大人向け童話、児童文学集

toku

文字の大きさ
18 / 18
↑新着(上へ行くほど新しい)

転校生への気持ち

しおりを挟む
 転校生が来ると聞いた最初の時、友ちゃんも他のクラスメートたちと同様、ワクワクした気持ちになりました。
(どんな子かな?)
(仲良くなれるかな?)

 しかし実際に転校生がやってきて、その子がとても良い子でクラスの皆とどんどん仲良くなっていく姿を見ると、友ちゃんは『焦り』のような『いらだち』のようなものを感じ始めました。
(わたしの方が、ずっとクラスの皆と長い時間、過ごしてきたのに。
皆、もう私より転校生の方が好きになってしまったみたい)

 嫉妬だと分かりました。
 自分が悪いと分かっていたので、誰にもこの気持ちは打ち明けませんでした。

 そんな友ちゃんにも、転校生と話す機会が訪れました。
 転校生は1対1で話すとますます魅力的で、友ちゃんも魅了されました。
(こんなに良い子なら、仕方ないな……皆が仲良くしたがるのも分かる)
 そう思った友ちゃんでしたが、もはやこのクラスの『中心人物』になった転校生を見るとやはりモヤモヤします。
 モヤモヤしつつ『そんなことを考える自分の方が悪い』とその気持ちは心に秘めてきました。

 ある日のことです。
 友ちゃんはある会話を耳にしました。
「あいつ、ちょっと調子乗ってるよね?」
 転校生への悪口でした。

 友ちゃんはちょっとだけ胸がすきました。
 転校生にネガティブな感情を持っているのは自分だけではないことにホッとしたのです。
 と同時に、嫌悪感のようなものも抱きました。
 転校生は『調子になど乗ってない』と思いました。転校生が本当に良い子だと言うことを友ちゃんは認めていたのです。

 それから色々考えて、結局、
(わたしって嫌な奴)
 そう友ちゃんは苦々しい気持ちになりました。
『転校生は調子に乗っている』と断言した子より自分は嫌な奴だと思いました。
 あくまで自分は転校生を公平に見て『良い子』だと認めていると自己弁護しながらも、その子の悪口を聞いて憂さを晴らしている。
(わたしって、どっちつかずの、偽善者)

 
 その日の夜、友ちゃんはお父さんとお母さんから『引っ越し』と『転校』の話を聞かされました。お父さんの転勤が決まり、家族皆でよそへ引っ越すことになったのです。
 ビックリして、不安でたまらなくなった友ちゃんでしたが、心の底に、ある気持ちがあることにも気付いていました。
『ホッとした気持ち』――『安堵感』

(もう、あの子のことで悩まなくても良いんだ……)
(皆と仲良くしているあの子を見て、ヤキモチを焼かなくて良いんだ……)

 そう思ってから、友ちゃんは自分のこの『安堵感』について考えました。
 人気者の転校生――とても良い子。
 どう考えても嫉妬するわたしの方が悪いのに。
 そんなにわたしは、あの子のことが嫌いなのだろうか?

『嫌いかどうか』すら、友ちゃんにはハッキリと分かりませんでした。
 しかし『ホッ』としたことは確かだと、分かりました。

『転校生』……
 友ちゃんは考えました。
 自分もこれから新しい学校で転校生になるのだ。でも……
(あの子のように、人気者にはなれないだろうな)

 それでも自分は、自分の居場所を作るために頑張るに違いない――自分なりに。
 その結果が、あの子のようにはならないだけ。
 それは自分にはあの子のような魅力がないから仕方ないことだ。
 と言うことは、あの子が『魅力があるから必然的に人気者になる』ことも仕方がないと言えるのではないか。

 やはり、これまで考えてきた通り、あの子は全く悪くなく、自分のこの気持ちが醜い……

 色々考えると、つらくなってきました。

 それでも胸の中にはホッとした気持ちがずっとあること、友ちゃんはちゃんと気付いていました。
(もう、あの子と会わなくて済むんだ……)




