32 / 46
課外授業にトラブルは付き物です。
05
しおりを挟むゆっくり深呼吸をして、と耳元で囁かれ、自分が息を止めていたことに気づいた。
大きな手のひらはごつごつとしていて、スヴェンはやっぱり男の子なんだと感じさせられる。
肩を抱き寄せられて、体温が移る。
濡れたままだと風邪を引いてしまいそう。早々に切り上げて熱いシャワーを浴びたかった。
手っ取り早い乾燥魔法があるけれど、あくまでも乾燥させるだけで、冷えた身体は温まらない。
「お姫様は一生懸命なのさ。それを外野がどうのこうの言う筋合いはないって」
「ッお前に何がわかるって言うんだ!」
「なぁんにもわからないよ! けど、ヴィオレティーナが、妹ちゃんのことを怖がっているのはわかるさ。恐怖、畏怖、畏れ――どれが当てはまるかはわからないけれど、それと思しき感情を抱いているのは確かだ」
「なら、」
「けど、妹ちゃんを恐れていると知っていて、君は妹ちゃんと接触をしているだろう」
そうだ。ユリアは知っているはずなのに、アリスと距離を縮めている。
お昼だって、一緒にご飯を食べ、気まぐれに放課後の時間を共にしている。
どうして、なんで!
アリスは怖い。
可愛くて、愛らしくて、誰からも愛される女の子らしい女の子だ。
頭も悪くない。誰にでも優しい、お日様みたいな妹が、羨ましかった。
「嫉妬は悪魔の大好物だよ」
小さく、耳元で囁かれた。
強く、強く唇を噛み締める。嫉妬をするななんて、無茶な話だった。
妹のように可愛げなんてない。いつでも明るくなんてない。誰にでも優しくなんてなれない。
妹と一緒にいればいるだけ、自分の醜い部分が浮き彫りになって出てきた。
だって、所詮この世界は作り物で、紛い物の世界である。
ゲームの主人公に悪役が勝てるはずないんだもの。
「一度、冷静になってから話そうじゃないか」
「僕は冷静だよ!」
「どこがァ? 女の子に向かって大きな声を上げるなんて紳士の風上にも置けないよ。――ひとまず、ヴィオレティーナは医務室に行こうか。ごめんよ、いつまでも寒空の下は風邪を引いてしまうね」
人間は本当に弱っちいんだからなぁ、と溜め息交じりの言葉はヴィオラだけに聞こえた。
呼び寄せ呪文でヴィオラの箒を湖から取り出したスヴェンがこの場で一番冷静だった。
「君は授業を続けるも、僕たちに着いてくるも自由にしたらいい。――少しだけ、早めで行くからくっついていてね」
やっぱり、スヴェンはヴィオラに話しかけるときだけ声のトーンが甘くなる。それがむず痒くて、恥ずかしくて、特別みたいで嬉しかった。
腕に抱かれて、空へ飛び立つ。
雲ひとつない空なのに、心は土砂降りの大雨だった。
0
あなたにおすすめの小説
初恋の人と再会したら、妹の取り巻きになっていました
山科ひさき
恋愛
物心ついた頃から美しい双子の妹の陰に隠れ、実の両親にすら愛されることのなかったエミリー。彼女は妹のみの誕生日会を開いている最中の家から抜け出し、その先で出会った少年に恋をする。
だが再会した彼は美しい妹の言葉を信じ、エミリーを「妹を執拗にいじめる最低な姉」だと思い込んでいた。
なろうにも投稿しています。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
モブが乙女ゲームの世界に生まれてどうするの?【完結】
いつき
恋愛
リアラは貧しい男爵家に生まれた容姿も普通の女の子だった。
陰険な意地悪をする義母と義妹が来てから家族仲も悪くなり実の父にも煙たがられる日々
だが、彼女は気にも止めず使用人扱いされても挫ける事は無い
何故なら彼女は前世の記憶が有るからだ
ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく
犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。
「絶対駄目ーー」
と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。
何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。
募集 婿入り希望者
対象外は、嫡男、後継者、王族
目指せハッピーエンド(?)!!
全23話で完結です。
この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。
虐げられていた次期公爵の四歳児の契約母になります!~幼子を幸せにしたいのに、未来の旦那様である王太子が私を溺愛してきます~
八重
恋愛
伯爵令嬢フローラは、公爵令息ディーターの婚約者。
しかし、そんな日々の裏で心を痛めていることが一つあった。
それはディーターの異母弟、四歳のルイトが兄に虐げられていること。
幼い彼を救いたいと思った彼女は、「ある計画」の準備を進めることにする。
それは、ルイトを救い出すための唯一の方法──。
そんな時、フローラはディーターから突然婚約破棄される。
婚約破棄宣言を受けた彼女は「今しかない」と計画を実行した。
彼女の計画、それは自らが代理母となること。
だが、この代理母には国との間で結ばれた「ある契約」が存在して……。
こうして始まったフローラの代理母としての生活。
しかし、ルイトの無邪気な笑顔と可愛さが、フローラの苦労を温かい喜びに変えていく。
さらに、見目麗しいながら策士として有名な第一王子ヴィルが、フローラに興味を持ち始めて……。
ほのぼの心温まる、子育て溺愛ストーリーです。
※ヒロインが序盤くじけがちな部分ありますが、それをバネに強くなります
※「小説家になろう」が先行公開です(第二章開始しました)
【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!
ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。
※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。
今日結婚した夫から2年経ったら出ていけと言われました
四折 柊
恋愛
子爵令嬢であるコーデリアは高位貴族である公爵家から是非にと望まれ結婚した。美しくもなく身分の低い自分が何故? 理由は分からないが自分にひどい扱いをする実家を出て幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱く。ところがそこには思惑があり……。公爵は本当に愛する女性を妻にするためにコーデリアを利用したのだ。夫となった男は言った。「お前と本当の夫婦になるつもりはない。2年後には公爵邸から国外へ出ていってもらう。そして二度と戻ってくるな」と。(いいんですか? それは私にとって……ご褒美です!)
社畜の私は異世界でも社畜精神が残ったままだった
木嶋うめ香
恋愛
貴族学園の小さな部屋で、私は一人書類仕事に追われていた。
今日も寮には帰れそうにない、机の上には大量の未処理の書類。
せめて空腹を紛らわそうと、ビスケットを鞄から取り出し水を汲んでこようとして立ち上がった途端、視界が暗くなり倒れた。
床に倒れた反動で、頭を床にぶつける。
その衝撃で思い出した、私は前世ブラック企業に勤めていた社畜で、二十三連勤サービス残業付きの末、体調を崩し亡くなったアラサー営業職だった。
他サイトでもアップしています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる