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(25日目)鬼ヶ島へ……!
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俺の住む村にはこんな掟があった――『10年に一度、村一番の美人を鬼ヶ島へ差し出す』
そして、今年がその『10年に一度の年』で。
村一番の美人とされたのは俺の妹だった。
もちろん俺は抵抗した。
両親も亡くなり、たった1人の家族だ。
鬼ヶ島へなどやるものか。
しかし。
俺が村人どもの罠にかかり、蔵に監禁されている間に、妹は鬼ヶ島へと送られていってしまった。
そのことを知った俺は、村人へ復讐する暇も惜しんで、鬼ヶ島へと向かった。
――
鬼ヶ島に着く。
意外に綺麗な家が並んでいる。
鬼ヶ島と言うだけあって、この島にはもちろん鬼が住んでいる。……と聞いている。
俺は鬼を警戒しながら、歩き始めたが……
すぐに、鬼に見つかってしまった。
鬼は俺のすぐ前に来ると、ジロジロと俺を見る。
俺の方もジロジロと鬼を見た。
何しろ鬼を見るのは初めてだ。
その感想は……『思ったほど、怖い見た目ではないな』
確かに肌の色は違うが、顔は整っている。
人間とそう変わらない――美形の人間と。
お互いをひととおり観察すると、鬼はニッコリ言った。
「鬼ヶ島へようこそ!」
友好的である。
まあ、油断させているのかも知れないが。
――
「歓迎します」そう言って『付いてこい』と言う仕草をする鬼の後へ俺は付いていった。
鬼は無防備に背中を見せている。
こう無防備だと逆に攻撃できないものだ。
しばらく何のアクションもできないまま、大人しく付いて行くと、鬼はある家に入った。
「ただいまー」と言う。
どうやら自分の家に連れて来てくれたようだ。
「おかえりなさい」と言う女の声が聞こえた。
聞き覚えのある声……
「お仕事お疲れ様」女は鬼の胸に飛び込んだ。
「こら」鬼は優しい調子で、
「お客さんだよ」
「やだ……」女は人前でイチャついたことに恥ずかしさを憶えたようで、顔を赤くしながら鬼から離れ、俺を見た。
そして、目を見開いた。
俺も、目を見開いた。
「お兄ちゃん!?」
目の前には、俺の妹がいたのだ。
鬼ヶ島へ行くのは嫌だと、泣いていた妹が……
――
「まさか、お義兄さんとは思わず。
失礼な態度をしていないと良いけど」
そう鬼は申し訳なさそうに言った。
「いや。そんなことはないです」俺は混乱しつつも否定した。
実際、失礼な態度などされていない。
よそ者を丁重に扱ってくれて、家にまで招待してくれたのだ。
「敬語はよしてください」鬼は微笑んだ。
「お義兄さんなのですから」
俺は曖昧に頷いた。
『お義兄さん』――しかし、俺は妹を取り返しにきたのだ。
だから……『お義兄さん』と呼ばれても困る……んだろうか?
先程の妹の、この鬼への態度。
そして今も鬼の近くで心配そうに俺と鬼を見比べている妹を見ると……
俺はこのよくわからない状況を変えるべく、妹に話しかけた。
「俺は、おまえを連れ戻しに来た――つもりだが」
「お兄ちゃん」妹は慌てて言った。
「私、今、とっても幸せよ!」
妹は鬼を見、
「私も始めは、鬼のこと、よく知らなかったから、怖かったけど……
鬼ヶ島へ来てみて、わかったの。
鬼は全然怖くない。
それどころか……」
うっとり見つめて、
「とっても、素敵だって」
「君も、とっても素敵だよ」鬼も妹を見つめ返した。
「……」俺は立ち上がった。
「ちょっと、町中を歩いても、良いかな……」
「私、案内するわ」妹も立ち上がった。
――
鬼はどうやら兄妹水入らず、と気を使ってくれたようで、俺たちは2人で町中を歩き始めた。
町中には鬼がたくさんいたが……
どの鬼も人間と肌の色は違うが、容姿の整った鬼ばかりだ。
『10年に一度村の一番の美人を鬼ヶ島へ送る』と言う長年の習慣で、美形の遺伝子が受け継がれていったのかもしれない。
「おまえ、本当に、あの男が好きなのか?」
俺は妹にもう一度確認した。
あの鬼がいないところでも聞く必要があると思ったのだ。
「うん」妹は夢見るような表情で言った。
「大好き。
とても優しいの」
「そうか」俺はそれ以上、言うことがなくなった。
「お兄ちゃん」妹は涙ぐみながら言った。
「来てくれてありがとう。
もう一度会えて嬉しかったよ」
「もう、おまえは村には戻らないんだな」そう聞くと、
「うん」妹は即答した。
俺はため息を吐いた。
「俺は、どうするかな……」
村の奴らは俺をだまして監禁している間に、妹を鬼ヶ島へ送ったのだ。
そんな奴らがいる村へ、今更帰るか……
残してきた家族もいないのに。
「そうだ!」妹は、良いことを思い付いたような顔になると言った。
「お兄ちゃんも!
この島で、暮らそうよ!
