【完結】脇役モブの悪役令息に転成したら、脇役モブの双子騎士にヤンデレられた。

白霧雪。

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本編

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 懲罰房は冷たい石のにおいがする。
 かたいベッドに、薄汚れたシーツ。ベッドの足から伸びた鎖は、俺の首に嵌められた鉄枷につながっている。

 貧弱極めている俺はどこぞの筋肉バカのように鎖を引きちぎったりはできない。ちなみに、筋肉バカとはデズモンド家三男のリチャードだ。
 天才で優秀なアレクシアに次ぐ剣の腕前の持ち主で、ロリーナ・ミラー嬢のストーカー妄想変態野郎である。

 異能を封じる布を目元に巻かれているせいで視界は閉ざされて真っ暗だ。余計に視界以外の五感が鋭くなり、においや音に敏感になっている。
 視界を閉ざされているから余計に石や土の乾いたにおいや、ぽたりぽたりと落ちる水滴の音がストレスだった。

 懲罰房に入れられて、どれくらいの時間が経っているのだろう。
 地下にあるため、外へとつながる扉はひとつしかない。それも内側から開けることはできず、鎖につながれた俺の手が届かない距離だ。

 ギィイ、と外界へとつながる扉が鈍く重たい音を立てながら開かれた。
 冷たい空気に身震いする。カツン、と重力を感じさせない軽い足音だった。

「……今度は、お前なの、イザベラ」
「うふふ……ずいぶんとイイ恰好じゃない、お人形ノエルちゃん」

『悪辣の蛇』とでは恐れられる対象のドのつくサディスティック女。
 人を痛めつけるのが好き、綺麗な顔が恐怖に、痛みに歪むのが好き、傷ひとつない体に赤を滲ませるのが好き――デズモンドきっての狂人である。

 パシンッ、と手に持った鞭を打ち鳴らしながら、カツン、カツン、とゆっくり恐怖を煽りながら近づいてくる。
 俺のに自ら手を挙げたのだと。デズモンドを率いるうちのひとりであるイザベラがわざわざ自分で立候補するなんて、ずいぶんと暇らしい。

「あたしはね、ノエルちゃんがなぁんにも喋らなくたっていいのよ」

 強い香水のかおりに鼻頭にシワを集めた。甘ったるくて、いつまでも残るかおりに頭が痛くなる。
 鞭の先で顎を掬い上げられ、爪先が頬をいたずらに引っ掻く。

「ノエルちゃんが喋らなかったら、反省しなかったら、あたしはずぅっとノエルちゃんで遊んでいられるんだもの!」

 パシンッ、と頬を鞭で打ちつけられる。空を切る音と、鋭く頬を裂く痛みに奥歯を噛んだ。
 悪趣味な気狂い女だ。加虐性と残虐性を併せ持った根っからの悪魔デズモンド。イザベラが女なのが酷くもったいない、と閣下はかつて口惜しんでいた。
 魔性の美貌と巧みな話術で男を誑かし、生きた心臓をまるまると飲み込んで絞め殺す――狡猾な蛇のような女ファム・ファタール

 きっと、真っ赤な透き通る血の瞳を爛々と輝かせ、嬉々として俺を痛めつけているのだろう。

「さぁ、懺悔の時間よ、お人形ノエルちゃん。壁に手をついて、背中を見せてちょぉだい? あたしが鞭をふるったら、その数だけ罪を悔い改めるのよ」

 首枷につながった鎖を、まるで犬のリードでも引くかのように強引に引っ張られた。
 ベッドに腰かけていた俺は、視界を塞がれているためにとっさに反応することができず、前のめりにべしゃりと硬い石床に体を叩きつけられる。
 頭を庇えたのはよかったが、まともに上半身を打ち付けて、ジンジンと痛みが広がっていく。

 クスクス、と喉で笑う蛇女は、きっとこれすらも計算のうちなんだろう。どんくさい俺が、まともに受け身を取れるはずがなかろう、と。

 綺麗なモノ、美しいモノ、愛らしいモノが傷つき、壊れ、歪んでいく様が大好きなイザベラは、ずっとずっと前から俺の顔を痛みに歪めて泣き顔を見たいのだと言っていた。
 俺を痛めつけられるチャンスを、ずぅっと、蛇のように身を潜めて伺っていたのだ。

「まぁ、まるで犬のようだわね! うふふ、お父様の装飾品であるノエルちゃんは、犬の恰好も似合うのねぇ」

 ほら、ワンと鳴いてごらんなさい、と鎖を引かれ、無理やり首を持ち上げられる。息苦しさと硬い鉄枷に擦れる皮膚が痛み、呻き声が溢れた。
 それがより一層、イザベラを喜ばせるのだとわかっていても、堪え性のない俺はすぐに痛みと苦しさで涙が滲んでしまう。

「さぁ、さぁ、賢いワンちゃんのように鳴けたら、そうねぇ、鳴けた分だけ鞭打ちの回数を減らしてあげましょう!」

 ウソつけ! 鳴き真似をしたところで、「ノエルちゃんの罪は数えきれないほどあるのよ」と悪辣に嗤うんだろう。
 ほんっとうに悪趣味で性格の悪い女だ!

 怒りで噛み締めた唇がブツリと血を滲ませる。
 ヒールの踵で手の甲をグリグリと踏みにじられて、イザベラの中で俺は家畜以下の存在になっていた。

「ノエルちゃんの罪、ひとぉつ。デズモンドでありながら、無様にミラーの奴らワンちゃんに攫われたこと」
「ッ、ぐ、ぅ……!」

 立ち上がろうとしたところを狙って、鞭が振るわれる。

「ノエルちゃんの罪、ふたぁつ。弟のノア君を守れなかったこと」

 パシンッと背中に鞭を打たれる。汚れるたびに新しいシャツは与えられたが、原因はイザベラだ。
 力の加減もせずに鞭を振るうものだから、シャツ越しであろうと皮膚は裂け、血が滲み、何度も何度も何度も打ち据えられるうちにシャツもボロボロに破けてしまうのだ。

「ノエルちゃんの罪、みぃつめ。――……」

 パシン、パシン、と鞭のしなる音と、俺の痛みに呻く声、そして愉悦に歪んだ女の声だけが響いた。
 止める者もおらず、ただただ、イザベラが満足するまで俺は耐えなくちゃいけない。

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