辺境勤務の魔法少女 ~怪物すぎる新人と、おいしく食べられそうになる先輩~

いかぽん

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第一話

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 辺境の街グラスベル。
 のどかな農村と山々に囲まれたこの辺境地方の、中心となる街だ。

 この近隣では最も大きな街だが、国の中央付近の大都市と比べればよっぽどの田舎。

 そんな街に今、ひとりの少女が足を踏み入れる。
 旅装束に身を包んだ、赤髪の少女だ。

 ポニーテイルの髪をなびかせた少女は、期待を込めた眼差しで街を見渡す。

「ここがグラスベル──私がこれから暮らす街」

 少女がいるのは、街の門を入ってすぐの場所。
 そこから石畳が敷かれた中央通りをまっすぐに進めば、やがて噴水のある中央広場にたどり着くはずだ。

「たしか……勤務場所と宿舎は、中央広場の近くにあるって話だったけど……」

 少女は歩きながら、ポケットから封筒を取り出す。

 封筒の中には二枚の紙が入っていて、そのうちの一枚は地図、もう一枚は身分証だ。

 少女が地図を取り出して見ようとすると、その拍子に身分証がぽろりと地面に落ちた。

「っと、危ない危ない。これなくしたら大変だもんね」

 少女は慌てて身分証を拾い上げる。

 そこには「魔法少女許可証」という文字と、少女の似顔絵、それに「イルマ」という名前などが記入されていた。

 少女──イルマはその許可証を大事そうに封筒にしまい込むと、今度こそ地図に目を落とす。
 そしてまたぷらぷらと、通りを歩き始めた。

 と、そのときだ。

「──きゃあああああああっ!」

 どこかから、女性の悲鳴が聞こえてきた。

 イルマが何事かと前を見ると、通りの先に人だかりが出来はじめているようだった。

「……? どうしたんだろう」

 少女は小走りで、人だかりのほうへと向かっていく。

 そして人をかき分けて、人だかりの最前列へと出た。

 すると、人だかりが遠巻きに取り囲んだその場所には、ナイフを持ってふらつく一人の中年男がいた。

「おぉい、あんだテメェら……! こちとら見せもんじゃねぇんだぞ、殺されてぇのか……! おい女! てめぇに用があんだよ、こっち来い……!」

 中年男の顔は赤く、千鳥足で、いかにも酒に悪酔いしているという様子だ。

 その中年男の視線の先には、ガタガタと震える酒場のウェイトレス姿の少女。
 それに、彼女を守るように前に立つ、酒場のマスターと思しき人の良さそうな男。

 イルマは近くにいた野次馬を一人捕まえて聞く。

「あの、どうしたんですか?」

「ああ。どうも酒場で酔っぱらった男が、ウェイトレスの態度が気に入らないからって暴れ出したらしい」

「それでナイフですか? そんなの」

「ああ、ろくでもないな。今さっき一人、衛視を呼びに走ったんだが、間に合うかどうか」

「そうですか。だったら私が」

 イルマがそう言って、旅装束から左腕を出そうとした、そのとき──

 イルマとは別の少女の声が、その場に響きわたった。

「──マジカルコート・ドレスアップ!」

 幼いながらも凛とした、ボーイッシュなアルトの声。

 驚いたイルマが前を見ると、酔っ払い男を挟んで向こう側の人だかりに、一人の可愛らしい少女の姿があった。

 銀色の髪をショートカットにした美しい少女だ。
 見た目は十歳ぐらいで、イルマよりもだいぶ幼く見える。

 精悍な眼差しや少年的な服装も見れば、男の子と言っても通りそうな容姿。

 そのボーイッシュな姿の少女が、左腕を天に掲げ、先の言葉を放ったのだ。
 手首には、魔石で装飾されたミスリル銀製のブレスレット。

 一瞬のちに、少女の体がまばゆく光り輝く。

 着ていた少年的な服が光の粒となって消え去り、なだらかな裸身のシルエットに。
 しかしそれも一瞬で、すぐに新しい衣装をまとうと、光が弾け飛んだ。

