27 / 87
台風一夜
24話 食感の怪談
しおりを挟む三人が面白おかしく過ごしてる間も、嵐は熾烈を極めていた。台風は落雷を伴い、1分間のうちに何十回と街を照らしあげる。
小森の家は閃光こそ届かないものの、雷の音と地鳴りのような振動はしっかり伝わっていた。
「こりゃ停電も今日中に復旧しないかもなぁ……」
「髪がしける……。」
「ヌーさんふわふわでかわいいです~っ!」
「んぬぁ~~。」
湿気をたっぷりすいこんだヌーの頭髪は、小休憩のたびにいじられていた。
「……もう始めるから。」
「お、おうっ」
小森は視線をずらしながら話を聞くことにした。
ローソク越しに見えてしまう「もこもこ頭」の誘惑から意識をそらすためである。
どんなに気になっても怪談中に水を差すような真似は絶対にしたくなかった。
「これはボクの実体験。」
そしてヌーは二人に倣って語り始める。
真偽はともかく、こう切り出せば始まるぞという合図なのはよく分かっていた。
☆
まだボクがぬこやってた頃の話。
その日は雨上がりで空気が透き通ってた。
ボクはいつものように木漏れ日通りで寝てた。
困ったことに小森がくれるツナ缶は本当に気まぐれでしか出てこない。
その日もたくさん粘った。でもすぐに腹ペコに耐えられなくなってきた。だからボクはそこから動くことにしたんだ。
そのへんの露をなめながら適当に歩く。
そうしてる内にボクは静かになったセミを見つけた。
セミは良いよ。
羽はまずいけど胸のところにおいしいお肉がつまってる。
ミミズよりもぎゅっとした食感なんだ。
ボクは嬉しくなってセミをひっくり返した。
セミはごろんとお腹を上に向けた。
お腹はなぜか穴が空いててセミは死んでるみたいだった。
初めて見る死に方だったから不思議だなと思って穴に触ろうとしたんだ。
そしたら……
穴の中から小さなウジムシがぞわわわわわわ──
☆
「うおおい! グロやめれ!」
「えー。」
「わ、わたしもちょっとその手のは……」
ヌーは三角形の口をより鋭角にした。
「ぬぅ……。不利だ。」
ネコの身で味わう恐怖体験などたかが知れている。やれカラスの群れに仕返しされただとか、犬の群れに仕返しされただとか、蜂の群れに仕返しされただとか。
人間にとって『背筋の凍る』体験とは程遠いものだった。
「まぁ~でも、ネコ視点の話は中々聞けないからな、ホラーじゃなくてもいいから聞いてみたいよ」
「そうですね! わたしも気になりますっ」
「……しょうがないな。」
二人から助け舟が出されたヌーは少し機嫌を取り戻す。
「じゃあ趣向をかえまして。」
「おう、今度は最後まで聞いてやるからな」
「グルメの話。」
小森はしまった、という顔をした。
☆
ボクがまだ木漏れ日通りに住む前のこと。
ドロ水をすすったりぐちゃぐちゃの何かを舐めたりして日々を過ごしてた頃だ。毎日がぺこぺこだった。
そんなぺこぺこの日々の中でもごちそうにありつける時があったんだ。
この話をぺこぺこ体験無しで聞けることを幸せに思ってくれ。
ある日。
ボクは林の中を冒険してた。廃駅のあたりにある静かな林ね。
林はいいよ。バッタがたくさん居る。バッタを食べるカマキリも居る。ということは鳥も目を光らせてる。
……まあ鳥はとれたことなかったんだけど。
とにかく。ここではボクが頂点捕食者だ。虫たちと違って後ろを気にせずに冒険ができた。
冒険ってようは食べ歩きね。ぬこは食べるのと狩るのが生きがいだから。
まずいつも始めは小さな生き物から。
小さいやつ代表のアリは冒険はじめには最適だ。
探すのに苦労しない。たどればすぐ巣も見つかる。
難易度はいちばんやさしい。
味は当たりハズレがあって当たりは甘い。ハズレはすっぱい。噛まなくてもぺろってやればつぶれて風味がでる。一匹ずつだと全然食べ応えがないのが難点かな。
たくさん食べたい時は一匹見かけたら辛抱強く待つこと。
それで巣穴にもどったら上からばんばん叩く。叩くとあわてて出てくるやつをぺろっとやる。
……効率はいいけど苦くなる。ほとんど土を食べてるようなもの。
というわけでアリのグルメランクは星ひとつ。
次にバッタ。けっこう主食。
