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扉の外
60話 酒場の決闘
しおりを挟む「さて本題だ、新人。その銀色のカードはオマエらにゃ勿体無いねェ。今すぐ手放せ」
「……歓迎会をしてくれるんじゃなかったのか?」
「そりゃオマエの返答次第だな。にぎやかな歓迎会をやりたいってんなら、お望み通りにしてやるが?」
凶悪な笑みを浮かべる男たちに囲まれながら席に着き、小森は不安そうな表情をしてみせた。
何かひどいことをされるのではないかという不安――では無く、単なる演技である。涼しい顔でやり過ごすのでは無く、率先して相手の油断を誘うことを選んでいた。
それを察したあかりも、へらりとした口元を引き締めている。
「どっ……どういう意味だっ」
ややわざとらしい演技だが、トカゲ男は口角を更に吊り上げて気を良くしている。
「ハッ、ようやく立場が分かってきたようだな。低INTにもわかるようにしっかりと伝える必要があったわけだ。要するにだ……痛い目にあいたくなかったらそのカードをオレたちに寄越せっつってんだよ!」
怯える様子の小森を見て、勢いづいたトカゲ男は机を強く叩き、凄みを効かせた。
「そ、そんなに価値があるカードなのか……?」
「本当に何も知らねェんだなァ……。シルバーってのはただ銀色なだけじゃねェ。ギルドへの特別な功労が認められた証だ。それだけで価値がある。信用としてのな。普通は引退した親から子とかに引き継がれるモンだが……いい歳してノービスのオマエにゃ宝の持ち腐れなンだよ」
「信用……か。つまり、あんたは信用が欲しかったんだな」
小森はカードをゆっくりと机の上に置いた。
トカゲ男が手を伸ばしてきたが、それを避けるように横にずらす。
「オイ……ド派手な歓迎会をやりたいようだなァ?」
「いや待ってくれ。これじゃあんまりだろ。チャンスをくれないか」
「ハア? 立場分かってんのかオマエ……」
「分かってる。だが、力づくだとあんたの名誉にも関わるだろ? ノービスだって泣きわめくくらいはできる。俺が恥も外聞も捨てて騒ぎ立てたとして、最終的にあんたが得られる信用はいかほどになる?」
小森としては、こちらから力にものを言わせて仕掛けるような真似はしたくなかった。この地で動きにくくなれば、また野宿コースになってしまうのだ。
それはトカゲ男側も同じで、小森が騒ぎを大きくすれば、この街の治安がどの程度守られているのかはともかくとして、目的から遠ざかることは間違いない。
「チッ……交渉とはいい度胸だな。だが、それで俺様が納得のいく話が出来なきゃ意味がねェンだぞ、ガキ」
「交渉なんてとんでもない。俺の提案は、そうだな……お互いのプライドを守る儀式だと思ってくれればいい。つまり、俺とあんたで勝負をして、勝ったほうに賭けた品を渡す……ってのは、どうだ?」
「フン、勝負の内容次第だな。コイントスで、なんて言うつもりじゃねェだろうな」
コイントスであれば互いの力量の差は埋まり、勝率は50%に収束する。弱者が勝ちの目を一気に広げる有効な手段ではあるが、すでに勝つつもりで話を進めている小森にとっては一番選びたくない選択肢だった。
「いや、ここまで提案させてもらったんだ。勝負の内容はあんたが決めてくれ」
「あくまで対等でいようとするわけか。弱いくせに厄介なプライドだぜ全く」
大義名分を得た上での搾取する側とされる側。不思議なことに、ここまでwin-winの体で話が進んでいる。
お互いが見ている勝利のビジョンがてんでバラバラであるせいだった。
「勝負内容は、そうだなァ……表に出て決闘といきたところだが――」
決定的なのは、小森がそれを全て分かっている上で話を進めていることである。
あくまで受動的に、トカゲ男にイニシアチブを握らせて、搾取される弱者のふりをしているのだ。
「アームレスリングだ。平和的だろ? 街中での決闘は御法度なんでなァ。ま、俺様のSTRはそこまで高くないからよォ。ケガはしなくて済むぜ?」
