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第1話 追放された雑用係
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リオは、光の勇者パーティーの一員だった――少なくとも、つい昨日までは。
仲間たちは彼を「ただの雑用」と呼び、道具の手入れ、食事の準備、野営地の後始末と、どんな面倒も押しつけていた。剣も魔法もろくに使えない少年。彼らにとってリオの存在は、ただの荷物に過ぎなかったのである。
「おい、もう出てくれないか?」
夕暮れ時、焚き火の光が揺れる中で、勇者アルトが静かに告げた。炎の影が顔を照らし、その言葉が妙に冷たく感じられた。
「え……俺、何か……したか?」
「何もしてないのが問題なんだよ」
聖女リーナが軽くため息をつく。「今まで助けてもらったこと、一度でもあった? 戦闘でも足手まとい、装備もろくに使えない。これ以上、一緒にいても意味がないの」
「そんな……俺は……」
最後に口を挟んだのは、剣士ガイルだった。
「すまんな、リオ。だが、もう決まったことだ。これから魔王城に挑む。雑用係を連れていくほど甘くない」
袋にわずかな金貨と乾燥肉を詰め渡され、リオの胸の奥に重い何かが沈んだ。抗う言葉は喉で消えた。
「……わかった。今までありがとう」
そう言うことしかできなかった。
***
夜の森を歩く。土の匂いと虫の声。周囲に人の気配はない。
リオは肩にかけた小さな袋を握りしめた。中には、勇者アルトのために磨いた剣の油がまだ残っている。
「……結局、俺は何も出来なかったな」
心の中に広がるのは、自分への失望と虚無。だが、不思議と涙は出なかった。泣くほどの価値も、自分にはないと感じていたのかもしれない。
やがて小さな川辺に差し掛かった。その水面に月が映る。
リオは腰を下ろし、冷たい水を掬い上げて喉を潤した。
その時だった――足元の砂の下で「カンッ」と何かが音をたてた。
「……石じゃない?」
掘り返してみると、そこには金属のような欠片があった。汚れと錆に覆われ、ところどころひび割れているが、手のひらに収まるほどの大きさ。
奇妙な紋章が浮かび上がっている。
「……何だこれ。装飾品か?」
リオは欠片を拾い上げ、軽く布で拭った。瞬間、手の中が淡く光る。
青い光が指の隙間からこぼれ出し、周囲の草花を照らす。
「え……!?」
光は小さな球となって宙に浮かび、リオの目の前で止まった。
その中心から、透き通るような声が響く。
“ようやく見つけた……我が主”
リオは凍りついた。
声の主は姿を持たぬまま、淡い光の中で言葉を紡ぐ。
“我は神具〈イデアの欠片〉。長き時を眠り続けていた。
主よ、あなたの魂の光を感じる。契約を望むか?”
「け、契約!? いや、ちょっと待ってくれ! 俺は、そんな大層な――」
“望めば力を与えよう。拒むなら再び眠るのみ”
リオは周囲を見渡した。森の奥は静まり返っている。
勇者たちはもう遠くへ行った。自分を必要とする者など誰もいない。
……なら。
「……わかった。契約ってやつ、やってみる」
“了承。契約、開始――”
光が一瞬、爆ぜた。
身体の奥が焼けるように熱くなる。
掌の紋様が光り、古代の文字が空中に浮かび上がった。
その瞬間、頭の奥へ何かが流れ込んでくる。膨大な情報、世界の法則のようなもの。
リオは息を呑み、目を閉じた。
“契約完了。我が主の名は?”
