魔王業に飽きたので、異世界トリップしたら聖女として勇者パーティーに加わることになりました。

白霧雪。

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聖女編

02

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 数え切れないほどの人間を殺してきた。だって、そうしなければこちらが殺されていた。半不老不死と言えど、痛みがないわけじゃない。感情がないわけじゃない。
 同胞たちを殺されて、悲しまないはずがなかった。世界を征服し、統一して、訪れたのは虚無感だった。



 勇者たちのレベルを数値化すると、勇者五、魔法使い七、女騎士七だった。
 わぁ、初心者パーティーだ! 心がワクワクドキドキした。
 ちなみに、聖女(魔王)はレベルマックス状態である。勇者たちになんだか微笑ましい気持ちになった。
 聖女に選ばれたからには、聖女(魔王)として使命を全うしようとやる気を出している。まずは勇者たちの育成からだ。

 この世界の魔王とは、それはそれは悪逆非道で冷酷無慈悲な鬼畜野郎(ウィリアム談)だとか。
 魔王ってそんなもんじゃないか? と首を傾げつつも声には出さない。

 それに、この世界の魔王は随分と生ぬるいようだ。軍を率いて侵略をすることもなければ、魔物や魔獣を統率するわけでもない。
 自由に人間を襲う魔物たちが増加しつつあり、それを抑えるため、全ての元凶(と思われている)の魔王討伐に勇者が選ばれたのだとか。

「あ、さてはこの世界の魔王、阿呆だな」
「ん? 何か言ったか?」
「いいえ、何も」

 素知らぬふりをして首を傾げた。
 魔王城ではクラウディアが独り言を言おうが何しようが、何も言われなかった。これからは勇者たちがいるのだ、独り言に注意しなくては。

 シャルル大聖堂でしっかりと身体を休め、旅の準備をしてから魔王討伐の旅へと出発した勇者ご一行。
 大聖堂が手配してくれた馬車に揺られながら、ウィリアムが旅の流れを説明する。

「まず、ラヴェツェニング領と隣のシュヴァイツァ領の境にあるジエット町を目指す」
「魔物が少女を浚っていくと報告のあった町ですね」

 少女の肉は柔らかくて美味しいからなぁ。浚ってしまうのも頷ける。未発達な子供の肉は柔らかく、臭みが少なくて食べやすい。
 きっと、それなりに知能の高い魔物の仕業だろう。でなければ、特定の人間を浚っていくなんてできるわけがない。
 人型に近い魔物ほど知能が高く、四足歩行に近くなるほど知能が低い。簡単な見分け方だ。

 しかし、少女ばかりを浚う知能の高い魔物となれば、レベルも高いはずだ。――レベル一桁の彼らが敵うはずがない。
 いざとなれば前衛に出るつもりではいるが、そこまでする価値が彼らにあるだろうか。

「うっ、うわぁぁ! 勇者様方ぁ!!」

 ガタンッ、と馬車が急に止まり、御者の悲鳴が聞こえてくる。

「どうかしたのか!?」

 すぐにウィルが窓から顔を出す。

「か、囲まれた……! ダークウルフに囲まれてます……!」

 周囲から、獣の低い唸り声が響く。ひとつじゃない。いくつもの唸り声が重なり、地面を響かせた。

 ダークウルフは、集団で行動する魔獣だ。リーダーとなるオスを中心に、メスが複数匹と、その子供たちで形成される群れで人間や動物を襲う。初心者一人ではまず敵わないだろう。
 だが、ダークウルフの生息地は森や谷の奥深くであり、こんな町や村の近くに現れるなんていままでになかった。生態系が崩れている? ダークウルフたちをよく見れば、子は小さく、その母狼たちも痩せ細っている。

「クラウディアは中で待機だ。イザベル、オズ、行くぞ!」

 馬車を飛び出した三人を見送り、ぽつんと独り静かになる。

 ガゥルッ、と涎を垂らし、唸り噛み付き攻撃を仕掛けてくるダークウルフを剣でいなし、斬りつけるが、魔獣の毛皮は鉄よりも頑丈だ。

「ファイア!」

 炎の弾が飛び出し、子狼たちに命中する。甲高い声を上げて飛び跳ねる。

 嗚呼、なんて可哀想に。死ぬに死ねない攻撃にただ傷つけられ、いっそ、殺してあげたほうが楽になれるだろう。
 森で獲物を獲れず、餓えに苦しみ森から降りてきたのだろう。捕まえた獲物は子たちに与え、乳も出ずに骨と皮だけになっていく親のダークウルフたち。
 リーダーのはずのオスが見当たらないことから、群れとしての形がすでに崩れ始めている。

 そっと、馬車から降りたクラウディアは、口の中で呪文を紡ぐ。それは人には聞き取れない言語だった。

 慈悲と慈愛をこめて、光魔法は苦手だけど、使えないことはない。

「、聖女さん!?」

 いつのまにか馬車を抜け出している聖女に気付いたオズヴァルドが焦った声を上げる。イザベルが眉根を跳ね上げ、荒げようとした声を遮るように、厳かな音が響く。

「”光の弓矢エンジェル・アロー”」

 静かで、抑揚のない声だった。
 空に魔方陣が浮かび上がり、数多もの光の矢が射出される。
 避ける間もなく、一ミリのズレもなく、弓矢はダークウルフたちに命中した。

 高濃度の魔力があたりを漂い、魔法使いのオズヴァルドは頭がクラクラとして、倒れそうになるのを意地で堪える。

 仲間になったばかりの聖女に、ちょっとばかしいいところを見せようと思っていたのに、逆に助けられてしまった。
 ウィルは頬を引き攣らせ、剣を振りかぶった体勢のままクラウディアを振り返った。

「お、お強いんですね……」
「まぁ、それなりには」

 こてん、と首を傾げたクラウディアに、勇者たちはようやくとんでもない人物を仲間にしたのでは? と思うのだった。

 
 
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