殺伐とした別世界に、変態なる国家が現れり リメイク版

ELDIAN

文字の大きさ
2 / 7
——国難の始まり——

第零話:Goodbye, peaceful everyday (さようなら、平和な日々)

しおりを挟む


 _宇宙空間 エルディアン連邦宇宙軍管轄宇宙域本部 2069年2月3日


 けたたましくアラート音が響く宇宙域本部連絡通路。エルディアン連邦があまたの資金を投入し、今尚建設が進められている”超”巨大宇宙施設だ。その規模は国際宇宙ステーションI  S  Sの5倍を軽く超える。
 当然それだけの規模となれば各国の宇宙飛行士なども多数滞在しており、その状態は殆どちょっとした連邦国家と言っても差し支えない。
 と、それは置いておき、だ。現在、この宇宙域本部は不可解な事態に見舞われているようだった。


——


 「一体何が起きてるってるんだよッ!!」

 通路側面に均等に配置されたガラス窓からチラチラと見える、地形が完全に変わり果てた眼前の謎の惑星を遠目にクルーの一人、ロードリアは混乱した様子で一心不乱に叫ぶ。
 それは、あまりにも突然の出来事だったのだ。
 説明のしようがない。ただただ、突然、こうなった。前触れなんて身に覚えもない。本当に、突然だった。
 と、ここで本部内放送が入る。

 『各員に緊急通達。現在我々は幻覚を見ているのかもしれないが……これは現実だ』

 放送員は息を飲むと、”落ち着いて聞け”と言わんばかりの口調で通達を再開する。

 『我々はどうやら……別惑星軌道上に、存在しているようだ』


 _エルディアン連邦 ネオ・クレセント・シティ


 ネオ・クレセント・シティ。それは、旧アメリカ合衆国カリフォルニア州北部デルノルト郡の都市、そして同郡の郡庁所在地だった。
 総人口が4万人だった頃(刑務所含む)、つまり、2045年に発生した世界規模での大飢餓『初夏の惨劇』により人口が半分以下にまで減少し、都市としての機能を喪失。それからというものの、全く人の手が入らないまま放置された。
 そして月日は流れ約20年程が経過。財政面が安定したエルディアン連邦は都市機能の復旧という名目で旧市街も全てを耐用年数を超え、さらに暫くの間放置されて居たことも考慮して一旦破壊。そこに新たに形成された街。それが、移民用地方都市、ネオ・クレセント・シティだった。



——



 「お母さん!早く早く!」

 今年小学校に入る予定の息子のジョニーは元気な声で手招きをし、海辺に建てられたスーパーマーケットの展望台へと続く階段を駆け上がっていく。

 「怪我しちゃダメよぉ~」

 その後ろを追うように、ジョニーの母カーラはゆっくりとした歩みで階段を上がっていく。
 ここは、この街ネオ・クレセント・シティの港湾施設を一望できる展望台が設置されているスーパーマーケット。平日はあまり賑わうことはないが、休日には子供や写真家たちなどが姿を見せる。彼らも、そのうちの二人だった。

 「わぁーっ……!」

 ジョニーは一足先に着いた展望台から、港湾施設に停泊する大小種類様々な船を見て喜びの声を上げる。
 やがてカーラも展望台へと続く階段を登り切り、周囲の迷惑にならないように港湾施設内部の船舶を眺めていた。

 「お母さん!見て見て!あの船、かっこいい!」

 すると、突然ジョニーはそう言う。彼は港湾施設内部の船舶——ではなく、その外。沿岸から目測で数キロほど先を航行する”船”を、指差す。

 「え……?あ……あれって……」

 はしゃぐジョニーを横目に、カーラは首をかしげる。いや、それは彼女だけではなかった。そこにいた誰もが・・・、その光景を……”それら”の存在に疑問があった。
 現代では一部の船舶を除けば一切使用されることがない大きな白い帆。遅い巡航速度。船体横から突き出るように顔を出す、数十の”何か”。もはや木の塊とまで言えるほど、船体全体が木材で構成される、存在そのものが現代ではあまりにも異質な、ソレ。
 似たような形状をした”ソレ”が、沖に二十……いや、三十は浮かんでいた。
 場は、静まり返る。


 _場所は変わり、エルディアン連邦首都 プレイディアル 大統領府


 エルディアン連邦首都、プレイディアル。かつてアメリカ合衆国の首都であったワシントンD.Cを、エルディアン連邦政府新政府がエルディアン連邦設立時の臨時首都として制定。そのまま正式に首都として認定された場所である。
 首都の設備・建築物はより一層近代化し、自動運転車両用に改築された車道には数多の自動運転車両が走行し、各所には小規模の大手ネット通販企業が建設した荷物運搬用ドローン基地併設荷物積載所が置かれている。
 アメリカ合衆国であった以前よりも一層建築物が入り混じっている中、なお存在感を残す存在が存在する。それが、大統領府旧ホワイトハウスだった。
 その執務室で、現在エルディアン連邦第9代目大統領ニッソン・J・アルフレッドが黙々と執務をこなしていた。

 「……んぅぅぅぅぅっ!」

 長ったらしい執務に疲れ、背伸びをしていると執務室のドアがノックされる。

 「ん……入りたまえ」

 ドアからは国防担当大臣のルイスが入室する。

 「大統領、執務中申し訳ありません。……重大な問題が、発生致しました」

 「ん?なんだね」

 ルイスは一息置くと、珍しく動揺した顔で衝撃的な発言をする。

 「各国との通信が途絶、及び宇宙域本部からの連絡で……我々は、別惑星・・・にいるようだ、とのことです」

 「……は?」

 ニッソンは、嘘だろおいおいと言いたげな顔でルイスを見つめる。

 「いやいや……待ちたまえ。何?別惑星、だと?」

 「はい。別惑星です」

 わけがわからない。いや、状況が飲み込めない。我々が住んでいるのは地球のはずだ。だが、宇宙に関してはプロフェッショナルが集う宇宙域本部からの通信だ。間違うはずがない。

 「他国は?他国はどうなったのかね?」

 動揺を隠せない口調で尋ねる。

 「宇宙域本部の見間違いでなければ……他国は、全て消滅・・・・。今この世界に存在するのは我々と謎の大陸のみ、だそうです」

 ニッソンは言葉を失う。

 「私は対応に追われているのでこれで……」

 一方のルイスは殴り捨てるようにそれを伝えた後そそくさと執務室を退出する。
 執務室にはただ一人、椅子に座るニッソンのみが残される。

 「……とりあえず状況確認だな……うむ。緊急会議を開くか。大臣に招集をかけるとしよう」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

月弥総合病院

僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

俺の伯爵家大掃除

satomi
ファンタジー
伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。 弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると… というお話です。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...