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課外授業にトラブルは付き物です。
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しおりを挟むカツ、カツ、と靴音だけが響く。掴まれた手首が痛い。
怒ってる? むすっと口を噤むスヴェンに胸がドキドキと嫌な音を立てる。
「ス、スヴェン? どうしたの? わたし、何か悪いことした……?」
つい、弱弱しく伺う声音になった。
ピタリ、と急に足を止めた背中に鼻をぶつける。
「別に。怒ってないけど」
そう言うスヴェンの表情は怖いくらいに無感情で、背筋がぞわりと怖気が走った。
放課後の校舎内は人気がなくなり、静まり返っている。ふたりの息遣いだけが静寂の中に聞こえた。
「――ヴィオレティーナは、僕のことが好きなんだろう?」
なんと、押し付けがましいことだろうか。
目を点にしたヴィオラは、次いで頬を赤らめ否定の言葉を口にする。それすら、今のスヴェンには気に食わなかった。
あんなにも、極上の血液は素直に感情を表しているというのに。何を今更取り繕う必要があるのか。
「随分と、距離が近かったように思えるけど」
「え、な、何が?」
「さっきの教師と。背後から抱き寄せられていたじゃないか」
鋭いナイフのような言葉尻に、音を飲み込む。息を止めて、無表情の彼を見た。
――もしかして、嫉妬してる?
「誤解よ! フロー先生は、」
「フロー先生?」
「……フロランタン先生は、休んでいた間の授業を心配して、補習をしてくれていたの。追尾魔法は、二学年の実技テストで毎回出るくらいには重要な魔法だから、」
ダンッ、と壁に押し付けられる。
「んんッ、んぅ、スヴェ、」
噛み付くような、荒々しいキスだ。鋭く尖った牙が唇を噛んで、鉄臭さが口内に広がる。熱い舌先が、傷口を抉り、血液の混じった唾液が口の端を伝う。
「んっ、ふ、ぁ」
まるで、捕食されているみたいだ。
脊髄が痺れ、足腰が震える。
ヴィオラに砂糖菓子のように甘くて、真綿のように優しいスヴェンからは想像できない荒々しさにぎゅうっと胸を締め付けられる想いだ。
「……はっ、はっ、ぁ、す、すヴぇん……!」
とろん、と紫水晶の瞳を蕩けさせ、ゆるゆるな口元から零れる唾液を舐め取ってやる。
大事に大事にされてきたお嬢様には刺激が強かったらしい。ぎゅ、とジャケットの胸もとを握るお姫様は腰が砕けてしまったようだ。
かくん、と膝が折れ、顔を真っ赤にしたヴィオラの腰を片腕で支え、強く抱きしめる。
「血液はこんなにも素直なのに? 僕のことが恋しいと、もっと求めて、と言っているのに?」
「ぁ、ぁ、だ、ってぇ」
甘えた声になるのが恥ずかしいのに、足は立たないし脳みそはキャパオーバーだし、熱のこもった視線で見つめられると全身が熱くなった。
「僕、言ったよね。お嫁さんを探しにきたんだ、って」
「う、ん」
「僕は、ヴィオレティーナと生涯を共にしたい」
今度こそ、言葉を失った。
熱烈なプロポーズだ。けれど、それに応えうる言葉を持っていなければ、気持ちも混乱したまま応えようとは思えなかった。
「わたし、は……」
「別に返事はすぐじゃなくていいさ。ふふ、吸血鬼は長生きだからね」
「さ、寮に戻ろうか」とさっきまでの不機嫌が嘘のようにカラッと笑ったスヴェンに、全身の力が抜けて床に崩れ落ちた。
(――び、びっくり、した)
「わぁ!? ヴィオレティーナ!?」
慌てるスヴェンの声なんて聞こえない。床を見つめて俯けた顔は真っ赤に染まっていた。
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