悪役令嬢は傍観に徹したい!

白霧雪。

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課外授業にトラブルは付き物です。

07

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 風邪で寝込んでいるヴィオラの見舞いに行く途中だった。

 ヴィオラの妹のアリスに、良い印象はあまりない。ヴィオラと一緒にいれば、どこからともなく現れて「お姉さま!」とふたりの間に入ってくる。

 授業が休講になったからお姉さまのお見舞いに行くのだと言うアリスと並んで歩く。意外にも会話は途切れることなく続いた。

「前はいつも一緒にいたのに、喧嘩でもしたんですか?」
「……喧嘩じゃない」

 ぶっきらぼうに答えるユリアは、頭の上にハテナを浮かべるアリスにかまわず言葉を続けた。

「リーデルシュタインが、僕とヴィオラの運命を邪魔してくるんだ」

 運命、と聞いてアリスは目を輝かせた。
 御伽噺みたい! 女の子はいつだって恋だとか運命だとか、そういう言葉が大好きだ。

 リーデルシュタイン先輩と言えば、一年生の女子の間で話題に上がっている、とっても綺麗な先輩だ。
 言われてみると、お姉さまの隣によく姿を見かけた。

「ヴィオラは僕の運命の人だ。だから僕は彼女のことが好きで、ヴィオラを幸せにする使命がある。彼女がいれば、母上の病を治すこともできる」
「――お姉さまが運命の人だから、先輩はお姉さまのことが好きなの?」

 思っていた回答と違い、首を傾げた。
 お母様の病を治すために運命の人が必要だと言っているようなものじゃないか。

「先輩のお母様を治すために、お姉さまが必要なの? そんなの、恋じゃないわ。愛なんて感じられないわ」
「違うッ! 僕は本当に好きなんだ! アリス、僕は、」

 カタン、と物音がした。

「ユリア、」

 血の気を失った真っ青な顔で、ヴィオラが佇んでいた。
 紙のように白い顔なのに、額は汗をかいて前髪が張り付いている。
 白いパジャマにカーディガンを羽織った姿は儚げで、見てわかるくらい具合が悪そうだった。

 ふわり、と揺らぐ身体に悲鳴染みた声が漏れる。

「お姉さま!?」
「え、あ、ヴィオレティーナ、」

 壁に寄りかかり、なんとか倒れなかったヴィオラは俯いていた顔を上げる。
 ほろほろ、と大粒の涙が溢れていた。

「お、お姉さま!? どうしたの、どこか痛いの!?」

 ぎょっとして、近寄ろうとするが運悪く階段が動き出してしまう。
 動く階段は、一度動き出したら中々止まらない。遠のいていくヴィオラは頼りない表情で小さく呟いた。

「やっぱり、ユリアはアリスのことが好きなのね……?」

 嗚呼、なんてことだ。酷い勘違いだ。
 今すぐにでも溢れる涙を拭って、違うと言いたい。

 踵を返し、ふらふらと足早に駆けていったヴィオラに舌を打ち、ユリアは階段の手すりを飛び越えて浮遊呪文で着地する。
 体調のよくない少女を追いかけるのは容易いことだ。頼りない小さな背中はすぐに見つけた。

 同時に、脇目も降らずに走るヴィオラの手首を掴み、引き寄せたのは焦りを滲ませたスヴェンだった。

「――大丈夫。君には僕がいるよ」

 甘い、とろける声音に止まりかけていた涙がまた溢れてきた。

 背後で、追いついてきたユリアの低い声に肩が震える。
 息を着いて追いついてきた妹は、スヴェンに抱きしめられたヴィオラを見て頬を染める。

「スヴェン先輩と、お姉さまは付き合って、るんですか……?」
「妹ちゃんには関係ないだろう?」
「あるわ! お姉さまが仲良くしているなら私もぜひ仲良く、」

 絹を裂くような悲鳴だった。
 顔を両手を覆い、くずおれてしまったヴィオラ。ひとりで立っていられない。陸に上がった人魚のようだ。

 悲痛な叫びだ。

「――イヤよ、また、わたしから大切なモノを奪っていくのね! あげない! スヴェンはあげないわ!!」

 子供の癇癪だった。
 ぎゅう、と自らスヴェンに抱きついたヴィオラにユリアはカッと頭が熱くなる。

「お姫様の仰せのままに」

 ぼうっとするヴィオラの額にキスをする。魔法のキスだ。
 急激に襲ってきた眠気に逆らうことなく、意識を暗転させた。

 
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