魔王業に飽きたので、異世界トリップしたら聖女として勇者パーティーに加わることになりました。

白霧雪。

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聖女編

01

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 長すぎる時を生きてきた魔王にしてみれば、世界を渡ることなど造作も無い。呼吸をするように、人ではない言語で呪文を紡ぐ。
 世界と世界の間、細い糸を掴むように、全身の魔力を活性化させて、遺伝子レベルで魔法を構築する。

「”空間転移テレポート”」

 僕たちが魔王様の後を追おうとするが時すでに遅し。
 濃密な魔力の残滓と、魔王様の甘い香りだけが漂っていた。



 光が弾け、姿を現した少女に喝采が巻き起こる。

 人間の姿に擬態をした魔王は、ゆるふわウェーブの黒髪をふんわりと揺らし、深海の瞳を縁取る長い睫毛を震わせた。
 美醜に興味はないけれど、人間で言う所の深窓の令嬢の如く美少女の姿をしている魔王に誰もが芽生奪われた。

「嗚呼! 聖女様! ようこそお越しくださいました!! まさしく!! 貴方様が聖女様だ!!」

 喧しい声に、ふ、と顔を上げる。
 周囲には人、人、人。大勢の人間は目を見開き、驚愕の表情で少女を見つめていた。

「聖女様! 聖女様!! 聖女様万歳!!」

 万歳、万歳、と声が響く。

「あぁ……女神に選ばれし美しい聖女様、ようこそお越しくださいました」

 呆然と、周囲を見渡す少女――魔王の前に現れたのは、背の中ほどまである金髪ブロンドヘアをひとつに束ねた気品と美しさに溢れた青年。
 碧眼に笑みを浮かべ、魔王を優しく映し出していた。

「――聖女、とは、わたくしのこと?」
「えぇ、そうですとも! 貴女様以外に誰がいましょう」

 聖女とは、魔王とは真逆に位置する存在である。
 魔王たるわたくしが、聖女と呼ばれるだなんてとんだお笑い種だ。

「ぜひ、私共にお名前をお聞かせ願います」
「わたくしは、クラウディア・リーデルシュタイン。ところで……ここはいったどこなのかしら?」

 高い天井からぶら下がるガラスのシャンデリアには聖なる炎が灯っている。色鮮やかなステンドグラスには退魔の魔法がかけられている。
 白を基調とした煌びやかな調度品は、闇に覆われた魔王城とは真逆だった。
 聖なる気で溢れ、希望と祈りに満ち溢れた空間は、そこにいるだけで魔物を苦しめるだろう。

「ここは、シャーロット王国ラヴェツェニング領にあるシャルル大聖堂。貴女は、魔王を打ち倒すべく勇者と共に旅をする聖女に選ばれたのです」

 なるほど。聞けば聞くだけ笑ってしまいそうだ。

 聖女(魔王)が魔王を倒しに行く。ゲシュタルトが崩壊しそう。
 正直、レベル一桁の勇者ご一行より、レベルマの聖女(魔王)ひとりで魔王討伐をしたほうが効率がよいのではないかと思ってしまったがそうはまかり通らない。
 魔王を倒すには、同じく女神に選ばれた勇者が光の聖剣で心臓をひと突きにしないといけないらしい。
 え、わたくしも心臓刺されたら死んでしまうの? 死とは程遠い半不老不死の魔王、もといクラウディアはほんのちょっぴり興味が沸いた。あとで聖剣とやらを触らせてもらえないだろうか。

「聖女・クラウディア様。旅を共にする勇者たちをご紹介いたします」

 いつの間にか、三人の人間が目の前に並んでいた。

「君と同じく、女神に選ばれたウィリアム・アルバーンだ。気軽にウィルって呼んでくれ!」
「王国騎士団第三部隊隊長のイザベル・サンダ―ソードです」
「宮廷魔法士のオズヴァルド。よろしくね」

 勇者と、騎士と、魔法使い。確かに、ここに聖女が入ればバランスが良くなる。
 癒しの力を持ち、後衛のサポート役――というのが一般的な聖女のイメージだ。
 しかし聖女(魔王)と呼ばれようがクラウディアは魔王である。聖女(偽)と言うのが正しい。

 はるか昔、クラウディアの元にも仲間を引き連れた勇者がやってきたことがあった。
 その時は勇者・聖女・魔道士・吟遊詩人・獣使いの五人パーティーだった。吟遊詩人の唄は中々に聞いていて心地よかった覚えがある。勇者? 一切記憶にない。オスだった、ということくらいしか覚えていない。

 数百年に何度か、勇者は魔王クラウディアを討ち果たすべく魔王城へとやってきたが、羽虫の如く雑魚ばっかり。
 ついうっかり、くしゃみをした衝撃で殺してしまったこともある。人間とはなんとも脆い生き物だ。

 思い返せば、勇者は必ず聖女を連れていた。勇者と聖女のニコイチである。なるほど、記憶にある聖女を参考にすればよいのか。

「――よろしくお願いしますね、勇者の皆さん」

 はんなり、と。姿を現してから一切変化の無かった顔に笑みを浮かべた聖女様に、目だけでなく心まで奪われてしまった人間たちだった。

 
 
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