 光がやめば、可憐な衣装に身をつつみ、わずかな燐光を宿した少女の姿。

 先までの少年的な服装とはうってかわって、少女の華やかさを強調するようなスカートにフリルというデザインの衣装だ。

 瞳を閉じていた少女が、ゆっくりとその目を開く。

 そして彼女は、人だかりの中から歩み出てきた。
 その小さくも可憐な姿が、ナイフを持った酔っ払い男の前に立つ。

「魔法少女ユニスだ。こういうのは本来オレたちの業務じゃないが、たまたま目の前にいたからな。見たら放ってはおけない、大人しくしろ」

 少女がそう言うと、取り囲んでいた人だかりが一斉に湧き上がった。

「ユニスさんだ!」

「いいぞユニス、やっちまえ!」

「酔っぱらいをボコボコにしてくれ、ユニスたん!」

 その人々の声に、魔法少女ユニスと名乗った少女はあきれ顔になる。

「あのなぁ……魔法少女の力は普通、人間相手に振るうもんじゃないんだぞ。こういうのは本来、衛視の仕事──っつても、聞いちゃいないか」

 そう言ってユニスは大きくため息をつく。

 一方、酔っぱらった中年男のほうはというと、どうもさらに頭に血が上ったようだ。

「うるっせえ! 魔法少女だろうが何だろうが、偉そうにしてんじゃねぇ!」

 そうナイフを振り上げ、ユニスのほうへと向かっていった。

 だがそれは、可憐な衣装の幼い少女によって軽くあしらわれることとなる。

「はい、オレに対しても傷害未遂な。ほら、大人しくする」

 酔っ払い男が突き出してきたナイフを、少女は人間離れした素早さで手首をつかんで止めると、そのまま腕をひねり上げて制圧した。

「いでででででっ! 何だこのバカ力……!? クソガキのくせに……!」

「当たり前だ。並みの人間の筋力で魔法少女のパワーに勝てるわけないだろ」

「ちくしょう! 俺ぁちょっと、あの女に酌をさせたかっただけなんだよぉ!」

「あー、はいはい。そういう話はオレにするんじゃなく、衛視の詰め所ですること」

 それからしばらくすると二人の衛視が来て、魔法少女が取り押さえた酔っ払いの男を捕縛した。

 次いで衛視のうちの一人が、魔法少女に向かって敬礼する。

「ユニスさん、ご協力感謝します!」

「いやいや。こっちこそごめんな、管轄違いなのに勝手に動いちまって」

「いえ、助かります! それでは」

「ん、お疲れ様」

 衛視たちは魔法少女に再度感謝を述べると、酔っ払い男を引っ張って去っていった。

 その頃には見物人も解散し、元の中央通りの姿を取り戻す。

 最後まで魔法少女にお礼を言っていたのは酒場のウェイトレスとマスターで、その二人も幼い少女が困るほど頭を下げてから、近くの酒場へと戻っていった。

 そうして、ようやく喧騒から解放された魔法少女ユニス。

「やれやれ。今日は休みだったんだけどな」

 ぼやきながら「変身」を解くと、再び光をまとい、今度は最初の少年的な衣服を身につけた姿へと戻る。

 そして、あらためて休日の残りを満喫するため、街をぶらつき始めようとしたのだが──

「あの、この街で勤務している魔法少女の方ですよね」

 旅姿をした赤髪の少女が、ユニスに駆け寄って話しかけていた。

 さらに赤髪の少女は、ユニスの小さな両手を取る。
 そして戸惑うユニスに言葉を発する間を与えることなく、二の句を継ぐ。

「今日からこの街で一緒に働かせてもらうことになった、新人魔法少女のイルマです! どうぞよろしくお願いします、先輩!」

 そう言うと、にっこりと笑顔を向ける赤髪の少女イルマ。

 対するユニスは、少し頬を赤らめつつ答える。

「お、おう。……そういや今日、新入りが配属されるって話だったが、お前がそれか。──オレはユニス。事務所すぐそこだし、せっかくだから案内してやるよ」

「はい! ありがとうございます、ユニス先輩!」

 少女たちはそうして知り合うと、二人は並んで中央通りを歩いていくのだった。
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