「腕相撲か。分かった、それで勝負をしよう」
二人は席を立ち、今度は中央の一番目立つテーブルへと移動する。
すでに何組かの客が座っていたが、トカゲ男は威勢のいい大声で怒鳴り散らした。
「これからここで決闘を始める! 席を空けやがれ! おっと、文句は言わせねェぜ! 決闘といってもお行儀の良いアームレスリングだからな。俺様ザルドと闘う勇気あるノービスは……えーと――」
「小森だ。よろしく」
「――そう! この陰気臭いツラしたおじさんノービスの小森だ! 笑うとこだぞ? クカカカッ」
小森は顔を青白くして震えていた。側から見ればビビりまくってるように見えるかもしれないが、その実ブチギレる一歩寸前である。
「(考えがあるんだろ。落ち着け、小森。)」
「(ファイトです小森さん!)」
肩にそっと置かれたヌーとあかりの手が、小森の怒りを水際で抑え込んでいた。
「よく聞け! これは対等な勝負だ。俺様が勝った暁には、小森はシルバーカードを手放す。 そして、万に一つもないだろうが、俺様が負けることがあったなら、えーっと――」
「飯をおごってくれ」
「俺様はこいつにメシをおごる! ……ってオイ! 対等じゃなくねェ!?」
「あんたが勝てばいいんだ、気にすんな」
「んン……まァ、そうだな! 俺様が負ける訳がねェ! 聞いたか有象無象ども。オマエたちが対等な決闘の証人になるんだ。あとから小森が泣き喚いたって俺様は悪くないぜ!」
トカゲ男――もとい、ザルドの大声に呼応するように、彼の仲間たちが声をあげ、更にそれにつられた一般客までもが集まり始める。
その中の、一際大きな体をしたスキンヘッドの男が目を爛々と輝かせていた。
「ザルド、話は聞かせてもらったぞ。公平な審判は我輩に任せてもらおう」
「げェ……居たのかよ。ハゲ」
スキンヘッドは目を線のように細めて、笑っている。
「不穏な気配に我輩有り。調停者マルボズここに見参である」
「お呼びじゃねェよ。 正当な試合だっつってんだろがハゲ」
「なに、邪魔だてするつもりは毛頭ござらん! 我輩こう見えても聖職者系故、審判は得意中の得意。不正など無いようにしっかりと見守らせていただきたい」
「……チッ、勝手にしやがれ。勝負は見えてんだろうが」
「小森殿も、よろしいかな?」
「あ、ああ。いつでも大丈夫だ。しかし濃いなあんた……」
マルボズはニコニコと目を細めて笑っているが、薄く開いた瞳が黒光りしていて気味が悪かった。
よく見るとその笑顔も何かが面白くて笑っているというよりは、ムキムキマッチョのボディビルダーがやるような、力んだ時にニカッと表情筋が強張るそれに近い。そもそも実際にこの男はムキムキマッチョなのだ。ぴっちりとした法衣がはち切れんばかりに脈打っている。
「うむ。善きかな。では両者、腕をここへ」
小森とザルドが向き合い、テーブルに腕を乗せて、手を絡ませ合う。
その横で、腰を低く落としたマルボズの禿頭が酒場の明かりを反射する。
「合図を言うまで力を入れなさらぬよう」
「いちいちうるせェぞハゲ。 触んな!」
マルボズの巨大で肉厚な手が二人の手を撫で上げる。不正のチェックらしいが、小森はこれが気持ち悪くて仕方がなかった。
「……よし、よし、よぉーし。不正なし。ではカウントを取るぞ。3・2・1……」
ぴりぴりとした緊張感が酒場全体に伝わる。
先ほどまで囃し立てていた者も静観し、勝負の行方を見守っている。
どう考えてもザルドが勝つ流れなのに、どういうわけか何かが起こりそう。
小森の正体を知らない者さえも、そう考えてしまうほどに、異様な緊張感が場を支配していた。
それもそのはず。
小森はすでに力を出し惜しみする気はなく、ザルドよりも、マルボズよりも、この場の誰よりも恐ろしい悪鬼のような笑みを隠すことなく、目の前の獲物を見据えていたのだから。
「――ゼロッ」
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