ひきこもり生活を満喫していたら異世界JKと異世界ネコが押しかけてきた件について

汗茄子w8

文字の大きさ
76 / 87
扉の外

73話 零時出航

しおりを挟む
 
 三人が城を出るころには、すっかり日が落ちていた。
 乱立する街灯が、都市全体を橙色に染め上げている。その結果、夜というよりは、夕暮れがまだ続いてるような明るさになっていた。道行く人々の勢いも衰える様子がない。

 そして、港に屹立する大灯台は、都市中のどんな光源よりも赤く夜空を燃やしていた。
 小森たちは一隻の大きな船の前で、作戦指揮のホセや騎士たちと最終的な打ち合わせをしていた。

「これが小森君たちの乗る船だ。船員は合計60名。物資の積み込みも、もうすぐ終わるのではないかな」
「想像以上にデカイな……」

 ホセが背にしている船は、全長80メートル・全幅40メートルほどの大きさで、三本の頑丈なマストがそびえていた。
 荷物を抱えた船員がこちらと船を慌ただしく往復して、船上の高台に立っている片脚義足の男が怒鳴るようにして、船員たちを動かしている。

「船長! 船長! 決死隊のリーダーが到着した。降りて挨拶を!」
「おう! 今行く!」

 船長と呼ばれた男が、ロープを駆使して飛び跳ねるようにこちらへ近付いてくる。
 木製の義足を橋板にカンカンと打ち付けて、曲芸師のような身のこなしで小森たちの前へと躍り出た。

「こんばんは。あんたが小森さんか……」
「よろしくな、船長」
「ジョンでいい。フム……」

 船長のジョンは値踏みをするような視線を隠そうともせずに、小森を見ていた。

「……何か、俺に問題があるのか? ジョン」
「いや……今はちっと話せねぇな。それよりよ、もう荷物は積み終わったみてぇだ。風が変わらねぇ内に出航たい。乗ってくれ」
「なんか腑に落ちないが……了解した」

 小森たちは船乗り込み、甲板へと移動した。
 樽や木箱、ロープや巻上げ機キャプスタンなどで煩雑としているが、それでもかなりの広さである。

 ジョンは大きな目をぎょろりと動かして、周囲を確認した。
 すでに大勢の船員が甲板に集まり、ジョンの方を向いて待っていた。

「てめぇら! 0時に出発だ! いいな? 0時きっかりだぞ! それまで勝手にしろ」

 ジョンが一括すると、船員たちは散り散りになった。
 それでも、船から降りる者はいない。

「なあ、0時ってあとどれくらいだ?」
「あと10分」
「あっという間だな。それで外に出るやつがいないわけか」
「おれが一度0時出発と決めたら、もう二度と変えることはねぇ。連中それを知ってるからな。さて、おれは他にやる事もねぇから、あんたらの部屋を案内しよう」

 ジョンが船室へ降りていこうとするが、小森は甲板の上で立ち止まっていた。

「どうした? 甲板が居心地いいのは分かるが、ずっと青空のままとは限らねぇぞ」
「いや、ちょっとやり残した事がある。一旦船を降りるよ」
「……おれの話聞いてたか? 10分後に出ると言った手前、曲げる気は無ぇ。あんたが遅れれば、作戦は失敗だ。この船は進路を変えて、どっか別の街へ豪遊しにいく。まぁ、その方がおれは気が楽――」
「絶対戻る! ペレゾ、あかり。後は頼んだ! とうっ」

 小森は一足飛びで船から港へと飛び移り、あっという間に全員の視界から姿を消した。

「大丈夫なのか? あの男……」
「あはは……小森さんは約束は守ってくれる人なので、きっと大丈夫だと思います」

 その場にいた者たちは呆気にとられたが、小森がさっさと行ってしまった以上、待つことしか出来なかった。

 三人にあてがわれた客室は広く清潔で、以前の宿と比べても高級感が優っていた。
 シャワールーム、トイレ、洗面所、それから、大きなベッド。これらを完備した個室が三つもあるのだから、贅沢としか言いようがない。

「偉い人になった気分になりますね~」
「いい船だろ。元は貴族サマを乗せるための船だったからな。他の部屋は獣の檻ん中みてぇになってるから、興味があるなら後で見てみるといい――さて」

