ひきこもり生活を満喫していたら異世界JKと異世界ネコが押しかけてきた件について

汗茄子w8

文字の大きさ
23 / 87
あかり

20話 より糸

しおりを挟む
 
 あかり君の身長は一回り小さくなり、顔も幼くなっていた。さらに今着ている制服は中学生のときのものだという。

「JC……」
「小森さんの小さな子供を想う気持ちが届いてしまったのですね!」
「えぇ……」

 俺は等身大のあかり君をイメージしていたはずなんだが。

「ともかく、本当に本当にありがとうございました!」
「あかり君が戻ってきてくれて良かったよ。ところで……結局、何をしに向こうに行こうと思ったんだ?」

 あかり君の目的は最後まで判然としなかった。
 話を聞く限りでは、向こうへ行ってすぐにこちら側に帰りたがってたみたいだし。

「――それはお金のためです! 貯金をくずして全部こちらに持ち込もうと思いまして……ああっ」

 制服をまさぐったあと、顔面を蒼白にするJCあかり君。見てて飽きない、いつもの百面相だ。

「ないです……おさいふすら……」
「良いんだよ、もう。お金の事は気にしないでくれ。もしやばくなりそうだったら、そこから考えればいい」

 まあ、さすがに三人分も養えるほど社長から金が引き出せるとは思っていない。
 それでもあの人、顔は広いようだから仕事の紹介くらいはしてもらえるだろう。
 子供が真っ当な賃金を得られるかは甚だ疑問だが……とりあえず、今は考えなくてもいいかな。

「あ……」

 気づけば、手があかり君の頭の上に伸びていた。
 ヌーにやりすぎて癖になったのかもしれない。
 手を引っ込めようとしたら、あかり君は両目を閉じて受け入れる気満々になっていた。

 ……仕方なくそのまま撫でることにする。まあ、相手は前よりもっと子供の姿になっているので、別に変な絵面ではない……。ないと思いたい。

「んっ……」

 ヌーと違ってサラサラの髪は手のひらをすべるように流れていく。
 これはこれでいいものだ。

「はい、おわり。帰るぞ」
「んふふふっ! ナデナデいただきましたっ。ヌーさんの前ではわたしにやっちゃダメですよ?」

 ぱぁっと満面の笑みを咲かせるあかり君。
 その顔は朝日に照らされてきれいな朱色に染まっている。
 無人の廃駅に2つの影が伸びていた。
 それで、ふと気付く。

「あれ、ヌーは?」
「わたしが来たときには、もういませんでしたけど」
「あー……先に帰ったかな」

 何となく、居づらかったのかもしれない。
 ヌーはあかり君のことが好きだと言っていた。
 でも声が届くことはなくて、半ば諦めていたところを後から来た俺が成功させてしまったわけだから。
 一人になりたいと思ってしまうのも分かる気がする。

「私達も帰りましょう! またお世話になりますね、小森さんっ」
「おう。俺たち君が出ていってからまだ何も食べてないからな」
「ええっ! そんな何ヶ月もの間……」
「いや……だから、こっちでは一日も経っていなくてだな──」

 二人並んでの帰り道。
 来る時は忌々しかった泥の道は、雨上がりのにおいと小鳥のさえずりに祝福されていた

「ただいま」
「ただいま戻りました!」
「おかえり。お風呂入ったほうがいいよ。」

 すっきりした顔のヌーが玄関に出迎えてくれた。
 その髪の毛は濡れていて、首にタオルをかけている。

「皆お風呂入りたがると思ったから。混まないように先に帰った。」
「そうか。ヌー、ありがとな」

 手を伸ばすと大げさに後じさりして避けられてしまった。

「ぬぅ。さわんな。」

 なんてこった。さっきは結構自由に触らせてくれたのに。
 へそを曲げてるのか、ヌー。

「お風呂、小森さんからどうぞ! 雨に濡れて大変だったと思いますしっ」
「ん、ああ、助かる」

 ありがたい申し出だった。
 あかり君の手前だから我慢していたが、身体に震えがきていたのだ。
 真夏でも大雨に晒され続ければすごく寒い、というのがよく分かる体験だった。

 風呂の湯はまだ新鮮で、誰かが入ったような痕跡は見当たらなかった。
 おそらくヌーはシャワーだけを浴びたに違いない。
 俺たちに気をつかっているのか、単にネコ属性だから湯浴みが嫌いなのか……。
 後者だと信じたいが、ヌーはあかり君以上に隠し事をするやつなのだ。

 風呂からあがり、リビングで眠そうにしているヌーの隣に座った。
 ちらっと俺を見たが、そのままパソコンをいじっている。

「また寝ないのか、ヌー」
「ごはん食べてから。このまま寝たら腹ペコで死ぬ。」

 あかり君は今は風呂に入っている。あがってから夕食(……いや、朝食か?) を作るとなればもう少し先の話だ。
 俺は慣れたもんだが、連日の夜ふかしはヌーには辛いだろう。

 そんな眠たげなヌーには少し悪いが、ちょっと確かめたいことがあった。

「どうして先に帰ったんだ?」
「……お風呂先に入るため。さっきも言った。」
「他にも理由があるんだろ?」
「ぬ……ぬぅ。」

 ヌーは巻毛を指でなぞりながらうつむいている。
 何か溜め込んでいるように思う。
 俺やあかり君がそうだったように、ヌーは何かを我慢しているように感じる。
 大方見当はついているが……俺はそれを開放してやりたいと思った。

「あかり君はな、ヌーのこと好きだと思うぞ」
「……ボクのは届かなかった。小森の想いは共鳴して。あかり君と繋がった。それは……つまり……。」
「違うな」
「ぬ……?」

 何が違うんだと顔をあげたヌーを正面から見つめ返してやる。
 金色の瞳はどこか遠くを見ているようだった。
 純粋なものほど、ちょっとしたことで濁ってしまう。それは俺の数少ない人生経験で学んできたことだ。
 そして、濁ってしまってもそれで終わりじゃない。誰かが洗い流してくれるものなのだ。

「ヌーはな、諦めなかったんだよ。希望の糸を握り続けた。そしてそれを俺に託して、最後は全員でその糸を手繰ったんだ。意味がわかるか? 俺だけの想いが通じたんじゃない。ヌーと俺とあかり君の三人がいなければ成し得なかった奇跡なんだよ」

 この場合は希望の糸ってのはスマホのことな、と補足をしておく。蛇足とも言うが、闇属性の俺にとってはこっ恥ずかしい比喩なので仕方なし。

「でもボクは……。」
「うるせえ! そこを動くなよヌー。ちょっと撫でられろ」
「んぬぅ!?」

 無理やり膝の上にのせてがっちりホールドしてやった。
 ヌーは抜け出そうとするが、身体の小さな子供が大人のフルパワーに勝てるわけがないのだ。

「うわははははは」
「んっぬぅ~~。頭がぁ~~~。」

 まだ少し濡れている髪をわちゃわちゃと揉み込む。

「ご褒美だぞヌー! よぉーしよしよしよしよし」
「……んぬぅ。」

 ヌーが抵抗をやめても俺の愛撫はとまらない。

「お前は頑張りすぎなんだよ。もっと素直に生きろ。しんどいことがあったら俺に言え。できることなら何でも助けてやるからな。もっと甘えてもいいんだ」
「……じゃあ。じゃあ。」
「お? あるのか?」

 少し気を許した瞬間に、ホールドを振りほどかれた。
 しまった、逃げられる──と思ったが、こちらに向きを変えただけだった。
 目と目があう。
 金色の瞳はさっきよりもさらに澄んでいて、まるで満月をうつした水面のように揺らめいて──

「もう少し。……優しく撫でてくれ。」
「おう、任せろ」

 ヌーの方からホールドされるとは思わなかった。
 俺の背中に手をまわして――胸へ頭突きをかましてきた。

「ぐはっ……しょうがないやつめ」

 注文通りに優しく撫でてやると、小さく震えだした。

「ぬ……ぅ……ぅぅ。」

 声を我慢しているようだが、泣いているのがバレバレだぞヌー。

「我慢すんなっつったろ。言いたいこと全部言え」
「……んぬわあああぁああぁぁぁんっ」

 うおっ。うるさっ。

「へんたい小森っ。ロリコン小森っ。ケモナーっ。ぬわぁああぁぁあああんッッ」
「……えぇ」

 全部罵倒じゃねーか。
 ケモナーは別にいいけど。

 それから、あかり君が来るまでの間、俺はずっと暴言のサンドバッグにされ続けた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

ストーカーから逃げ切ったのも束の間、転移後はヤンデレ騎士団に殺されかけている現実!

由汰のらん
ファンタジー
ストーカーから逃げていたある日、ハルは異世界に召喚されてしまう。 しかし神官によれば、どうやらハルは間違って召喚された模様。さらに王子に盾ついてしまったことがきっかけで、ハルは国外追放されてしまう。 さらに連行されている道中、魔族に襲われ、ハルの荷馬車は置き去りに。 そのさなか、黒い閃光を放つ騎士が、ハルに取引を持ちかけてきた。 「貴様の血を差し出せ。さすれば助けてやろう。」 やたら態度のでかい騎士は、なんとダンピールだった! しかしハルの血が特殊だと知った騎士はハルを連れ帰って? いっそ美味しい血と癒しを与えるダンピール騎士団のセラピストを目指します!

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

スーパーのビニール袋で竜を保護した

チー牛Y
ファンタジー
竜は、災害指定生物。 見つけ次第、討伐――のはずだった。 だが俺の前に現れたのは、 震える子竜と、役立たず扱いされたスキル―― 「スーパーのビニール袋」。 剣でも炎でもない。 シャカシャカ鳴る、ただの袋。 なのにその袋は、なぜか竜を落ち着かせる。 討伐か、保護か。 世界の常識と、ひとりの男の常識が衝突する。 これは―― ビニール袋から始まる、異世界保護ファンタジー。

異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜

キノア9g
ファンタジー
「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」 20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。 一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。 毎日19時更新予定。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

【完結】憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

処理中です...