魔拳のデイドリーマー

osho

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第22章 双黒の魔拳

第521話 治療と調査

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 エータちゃんとゼットが転がり込んできたのが、たしか昼過ぎくらいだったっけ。
 その後、念のため、エータちゃんの体の検査をネリドラにお願いして、僕はすぐにゼットを『D2ラボ』に運び込んで治療を開始。

 結構な大怪我……いや、普通の魔物だったらもう十分致命傷ってレベルのそれだったので、割と焦りながらやったのを覚えている。
 治療用ポッドにぶっこんで中を魔法薬で満たし、大小のロボットアームを使って治癒しながら、負担にならないように、迅速に……って感じで。

 いやホント、あの傷でよくここまで飛んできたよなあいつ……

 トレードマークの角は3本とも砕けて折れてたし、顔や手足を覆っていた装甲みたいな鱗も、ほとんど砕けてしまっていた。いや、手足だけじゃなくて体中そんな感じだった。
 切り傷、打撲、粉砕骨折、その他諸々体中にあったし、翼の片方と尻尾は千切れかけてた。
 内臓にもダメージ入ってたし、牙も何本か折れてたな。

 こいつのしぶとさは僕もよく知ってるけど……流石に今回のコレは、回復に回す体力も残ってないんじゃないかってくらいにボロボロだ。放っておいたら、回復より消耗のスピードの方が上回って……多分、死ぬと思う。
 そうならないように、きちんと治療させてもらった。

 外科的な処置が必要な部分はもう済ませた。後はこの薬液につけておけば、体中の傷口や魔法薬が吸収されるから、放っておいても回復していく。
 逆に言えば、後は傷の治癒と体力回復だけだから、今は放っておくより他にできることがない。

 回復魔法は……つかうにしても、もうちょっと体力が戻ってからじゃないと負担が大きいし、人間用の魔法は魔物には効きが悪かったりするんだよな、種族にもよるけど。

 まあ、こいつの回復力は僕も認めるところだ。エネルギーさえ十分に補充できれば、そんなにかからずに復活するだろうけど……ダメージも大きかったから、数日はこのままかもな。



 ……とまあ、そんな感じでゼットの治療は終わった。
 そして、リビングに戻り、一足先に治療と検査をすでに終えていたエータちゃんと合流。
 一体何があってあんなことになったのか、メンバー全員揃って事情を聞いた。

 ……聞いたんだが……無茶するなあ、エータちゃん……
 呼び出された『神域の龍』を、説得しに行ったって……

 これにはさすがに、僕ら一同唖然として苦笑するしかなかったし……エータちゃんも、今となってはだけど、どれだけ危険で無謀なことをしてたのか理解したみたいだ。

 実際、食われそうになった上に、彼女を守ろうとして、ゼットがあんな大怪我をして……そこに行くまで乗せてくれたワイバーンとやらも、聞いた感じだともう生きてはいないだろう。

 しかし彼女の話の中には、他にも聞き逃せない部分がいくつかあった。

「よりにもよって、遭遇したのが敵の親玉か……確かに『ジャバウォック』って言ってたんだね?」

「は、はい……自分のこと、そう名乗ってました。後は……『わたりぼしのりゅうのおう』だって」

 『渡り星の龍の王』か……つまり、ジャバウォックは既に、決定戦に勝って=他のライバルを全員殺して食って、『龍王』になったってことだろうか?

「多分そうだと思います。感じ取れたジャバウォックの力は、以前よりもかなり大きくなっていました……龍は、相手を食らうことでその力の一部を自分のものにします。他の『龍王』候補が全て食い殺されたのなら……ジャバウォック自身の力も、相応に強化されているはずです」

 ああ、あったねそんな生態。

 殺して食って強くなる、か……どこぞの小説かゲームみたい……
 ……いや、どっちかっていうとこれは……

「あ、あの……ミナトさん。それで……ゼットは大丈夫でしたか?」

 するとふいに、心配で我慢できなくなったのか、エータちゃんがそう聞いてきた。
 ああ、ごめんごめん、説明がまだだったね。

「大丈夫、きちんと治療したから……今は寝てるけど、ちゃんと治るよ」

「ほ、ホントですかっ!?」

「ホントホント。嘘言っても仕方ないでしょ」

 まあ、そう確認したくなるレベルでボロボロだったからね。

 それでも、あいつ自身の元々の生命力がとんでもないし、今言った通り、外部から治癒を手助けするためにできる処置は全部やった。
 だから後は、時間がかかるけど、元通りにはちゃんとなるよ。

 ……いや、あいつ自身の体質のせいで、『元通り』ではないかもしれないけども。

 回復したら、また見た目変わるのかなこいつ?
 死の淵から甦るたびに、見た目が変わって強くなるからなあ……さて、今度は一体、どんな風に『進化』するのやら。

 ……けど、それで『進化』したとして、果たして今度はリベンジで『ジャバウォック』に打ち勝てるほど強くなるかっていうと……さて、どうだろうな……。

 とりあえず、あと数日待ってみないことにはわかんないか。


 ☆☆☆


 さて、そんなわけで、ゼットの治療と……あと、エータちゃんの保護も終わったので、気を取り直して、やろうと思っていた『ラインの調査』に今度こそ行くことにした。

 彼女達の治療に関しては、拠点にネリドラを残しておいて、任せてある。

 エータちゃんは、ひとまずこのまま『キャッツコロニー』で預かることにした。

 今行くところがないわけじゃないみたいだけど、彼女、『ジャバウォック』に喧嘩売ったことで、『神域の龍』に目をつけられてる可能性があるからな。最悪の場合、帰った先の今の家に、龍の大群が攻めてくる、なんてことにもなり得る。
 そうなったら彼女の命が危ないのはもちろん……仮にそこで彼女が生き残れたとしても、周りの人達が自分のせいで、死んだ、あるいは危ない目に遭ったとなれば、彼女自身傷つくだろうし。

 その点ここなら、AAAだろうがSランクだろうが撃退できる防備がそろってる。というか、『カオスガーデン』をはじめとした周囲のエリアからして、AAAランクの魔物(食用)が闊歩してるし、下手したらそのまま返り討ちにして餌にするぞ。そいつらが。

 まあ、ゼット級の敵が来ても、多分だけど、防衛にしぼって戦えばどうにかなるくらいの設備はあるし……そのゼットを撃ち落とした『ジャバウォック』が直々に来たりしたら、さすがに危ないかもだけど……それでも多少は時間を稼げるだろうし、その間に僕が戻る。

 そんなわけで、彼女はこのまま……少なくとも、今回の騒乱が終わるまでは、ここで保護する。
 個々での暮らし方は……ターニャちゃんとコレットにでも指導してもらおう。彼女、龍と話せる以外は普通の女の子だしな。

 それと、今回彼女がやったことについては、きちんと𠮟っておいた。

 僕らは別に彼女の保護者でもないので、彼女のやることにあーだこーだ言う資格があるかもわからなかったけど、それでも今回のことは……無謀でしかないからな、普通に考えて。

 彼女にしてみれば、他ならぬゼットや、友達だっていう『龍栗鼠りゅうりす』、彼女を運んだワイバーンみたいに、『龍』っていうのは『言葉が通じて友達になれる相手』だったようなんだが……残念なことに、世の中には、『言葉は通じるけど話は通じない』相手ってものがいる。
 というか、そういう奴の方が多いかもしれないな、夢の無い話。、

 幸か不幸か、彼女はそういう龍には会ったことが……ないわけじゃなかったはずなんだが……それでもそういう経験が少なく、また年齢ゆえの彼女の考えの足りなさもあってか、こういう暴挙に出ちゃったんだろうな。

 今後同じことがないように、そこはきっちり𠮟っておきました。

 エータちゃんは賢いから、一回言えばきちんと理解するだろう。

 さて、エータちゃんはそういう感じの対処にするとして……その後僕は拠点を出立し、つい最近できた、『渡り星』と地球をつなぐ『ライン』……らしきものを、片っ端から調べている。

 それらは、こないだの、恐らくは『ジャバウォック』が召喚された時に打ち立てられたものだろう。恐らく、召喚と同時に裏切った『ジャバウォック』自身の手で。
 
 『らしきもの』とつけているのは、今見られるこの赤い光の柱は、まだ『ライン』としての機能を持っていないからだ。

 大陸各地に何十本も出現したそれらは、大地から立ち上って天を突く赤い光の柱、という見た目をしているんだけども……まだ未完成らしく、一応地球と『渡り星』をつないではいるものの、それをたどって『神域の龍』がやってきたりすることはない。
 これらが『ライン』として安定するには、まだ数日は時間がかかる。しかも、その全てが『ライン』になるわけじゃない。いくつかは途中で術式を保てなくなって消滅するだろう。

 それでも、最終的にはそれなりの数の『ライン』が完成し、それを伝って『神域の龍』が下りてくる。

 なら、その前に大陸中の『ラインのようなもの』を破壊するなりなんなりすればいいんじゃないか、とも思ったけど……これに関しては、有識者として相談した1人である『鳳凰』のおばあさんから待ったがかかった。

「下手に刺激したり、雑にぶっ壊しちまうと、『地脈』のエネルギーが暴発しかねない。そうなったら場所によっては余計にヤバいからね……それなら、逆に『ライン』とやらが安定してからぶっ壊した方が安全だと思うよ」

 ……だそうです。

 ジャバウォックが繋いだ『ライン』は、地球の地下深くを流れる『地脈』の巨大な力を利用している。そのため、それなりに大きな『地脈』が通っている場所でしか作ることができない。

 『地脈』に直接つながっている『ライン』は、未完成でもとんでもない強度だから、壊すなんてことは普通はできない。

 まあ多分僕ならできるけど、問題はその後……『ライン』を作るために使われていたエネルギーや、地脈からあふれ出しているエネルギーが暴走して大爆発……なんてことにもなりかねない。

 例えるなら、炭酸飲料のペットボトルをめっちゃ振ってからキャップを開けるみたいな感じになる。『地脈』と『渡り星』、上手いこと溶け合っていたはずの双方の力が暴走して吹っ飛ぶ。

 こればっかりは、多分僕の『ザ・デイドリーマー』でもどうにもならない。破壊することはできても、その後にエネルギーが暴走するのを抑えるのは無理だ。前者と後者が全然別物だから。

 封印するには力が大き過ぎ、破壊するには危険すぎる。
 なので、静観するしかない。

 放っておいても、今ある未完成のラインの大半は、上手く構築されずに消失するだろう。
 問題は、そうならないで残る……つまり、完成してしまうラインについてだ。

 それらが主な侵入経路になって、『神域の龍』達が……ジャバウォックの手下たちが攻め込んでくるだろうから。

 だが逆に言えば、それらが完成するまでは、連中がこれ以上来ることはない。

 最初にジャバウォックがやってきたラインも、今は不安定になってほぼ消失している。あれはどうやら一時的なものだったみたいで……ひょっとしたら、ジャバウォックもそれを察知して、帰れなくなる前に帰ったのかも。

 だから今、この星に、連中が使えるラインはない。

 例外はただ1つ、『双月の霊廟』にもともと繋がってた太古のライン。
 誰あろう、『初代龍王』本人が作ったラインであり、テオが下りてきたそれだ。

 あれは既に僕が封印してある。具体的には、破壊すると何が起こるかわからなかったので、マジックアイテムを使ってラインの構成や術式自体を不安定にすることで、使えなくしてあった。
 安定してはいるものの、あそこはあそこで、『ザ・デイドリーマー』やら古代の空間やらが絡み合ってアレなことになってるからな……ラインは壊せても、そっちの方がほつれてトラブルにつながったとかになれば、それこそ何が起こるかわからん。

 まあどの道、あそこはその『ザ・デイドリーマー』の結界で封じられているから、ラインとして使えても、中にいる魔物が外に出てくることは難しかっただろうけど。

 そんなわけで、ラインは今は壊せない。完成してから、あるいはそれに近づいてエネルギーが安定してから壊す。

 しかし、タイミング的にはギリギリだろう。何せ、ラインは『壊せる』安定度になる前に、龍達が『通れる』安定度に先に達してしまう。
 つまり、こっちがラインを壊す前に、龍はラインを通ってやってくる。僕らは、その龍の攻撃を退けた上で、ラインを壊さなければならない。どう転んでも後手に回るってことだ。
 
 しかも、どのラインが構築に失敗して消失し、どのラインが安定して完成するかはわからない。

 早期に消失するであろうラインを除いた何十本ものラインを警戒し、どこから龍が出てきても対応できるように備えなければならないってことだ。

「ここまで事態が大きくなると、いち冒険者が対応できるような問題じゃないな。さっさとこのデータ各国に回して、対策取ってもらわないと。『6大国』に回せば、その属領や傘下の国々には回してもらえるだろうし……あ、『ヤマト皇国』にも回さないとな。チラノースは……どうしよ? もうなんか手遅れっぽいし、回さなくても……ってか僕個人が回せる伝手とかないな、うん、仕方ない」



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