妙な例についてはさておき、そんな、全てが新しくなる心躍こころおどる素晴らしい季節に――。

(あぁー、コレは死んだなー)

 僕こと、春風ハルカゼミナトは……今まさに死にかけていました。


 散乱する瓦礫がれき、そこら中で轟々ごうごうと燃える炎、そして、いくつもの人間の死体。
 普通、こういうの見たらいたりするんだろうけど、なんかもう、体中を襲う激痛のせいで、そんなこともできない。
 え、何が起こったのかって?
 まあ、一言で言えば、飛行機事故。


 この春、僕はめでたく受験を突破し、大学生になった。
 自宅から離れたところにある大学なので、下宿先に引っ越さなければならない。そういう訳で、意気揚々いきようようと家を出て、飛行機に乗って……。
 その飛行機が、突如発生した超ド級の乱気流に巻き込まれて、墜落した。
 事故のスケールの割に、たった一文でまとめられてしまうのが憎い。
 だって僕、そのせいで死にそうになってんだよ?
 いやもう、百パーセント死ぬけどね、コレ。
 首は動かないけど、見える範囲でも相当ヤバい量の血が流れてる。全部僕の血。
 機体とかガラスの破片だと思うけど、体中にグサグサ豪快ごうかいに刺さってくれちゃってるんだよ。
 皮が破れ、肉が裂け、体内に特大の異物が入っている感覚。
 なんというか、なかなかできない経験だなコレは。
 激痛すぎて、今まで味わった痛みが笑えるくらいだ。
 出血多量で死ぬのが先か、はたまた燃え広がった火事で焼け死ぬのが先か。
 どっちでもいいけど、どっちかっていうと前者のほうが楽そうだな。

(はー、短い人生だったなー……)

 いやまあ、こうなったらもう開き直りだよ。いろいろいは残ってるけどさ。
 ああ、神様。もしも死ぬ前に一つだけ願いがかなうなら……今すぐ、僕の部屋をめちゃくちゃにしてください。
 そして、机の上に設置されてるデスクトップパソコンを床に落として破壊してください。ハードディスクが絶対復元できないくらい、徹底的に。
 あ、本棚とか倒してパソコンを押しつぶしてくれてもいいです。
 とりあえず、僕の社会的評価の大幅な下落につながりかねない『ピー』で『ばきゅーん』で『あはーん』なデータを全て抹消まっしょうしてくれれば、何でも。
 アレを見られたら絶対、葬式そうしきの席で、変な意味で親類縁者の間にただよう空気が気まずくなる。
 そして火葬の時、性悪しょうわるの我がフレンド達は嬉々ききとして、棺桶かんおけにプリントアウトしたそれらを入れるだろう。参列客の面前で。奴らなら確実にやる。
 ってあー、バカなこと考えてる間にもう時間切れだな。
 何も見えない、聞こえない。
 あっけないな……ま、こんなもんか。
 グッバイ、この世……そして僕の好感度(がくっ)。


 ☆☆☆


 ……っていうのが、僕の『前世』の記憶。
 え、どういう意味かって?
 理由は至極しごく簡単。
 転生したっぽいんだよね。僕。
 しかも異世界に。


 ☆☆☆


 今、僕はどこにあるかもわからない――いや一応、すっごい山の中っぽいってことくらいはわかるけど――怪しげな洋館にいる。
 例えるなら、ドラキュラとかが住んでそうな、三階建てで西洋風の、そこそこ豪華ごうかな屋敷。
 いや、勘違いしないで。誘拐ゆうかいされたわけじゃないから。ここが我が家。
 僕の育ての親と二人で住んでます。
 今僕はバルコニーにいるんだけど、上を向いても……暗闇が広がるのみ。
 でも別に、夜だからってわけじゃない。今はたぶん、昼過ぎくらい。
 ここは何でか知らないけど、バカみたいに雲が厚くて、いっつも暗いの。
 昼間でもせいぜい、夕方くらいの明るさしかない。しかも冬場の。
 わかりやすく言うと、何とか本くらいは読めるかな、って感じの暗さだ。
 天気によってはもうちょっと明るくなったりもするけど、大体いつもそれくらい。
 どうやらこの山一帯がそうみたいだ。
 転生してからずっとここに住んでて、ほとんど外に出たことがない。
 庭とかその辺の森くらいなら行ったけど、諸事情により、それ以上の外出がちょっと難しい環境です。
 どういう事情かは……また後で。
 ところで、何でわざわざ『育ての親』なんていう表現を使ったのかっていうと、実の両親は別っぽいんだよね。
 どういう経緯で今の親に育てられることになったのかは、全然わかんないんだけど、ともかく……今育ててくれてる人が、ホントの親じゃないのは確かだと思う。
 何でわかるのかって? そりゃ……。

「ミナトー? ご飯できたよー?」
「あ、うん、母さん、今行く!」

 バルコニーの下から、僕の『育ての親』である女の人が声をかけてくる。
 髪はブロンド。その長さは腰くらいまでで、さらっさら。絶対リンスとかいらない。
 色白の肌をして、出るとこ出て締まるとこ締まった、女性として理想的過ぎるスタイル。胸は巨乳と言っていい大きさで……。
 いや、あの、アレに目を奪われてしまうのは、健康な男子として仕方のないことだと思うんです。
 無論、顔も超美人。ちょっと幼さも残る感じだ。目は緑色で、眉毛まゆげも細い。
 そして……耳が長くて、とがっている。
 いわゆる、エルフ耳。
 でも、エルフじゃない。
 えー、あらためまして、この人の名前は『リリン・キャドリーユ』。
 種族は夢魔サキュバス族。僕の母です。
 で、僕の名前は、この世界では『ミナト・キャドリーユ』。
 何で前世の名前がご丁寧ていねいに組み込まれているかは、今のところ不明。いつか、それとなく聞いてみようと思ってる。
 髪の色は黒だし、瞳も黒。耳もとがってない。
 だから種族は人間、それも日本人(風)の体だと思う。
 とまあ、こんな感じでお互い似てないから、多分ホントの親子じゃないんだろうな、と確信してるわけ。実際に聞いてみたことはないけど。
 それでもここまで育ててくれた人だし、僕はこの人のことを正真正銘、本物のお母さんだと思っていますので、そこは誤解なきように。

「ミナトー? シチュー冷めちゃうわよー?」

 とりあえず、呼んでるから行かなくちゃ。
 そんなこんなで、異世界に転生した僕(現在五歳)は、お母さんと一緒に、今日も楽しく謎の洋館ライフを満喫まんきつしています。



 第二話 母さんが夢魔サキュバスで危なくて


 一応言っとくと、僕は、生まれて間もない赤ん坊の頃から意識があった。
 生まれたその瞬間から、ってわけじゃない。
 気づいたら、今の母さんに世話されてたから。
 まあ、僕を拾って(拾ったのかな?)育ててくれたことには感謝するけども、その成長過程でいろいろと、耐え難い羞恥しゅうちプレイを経験することになった。
 何って? あんまり思い出したくないけど……。
 母乳とか、オムツとか……。
 ごめん、これ以上は勘弁して。僕の精神が壊れる。
 だって、いくら赤ん坊でも意識はしっかりあるんだよ?
 直接母乳を吸わされたり、抵抗もできずに下半身露出状態でオムツを替えられたり……恥ずかしいってレベルじゃないよ。
 しかも、超がつくほどの美人に。
 ていうか、何でこの人は育ての親なのに母乳出るんだ? とか思いつつ、羞恥的な数年間を過ごした。
 ホントはこの後、離乳食とか、おまるとか、恥ずかしいエピソードには事欠かないんだけど、いい加減自殺したくなるレベルなのでもう許してください。


