いつか思い出して泣いてしまうのなら

キズキ七星

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まだ、五月の美空を失う覚悟なんて無い

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 時間が解決してくれる、とはよく言ったモノだ、と思うようになった。時間は何も解決しない。解決するどころか、酷く濃く鮮明にしていく。写真は時間を切り取ったモノだ。写真に収められた時間は、幾度となく僕を痛めつけた。

 「テスト終わった」そう連絡をしてきた彼女を大学まで迎えに行き、大学内のコンビニで彼女の大好きなグミとオレンジジュースを購入し、運転席で彼女を待った。彼女の癖、それは早歩きだ。ルームミラーに映る彼女は、やはり早歩きをしていた。ルームミラー越しにでも分かる、可愛い。誰が何と言おうと、僕にとっては唯一無二で可愛い。
「こんにちは。待った?」
 助手席に乗り込みながら彼女は言う。
「待ってないよ。はい、これ」
 僕は先程購入したモノを渡した。
「グミだ!ありがと!」
 美咲は嬉しそうにニコッとした。この笑顔が僕は見たかった。見たかっただけだった。 
 僕たちは、夕食を食べに車を走らせた。オムライスが食べたいという彼女に従い、ふわふわのオムライスが食べられる店を調べ、二十分程移動した。駐車場に車を停めて、店に入ろうとすると、入り口に【完売しました】と張り紙がしてあった。
「えー!食べたかった」
 そう言って美咲は悲しそうな顔をする。僕は急いで他の店を調べ、オムライスを食べさせようと必死になった。すぐ近くに最適な店を見つけたので、彼女に伝え、すぐに向かった。しかし、その店は混雑しており、三十分待ちであった。
「どうする?オムライスが良いよね。待とうか」
「うん、待つ」
 誰にも理解されないと思うが、意思を言葉にするところが好きなところだった。「遊ぶ?」と聞くと、「うん」ではなく「遊ぶ」と言う。「ご飯食べる?」と聞くと、「食べる」と言う。「これから会う?」と聞くと、「会う」と言う。何故だか分からないが、そこが堪らなく好きだった。
 車で十分程待ったところで、お腹空いた、と美咲が言った。近くにコンビニを見つけたので、アイスか何か買ってくるね、と言うと、美咲も行く、と言った。手を繋ぎながらコンビニまで歩いた。
「どれが食べたい?」
「迷う」
「ゆっくり選びな」
 僕は既に自分が買うアイスは決め、彼女を待った。ただ、彼女を急がせないために、まだ決めていないふりをした。
「これにする」嬉しそうにしている。
「分かった、待ってて」
 僕は二人分のアイスを持って会計を済ませる。後ろに立っている彼女を直接見てはいないが、想像するだけで可愛かった。
 車に戻るまでに彼女はアイスを食べ終えた。
「はやっ」
「お腹空きすぎた」
 彼女は食べるのが早い。初めてのデートの日はあれだけ遅かったのに、僕という存在に慣れたのか、僕より食べ終えるのが早かった。
 ようやく店に入ることができた僕たちは、タッチパネルでメニューを見ていた。
「やっぱり軽いモノにする」
「え、オムライスは?」
「要らない」
「そうなん。じゃあ好きなの選びな」
 そうして彼女は、コーンバターを選択した。
「それだけ?お腹空かない?」
「アイスでお腹膨れた。これでいい」
「そっか。じゃあ僕も何か頼むから分けっこしよ」
 そして僕はチキンを選択した。
 やはり、彼女は食べ終えるのが早かった。いつか、ここのオムライスをリベンジしに来よう、と約束をして店を去った。


 白い玉は光を失った。何が何だか分からなかったが、この白い玉を持った瞬間に、彼女の記憶が強制的にかつ鮮明に思い出された感じがした。僕はそれをポケットをしまい、帰路についた。
 家に帰ると、婚約者が夕飯を作って待ってくれていた。
「ただいま」
「おかえり、食べよ」
「うん」
 僕たちは静かに夕食を食べ始めた。目の前には今愛する人がいる。しかし、さっきまで見ていた夢のようなモノには、かつて愛した人が本当に側にいるかのように感じられた。記憶を見た、というよりは、記憶を体験したと言う感じだった。
「どうかした?」
「ん?何でもないよ。今日も美味しいね、皐月」
「ありがと。でも元気無さそうだよ」
「そんなことない。いつも通りだよ」
「いつも通りなら元気ないって事だね。出会った頃から変わってないけど、どこか焦点が合ってないと言うか、何をしてても上の空と言うか。まあ、その何考えてるか分からないところを好きになったんだけどね」
「そうだっけ。てか、好きなところそこなんだね」
「そこだけじゃないのよ。ただ、私が幸せにしてあげたいと思っただけなの」
 皐月のこういう優しさを感じる度に、僕は自分を殺したくなっていた。罪に問われないのなら、今すぐにでも自分を殺したい。
「皐月はさ」
 僕は言葉に詰まった。言葉にするのが怖かった。もし、そうじゃないなら僕の存在意義が無くなる気がして、味方が居なくなる気がして、僕という人間が瞬間的に消されてしまう気がして。
「何?」彼女は少し微笑んだ。
「いや、なんでもない」
 彼女は眉をひそめたが、すぐに笑顔に戻り、そのまま食事を続けた。ついに言葉にすることが出来ないまま食事は終わり、それから何も言い出せず、僕の今日は終わった。

———僕と居て幸せ?


 朝目覚めると、ベッドに皐月の姿は無かった。僕はトイレを済ませ、会社に行くためのスーツに着替えた。何も聞いていないが、今日は出かける予定でもあったのだろうか。後で連絡してみよう。僕は朝食を取ろうとリビングへ向かった。すると、そこには首に紐を括り付け、少し浮いている皐月が居た。
                      続
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