葉っぱにまぎれてるのとアリほど数が多くないので難易度は中くらい。でも食べごたえがあるのでコスパは良い。
食感はざりざり。渋みが強くてクセになるあじわい。みどりの味。
後ろ足がかたくて飲み込もうとすると喉に引っかかるときがある。
コスパがいいので星ふたつ。
カマキリはバッタとりの小さなライバル。
体格差をものともせずに威嚇してくるにくいやつだよ。
味はあんまりおいしくない。バッタでいい。
水辺とか変な動きしてるやつは要注意。中に黒くて硬いニョロニョロがいる。ニョロニョロを一緒に飲み込むとゲロゲロになる。カマも喉に引っかかってさいあく。星はあげられません。
最後にとっておきのごちそう。
ねずみっ。
すばしっこくてよく探さないといない。この中だと難易度は大。物陰で木の実とかかじってるのでカリカリ音をよく聞くこと。
味はとってもジューシー。噛めば噛むほど命のパワーがにじみ出る。小骨が多いので噛みちぎって小さくする。お腹の中の部分は最高に苦いので基本は食べない。
たまに逃げずにすり寄ってくる個体がいる。これを食べるとお腹痛くなるわ。熱出るわ。吐き気するわ。……良いことない。ちゃんと逃げるか判断してからとった方がいい。
危険もあるけど栄養価はばつぐん。狩の楽しさもあわさり星みっつ。
以上。
ぬこグルメ林編でした。
えっと……みんなも寄生虫には気をつけて彼らを食べましょう。
☆
「食えるかーッ!」
「ぬぅー。」
落とし所に困っていたヌーは小森の最速ツッコミに内心感謝していた。
「いや~……ある意味ホラーでしたね」
「ヌーはこれから美味しいものたくさん食べような」
「ぬこ目線では十分ごちそうなんだけど。ぬぅぅ……。」
そう言いつつ、まるっこどうぶつを口に運び続けるヌーであった。
0
あなたにおすすめの小説
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
ストーカーから逃げ切ったのも束の間、転移後はヤンデレ騎士団に殺されかけている現実!
由汰のらん
ファンタジー
ストーカーから逃げていたある日、ハルは異世界に召喚されてしまう。
しかし神官によれば、どうやらハルは間違って召喚された模様。さらに王子に盾ついてしまったことがきっかけで、ハルは国外追放されてしまう。
さらに連行されている道中、魔族に襲われ、ハルの荷馬車は置き去りに。
そのさなか、黒い閃光を放つ騎士が、ハルに取引を持ちかけてきた。
「貴様の血を差し出せ。さすれば助けてやろう。」
やたら態度のでかい騎士は、なんとダンピールだった!
しかしハルの血が特殊だと知った騎士はハルを連れ帰って?
いっそ美味しい血と癒しを与えるダンピール騎士団のセラピストを目指します!
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
スーパーのビニール袋で竜を保護した
チー牛Y
ファンタジー
竜は、災害指定生物。
見つけ次第、討伐――のはずだった。
だが俺の前に現れたのは、
震える子竜と、役立たず扱いされたスキル――
「スーパーのビニール袋」。
剣でも炎でもない。
シャカシャカ鳴る、ただの袋。
なのにその袋は、なぜか竜を落ち着かせる。
討伐か、保護か。
世界の常識と、ひとりの男の常識が衝突する。
これは――
ビニール袋から始まる、異世界保護ファンタジー。
異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜
キノア9g
ファンタジー
「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」
20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。
一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。
毎日19時更新予定。
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
【完結】憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる