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第23章 幻の英雄
第549話 各国の代表者 +α
しおりを挟む善は急げ、とでもいうことなんだろうか。
面会希望の手紙が来てから1週間も経たないうちに、各国のお偉方と会うスケジュールは素早く定まった。
今は各国とも色々大変な時期だろうに、皆、フットワークが軽いなあとか思ったけど、多分これ、僕らに会って話をすることの方が、今抱えてるほとんどの案件よりも重要だと判断された結果なんだろうな。
もっとも、さすがに国家元首がそうそう急に動くわけにはいかなかったのか、それに次ぐ立場って感じの人達がほとんどだったけど。
……まあ、それだって十分とんでもないことなんだろうけど……皆、顔なじみだからな。
しかも、その全員が示し合わせたように――いやここまでくると実際に示し合わせたんだと思うけど――同じ日程で予定を組んで訪問してきた。
ネスティア王国のメルディアナ王女とジャスニア王国のエルビス王子。
その隣には、それぞれの妹である、リンスとルビスの姿もある。
フロギュリア連邦からはオリビアちゃん。もっとも、彼女はもともと『大使』としてこの拠点に住んでるんだが。
単に今日は、フロギュリア側の人間として、会談の場に立ち会ってるだけのようだ。
ニアキュドラ共和国からは予想通りレジーナ。僕専門の外交官だもんね。
シャラムスカ皇国からは……何とびっくり、『聖女』であるネフィアット本人が来た。
国の最重要人物がこの大事な時期に動いちゃっていいのかと思ったんだけど、もともと各地の視察や信徒達の励ましのためにあちこち回ってたんだって。
その途中の寄り道みたいなもんだから問題ないって言ってた。現場主義な要人だな……。
残る『6大国』の1つであるチラノース帝国は、要人が軒並み死んだので来れる人はいないわけで……いやまあ、新たに持ち上げられたのが1人、いると言えばいるが……この場にはいない。
さすがに、彼女とこの場にいる面々を一緒にするわけにはいかんし。
とまあそんなわけで、フットワーク軽く集まった面々なわけだが、その中で最初に口を開いたのは、やはりというかメルディアナ王女だった。
「準備は順調に進んでいるようだな、ミナト・キャドリーユ?」
「ええ、おかげさまで。復帰第一発目の遠征ですから、師匠達も気合入れて準備に協力してくれてますよ」
「次は、空の果て……星々の海にまで登っていくと聞いたよ。本当にお前は、我々の予想をことごとく振り切っていってくれるな」
「こちとら川1つ、海1つわたるにも難儀する身だというのに、当然のように空を飛んでどこかに行くと言ってのけるんだものな……」
エルビス・ルビス兄妹も、関心と呆れが混じったような調子でそう言ってくる。誉め言葉として受け取っておこう。
「ミナト様は本当にすごいですね。私、夜の星空を見て、何度も……なんて美しい景色なんだろう、って思っていたものですけど……そこに、実際に行ってしまうんですから。間近で見て、どのくらいきれいだったか、帰ってきたら教えてくださいね?」
と、リンス。彼女らしいほんわかした感想というか発想である。
「しかし、危険はないのか? 私も何度か、遠征で高地には赴いたことがあるからわかるのだが……高い所というのは気温は低いし、空気も薄いと聞く。それよりも高い所となれば、相当な危険度だと思うのだが」
「魔物だって、雲より高く飛べる種族は、龍とかほんの一握りしかいないって聞くしね」
そんな風に心配して言ってくれるルビスとレジーナ。
……まあ、薄いどころかないんだけどね、空気とか。
けどまあ、もちろんその辺は考慮して準備も進めているわけで。
「大丈夫ですよ? 危険な環境でも生き残れるように、船とか装備とかもろもろ改造進めてますから。こないだやった実地試験でも、大きな問題はなかったですし」
