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上司がぐいぐいきます。

竜の武器

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 料理はどれもおいしかった。
 会席というのだろうか。お造り、煮物、焼き魚、蒸し物、ご飯に赤だしのお味噌汁、香の物、そしてデザートと、凝ったお皿に手間暇をかけた料理が並んでいて、六華は一口食べては感心し、しっかりとすべてを味わいつくして箸を置いた。

「ごちそうさまでした。口がずっと幸せでした……」

 さすが山尾の選んだ店だ。お給料を頂戴したら家族で来ようと心に決めながら、お茶を飲む。

「お前、ほんとうにうまそうに食うよな」

 少し先に箸を置いていた大河が、どこか感心したようにつぶやいた。彼は六華ほどこの料理に感動していないらしい。

「いや、うまそうにもなにも、めちゃくちゃおいしかったじゃないですか!」

 なにを言っているのかと、思わず大きな声が出てしまった。

「まぁ、メシがうまいっていうのは元気がある証拠だよ」
「元気って……人を小学生みたいに」
「むくれるなって。褒めてるんだ」

 大河は珍しく楽しそうに笑って、それから腕時計に目を落とした。

「時間もちょうどよかったな」
「あ……」

 言われて時計を見れば、あと十五分でお昼休みが終わる。
 食べている最中はどうでもいいおしゃべり(主に六華のくだらない失敗談や面白トーク)で終始六華がしゃべり倒していたのだ。
 本当は六華だって、久我大河の内面に近づけるような話をしたいと思っていたはずなのに、なかなかうまくいかないものだ。

(だけど、久我大河が私の話で笑ってくれるとそれはそれで嬉しいのよね……)

 だがふたりきりで話せるチャンスなどそうそうあるとは限らない。
 六華は背筋を伸ばして、「あの、ひとつお聞きしていいですか?」と大河を正面から見つめた。

「ん?」

 大河は優雅な手つきでお茶を飲み、目を伏せる。

「晩さん会の時のことです。私、ずっと気になっていて」
「――」

 六華が疑問を口にした瞬間、ぴんと空気が張り詰めた気がした。
 だがここで自分の気持ちを引っ込めては、彼との関係を進めることはできないはずだ。
 六華は一歩も引かないという気持ちを込めて、膝の上でこぶしを握った。

「隊長、あの時は武器を持っていませんでしたよね。だから私、どこかに暗器を隠し持っているんだろうって思っていたんです。でも鵺(ぬえ)を倒した後も、あなたはずっと手ぶらだった……。どうやってあやかしを――鵺を倒したんですか?」

 大河が目を伏せると、長いまつ毛が頬に影を落とす。
 神経が張り詰めているせいか、ちくたくと、時計の秒針が時を刻む音がやたら大きく聞こえてしまう。

(……なにか言って、久我大河……)

 以前彼のプライベートに悪気なく踏み込んだ時は即座に拒まれたが、今は違う。
 きっと心を開いてくれると六華は信じたかった。

「――お前は」
「え?」
「お前は、自分が入隊時に与えられた珊瑚のことを、どれだけ知っている?」
「珊瑚のことをですか……?」

 六華はとっさに、腰に差したままの珊瑚に指先で触れた。

「――竜の鍛冶職人が鍛えた、神の力を帯びた剣だと聞いています。だからただの武器では太刀打ちできない『陰の気』やあやかしを切ることができるんですよね」
「ああ、そうだな」

 大河はそこでようやく顔を上げた。

「ではなぜ、珊瑚含めて、圧倒的に数が少ないと思う?」
「どういうことでしょうか」

 六華は大河の意図がつかめず、首をかしげる。

「強力な武器なら、たくさんつくればいい。三番隊だけではなく、国中の防衛のかなめに応用するべきだろう」
「たしかに――そういわれれば……」

 六華はふむ、と顎先に指を乗せた。

 三番隊には三十人程度の隊士がいる。
 例えば六華の珊瑚、大河の金剛。そして玲の紅玉(こうぎょく)。
 隊士全員に武器が与えられ、同じ刀は二振りとない。

「やはり刀鍛冶がそれほど数がいないからでは」

 鍛冶師がどこの誰かは知らないが、やはり量産できるものではないのだろう。六華は正解を言い当てた気になったが、大河はゆっくりと首を振った。

「竜の一族は二千年前からこの国に君臨しているのに?」
「あ……」

 大河の言うとおり、この国は竜王によって平和が保たれている。世界的にも最も安定した国家といえるはずだ。なのになぜ竜の武器が少ないのか――。

「……どういうことなんでしょうか」

 そこでようやく、六華は大河の問いかけの真意に気が付いた。

(久我大河は、自分が持っている『金剛』がどんな存在なのか、知っているんだ……!)

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