ひきこもり生活を満喫していたら異世界JKと異世界ネコが押しかけてきた件について

汗茄子w8

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扉の外

63話 宴と夜風

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 マルボズが両者から手を離し、試合の開始を告げた瞬間に異変は起こった。

「ア……? アァァ……?」

 試合が始まったというのに、アーギュは左右に頭を振り回し、何かを探しはじめたのだ。

「オイ、アーギュ! どうしたってんだ? もう始まってるんだぞ。さっさとそんなチビ助、捻り潰しちまえよォ!」

 ザルドの呼びかけにハッとしたアーギュは、改めて目の前にいるヌーを見た。

「悪いな、牛頭。さっさと終わらせてやるよ。」

 ヌーは口角を吊り上げ、二本の小さな牙を剥きながら言った。穏やかな笑顔とは程遠い、悪鬼のような笑みだった。

「……ア――アァァアアァアアァァァガガガ」

 アーギュはあっさりとヌーから手を離し、両手で頭を掻き毟り、テーブルにがんがんと頭を打ち付け、泡を吹いてその場から崩れ落ちた。

 時が止まったかのように静まり返る空気の中、ヌーはマルボズの頭を叩いた。

「ほら、終わったぞ。審判。」
「……う、うむ。アーギュ殿の戦意喪失により、この試合はヌー殿の勝利だ」

 酒場の中は歓声とも違う、ざわめきが沸いた。

「な……てめェ! 魔法を使いやがったな? ノービスなのにどうやって……」

 大型の担架で運ばれるアーギュを尻目に、ザルドはヌーに食ってかかった。

「ザルドよ。それについては常に探っていたが、マナの動きは無かった。魔法行使はおろか、魔眼の類でも無い。しかし我輩にも判断出来ぬ何かが起きたのは確かだ。もう諦めろ。彼らはお主の手に余る」

 マルボズは反論する気が起きなくなるような、芯の通った声で告げた。
 怒ったり驚いたりしているわけでもなく、やはり目を線のように細めた穏やかな笑顔をつくっていた。

「チッ……クソが……はァ~~。わァったよ。俺様の負け。もうヤメだ」

 ザルドは気が抜けたような声をあげて、近くの椅子にどかっと座り、その辺にあった木のジョッキの中身をあおった。

「見てたか、小森。勝ったぜ。」
「あ、ああ。よくやったぞヌー。しかし、どうやったんだ……?」

 振り返ったヌーの顔は愛嬌たっぷりの笑顔だった。
 しかし、小森が先ほど感じた違和感が消えることはなかった。

「小森、あとでな。二人っきりになった時に教えるよ。まあ奥の手ってやつだ。」
「お、おう……」

 波紋のように広がる違和感は、ヌーの一挙手一投足にまとわりついているように見えて、小森を動揺させた。

 それから、壊れたテーブルが撤去され、食事が次々に運ばれるまで、小森はヌーをじっと観察していたが、ついに違和感の正体をつかむことは叶わなかった。


 合計十二人前のステーキは、小森とあかりの胃袋に次々と収まっていった。
 ゆっくりと時間をかけて食べながら、周りの者との会話を楽しんでいた。

「はァ~~。今日は珍しく稼げたと思ったら、結局パーになっちまった」
「おう、ごっそさんな。ザルド」

 ザルドは顔を真っ赤にしてジョッキを傾けた。

「ノービスだぞノービス! こんな理不尽があってたまるかよ。ッカ~~、やってらんねェな。オイハゲ、俺様もう冒険者辞めるわ」
「うむうむ。先週も同じ台詞を聞いたぞザルドよ。復帰は来週か? 明日か?」

 マルボズは愚痴をこぼすザルドの背をばんばんと叩く。
 大きな口で笑う彼もまた酒をあおり続け、自慢のスキンヘッドを茹で蛸のように赤くしている。

 すでに夜も更けて、客もまばらになっていた。

「ふぅ、食った食った。さて、良い子はもう寝る時間だな」
「オイィ? もっと付き合えよ小森ィ……」
「いや十分付き合っただろ……。いつまで絡むつもりだよあんた」
「グワッハハハ! 仲良しは良い事だ。しかしザルドよ、彼らは明日から冒険者稼業に勤めるのだ。あまりお主の自堕落に付き合わせる訳にもいくまいよ」

 マルボズの助け舟により、小森たちはようやく冒険者ギルドから外に出る事が許された。

 あれほど道を行き交っていた人々はいなくなり、暗闇と僅かな街灯の明かりだけの静まり返った景色が続いていた。

「このあたりは通称、冒険者地区と呼ばれていてな。宿屋に風呂屋に武器屋に薬屋に、と選り取り見取りなのだ。まあ、今の時間は宿屋くらいしか入れんがな」

 マルボズは小森たちを丁寧に宿屋まで案内してくれた。

「さあ、この宿屋は安心できるぞ。ザルドのような奴も来ない、良い宿屋だ」
「ありがとう、マルボズ。ところで、俺たち実は無一文で……」
「知っているぞ。料金は気にしなくても良い。面白い勝負を見れたからな、ファイトマネーだと思って受け取ってくれ。では我輩はこれにて。をゆっくり楽しんでいってくれ、旅人よ」

 マルボズはそう言って、宿屋から出て行った。

「不思議なお坊さんですねぇ」
「そうだなぁ。ザルドは分かりやすくて面白い奴だったが、あの丸坊主はなんだか掴み所のないというか……ん? 世界がどうとか言ってたな!?」

 小森はあわてて表に出たが、すでにマルボズの姿はなかった。

「ううむ……怪しい坊主め」

 それから、眠そうにしている宿屋の主人に案内され、三人はそれぞれにあてがわれた部屋に入っていった。

 部屋の中には大きな水瓶と綺麗な布が用意されていた。
 小森は暖かい風呂に入りたかったが、この時間は閉まっているとの事なので、諦めて冷たい水で身体からだを清めることにした。

 布を汚しながら、ふと、これからどうするかを考える。

 この世界に訪れた目的は、アーティファクト探しだ。
『穴の世界』で危機に瀕している友人たちを救うための、何か強力なアーティファクトを手に入れる事。
『最果て』で出会ったペレゾは、この世界にそのアーティファクトがあると、確信しているかのように言っていた。

 しかし、そのアーティファクトとは一体どのような形をしていて、どのような奇跡を起こすものなのだろうか。

 何もわからない以上、やはり冒険者となってそれらしい情報を集めていくしかないだろう。

「雲を掴むような話とはこの事だな……」

 身体を拭き終わると、小森はベッドの上に寝転んだ。
 満腹感と、清涼感につつまれ、少しずつ微睡んでいく。

 こんな非日常の連続に順応してる自分が、なんとなく誇らしい。
 ヌーやあかりに出会う前とは、比べ物にならないくらい成長したな、と心穏やかに意識を沈ませていく。

 すると、コンコン、と外側から気になる音が聞こえて、沈みかけていた意識は再び引きずり出された。

「なんだ……? こんな時間に」

 すっかり覚醒してベッドから出ると、もう一度コンコンと聞こえた。
 部屋の扉を叩いている音だった。
 最初よりも控えめで、よく耳を済まさないと聞き逃してしまうようなノック音だ。

 小森が扉を開けると、背を丸めて帰ろうとしているヌーの姿があった。

「まだ寝てなかったのか。ヌー」
「あ、小森。えっと――」
「うん? 何か用があってきたんだろ? とにかく中に入れよ」

 小森はヌーを自室に招き入れた。
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