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しおりを挟む「あきた」
奴隷の椅子から立ち上がった魔王は、ぽつりと呟いた。
決して大きな声ではなかったが、夜の帳のように静かで艶めいた声は、大広間にいる僕たちの耳にしっかりと入った。
魔王城は戦に勝利したことを祝う宴の真っ最中だった。
異国の地にて人気の舞い手を拉致し、彼女たちを宴の肴にして酒を呑んでいる最中のことだ。
舞い手たちはしゃらしゃらと装飾品を揺らしながら妖艶に舞い踊る。胸中は、いつ殺されるだろうかと恐怖でいっぱいだった。
先の戦で世界征服を達成することができた魔王軍は、連日連夜、祝いの宴を開催していた。
「ま、魔王様……? 申し訳ありません! 即刻この者たちを処刑いたします!!」
「違う。そうじゃない。わたくしは、飽きたと言ったのだ」
怜悧な瞳が舞い手たちを見る。
「ヒィィッ!」
「お、お許しください! お許しください!」
冷酷な光に、全身を震わせた彼女たちは地に頭をつき、謝罪の言葉を口にする。なぜ謝っているのかも、どうして土下座をしているのかも彼女たちはわからない。本能がそうさせるのだ。
泣く子も黙る悪逆非道の悪名高き魔王。人々を魅了する美しい容姿。こめかみから生えた鋭い角。深紅の瞳に感情はなく、冷酷に全てを見渡している。
生まれたときから魔王様は魔王様だった。魔王として生まれ、魔王として育ち、魔王として――人間と敵対し、国を滅ぼしてきた。
踊り子たちを見て、羨ましいと思ってしまった。
きっと、魔王が侵略をしなければ、こうして城に連れて来られることもなかっただろう。
言われるがまま、思うがままに人間を滅ぼしてきた魔王は興味が沸いたのだ。
人間の日常とはどんなものなのだろう。魔王以外は、どんなものなのだろう。
世界を征服してしまった今、魔王様はいわゆる燃えつき症候群に陥ってしまっていたのだ。
何をするにもやる気が出ない。宴を開いても楽しくない。シェフが腕を振るった食事もなんだか以前に比べて味がしない。朝起きるのがだるくて、夜はなんだか寝付けない。
一種の鬱状態だった。
元来活発な方ではなかったが、ふっきれてしまった魔王は、思い立ったら吉日と、以前から考えていたことを実行しようと宣言をした。
「魔王業に飽きたから、ちょっと異世界行って来る」
しん、と大広間が静まり返る。
「は、はぁぁぁあ~~~~~!?」
僕たちの悲鳴を背中に、魔王はルンルン気分で城を旅立ち、異世界へと一歩を踏み出したのでした。
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