87 / 87
扉の外
83話 魔王ビーム
しおりを挟む「ひいいいっ! 魔王が現れましたよ! どうしましょう小森さんっ」
「やるしか無いだろ。でも狐か……なんてやりづらい姿なんだ」
突然の魔王の登場に、座り込んでいた三人が一斉に立ち上がる。
「それにしても、勇者が出ぬよう頑張って調整していたというのに。飛竜孵すし、四天王殺すし、やりたい放題やってくれたの。おぬしら」
魔王はあからさまに不機嫌な態度を示した。
九つの尻尾が逆立ち、黒炎の玉も勢いよく旋回を始める。
「くっ……はやく最終形態になってくれ! せめて幼女じゃなくて男に!」
「むぅ。妾は戦わんぞ?」
「はい?」
「絶対勝てないもん。チーターじゃろ。おぬしら」
魔王は脱力したように、その場に座り込んだ。
何がなんだか分からないまま、小森たちも床に座る。
「俺たち、魔王討伐を依頼されたんだが。あんたが戦ってくれないと俺たちの立場がだな……」
「じゃあ妾の負けでいいじゃろ。まだ死にとうない。魔王はデスペナきっついんじゃ」
「いや、しかし……」
「もー! 何が欲しいんじゃ! おぬしらの望みを言ってみろ。やれる事はやってやるから」
魔王は駄々をこねるように、尻尾で石畳を連打した。
毒気を抜かれた小森たちは、呆然とその姿を見る事しかできない。
「何か目的があって、この世界にやってきたんじゃろ? 言うてみるがよい」
三人は大きく目を見開いた。どうやら、魔王はこちらの正体をある程度見抜いているようだった。
「――そうだ。俺たちは死にゆく世界から、こちらに渡ってきた。ただ寿命を待つだけの世界を、どうにか救いたくってな。何か方法を知らないか?」
「魔王に世界の救い方を聞くのか。 あっはっは! これは愉快じゃ」
「真面目な話だぞ」
「む……むむ。すまんかった。しかし、そういうすけーるの話は妾の手に余るな。世界竜の仕事じゃ」
「世界竜?」
「うむ。ちょっと見ておれ」
魔王の周りを飛んでいた黒炎の玉が頭上高く浮かび上がる。
「魔玉ふらーっしゅ!!」
玉は城の外側に向けて、光線を発射した。
光は宵闇を突き進んで、巨大な樹を照らし出す。その周囲だけが真昼のような明るさになった。
「あそこにあるのが世界樹で、そこに住んでいるのが世界竜じゃ」
「おー。この距離なら、ゴルゴンゾーラでひとっ飛びだな。よし、行ってみるか」
光線が無くなると、辺りは再び夜の暗さに溶け込んでいった。
「世界樹の位置は覚えたかの? ずっと照らしていると、流石に怒られるのでな。世界竜に」
「魔王を怒るって……そんなにすごいやつなのか? 上司みたいな感じか?」
「妾から言わせれば小物じゃが……一応、この世界の管理人じゃからの。力では到底及ばん。おぬしらがあやつをやっつけてくれれば、妾の心はスッと晴れるばかりか、うまくいけば管理権を引き継げるやも……」
魔王はニヤニヤと、よこしまな笑みを浮かべた。
「俺たちを利用しようとしているのか。欲望を隠さないやつめ」
「魔王じゃからの。大物の貫禄というやつじゃ――あ痛っ、何をする!」
小森は魔王を軽く小突いた。
「はい。これで俺の勝ちな。敗者のお前は魔軍を王国から引き上げておく事。『小森にやられたー!』と宣伝しておくのも忘れずにな」
「ちっ……うやむや作戦が失敗じゃ。抜け目のないやつめ。言う通りにしておくから、さっさと行ったらどうじゃ!」
魔王はむすっと頬を膨らませて、小森たちを追い払うように手を振った。
「ふはははっ! これが大物の貫禄だぞ、魔王。では俺たちはもう行くとする。じゃあな。精進しろよ」
三人は再びゴルゴンゾーラに乗り(小森はぶら下がって)、魔王城のテラスから飛び上がった。
「おぬしらなんて、世界竜にやられてしまうがよいわ! あやつはルールそのもの。果たして小森に勝てるかなぁ!?」
魔王が最後の一言を浴びせんとばかりに大声を張り上げる。
小森は涼しい顔で眼下の魔王を見下ろして、次のように言った。
「ああ、そうだ。のじゃロリ魔王。城の裏手に壊れかけの船があるから、修理を手伝っといてくれな!」
「きぃぃぃー! 誰がのじゃロリなのじゃー! 調子にのるなよー!」
握りこぶしを振り上げる魔王が豆粒ほどの大きさになり、大声の応酬も届かないほど飛び上がったところで、小森たちは世界樹を目指した。
ゴルゴンゾーラは翼を広げ、重力を利用して空を滑るように進んでいく。
「なんだか可愛らしい魔王でしたねぇ」
「大物とは程遠いけどな」
黒々とした樹海は眠っているように静かだったが、ゴルゴンゾーラが上空を通り過ぎると、ざわざわと音を残した。
「うぅ……さむ。まだ着かないのか? 小森」
「近いと思ったんだけどな。こうして飛ぶと中々距離があったみたいだ」