一緒に!」
――
俺はこの島で暮らし始めた。
この島には人間も少し住んでいた。
皆、鬼ヶ島の鬼を悪者と決めつけて来たが心変わりして住みついた者たちだった。
鬼。
鬼に立ち向かおうとやって来た(そしてその考えを改めた)勇敢な人間の男。
10年に一度『言い伝え』によって連れて来られる、美しい人間の女。
そんな者達が集まって、繁栄してきた島。
それが実際の鬼ヶ島だった。
その後、俺は美しい鬼のお嫁さんをもらい、幸せに暮らした。
めでたしめでたし。
――終――
そして、今年がその『10年に一度の年』で。
村一番の美人とされたのは俺の妹だった。
もちろん俺は抵抗した。
両親も亡くなり、たった1人の家族だ。
鬼ヶ島へなどやるものか。
しかし。
俺が村人どもの罠にかかり、蔵に監禁されている間に、妹は鬼ヶ島へと送られていってしまった。
そのことを知った俺は、村人へ復讐する暇も惜しんで、鬼ヶ島へと向かった。
――
鬼ヶ島に着く。
意外に綺麗な家が並んでいる。
鬼ヶ島と言うだけあって、この島にはもちろん鬼が住んでいる。……と聞いている。
俺は鬼を警戒しながら、歩き始めたが……
すぐに、鬼に見つかってしまった。
鬼は俺のすぐ前に来ると、ジロジロと俺を見る。
俺の方もジロジロと鬼を見た。
何しろ鬼を見るのは初めてだ。
その感想は……『思ったほど、怖い見た目ではないな』
確かに肌の色は違うが、顔は整っている。
人間とそう変わらない――美形の人間と。
お互いをひととおり観察すると、鬼はニッコリ言った。
「鬼ヶ島へようこそ!」
友好的である。
まあ、油断させているのかも知れないが。
――
「歓迎します」そう言って『付いてこい』と言う仕草をする鬼の後へ俺は付いていった。
鬼は無防備に背中を見せている。
こう無防備だと逆に攻撃できないものだ。
しばらく何のアクションもできないまま、大人しく付いて行くと、鬼はある家に入った。
「ただいまー」と言う。
どうやら自分の家に連れて来てくれたようだ。
「おかえりなさい」と言う女の声が聞こえた。
聞き覚えのある声……
「お仕事お疲れ様」女は鬼の胸に飛び込んだ。
「こら」鬼は優しい調子で、
「お客さんだよ」
「やだ……」女は人前でイチャついたことに恥ずかしさを憶えたようで、顔を赤くしながら鬼から離れ、俺を見た。
そして、目を見開いた。
俺も、目を見開いた。
「お兄ちゃん!?」
目の前には、俺の妹がいたのだ。
鬼ヶ島へ行くのは嫌だと、泣いていた妹が……
――
「まさか、お義兄さんとは思わず。
失礼な態度をしていないと良いけど」
そう鬼は申し訳なさそうに言った。
「いや。そんなことはないです」俺は混乱しつつも否定した。
実際、失礼な態度などされていない。
よそ者を丁重に扱ってくれて、家にまで招待してくれたのだ。
「敬語はよしてください」鬼は微笑んだ。
「お義兄さんなのですから」
俺は曖昧に頷いた。
『お義兄さん』――しかし、俺は妹を取り返しにきたのだ。
だから……『お義兄さん』と呼ばれても困る……んだろうか?
先程の妹の、この鬼への態度。
そして今も鬼の近くで心配そうに俺と鬼を見比べている妹を見ると……
俺はこのよくわからない状況を変えるべく、妹に話しかけた。
「俺は、おまえを連れ戻しに来た――つもりだが」
「お兄ちゃん」妹は慌てて言った。
「私、今、とっても幸せよ!」
妹は鬼を見、
「私も始めは、鬼のこと、よく知らなかったから、怖かったけど……
鬼ヶ島へ来てみて、わかったの。
鬼は全然怖くない。
それどころか……」
うっとり見つめて、
「とっても、素敵だって」
「君も、とっても素敵だよ」鬼も妹を見つめ返した。
「……」俺は立ち上がった。
「ちょっと、町中を歩いても、良いかな……」
「私、案内するわ」妹も立ち上がった。
――
鬼はどうやら兄妹水入らず、と気を使ってくれたようで、俺たちは2人で町中を歩き始めた。
町中には鬼がたくさんいたが……
どの鬼も人間と肌の色は違うが、容姿の整った鬼ばかりだ。
『10年に一度村の一番の美人を鬼ヶ島へ送る』と言う長年の習慣で、美形の遺伝子が受け継がれていったのかもしれない。
「おまえ、本当に、あの男が好きなのか?」
俺は妹にもう一度確認した。
あの鬼がいないところでも聞く必要があると思ったのだ。
「うん」妹は夢見るような表情で言った。
「大好き。
とても優しいの」
「そうか」俺はそれ以上、言うことがなくなった。
「お兄ちゃん」妹は涙ぐみながら言った。
「来てくれてありがとう。
もう一度会えて嬉しかったよ」
「もう、おまえは村には戻らないんだな」そう聞くと、
「うん」妹は即答した。
俺はため息を吐いた。
「俺は、どうするかな……」
村の奴らは俺をだまして監禁している間に、妹を鬼ヶ島へ送ったのだ。
そんな奴らがいる村へ、今更帰るか……
残してきた家族もいないのに。
「そうだ!」妹は、良いことを思い付いたような顔になると言った。
「お兄ちゃんも!
この島で、暮らそうよ!
一緒に!」
――
俺はこの島で暮らし始めた。
この島には人間も少し住んでいた。
皆、鬼ヶ島の鬼を悪者と決めつけて来たが心変わりして住みついた者たちだった。
鬼。
鬼に立ち向かおうとやって来た(そしてその考えを改めた)勇敢な人間の男。
10年に一度『言い伝え』によって連れて来られる、美しい人間の女。
そんな者達が集まって、繁栄してきた島。
それが実際の鬼ヶ島だった。
その後、俺は美しい鬼のお嫁さんをもらい、幸せに暮らした。
めでたしめでたし。
――終――
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