「まあ、既に実用段階にまで至っていたのですね。さすがはミナト様です」
感心したように言ってくれるオリビアちゃん。
実際、既に『オルトヘイム号』の改造は9割がた終わっている。
こないだやったテストでも、真空の宇宙空間での航行、有害な宇宙線その他の遮断、内部の環境の保持……その他いろいろ、システムは問題なく機能した。
まだたいして広い範囲を動いたわけじゃないが(戻れなくなると困るから)、得られたデータからすれば、あとは距離と動作の正確性の問題。『渡り星』まで問題なく航行するだけの補助機能を持たせる……そして、そのめどももう立っている。
だからそれらを組み込んで、念のための実地テストももう何度かやって安全を確認できれば……いよいよ出発、ってことだ。
「想定以上のペースだな……可能な限り早くこの場を設けて正解だったようだ」
やれやれ、とため息交じりに言うメルディアナ王女。
その直後、気を楽にした状態から……背筋を正して話し始めた。
「この間の手紙にも書いたが、可能なら我々もその、『渡り星』なる場所への遠征には、人員を同行させたいと思っていた。利権やら何やら以上に、今回の災厄の根源たる存在に対する調査と、それに基づく対処という理由でな」
「でも、そういうのはお断りさせてもらいましたよね? 僕らは純粋に、冒険者としての活動としてやりたいって」
「わかっているとも。今更食い下がる気はないさ……ご母堂方の機嫌を損ねるようなことがあれば、そっちの方が怖いからな」
だが、と続ける。
「そうはいっても、公人の立場というのは厄介なものでな。嫌だと言われてはいそうですかと全くノータッチで、指をくわえて見ていられるかと言われると……それも否なのだ。だから……邪魔をする気はないが、少しだけ頼み事くらいはさせてもらいたいと思っている」
「頼み事……っていうと?」
「以前の手紙に書いた通りの話さ。おそらくだが、あそこにはお前達や私たちにとって、共通の敵……ないし、『邪魔者』と呼べるような連中がいる可能性が高い。そしてそいつらも、自分達の庭にお前達がやってきたとなれば、黙ってみてはいないだろう」
「おそらくですが、彼らは『渡り星』という拠点を使っていることで……外部勢力からの介入は、完全に遮断できていると思っているでしょう。実際、私達だけでは、あんな場所へ人を派遣して、調査も戦闘も行うなど……方法が思いつきませんから」
メルディアナ王女に続けて、ネフィアットも言う。
「そんな場所に乗り込んでこられれば、そりゃ焦るだろうし……排除しようとするだろうね」
「あるいは、ミナト様に取引を持ち掛けてくるかもしれませんね。対価を支払うか……あるいは今後、ミナト様達に手を出すことはしないから、ここにいる自分達のことはスルーしてくれって」
「仮にそう言われたとして、どうするのミナト?」
「え、まあ……とりあえず消し飛ばすかな」
「あ、一考の余地もないのね。……安心ではあるけど」
「そう、それだ!」
その瞬間、『びしっ!』とでも効果音が付きそうな感じで、メルディアナ王女が僕を指さして言った。
「それ、って? 消し飛ばせってことですか?」
「ああ、そうだ」
そうなんかい。
「言うまでもない話ではあるが、『ダモクレス財団』を……そしてそのトップであるバイラスをそのままにしておく限り、この大陸に迫る危機は続く。それも今後は、前回の教訓を踏まえ……より対処が困難で、より被害が深刻になるような『災厄』をぶち込んでくるだろう。そしてそれは同時に、国家運営を安定させるという我らの目的にも、悠々自適に冒険者ライフを営むというお前達の目的にも……共通して障害となるはずだ。ゆえに!」
ゆえに?
「必要以上に干渉されたくないという、お前達の希望ないし方針を踏まえたうえで、我々の共通の利益のために、私達から提示させてもらいたい『頼み事』は……3つ!
『今後、大陸各国にとって脅威になりそうな存在その他に関して調べてほしい』
『現地から持ち帰った有益な情報や物品等について、買取り等の交渉の席を設けてほしい』
『邪魔になる者は全て薙ぎ払い、悉くを滅ぼし尽くせ!!』
以上だ!」
「なんか悪の組織の行動スローガンみたいなのが混じってたんですけど」
まあ、1つ目や2つ目は……冒険者としての活動の中でも普通に行われることの範疇ではあるし、別に構わないか。
ギルド経由になるか、あるいは個人的なルートでになるかはわかんないけど、どの道近い感じのことはしようと思ってたし。
で、まあ3つ目は……要するに、後顧の憂いを断てと。
宇宙に逃げ延びている可能性がある『ダモクレス財団』の残党に、今度こそとどめを刺せと。
随分言い方が過激だけど……まあ、言いたいことはわかるし、おおよそ他の人達も同意見ではあるみたいだ。
全体的に『うわあ』って感じの表情になってはいるものの、訂正しようと掠る人はいないし。
ま、そういうことなら……望むところだ。
ぶっちゃけ僕らとしても、今後継続的にこっちに迷惑をかけてくるとわかってる連中を、このままのさばらせておくつもりもないしね。
確証はないけど、もしそこにそいつらがいたら……その時は、きちんと決着をつけてやる予定でいる。
そう答えると、なら一安心だとばかりにメルディアナ王女は息をついた。
どうやら、僕らにそのつもりがあるかどうか、確認するのが今回の最重要目的だったみたいだ。
そこから先は、やや緊張感のあった空気も幾分緩み、普通に知り合い同士の雑談って感じのを少ししたくらいで解散した。
その話の中で、レジーナやリンスが、『できるなら自分達も船に乗って飛んでみたい』と言っていた。
もちろんこれは、『渡り星』への旅に同行したいっていう意味じゃなく、『星々の海』……すなわち宇宙空間を飛んでみたいって意味だったようだ。
地上から見て、夜の星空はあんなにきれいなんだから、そこに直接行って見る眺めはさぞかしきれいなんだろうな……っていう感じで興味があったみたい。
彼女らしい、純粋で無邪気な願いに、思わずほっこりしてしまった。
☆☆☆
各国との調整というか話し合いは、そんな感じで終了。
ひとまず今日はここに泊まってもらって、明日の朝、『ナイトライナー』であちこちに送っていくことになった。
今から送ると、場所と順番によっては夜中の到着になっちゃうからね。今日くらいはゆっくりしていってもらおう。
そして、その日の残りの時間……夕食までの間に、僕はもう1つの方の仕事も済ませてしまうことにした。
場所は、『D2ラボ』。研究者としての僕の城だ。
そこの一角にある、病室みたいな場所に……今、1人の女性が『入院』している。
といっても、ここに来たのは今日……メルディアナ王女達と一緒にだから、治療はこれから行うところであって、まだ何もしてないんだけどね?
今はまだ、病人着に着替えてベッドに横になってるだけ。
その彼女……セイランさんの治療について、これからどんな風にしていくか、面談して決めていく予定である。
病室には、セイランさん本人と主治医(医者じゃないけど)である僕に加え、彼女の護送を担当したマリーベルとメガーヌもいる。監視役兼護衛として。
さらに、2人に守られる形でメルディアナ王女と……僕側の付き添いとして、エルクとナナも。
マリーベル達からは……無理もないことではあるけど、心なしか、警戒心を通り越して敵意みたいなものすら感じられる。これでもかってくらいに、セイランさんにとってはアウェーな状況。
まあ、彼女犯罪者だからね……無理ないっちゃそうなんだけども。
「こうして会うのは久しぶりだな……ミナト殿」
「そうだね。……割と顔色はいいみたいだね。ちょっと意外だったかも」
「この通りだからな。戦いに出ることがなくなって、しかも目先の復讐目標もいなくなって……悔過、囚われた状態で規則正しい生活でただ食っちゃ寝していたせいかもしれん」
色々な意味で自虐しつつ言うセイランさん。
……まあ確かに、前に一時期監獄で看守やってたから知ってるけど、監獄とか刑務所の生活って割と規則正しくて健康的だからね。
食事も過不足なく出るし……不規則で不安定なすさんだ逃亡生活よりは健康にもなるのかも。
……ただし彼女の場合、両腕の欠損っていうとんでもないバッドステータスが今もなお、その自由を制限しまくってるんだけどね。
そして他でもない。今回彼女がここに連れてこられたのは、それを治すためだ。
前にも言った通り、彼女は司法取引によって今現在、無政府状態になってる『チラノース帝国』をまとめ上げるための神輿役をやることになった。
それにはこの大怪我はちょっと色々な意味で不都合なので、僕が治療を依頼されたわけだ。サクヤの腕を再生させた実績を見込んで。