 ☆☆☆


 今現在、僕(九歳になりました)は、現代日本とはあまりに違う環境の中で生活を送っている。
 この洋館で暮らしながら、家の中の家具とか、調度品を見て推測してみると……。
 テクノロジー的には、たぶん、中世ヨーロッパみたいなちょっと前時代的な雰囲気の、剣と魔法の世界ってところだろうか?
 実際うちの母さんが、何度も魔法使ってるのを見てるし……。
 ちょっと家の外に出ると、思いっきり魔物が闊歩かっぽしたりしてるから、ほぼ間違いないと思うけどね。
 そんな『異世界』に生まれた僕が、現代日本と同じように平和に成長していけるか、って聞かれると、当然そんなわけはない。
 五歳になった誕生日から、だったかな? 母さん指導のもと、『修業』なるものが日々の生活に取り入れられた。
 剣と魔法の世界で『修業』なんて単語が出れば、やることは一つ。戦いの訓練だ。
 実際に魔物がいるんだから、そりゃ、自衛のために『強さ』は重要なんだろう。そのことは母さんに説明された。
 繰り返しになるけど、今僕が暮らしてる洋館のあるこの森――森より樹海って言ったほうがわかりやすいかも――は、魔物がわんさかんでる物騒なところだ。
 そんな事情でうろうろ外出できないので、窓から見たことがあるだけなんだけど、当時五歳だった僕を丸呑まるのみにできそうな狼とか、一瞬トラックと見間違えたくらいに巨大な熊とか、明らかにやばそうな魔物ばっかり。
 つまり、だ。
 そういう魔物共がうろついてる以上、僕自身に、あれらに対抗できるだけの実力がなければ、この家から出ることすらできない、ってことだ。
 となれば当然、そのための訓練が必要になる。
 だから僕は内心、母さんから通達された修業の話も、いよいよ来たか、という思いで聞いていた。
 そして修業をつけてくれてるのも母さん。
 母さんは、僕が目標とすべきはこんな感じなんだろうな、っていうお手本的存在だ。
 わかりやすく言うと、森の魔物共を歯牙しがにもかけず、瞬殺できちゃうレベル。
 生前、僕はゲームとかアニメに没頭してたから、表現がこうなるのは勘弁してもらいたいんだけど、いかにも剣と魔法の世界に生きる人物って感じ。剣術、格闘、魔法と、色んな分野で、ゲームキャラ顔負けの戦いっぷりを見せてくれた。
 修業初日、ウォーミングアップ代わりに、魔法と体術を交えて森の魔物を軽く叩きのめす姿を見て、僕は『ああ、うちの家に魔物が近づかない理由ってこれなのか』と悟ったもんだ。
 おそらく母さんは、この森の生態系の頂点に君臨してるんだろう。
 一緒に住んでる四匹のペット達と共に。
 いや正確には……一羽と三匹、だろうか。一匹は鳥だから。
 どれもファンタジー世界のモンスターっぽい連中だ。
 一応、見た目は前世で見たことがある動物にも似てるけど……明らかに普通じゃない。
 地球には、「金色に光る羽毛を持ち、その羽を広げると大きさ二メートル以上にもなる鳥」も、「青い毛皮で覆われ、背中の白いきれいな羽(羽毛モコモコ)で空を飛ぶ狼」も、「ネズミを見つけると残像が見える速さで飛びかかって仕留める白猫」も、「軽自動車ぐらい大きい、頑丈がんじょうそうな漆黒の甲羅こうらと鱗を持った陸亀」もいないはずだ。
 そんなペット達は、修業の合間にいやしを提供してくれるし、いろいろとお世話になってたりするんだけど……とにかくこいつらもめちゃめちゃ強いんだ。
 時々母さんの指示で手合わせするんだけど、手も足も出ずにこてんぱんにやられる。
 金色の鳥・ストークは羽からビーム出すし、口から火吐く。
 羽の生えた犬・ペルは竜巻起こすし、こいつも口から火吐く。
 白猫・ビィは、残像分裂するほど速いし、こいつも口から火吐く。
 黒い陸亀・バベルは、甲羅から岩石の砲弾を飛ばしてくるし、こいつも口から火吐く……って、火炎ブレス好きだな、お前ら。
 まあそれでも、エサをやりながら一緒に遊ぶ時は、かわいい連中なんだよね。
「ご飯だよ」って呼ぶと……。
 ――ぴゅいーっ!
 ――わんわんっ!
 ――にゃ~ん♪
 ――かめー!
 こんなふうに嬉しそうに鳴きながら集まってきて……いや、うん、わかってる。一つおかしい鳴き声が交じってるってことは。
 でも気にしないで。こういうもんみたいなんだ、あいつらは。
 そんなこんなで、母さん他から日々厳しい訓練を受けて、腕を磨いている僕だったんだけど、修業を始めてから一年が経とうとした頃、衝撃の事実が明らかになった。


