追放されたけど実は世界最強でした ~元下僕の俺、気ままに旅していたら神々に愛されてた件~

fuwamofu

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第18話 闇の王国への旅立ち

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青空のはずだった空が、一瞬にして翳った。  
天界の亀裂が閉じたその翌日、リオは静かな丘の上に立っていた。  
風は柔らかく、草原を渡りながら春先の匂いを運んでくる。だが、その穏やかさの裏に潜む“異音”を、彼は確かに聞いていた。  

「聞こえるな。地の底で何かが蠢いている」  
「地の底?」  
セリスが怪訝そうに首を傾げた。  
リオは眼を細めて地平線を見つめる。  
「神々が消えたことで、世界の均衡が変わった。封じられていた“闇の核”が目を覚ましている」  

リリアーナが険しい表情になる。  
「闇の核……それって、神々の残滓とは別の?」  
「ああ。俺がかつて世界を創った時、神々より前に存在していた“虚無の意志”を封じた場所だ。  
そこは、すべての負の感情が流れ着く場所――闇の王国《ノクス・ドミニオン》」  

エリスが息を飲む。  
「そこは……神でさえ触れられぬ禁忌領域。創世者であるあなたしか入れない地です」  
「そう。だからこそ俺が行く」  

「でも、一人でなんて――!」  
リリアーナの抗議を、リオは軽く手で押さえた。  
「いや、一人じゃないさ。お前たちも行くんだ。  
この世界を立て直すためには、俺一人の力じゃ足りない。人の意志が必要だ」  

沈黙のあと、リリアーナがふっと微笑んだ。  
「そんな言葉、あのリオが言うなんてね」  
「昔の俺は、人に頼るのが下手だった」  

仲間たちの表情が和らぎ、緊張が少しだけ溶けた。  
リュミエルが小さな声で言う。  
「でも、その国……怖くない? “闇の王国”って聞くだけで、心が凍りつくようで」  
「怖くても行くんだ。恐れは無くせない。けど、それを越えられる人間でありたい」  

その言葉に、リュミエルの瞳がわずかに光った。  

夕陽が沈み、夜が訪れるころ、リオたちは旅支度を終えていた。  
天界で手に入れた聖布、竜王の鱗、そして創世の紋章が嵌め込まれた指輪。  
それらはこの世界で最も純粋な“光”を宿す護符だ。  

「闇へ行くなら、光を持たねばね」  
リリアーナが冗談めかして言ったが、その瞳は本気だった。  

夜の帳が降りる中、リオは静かに呟く。  
「この旅の先で、俺は“もうひとりの俺”と会うかもしれない」  
「もうひとりの?」エリスが問う。  
「かつて、創世を終えたあと俺は力を二つに分けた。  
一つはこの世界を守るための“希望”、もう一つはあらゆる終焉を招く“虚無”だ。  
その虚無が今、“闇の王”という形で存在しているはずだ」  

――静寂。  
焚き火の音が小さくはぜ、仲間の誰もが言葉を失った。  
リオ自身の中にあるもう一つの人格――それが、次の敵。  

「つまり、あなたが自分自身と戦うことになるということですか」  
「そうなるな」リオは苦笑する。  
「皮肉だけど、神々との戦いよりもやっかいだ」  

「そんなの、勝てるの?」リリアーナが問う。  
「勝つとか負けるとかじゃない。認め合うしかない」  
「認める?」  
「“創る者”と“壊す者”は、どちらも必要なんだ。両方があって、ようやく本当の創世になる」  

リュミエルの肩に小竜が乗り、二人を見上げて鳴いた。  
その鳴き声が空気を和らげる。  
セリスが笑った。「リオ、あなたって難しいことを簡単に言うのね」  
「理屈が苦手なんでな。行動で示す方が得意だ」  

***  

その夜の深更、リオはひとりで天を見上げていた。  
星の光が淡く揺れる空。その一点に、深紅の星が灯っている。  
「……来たか」  

リオの足元に影が差した。  
どこからともなく黒い霧が広がり、丘の地面に円陣が描かれる。  
エリスたちが剣を構えて駆け寄った。  

「リオ!」  
「大丈夫だ。呼ばれただけだ」  

円陣の中心から声が聞こえた。  
“ようやく帰る気になったのか、創世の主よ”  