「尋問の時は冗談半分で言ったことだったが……本当に治してもらえるとはな。取引のためとはいえ、どう感謝していいのか見当もつかんよ……ミナト殿」
「お気になさらず。こっちもそれこそ、依頼でのことだからね」
「……シン・セイラン。わかっているだろうが、この治療に乗じて逃げようとしたり、腕が元通りになった後にも、妙な真似は考えんことだ。いざという時には……」
「そのような心配は無用だよ、メガーヌ殿。少し前までの私ならいざ知らず、ここからさらに恩をあだで返そうとは思っていないさ。……そんな理由も、もうないしな」
遮るようにして言ったセイランさんは……なんというか、どこか覇気のない、寂しげで悲し気な目をしている気がした。
こっちをきちんと見て話しているようで……しかしその実、どこか遠い場所を見ているような……そんな印象。
「祖国と一族の復讐……私が全てを投げ打って、全てを裏切って利用してでも成し遂げたかった目標は……何の因果か、私にまったく関係ない所で成し遂げられたと来た。自分がそこに携われなかったことに思うところはあるが、今更まだ何かしようとは思っていないよ」
そんなセイランさんを見ながら、今度は第一王女様が口を開いた。
「……シン・セイラン。いや、ファン・シャロンか。その言葉に偽りはないな?」
「どちらでもご随意に、メルディアナ殿下。……ご心配なさらずとも、約束は守ります。今後、私にできる形全てでもって、『チラノース帝国』の占領統治に協力させていただきます。妙な考えなど起こしません、全て指示に従いますのでご安心を」
「我らにとってはありがたい限りだが……まるで火の消えてしまったような……連れ合いを失った老人のような有様だな。かつて遠目に見たことがある貴様は、抜き身の刃のような気配と、飢えた獣のような気迫を讃えていたように思えるが……今となっては見る影もない」
普通に悪口っぽく言ってくる第一王女様にも、セイランさんは言い返すことはない。
「……でしょうね。正直、復讐という目標が失われてからというもの……何のために生きているのか、自分でもわからずにいます。復讐には失敗し、1人で生きていくことすら困難になり……後に残ったのは虚しさばかり。今の今まで、人を裏切り、傷つけ……そればかりやってきた私には、驚くほど何も残されていないのだな、と痛感しています。生ける屍、と言われても仕方がない」
はあ、とため息を1つ。
それでも、と続ける。
「……自己弁護になりますが、罪悪感がないわけではなかった。ただ、目標のために全て棚上げにしていましたから、何も結局、偉そうなことは言えないのですが。だからこそ……今の、すべて失ったこんな私にも、今の世界に対してできることがあるなら……務めさせていただきたいと思っています。せめてもの罪滅ぼしと……後はまあ、私の自己満足と、暇つぶしのために」
「首相なのか不謹慎なのかわからん奴め。まあいい……すぐにそんなことも言っていられなくなるから覚悟しておけよ。神輿とはいえ、政治に携わる者がどれだけ多忙か、貴様も思い知ることになる。弱音を吐く元気が残ればいいがな……まあ、それにもまずは見てくれをまともなものに直さなければならん。そういうわけでミナト・キャドリーユ、頼んだぞ」
あ、ようやく僕に話が回ってきたか。
やれやれ……いきなり目の前でコメントしづらいやり取りが始まるからどうしようかと思った。
敵とは言え、知らない仲じゃなかったセイランさんだ。以前の戦いで、両腕切断の大傷を負った上に、あんな凄惨な状態での尋問シーンまで見せられて……正直、どんな顔ないし態度で会うのが正解かわかってなかったんだよね……いや、今でもわかってないけど。
特に、尋問の時のインパクトのせいで、いまいち彼女を敵として認識しづらい。
いや、敵だってのはわかってんだけど、悲惨さとか可哀そうさの印象が勝る。
幸いと言っていいのか、思ったほど気分的にも沈んでる、ないし病んでるわけじゃなさそうだ。
けど、普段?の彼女を思い出してみると……やっぱりどこか沈んでる部分はなくもないというか、本調子じゃないようだけど。
……これから彼女は、第一王女様の言う通りなら、司法取引でとはいえ、皮肉気な態度が保てるかどうかも怪しいくらいには忙しい日々を送ることになるんだそうだ。
……ひょっとしたらそんな、落ち込んでる暇もないくらいの日々の中で、いつの間にか暗い雰囲気も振り切って、いつも通りのセイランさんに戻ることができたら……それはそれでいいことなのかも。
あるいは……復讐っていうネガティブな目標からも解放された今の彼女だから、今度こそ本当に彼女自身の人生を始めるきっかけとかになったり……そんな風になればいいな、なんて思ってしまうのは……さすがに都合よく考えすぎなのかな?
……ま、何にしてもそのために、今の彼女に必要なのは、健康な肉体だ。
そのために僕にできることを、きっちりやってあげないとな。
それじゃ、前振りはこのくらいにして……きちんと本題に入りますかね。
「じゃあセイランさん。簡単にですけど、今後の治療その他の方針について相談とか確認していきましょうか。希望があれば可能な限り聞きますからね」
「よろしく頼むよ、ミナト殿。基本的には貴殿を信頼して、全面的に任せさせてもらうから」
「そうですか。じゃあまず……腕は何本にしますか?」
「「「ちょっと待て」」」
言った瞬間、セイランさんだけでなく、その部屋にいるほぼ全員から待ったがかかった。
「……すまんミナト殿。なぜその……人間にとって腕は左右2本であるという大前提を真っ先に逸脱しようとしているのかな? あるいは、私は何か過程の説明を聞き逃してしまっただろうか?」
「いえ、そういうのは特にないですけど……あ、普通に2本でよかったんですか?」
「むしろそれ以外の選択肢を頭に浮かべていたことに困惑しかない。……元通り左右に1本ずつ、計2本で頼むよ。4本も6本もあっても扱いきれる気がしないしな」
「そうですか。情報処理補助デバイスとか使えば決して不可能じゃなかったとは思いますけど……忙しくなるって話だったし、腕は多い方がいいかなと思ったんですが」
「多忙さを緩和するために人間をやめる予定は今のところないよ……」
なんだか今のわずかな時間でだいぶ疲れたような様子になったセイランさん。
気にせず僕は次の質問に移る。
「わかりました。2本、と……次に治療の方針ですけど、腕は新しいのを生やします? それとも義手作ってくっつけます?」
ちなみに、どちらの選択肢でもメリットデメリットはある。
生身の腕を生やす場合は、それなりに時間がかかるが、違和感なくなじむ、正真正銘自分自身の腕ができる。リハビリとか鍛錬を行えば、以前と全く同じように動かせるようになるだろう。
義手を使う場合は、継続してメンテナンスその他が必要になるけど、すぐにでも作って明日明後日には使えるようになる。あと、色々と仕込んだりすることもできる。
「……できれば生身の腕を手に入れたいところだ。初期投資が必要とはいえ、義手は継続してメンテナンスが必要になるとかのデメリットを考えるとな……あと、『色々と』の部分が怖い」
「あっはっは、そんなに心配しなくても、別に無茶苦茶な機能をつけるわけじゃないですって。ちょっと非常用の武装やマジックアイテムを念のために組み込んだりしておく程度ですって」
「まさに懸念していた通りの内容だ。聞いておいてよかった」
そこにマリーベルが、『んんっ』と咳払いをしたうえで割り込んできた。
普段は砕けた態度の彼女だが、第一王女様がいるからか、言葉遣いまで含めてきっちりお仕事モードだ。
「……ミナト殿。いつも通りぶっ飛んだ方面に絶好調なところ恐縮ですが、彼女はその……言ってみれば出張して働かせる囚人兵みたいなものですので、過剰な装備は不要ですよ」
「あ、そう? 一応国の要人になるわけだから、独力で自衛とかできれば色々と都合いいとか思ったんだけどね……あ、じゃあ自爆装置はつける?」
「ミナト殿、義手の方の選択肢はもう考えなくていいので……」
「いや、お望みなら生身の方にも自爆装置くらいなら埋め込めるけど」
「お望みでないので早く具体的な治療の話に行こう。正直に言って、あまりに精神衛生上よろしくない。別な理由で健康を損ないそうだ」
お腹を……おそらくは胃のあたりを抑えるようにしながら(腕、まだないのに器用だな)セイランさんがそう急かしてくるので、まあそういうことなら、と僕は話を進めることにした。
「変け……」
「「「いらない」」」
……ちなみに言っておくと、
いくら僕でも、マジでそんな……腕増やしたりだとか、武装だの自爆装置だのを提案していたわけじゃない。ある種の冗談というか、アイスブレイクとかのつもりだった。
簡単に冗談くらいは言い合いながら話が進んでいたとはいえ、まだまだ空気中のシリアス分が多めで、雰囲気硬かったからなあ……
…………まあ、それでセイランさんがマジで『やる』って言ってたら……それはそれで別に止める理由もなかったけども。
ともあれ、この後の話し合いで……セイランさんは普通に両腕をもとのまま再生させることになりました。
目安としては1週間くらいで、最終検査含めて治療完了見込み。ただし、その後のリハビリ他は自力で継続して行ってもらって……って感じかな。
うん、十分間に合うな。『出発』までに。
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