 僕、魔法使い、向いてないらしい。


 いやその、若干おかしいな、とは思ってたんだよ。
 体術や筋トレは、訓練した分だけ成果がそれなりに出てるのに、毎日欠かさず練習してる『魔法』に関しては、ほとんど成長のきざしがなかったから。
 まあ、一朝一夕いっちょういっせきじゃ身につかないんだろうと思ってたんだけど、一年もつとさすがに母さんのほうが気になったらしく、調べた結果、判明した。
 僕は、魔法使いに必要な才能の一部が欠落しているらしい。
 全く魔法が使えないわけじゃあない。
 例えば『発火』の魔法なら、母さんみたいに火炎放射器並みの大きな炎は出せないけど、ライターのような小さな炎を出すことはできる。
 魔法を使うために必要な『魔力』も、母さんの見立てだと、十分すぎるくらいの量が体内にある、とのこと。
 ただし僕は、その魔力を体の外で使いこなすためのコントロール能力――『感応力』というらしい――に欠陥けっかんがあった。
 先の発火魔法で例えるなら、大きい炎を作り出すには相応の魔力量が必要になる。僕の場合、その量は足りてるんだけど、それを体の外に放出し、コントロールする能力が致命的に不足しているという。
 わかりやすく言うと……そうだな、貯水タンクを想像して欲しい。
 そこには大量の水が溜まっていて、火災現場でも活躍できそうな量を確保できているのに、それを放出する『出口』が家庭用の蛇口しかない。
 するとどうなるか?
 いくら絶対量が多くても、それじゃあ弱い勢いでしか放水できない。
 当然、やれることは家庭用の水道と変わらないわけだ。それが今の僕。
 そしてこれはもう、僕が『人間』で母さんが『夢魔サキュバス』だとかいう種族云々うんぬんの問題じゃなく、単純に生まれ持った素質の差らしい。
 母さんの診断でそれを知った時、そりゃもう落ち込んだ。
 いや、だってせっかく転生したんだし、魔法とか使ってみたいじゃない。ネット小説でもそういうのよく見たし。
 それを『素質なし』でばっさり切り捨てられたこの絶望、誰が理解してくれよう?
 一方の母さんは少しも困った様子を見せず、「それならそれでやりようはいくらでもある」と、僕専用の練習メニューを考えてくれた。
 正直失意のどん底だったけど、その時に見た「まっかせなさい!」って言う母さんの笑顔が、すごく自信満々で、まぶしくて……。
 ついでに、えっへんと張られた胸のたゆんたゆん(推定G)が目に……ごめん、蛇足だそく
 ともかく、この表情になった母さんに裏切られたことはないので、それを信じて修業を続けることに決めた。
 実際、少しずつだけど強くなっている感じはするし、最近では森に出てくる魔物とも、そこそこいい勝負が出来るようになった。


 さて、魔法云々はこの辺にして、僕の日常生活はというと、母さんの手伝いをする毎日。
 料理の手伝いとか、洗濯の手伝いとか、掃除の手伝いとか。
 何でか知らないけど、屋敷の貯蔵庫にすんごい量の食料があり、さらに母さんがどこからか新鮮な肉や魚や野菜を調達してくるので、食材には困ってない。
 母さんは強いし、森の魔物を狩れるのかも。
 ん? 魔物の肉を食べてるのかって? 
 うん、そうなんだよ。最初は戸惑ったけど普通に美味おいしいし、この世界じゃそれが普通っぽい。だから味さえよければと割り切ってる。
 その他にもいろいろと雑用はあるんだけど、簡単なものなら、母さんが何でも魔法でやってくれる。
 火は起こせるし、大気中の水分から水も作れるし。魔法って超便利。
 そんな便利な暮らしの中でも、母さんはしっかりと学ぶべきことを見定めていて、僕にいろいろやらせてくれる。
「今まで母さんが済ませてきたけど、今度はミナトがやってみようか?」と丁寧ていねいに教えてくれるから、分野を問わず、知識・技術をどんどん吸収していった。
 ごく自然とそれらを教えてくれる母さんは、ほんとにすごいと思う。
 しかも、それに伴って基本的な生存スキルも上がっていくときたもんだ。
 全ての面で僕を着実に一人前に導いてくれるこの人に対しては、いくら尊敬や感謝をしてもしきれない。
 ところで、その知識の中には読み書きや計算なんかも含まれるんだけど、コレに関してはほぼ問題なかった。
 母さんには、なぜか日本語が普通に通じる。
 文字は別だったけど、コレも楽に習得できた。生まれた時から触れているので、むしろ読めて当たり前。
 しかも、ちょっと難しい言葉があっても、教えてくれる先生(母さん)が優秀で美人なもんだから、やる気も十割増し。
 多分、母さんに教えられたら、僕は宇宙言語でもマスターできる。
 そして、日本の高校生で習う数学は、どうやらこの世界の標準レベルよりもかなり上らしいので、計算も苦にならなかった。
 そんな感じで日々を過ごす僕。
 とても充実はしてるんだけど……。
 一つだけ、ちょっとまだ気になるというか、問題と言わざるを得ない部分があった。


 ☆☆☆



感想 804

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