「……リオ」
“主リオ。汝に第一の権能を授ける――『修復』”
その言葉と同時に、彼の中へ新たな感覚が芽生えた。
壊れた武器を見れば「直せる」と直感できる。割れた地面を見れば「再生できる」と感じる。
「……これが、スキル……なのか?」
“否、それは神権。スキルを超越した、理の一端”
リオは自分の手を見つめた。
確かに、何かが変わっている。
恐怖よりも、静かな熱が胸に灯った。
「不思議だな……何か、できる気がする」
***
試しに近くの倒木を見やる。何日も前に倒れたのだろう、朽ちかけている。
彼は右手を向け、思考する。
「修復――」
淡い光が走り、木の裂け目が見る間に閉じた。葉が若返るように緑を取り戻す。
リオは口を開けたまま、その光景に見入った。
「本当に、直った……俺が?」
そして気づく。木だけではない。地面の傷跡も、石の欠け目も、全てが少しずつ元に戻っていく。
何の修練もなく、ただ“そう望んだ”だけで。
……無自覚のまま、リオは世界の法則を修復していた。
光の粒子が舞い上がる。その光が天に昇ると同時に、彼の足元には柔らかな草が生え、森が息を吹き返した。
鳥のさえずりが戻り、夜の空気さえも澄み渡っていく。
「すごい……。でも、これ……俺、どうすればいいんだ?」
“主よ、その力は尽きぬ。だが、汝の行いは世界に影響を与える。慎重に歩め”
「影響……?」
“いずれ分かる。お前を見放した者たちが、すぐにその力を求めるだろう”
リオは眉をひそめた。
まるで未来を予言するような言葉だが、いまは確かめようがない。
「……まさか。俺なんか、誰も気にもとめないさ」
そう言って笑おうとした瞬間、遠くの空が光った。
東の方角――勇者たちが向かったはずの魔王領の方向から、爆発音が響く。
地平線の先に、暗い魔力の煙が立ち上るのが見えた。
“力の均衡が崩れた。勇者たちが、倒れた”
「そんな……!?」
信じられない思いで空を見つめる。
爆光と共に、空全体が薄く揺らめいた。その波が森を抜け、リオの頬をかすめる。
――冷たくも、どこか悲しい風。
リオは立ち上がり、拳を握りしめた。
「……何が起きてるのか知らないけど、放っておけない!」
神具の欠片が応えるように淡く光る。
“主よ、望むならば導こう。お前の修復は、世界を救う”
「……わかった。行こう、イデア!」
リオは川沿いを駆け出した。
その背に、淡い光が寄り添う。
まだ誰も知らない――彼がやがて“無自覚最強”として名を轟かせる、その始まりの夜である。
(第1話 終)
仲間たちは彼を「ただの雑用」と呼び、道具の手入れ、食事の準備、野営地の後始末と、どんな面倒も押しつけていた。剣も魔法もろくに使えない少年。彼らにとってリオの存在は、ただの荷物に過ぎなかったのである。
「おい、もう出てくれないか?」
夕暮れ時、焚き火の光が揺れる中で、勇者アルトが静かに告げた。炎の影が顔を照らし、その言葉が妙に冷たく感じられた。
「え……俺、何か……したか?」
「何もしてないのが問題なんだよ」
聖女リーナが軽くため息をつく。「今まで助けてもらったこと、一度でもあった? 戦闘でも足手まとい、装備もろくに使えない。これ以上、一緒にいても意味がないの」
「そんな……俺は……」
最後に口を挟んだのは、剣士ガイルだった。
「すまんな、リオ。だが、もう決まったことだ。これから魔王城に挑む。雑用係を連れていくほど甘くない」
袋にわずかな金貨と乾燥肉を詰め渡され、リオの胸の奥に重い何かが沈んだ。抗う言葉は喉で消えた。
「……わかった。今までありがとう」
そう言うことしかできなかった。
***
夜の森を歩く。土の匂いと虫の声。周囲に人の気配はない。
リオは肩にかけた小さな袋を握りしめた。中には、勇者アルトのために磨いた剣の油がまだ残っている。
「……結局、俺は何も出来なかったな」
心の中に広がるのは、自分への失望と虚無。だが、不思議と涙は出なかった。泣くほどの価値も、自分にはないと感じていたのかもしれない。
やがて小さな川辺に差し掛かった。その水面に月が映る。
リオは腰を下ろし、冷たい水を掬い上げて喉を潤した。
その時だった――足元の砂の下で「カンッ」と何かが音をたてた。
「……石じゃない?」
掘り返してみると、そこには金属のような欠片があった。汚れと錆に覆われ、ところどころひび割れているが、手のひらに収まるほどの大きさ。
奇妙な紋章が浮かび上がっている。
「……何だこれ。装飾品か?」
リオは欠片を拾い上げ、軽く布で拭った。瞬間、手の中が淡く光る。
青い光が指の隙間からこぼれ出し、周囲の草花を照らす。
「え……!?」
光は小さな球となって宙に浮かび、リオの目の前で止まった。
その中心から、透き通るような声が響く。
“ようやく見つけた……我が主”
リオは凍りついた。
声の主は姿を持たぬまま、淡い光の中で言葉を紡ぐ。
“我は神具〈イデアの欠片〉。長き時を眠り続けていた。
主よ、あなたの魂の光を感じる。契約を望むか?”
「け、契約!? いや、ちょっと待ってくれ! 俺は、そんな大層な――」
“望めば力を与えよう。拒むなら再び眠るのみ”
リオは周囲を見渡した。森の奥は静まり返っている。
勇者たちはもう遠くへ行った。自分を必要とする者など誰もいない。
……なら。
「……わかった。契約ってやつ、やってみる」
“了承。契約、開始――”
光が一瞬、爆ぜた。
身体の奥が焼けるように熱くなる。
掌の紋様が光り、古代の文字が空中に浮かび上がった。
その瞬間、頭の奥へ何かが流れ込んでくる。膨大な情報、世界の法則のようなもの。
リオは息を呑み、目を閉じた。
“契約完了。我が主の名は?”
「……リオ」
“主リオ。汝に第一の権能を授ける――『修復』”
その言葉と同時に、彼の中へ新たな感覚が芽生えた。
壊れた武器を見れば「直せる」と直感できる。割れた地面を見れば「再生できる」と感じる。
「……これが、スキル……なのか?」
“否、それは神権。スキルを超越した、理の一端”
リオは自分の手を見つめた。
確かに、何かが変わっている。
恐怖よりも、静かな熱が胸に灯った。
「不思議だな……何か、できる気がする」
***
試しに近くの倒木を見やる。何日も前に倒れたのだろう、朽ちかけている。
彼は右手を向け、思考する。
「修復――」
淡い光が走り、木の裂け目が見る間に閉じた。葉が若返るように緑を取り戻す。
リオは口を開けたまま、その光景に見入った。
「本当に、直った……俺が?」
そして気づく。木だけではない。地面の傷跡も、石の欠け目も、全てが少しずつ元に戻っていく。
何の修練もなく、ただ“そう望んだ”だけで。
……無自覚のまま、リオは世界の法則を修復していた。
光の粒子が舞い上がる。その光が天に昇ると同時に、彼の足元には柔らかな草が生え、森が息を吹き返した。
鳥のさえずりが戻り、夜の空気さえも澄み渡っていく。
「すごい……。でも、これ……俺、どうすればいいんだ?」
“主よ、その力は尽きぬ。だが、汝の行いは世界に影響を与える。慎重に歩め”
「影響……?」
“いずれ分かる。お前を見放した者たちが、すぐにその力を求めるだろう”
リオは眉をひそめた。
まるで未来を予言するような言葉だが、いまは確かめようがない。
「……まさか。俺なんか、誰も気にもとめないさ」
そう言って笑おうとした瞬間、遠くの空が光った。
東の方角――勇者たちが向かったはずの魔王領の方向から、爆発音が響く。
地平線の先に、暗い魔力の煙が立ち上るのが見えた。
“力の均衡が崩れた。勇者たちが、倒れた”
「そんな……!?」
信じられない思いで空を見つめる。
爆光と共に、空全体が薄く揺らめいた。その波が森を抜け、リオの頬をかすめる。
――冷たくも、どこか悲しい風。
リオは立ち上がり、拳を握りしめた。
「……何が起きてるのか知らないけど、放っておけない!」
神具の欠片が応えるように淡く光る。
“主よ、望むならば導こう。お前の修復は、世界を救う”
「……わかった。行こう、イデア!」
リオは川沿いを駆け出した。
その背に、淡い光が寄り添う。
まだ誰も知らない――彼がやがて“無自覚最強”として名を轟かせる、その始まりの夜である。
(第1話 終)
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