失敗作と呼ばれる世界に

楓鳥

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現在の流れ

春の嵐

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天気予報士が今日の天気を告げている。
「今日は大きな天気の崩れはなく、過ごしやすい1日になるでしょう。続いて一週間の天気です」


「んぁ、あー寝てたか。テレビつけっ放しだよ」
朝、あちこちの電気がついたままの部屋で界斗は目を覚ました。

机の上にある缶コーヒーを一口飲み、イスから立ち上がった。

時刻は朝9時

眠い目を擦りながら洗面台で顔を洗う。
「あ、歯磨き粉買うの忘れた」
軽く舌打ちをして、界斗は部屋に戻った。

界斗が住んでいるのはワンルームマンションの7階で、高校入学する少し前から住んでいる。
家賃や生活費はバイトで賄い、なんとか生活している。

「今日休みか。とりあえず歯磨き粉と飯買いに行くか」

スマホでバイトの予定を見た界斗は、適当な服に着替え外に出た。

「おっはよー!出かけるの?ちょうど良かった!私の買い物に付き合ってよ!」

界斗は部屋に戻った。鍵を閉めた。チェーンをかけた。その行動は全てが素早かった。

「ちょっ、界斗!開けなさい!すぐ開けなさい!出かけるんでしょ!早く出てきなさい!」
インターフォンやら、扉を叩く音やら、玄関は騒音で包まれた。
「ウルセー!玲可テメェ何でここにいんだよ!?今日部活の連中と卒業パーティーとかだろ!?」
「そうよ。その買い物行くから、荷物係で連れてくんじゃない!ってかアンタも同じ部活なんだから来なさいよ!」

玄関で2人の声が響いてた時間。約30分。

「最初から素直に一緒に来ればいいのに。あー喉乾いたー!」
「買い物は付き合うが部活のやつは行かないからな!」

あーはいはい、と手をひらひら振りながら玲可は前を歩いている。
近くの商店街であれこれ買い物をして、界斗は帰ろうとしたが、「とりあえず喉乾いたから、喫茶店で休憩しましょ!」と無理やり店に連れてかれてしまった。

2人ともアイスコーヒーをを頼み、「ふぅ」と息をつく。

「玲可、部活の集まりは何時からなんだ?」
「12時に東座公園に集合よ。一緒に行く?」
「行かねーよ」と軽く返事をして喫茶店の時計を見る。

10時50分。まぁあと少しか、と界斗は思いながらコーヒーを飲んだ。

「大学入ったら、とりあえずサークル見学して、その後はー」
と玲可が話しているのを、界斗は適当に返事して時間が過ぎていく。



「少しは部活の人たちと話したらいいのに。界斗なら話合うでしょ?」
玲可が急に真剣な顔つきで話してきた。

「・・・別に。何度も言ったが、俺は評価のためだけに」
「あーもう、わかったわかった」
聞いた私が悪かったよーと話を終わらせる。

「界斗が昔のことを気にしてるのはわかるよ。けど認めてくれる人が周りにはいるんだから、もう少し」
「そろそろ時間だな。俺は先帰るから。金置いとく。」
玲可の声を全て無視し、店を出た。
彼女が「私は認めてるよ」と言ったのは、界斗の耳には届かなかった。


まっすぐ帰る気分にならず、遠回りし、界斗は川沿いを歩いていた。

過去を忘れたかった。
玲可の話で過去を思い出したわけじゃない。
何度も何度も界斗は過去を夢に見る。
楽しかった思い出も、嬉しかった思い出も?惜き消して過去の出来事を。

「あんな失敗作、どうなっても構わないさ。害をなすなら・・・消すか?」

その一言がずっと、繰り返し思い出される。



ふと、我に帰ると界斗はある変化に気づいた。

「なんだ、急に天気悪くなったな」
空には黒い雲。今にも雨が降りそうなどす黒い雲だった。

「早く帰ろ。いつの間にか、橋のとこまで来てたし、ずぶ濡れになるのはごめんだ」

東座町側の橋の入り口で振り返り、界斗は走ろうとした。








そして嵐が来た。

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