 ジョンが懐中時計を取り出して、現在時刻を確認する。

「おれは船長室に行く。仕事があるからな。あんたらは降りるかどうか、さっさと決めちまわねぇと、手遅れになるぜ。おれ達とわけの分からん旅をしたくなけりゃあな」

 ジョンが行ったあと、ペレゾとあかりは急いで甲板に出た。
 しかし、小森の姿は見当たらない。

「遅刻じゃねーか。どうする? あかり」
「……ぎりぎりまで待ちましょう」
「よしきた」

 伝声管から、ジョンの怒鳴り声が響いてくる。

『時間になった! 橋を外せ!』

 船にかけられた橋が外されて、港との境界線がはっきりと示される。

『錨を上げろ!』

 船員たちが輪をつくり、巻上げ機の周りをまわっていく。
 ごく低音の、力強い伸び伸びとした船乗り歌をうたいながら。

「あのぐるぐると船乗り歌は、穴の世界を思い出しますねぇ」
「いや、あかり。 そんなに落ち着いてていいのか? もう船が動くぞ」
「もうちょっと、待ちましょう」

 そして、さらに伝声管が震える。

『出航!』
「出航!」
『出航だ野郎ども!』
「出航しますお母さん!」

 錨を上げきった船員たちが、港に向かって敬礼する。
 それと同時に、船は港から勢いよく離れ始めた。

「やばいぞ。あかり」
「ぐぬぬぬぬ。も、もうちょっとっ」

 船の動きは速く、港の桟橋がぐんぐんと遠ざかっていく。

『帆を上げろ!』
「帆を上げろ! 行先は?」
『主役がまだだ……』
「主役がいない船の行先は!」
『やむなしか。それなら船の行先は――』

 帆を広げた船は風の力を借りて、さらに加速する。
 あかりはペレゾをおぶり、船尾に足をかけていた。

「仕方ありません。飛び降ります。ペレゾさん、舌を噛まないでくださいね」
「まてっ! あかりっ、上っ! 上っ!」
「……ふえ?」

 そして、

「うおおおおおおおお! どいてくれええええ!!」

 上空から現れた小森が甲板へと不時着した。船員たちが尻餅をついて、小森を見守る。

「小森さん!」
「小森っ」

 小森は何か、大きな荷物を大事そうに抱えながら、背中からぶつかったようだった。

「大丈夫ですか!?」
「あいたた……体が頑丈で助かった。それと、間に合ってよかった」
「これを間に合ったと呼んでいいのでしょうか……」
「やべ、ちょっと連絡してくる」

 ペレゾは急いで伝声管に向かった。

「主役がきたぞ!」
『なに、本当か!』
「本当だ! 予定通りだ!」
『よし、それなら予定通り! 行先は魔王の城だ! 操舵手!』
『アイアイ! 順風満帆、全て予定通り! 行先は魔王の城!』

 船はぐんぐんと速度を増して、赤色の港を後にした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

ストーカーから逃げ切ったのも束の間、転移後はヤンデレ騎士団に殺されかけている現実!

由汰のらん
ファンタジー
ストーカーから逃げていたある日、ハルは異世界に召喚されてしまう。 しかし神官によれば、どうやらハルは間違って召喚された模様。さらに王子に盾ついてしまったことがきっかけで、ハルは国外追放されてしまう。 さらに連行されている道中、魔族に襲われ、ハルの荷馬車は置き去りに。 そのさなか、黒い閃光を放つ騎士が、ハルに取引を持ちかけてきた。 「貴様の血を差し出せ。さすれば助けてやろう。」 やたら態度のでかい騎士は、なんとダンピールだった! しかしハルの血が特殊だと知った騎士はハルを連れ帰って? いっそ美味しい血と癒しを与えるダンピール騎士団のセラピストを目指します!

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

スーパーのビニール袋で竜を保護した

チー牛Y
ファンタジー
竜は、災害指定生物。 見つけ次第、討伐――のはずだった。 だが俺の前に現れたのは、 震える子竜と、役立たず扱いされたスキル―― 「スーパーのビニール袋」。 剣でも炎でもない。 シャカシャカ鳴る、ただの袋。 なのにその袋は、なぜか竜を落ち着かせる。 討伐か、保護か。 世界の常識と、ひとりの男の常識が衝突する。 これは―― ビニール袋から始まる、異世界保護ファンタジー。

異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜

キノア9g
ファンタジー
「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」 20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。 一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。 毎日19時更新予定。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

【完結】憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

処理中です...