 ――終――
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

童話短編集

木野もくば
児童書・童話
一話完結の物語をまとめています。

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

あだ名が242個ある男(実はこれ実話なんですよ25)

tomoharu
児童書・童話
え?こんな話絶対ありえない!作り話でしょと思うような話からあるある話まで幅広い範囲で物語を考えました!ぜひ読んでみてください!数年後には大ヒット間違いなし!! 作品情報【伝説の物語(都道府県問題)】【伝説の話題(あだ名とコミュニケーションアプリ)】【マーライオン】【愛学両道】【やりすぎヒーロー伝説&ドリームストーリー】【トモレオ突破椿】など ・【やりすぎヒーロー伝説&ドリームストーリー】とは、その話はさすがに言いすぎでしょと言われているほぼ実話ストーリーです。 小さい頃から今まで主人公である【紘】はどのような体験をしたのかがわかります。ぜひよんでくださいね! ・【トモレオ突破椿】は、公務員試験合格なおかつ様々な問題を解決させる話です。 頭の悪かった人でも公務員になれることを証明させる話でもあるので、ぜひ読んでみてください! 特別記念として実話を元に作った【呪われし◯◯シリーズ】も公開します! トランプ男と呼ばれている切札勝が、トランプゲームに例えて次々と問題を解決していく【トランプ男】シリーズも大人気! 人気者になるために、ウソばかりついて周りの人を誘導し、すべて自分のものにしようとするウソヒコをガチヒコが止める【嘘つきは、嘘治の始まり】というホラーサスペンスミステリー小説

夏空、到来

楠木夢路
児童書・童話
大人も読める童話です。 なっちゃんは公園からの帰り道で、小さなビンを拾います。白い液体の入った小ビン。落とし主は何と雷様だったのです。

おっとりドンの童歌

花田 一劫
児童書・童話
いつもおっとりしているドン(道明寺僚) が、通学途中で暴走車に引かれてしまった。 意識を失い気が付くと、この世では見たことのない奇妙な部屋の中。 「どこ。どこ。ここはどこ?」と自問していたら、こっちに雀が近づいて来た。 なんと、その雀は歌をうたい狂ったように踊って(跳ねて)いた。 「チュン。チュン。はあ~。らっせーら。らっせいら。らせらせ、らせーら。」と。 その雀が言うことには、ドンが死んだことを(津軽弁や古いギャグを交えて)伝えに来た者だという。 道明寺が下の世界を覗くと、テレビのドラマで観た昔話の風景のようだった。 その中には、自分と瓜二つのドン助や同級生の瓜二つのハナちゃん、ヤーミ、イート、ヨウカイ、カトッぺがいた。 みんながいる村では、ヌエという妖怪がいた。 ヌエとは、顔は鬼、身体は熊、虎の手や足をもち、何とシッポの先に大蛇の頭がついてあり、人を食べる恐ろしい妖怪のことだった。 ある時、ハナちゃんがヌエに攫われて、ドン助とヤーミがヌエを退治に行くことになるが、天界からドラマを観るように楽しんで鑑賞していた道明寺だったが、道明寺の体は消え、意識はドン助の体と同化していった。 ドン助とヤーミは、ハナちゃんを救出できたのか?恐ろしいヌエは退治できたのか?

かぐや

山碕田鶴
児童書・童話
山あいの小さな村に住む老夫婦の坂木さん。タケノコ掘りに行った竹林で、光り輝く筒に入った赤ちゃんを拾いました。 現代版「竹取物語」です。 (表紙写真/山碕田鶴)

悪女の死んだ国

神々廻
児童書・童話
ある日、民から恨まれていた悪女が死んだ。しかし、悪女がいなくなってからすぐに国は植民地になってしまった。実は悪女は民を1番に考えていた。 悪女は何を思い生きたのか。悪女は後世に何を残したのか......... 2話完結 1/14に2話の内容を増やしました

処理中です...