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課外授業にトラブルは付き物です。
03
しおりを挟むきらきら。ふわふわ。
顔のすぐ横を、美しい妖精たちが駆け抜けていく。
妖精や精霊を視認できる人間は少ない。見える人間を見つけると、妖精たちはキラキラ光りを振りまいて喜ぶのだ。ヴィオラはそれがとても綺麗で可愛くて、一等好きだった。
「がぁう」
「……なぁに、アダム。私はちゃんとアダムのことも好きよ」
使い魔のアダムは機嫌が悪そうに首に巻きついて顔をこすり付けてくる。
マーキングかな? と思い調べてみれば、まさにその通りだった。匂いをこすり付けて、他所の使い魔や妖精が近づかないように牽制している、と図鑑に書かれていた。
竜とは総じて嫉妬深い種族、という一文を見た瞬間に納得してしまった。
スヴェンやユリアとの距離が近くなるたびに、かまってアピールをするんだもの。嫉妬深い性格なのかと思っていたが、そういう性分ならば仕方ない。
アダムと鼻キッスをする後ろで、「僕は?」と聞いてくる大人気ない二人に溜め息を吐いた。
喧嘩するほど仲がいい、と言うが意外と息ぴったりなんじゃなかろうか。
「――見つけたわ。精霊たちの住む湖よ」
森の中心部、ひときわ大きな生命の樹が育つふもと、プールふたつ分ほどの湖が広がっていた。
鮮やかな花が咲き、妖精や精霊が飛び跳ねている。
真っ青な、空の青さを映したような美しい湖に息を飲んだ。
「うーん、僕には妖精の類は見えないからなぁ」
「……かろうじて、水妖精は確認できるけど、精霊も見える?」
「いる、と思いたいのだけれど……とにかく、近づいてみましょう」
純度の高い青い湖。樹よりも高い位置を箒で飛んでいた三人はゆっくりと降下していく。
箒の扱いには未だ慣れない。だって、飛行機とかならまだしも、風にあおられる身体を守る鉄だってなければ、不安定な棒に腰掛けないといけない。
今でこそ、横座りで安定して飛べるようになったが、箒の授業を始めたばっかりの頃は散々だった。
上手くバランスを取れずに逆さまになっては同輩たちに笑われたものだ。
「……凄い純度だ」
「それに、透き通った魔力を感じるね。肌がピリピリするよ」
苦い表情で箒から手を離して腕をさするスヴェン。湖の上で箒から手を離すなんて絶対にできない芸当だ。
スヴェンも、ユリアも箒乗りとして最優秀の成績を収めている。ちなみに、ヴィオラは優秀だ。
魔法使いと言えば、箒に乗って空を飛ぶ姿をイメージするが、魔法使いであるなら箒に乗れなくとも空を飛べてもおかしくない、というのがヴィオラの持論である。もっか、箒無しでの飛行魔法を研究中だ。
「うげぇ……気持悪くなってきた」
「僕も、胸焼けしたみたいだよ」
男の子がふたり揃って顔色を悪くする中、慎重に箒を操り水面ギリギリまで降りていく。
――透き通る青の向こう側に、尾びれを持った美しい精霊たちの姿が見えた。
「あ、」
間抜けな声と共に、白魚の指先にローブを引かれ、ドボン、と青色の中に引きずり込まれてしまう。
水越しに、「ヴィオレティーナ!」と叫ぶ声が聞こえた。
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