世界最弱と呼ばれた少年、気づけば伝説級勇者でした ~追放されたので気ままに旅してたら、全種族の姫たちに囲まれていました~

fuwamofu

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第26話 堕ちた女神の嘆き

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季節が巡り、氷の大地にも緩やかな春の兆しが訪れようとしていた。  
リアンが世界にその光を溶かしてから、半年の月日が流れた。  
“勇者団”は再び活動を始め、各地で残る闇の欠片を浄化しながら旅を続けていた。  

ミリアは聖都リュミエルの新しい神殿を拠点に、癒し手として人々を導いている。  
ルシェリアは竜族の代表として再建された評議会に参加し、竜と人との架け橋となっていた。  
エリナは新たな商会の代表となり、戦乱で傷ついた町々の経済を立て直していた。  

それぞれの場所で、彼女たちはリアンの残した光と共に歩んでいた。  
だが、心のどこかに、まだ彼の声が残っている。  

「本当に、彼はこの世界に溶けたのかしら……」  
ルシェリアは夜空を見上げながら呟いた。  
ミリアがそっと寄り添う。  
「残っているよ。あの光がある限り、彼は今も生きてる」  

しかしその夜――聖都全体が突然、静寂に包まれた。  
空が暗紫に染まり、星がひとつずつ消えていく。  
「これは……嫌な予感がするわ」ミリアは杖を握りしめた。  

次の瞬間、天から一筋の黒い光が神殿を貫いた。  
光ではない――それは絶望そのものだった。  
大地に突き刺さるように現れた光柱の中から、女性の姿が現れる。  

それは、美しくも悲しげな存在だった。  
白い翼は焦げ、涙に似た闇が頬を伝っている。  
ルシェリアが息を飲んで名を呼ぶ。  
「女神アリア……?」  

「……アリア様?」ミリアも声をかけた。  
女神は苦しげに目を開け、二人を見た。  
「私の……罪が……目覚めてしまいました」  

神殿全体を黒い霧が覆っていく。  
アリアは空を仰ぎ、声を震わせた。  
「勇者リアンが昇華した時、私の中に残っていた“闇の種”が、消えずに残りました。神さえも完全ではなかった……」  
「まさか、その闇が?」  
「ええ……“絶望の核”。アーゼルが生まれるよりも前、創生の頃に私が封じた忌まわしき概念です。それが再び芽吹き始めました」  

ミリアが顔色を失う。  
「そんな……彼が世界を救って、ようやく平和になったのに!」  
「だからこそ、今度は私がけじめをつけねばなりません。もし私がこのまま“堕神”になれば、世界は再び滅びる……」  
アリアの翼が痛々しく震える。  
ルシェリアが一歩前に出る。  
「なら、私たちが止めるわ。あなたを倒すことになったとしても!」  

女神の瞳にかすかな笑みが浮かんだ。  
「あなたたちは、あの子の遺志を正しく継いでいますね……。けれど、これはあなた方だけに背負わせてはならないこと」  
アリアが両手を広げると、彼女を包む輪が黒く染まっていく。  
「私の中の闇を封印するには、“勇者の光”が必要なのです」  
「でもリアンはもう……いない!」ミリアが叫ぶ。  
「彼の光は世界に満ちています。呼びなさい。あなたたちの心が願えば、きっと応えてくれるでしょう」  

風が吹き荒れた。  
ミリアとルシェリアは手を取り合い、声を合わせて祈りを捧げる。  
女神の祈り、竜族の誓い、そして勇者の名が響き合う。  
「リアン……! あなたの光を、もう一度貸して!」  

時間が止まったかのように静寂が訪れた。  
そして、神殿の中央にひとすじの光が降りた。  
その光は形をなし、微笑む青年の姿を作り出す。  
「……みんな、久しぶり」  

「リアン!」ミリアが抱きつく。  
半透明の彼の身体から、温かな光が伝わった。  
「君たちの声が届いた。女神が、まだ苦しんでるんだな」  
「ええ。アリア様の中に残る闇が、この世界を蝕もうとしてる」ルシェリアが言う。  
リアンは静かに頷いた。  
「だったら、もう一度終わらせないと。今度は、俺自身も彼女と向き合う」  

彼はゆっくりとアリアに近づいた。  
女神の身体は黒い光に包まれており、もはやその姿は“堕ちた天”そのものだった。  
「……リアン、あなたに会えてうれしい。けれど、私はあなたを消すことになるかもしれません」  
「いいよ。もしそうなっても、俺はきっと笑ってる」  

リアンが聖剣を掲げると、刃は蒼と紅の光を纏った。  
その輝きを見て、アリアは一瞬だけ涙を流した。  
「あなたこそが、私の創った奇跡。どうしてそんなにも人を想えるのですか」  
「俺が“人だから”だよ。神がどれほどの力を持っても、心の温もりだけは真似できない」  

二人の光が交わる。  
静かに、しかし確実に世界の境界が震えていった。  
アリアの声が響く。  
「あなたの光が、私を導いてくれるのですね……」  
「いや、導くんじゃない。いっしょに行くんだ」  

刹那、天地を割るような音が響いた。  
闇が浄化され、黒い霧が光の粒子に変わっていく。  
アリアの体は少しずつ透明になり、彼女は安らかな表情で微笑んだ。  
「ありがとう……。あなたたちのおかげで、私はもう一度“神”として生まれ変われます」  
「アリア様……!」ミリアが涙をこぼす。  
「もう泣かないで。世界はあなたたちに託しました」  

アリアは最後にリアンへと目を向け、静かに語る。  
「あなたは、この地に留まることはできません。けれど、魂は永遠に“彼女たち”の側にいるでしょう」  
リアンが頷く。  
「それで十分だ。俺はもう、孤独じゃない」  

光が弾けた。  
女神の魂は空へと昇り、世界中に祝福の光を降らせた。  

そして、リアンの姿もまた消えゆく。  
ルシェリアが泣きながら叫んだ。  
「行かないで……!」  
リアンは穏やかに微笑む。  
「これで本当に終わりだよ。でも、次の未来でまた会おう」  

彼の声が消え、風が神殿を通り抜けた。  
残されたのは暖かい光と、再び穏やかに輝く空だった。  

ルシェリアとミリアは立ち尽くし、見上げた空の中で感じていた。  
――リアンの存在が、確かにこの世界のどこかで生き続けていることを。  

女神が還り、勇者の光が世界と一つになった今、ようやく真の平和が訪れた。  

その空の向こうで、新たな朝日がゆっくりと昇っていった。
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