低く響く声は、懐かしくて痛い。  
リオは目を閉じる。  
「お前は……まだ、そこにいたのか」  
“当然だ。我はお前の影。忘れたか? すべてを創り、そして自ら壊した男よ”  

地面が震え、黒い靄が形を取る。  
現れたのはリオと瓜二つの男――だがその瞳だけが深闇に染まっていた。  

「……闇の王ノクスか」  
「呼び方は何でもいい。お前の裏側そのもの、それが俺だ」  
ノクスはゆっくりと笑う。  
「嬉しいぞ。創世者を名乗るお前が、ようやく俺を思い出したとは」  

「お前が求めているのは破壊だろう」  
「破壊こそ救いだからだ。この世界は痛みと記憶に縛られている。終わりこそが解放だ」  

「違う」リオの声が静かに響いた。  
「終わりは始まりのためにある。滅ぼすだけなら、創る意味がない」  

ノクスが嗤った。  
「またその理想論か。では証明してみせろ。この身を超えて、真の創世を成すというなら、  
再び“起源”に戻れ!」  

影が爆発し、世界が裏返った。  
リオたちが立っていた地面が消え、視界一面に赤黒い虚空が広がる。  
空も海もなく、ただ終焉の色だけが漂う空間――そこはすでに闇の王国の境界だった。  

「みんな、下がってろ!」  
リオが叫ぶ。  
重力が逆転し、仲間たちの体が宙に浮く。エリスが結界を張り、リリアーナが詠唱で重力を安定させる。  
だがその努力を嘲るかのように、ノクスが指を鳴らした。  

「守る者など無意味だ!」  

虚空から黒い杭が無数に生まれ、仲間たちを狙う。  
瞬間――リオの瞳が輝いた。  
「それ以上、手を出すな!」  

時間が止まる。  
杭は空中で静止し、闇の流れが凍りついた。リオの周囲に金の光環が浮かぶ。  
「創世式・静止軌道」  

ノクスの表情が変わる。  
「ほう、片割れのくせに随分とやるな。……だがな、“無”には終わりがない」  

ノクスの体が粒子に分かれ、闇の波となって迫る。  
リオは立ち向かいながら呟いた。  
「そうだ、終わりはない。だが――希望もまた終わらない」  

光と闇が激突した。  
音も熱もないのに、確かに世界そのものが悲鳴を上げた。  
二つの力がぶつかるたびに、創世の残響が響き、消えた世界が一瞬だけ形を取り戻す。  

仲間たちはその光景をただ見守るしかなかった。  
リュミエルが涙を浮かべて呟く。  
「リオは……世界と戦ってる……」  

リリアーナが拳を握る。  
「いいえ、違う。あの人は今も“守ろうとしてる”のよ。世界も、闇の中の命も、全部」  

光が爆ぜ、虚無の空間に影が消える。  
そして残ったのは、一人の男――リオだけだった。  

肩で息をしながらも、彼の眼は確かに輝いていた。  
「ノクス……俺はお前を否定しない」  

闇の中から声が返る。  
「……何……?」  
「お前は必要な存在だ。破壊は再生を促す。だが、だからこそ俺が制御する」  

沈黙。  
やがてノクスの輪郭が薄れ、赤い空気に溶けていく。  
「相変わらず気に入らん。……だが、面白い。その世界を見届けてやる」  

そして、消えた。  
虚無が崩れ、再び地上の景色が戻る。  

仲間たちが駆け寄る。  
「リオ……!」  
「無事、だ」  

彼は短く答え、遠くの闇の彼方を見やった。  
そこには未だ微かに残る影が蠢いていた。  

「ノクスは完全には消えていない。  
次はその本体が眠る場所、“冥府の中心”へ行く」  

リリアーナが小さく息を呑む。  
「冥府……いよいよ、最後の戦いね」  

リオは微笑んだ。  
「最後なんて言葉、まだ早いさ。  
語り継ぐ者がいる限り、世界は終わらない」  

夜風が吹き、星空が流れた。  
闇の王国への旅は始まったばかりだった。
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