世界樹は闇夜に覆われてハッキリと見えないが、その巨大なシルエットは見間違えるはずもなかった。
小森たちはそこへ目掛けて、何の障害物もなく、加速を続けながら一直線に飛んでいる。
間違いなく世界樹へと近づいているのだ。
その証拠に、その世界樹のシルエットは加速度的に大きくなっているのだから。
「これは……どこに着地すればいいのでしょう?」
「というか、デカすぎんだろ! 樹の中に樹がたくさん入ってるぞ……」
いつの間にか、小森たちの周囲は世界樹から伸びた枝と葉に覆われていた。
葉の一枚がゴルゴンゾーラほど、枝の一本が大木のようなサイズ感なので、星明かりを完全にシャットアウトしてしまっている。
『キュウゥゥゥ……ナニモミエナイ』
視界をなくしたゴルゴンゾーラが困ったような声をあげて、速度を落とした。
「これはもう、世界樹の中にいると言ってもよさそうだな。しかし、いくら夜目が効いてもゴルゴンゾーラを導いてやれないと意味が──うおっ」
突然、小森たちの後方から光の筋が突き抜けた。
光はサーチライトのように樹の中を探るように照射し続けている。
「おお、のじゃロリ魔王の援護か? 案外いいやつかもな」
「これで樹の中に潜っていけますね!」
明かりを得たゴルゴンゾーラは、葉と枝の間を縫うようにして樹の中心部へ入っていく。
光の指す方向が樹の中心だと分かるので、迷いようもなかった。
「んん……。でもなんか、だんだん眩しくなってきてないか?」
「確かに。ゴルゴンゾーラ、ちょっとストップだ。何か伝えたいことがあるのかもしれない」
ゴルゴンゾーラがその場でホバリングをしていると、光は少しずつ位置をずらしていった。
「光で文字でも書くのでしょうか?」
葉から枝、枝から別の葉、と少しずつ位置が修正されていく。
そして、小森たちを照らしたところで光の動きが止まり……代わりに、光の出力が急激に上がった。
暴力的な光の奔流が小森たちを照射する。
「ぐわああああ眩しい!!!」
「ひいいいっていうか熱い! 熱いです!」
「あの魔王っ。まだ根にもってんじゃねーか!」
『ビギャーーーッ』
「ゴルゴンゾーラっ! とにかく前へいくんだ! ジグザグに動きながらな!」
小森たちは背中に魔王からの熱い応援を受けながら、世界樹の中心へと爆走した。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
ストーカーから逃げ切ったのも束の間、転移後はヤンデレ騎士団に殺されかけている現実!
由汰のらん
ファンタジー
ストーカーから逃げていたある日、ハルは異世界に召喚されてしまう。
しかし神官によれば、どうやらハルは間違って召喚された模様。さらに王子に盾ついてしまったことがきっかけで、ハルは国外追放されてしまう。
さらに連行されている道中、魔族に襲われ、ハルの荷馬車は置き去りに。
そのさなか、黒い閃光を放つ騎士が、ハルに取引を持ちかけてきた。
「貴様の血を差し出せ。さすれば助けてやろう。」
やたら態度のでかい騎士は、なんとダンピールだった!
しかしハルの血が特殊だと知った騎士はハルを連れ帰って?
いっそ美味しい血と癒しを与えるダンピール騎士団のセラピストを目指します!
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
スーパーのビニール袋で竜を保護した
チー牛Y
ファンタジー
竜は、災害指定生物。
見つけ次第、討伐――のはずだった。
だが俺の前に現れたのは、
震える子竜と、役立たず扱いされたスキル――
「スーパーのビニール袋」。
剣でも炎でもない。
シャカシャカ鳴る、ただの袋。
なのにその袋は、なぜか竜を落ち着かせる。
討伐か、保護か。
世界の常識と、ひとりの男の常識が衝突する。
これは――
ビニール袋から始まる、異世界保護ファンタジー。
異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜
キノア9g
ファンタジー
「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」
20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。
一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。
毎日19時更新予定。
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
【完結】憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる