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第17話 リオ、初めて怒る
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朝焼けが大地を金色に照らしていた。
風が穏やかに吹き抜けるはずの平原に、沈黙が広がっている。
王都を覆っていた暗雲は消え、穏やかな青空が見える――だが、リオの表情は険しかった。
「世界の流れが……どこかおかしい」
リオの呟きを聞き、リリアーナが振り向く。
「おかしいって、どういうこと?」
「時間がずれている。数日しか過ぎていないのに、大地の循環が何年分も進んでる」
セリスは眉をひそめた。
「世界そのものが歪んでいるってこと……ですか?」
「神々が最後の手を打つ前触れかもしれない。どうやら〝異界の時流〟を引き込んでる」
エリスが険しい顔つきになる。「神々の世界《天界核》が、地上に侵食を始めているのです」
リオは立ち止まり、振り向いた。「この大陸を、神々が“養分”として取り込もうとしてる」
「そんな……!」リリアーナの声が震える。
「まるで人を、世界を、ただの燃料のように……」
リオの拳が自然と握られる。
指の骨が軋むほど強く。
「悪趣味な真似してくれるな」
その声は低く、怒りというより静かな“決意”を孕んでいた。
リュミエルが不安げにリオを見上げる。
「リオ……どうするの?」
「止める。そのために俺は戻ってきた。創った者として、奪われた者のために」
風が吹き抜ける。その風の中に、歪んだ旋律が混じった。
魂を揺さぶるような神々の詠唱。空が再び裂かれ、黄金の柱が降り立つ。
空間が断裂し、紅い大地が露出する。
それは神々が造り出した中間世界――“神骸域”。
世界の秩序を巻き込みながら、次元そのものが神々の領域へと変わっていく。
「これが……神々の本性か」
エリスが震える声で言う。
「彼らはもう調和を保つ意志を捨てた。支配より先、消費へと堕ちた」
リオは片手を上げ、光を集めた。
指先に集った光は神々の干渉を弾き返し、次元の壁を消し飛ばす。
だが、同時に空の裂け目から数人の影が降り立った。
彼らはかつての勇者候補だった男たち。
リオが追放された後、新たに神々に拾われた“模造勇者”たちだ。
今、その体を金の鎧に覆い、機械のように笑う。
「創世の主、リオ・アストレイド。神々はお前を削除すると決定された」
「命令だ。抵抗は無意味。君の存在をこの“新世界”に書き換えさせてもらう」
リオの瞳に冷たい光が宿る。
彼は微かに息を吐いた。
「削除……か。俺が生み出した世界を勝手に“データ”扱いか。……いい加減にしろ」
地面が裂けた。
空気そのものが重力を失い、模造勇者たちが一斉に浮かび上がる。
次の瞬間、それぞれの胸に淡い光の紋が浮かび、金の鎧が弾け飛んだ。
彼らの顔に驚愕が走る。
「な、なにを――」
「お前たちはただの操り人形だ。神々に人格を書き換えられ、制御されている」
リオはゆっくりと右手を上げた。
掌から放たれた光は優しかった。
「だが、その鎖は今、俺が断ち切る」
光が彼らを包み、模造勇者たちは地面に膝をつく。
鋼のように固かった目元に、再び人の感情が戻る。
「……俺たちは……何を……していた? 神の声が……頭の中に……」
「もういい。休め」
リオの言葉と同時に、彼らは眠りに落ちた。
だが、空は沈黙を許さなかった。
雷鳴のような声が大空を震わせる。
『創世者リオ。お前は己の立場を忘れた。
お前が再構成したこの世界は、我々の楽園となるはずだった。拒むのか、我が創造物よ!』
「お前たちは勝手に名付けた“神”だ。俺の創造した“世界”の中で、人々が祈りを学んでできた概念に過ぎない。
にもかかわらず、己を中心に世界を廻そうとした。なら、創った俺が止める」
雷光が降り注ぐ。だが、その全てがリオの前で霧散する。
まるで“怒り”が概念すら打ち消すように、風が逆巻いた。
「神が人のためにあるんじゃない。人が神のためにいるわけでもない。
それを履き違えるなら、神と呼ぶ意味もない!」
リオの叫びは、雷よりも重く響いた。
その叫びが届いた瞬間、天界の亀裂から巨大な腕が伸びる。
世界を一つ潰せるほどの神の手だ。
「創世者。お前の怒りなど、我らには届かぬ。
お前の中にも神の欠片がある。ならばその心ごと併合して――」
リオは静かに微笑んだ。
「……いいだろう。なら、俺の本当の力を見せてやる」
足元の大地が輝き、空間が色彩を失う。
声も、光も消えた静寂の中で、リオだけが存在していた。
「創世“零”式、展開」
その瞬間、世界が反転する。
天も神も人も、すべての“定義”が塗り替えられる。
光が世界の至るところからあふれ、天界の亀裂が溶けるように閉じた。
「これは……存在の書き換え……!」
エリスが膝をつく。
「リオ……神々の階層を削除してる……」
「必要ない層だろ。上も下もない。全員が同じ場所で生きればいい」
空の彼方で、神々の悲鳴が木霊した。
尊大さも威厳も失い、ただひとつの存在として崩れ散る。
リオはその光景を見上げながら、静かに言った。
「これが、俺の怒りだ。奪いを正す怒り。破壊じゃない、再生のための怒りだ」
光がやがて薄れていく。
亀裂の消えた空から、純粋な青が広がった。
リリアーナがリオに駆け寄る。「リオ、大丈夫?」
彼は微笑んで答える。「……ああ。すまなかった。少しだけ、本気を出しすぎた」
エリスが苦笑する。「あなたの“少し”は、天界一つ分よ」
リオは少し肩をすくめると、視線を北に向けた。
その先には、まだ燃え残る小さな光。
神々の核、“永劫の門”の残滓がゆらゆらと光っている。
「残りはあれだけか」
「まるで世界の中心みたい」リュミエルが呟く。
リオは静かに頷いた。
「行こう。
創った責任を、最後まで果たす」
その声に、誰もが頷く。
風が吹き、雲が裂け、光が一筋、彼らの進む道を照らした。
神すら沈黙したその日、初めてリオの中に怒りが芽生え、そしてそれは、世界を救うための“光”となった――。
風が穏やかに吹き抜けるはずの平原に、沈黙が広がっている。
王都を覆っていた暗雲は消え、穏やかな青空が見える――だが、リオの表情は険しかった。
「世界の流れが……どこかおかしい」
リオの呟きを聞き、リリアーナが振り向く。
「おかしいって、どういうこと?」
「時間がずれている。数日しか過ぎていないのに、大地の循環が何年分も進んでる」
セリスは眉をひそめた。
「世界そのものが歪んでいるってこと……ですか?」
「神々が最後の手を打つ前触れかもしれない。どうやら〝異界の時流〟を引き込んでる」
エリスが険しい顔つきになる。「神々の世界《天界核》が、地上に侵食を始めているのです」
リオは立ち止まり、振り向いた。「この大陸を、神々が“養分”として取り込もうとしてる」
「そんな……!」リリアーナの声が震える。
「まるで人を、世界を、ただの燃料のように……」
リオの拳が自然と握られる。
指の骨が軋むほど強く。
「悪趣味な真似してくれるな」
その声は低く、怒りというより静かな“決意”を孕んでいた。
リュミエルが不安げにリオを見上げる。
「リオ……どうするの?」
「止める。そのために俺は戻ってきた。創った者として、奪われた者のために」
風が吹き抜ける。その風の中に、歪んだ旋律が混じった。
魂を揺さぶるような神々の詠唱。空が再び裂かれ、黄金の柱が降り立つ。
空間が断裂し、紅い大地が露出する。
それは神々が造り出した中間世界――“神骸域”。
世界の秩序を巻き込みながら、次元そのものが神々の領域へと変わっていく。
「これが……神々の本性か」
エリスが震える声で言う。
「彼らはもう調和を保つ意志を捨てた。支配より先、消費へと堕ちた」
リオは片手を上げ、光を集めた。
指先に集った光は神々の干渉を弾き返し、次元の壁を消し飛ばす。
だが、同時に空の裂け目から数人の影が降り立った。
彼らはかつての勇者候補だった男たち。
リオが追放された後、新たに神々に拾われた“模造勇者”たちだ。
今、その体を金の鎧に覆い、機械のように笑う。
「創世の主、リオ・アストレイド。神々はお前を削除すると決定された」
「命令だ。抵抗は無意味。君の存在をこの“新世界”に書き換えさせてもらう」
リオの瞳に冷たい光が宿る。
彼は微かに息を吐いた。
「削除……か。俺が生み出した世界を勝手に“データ”扱いか。……いい加減にしろ」
地面が裂けた。
空気そのものが重力を失い、模造勇者たちが一斉に浮かび上がる。
次の瞬間、それぞれの胸に淡い光の紋が浮かび、金の鎧が弾け飛んだ。
彼らの顔に驚愕が走る。
「な、なにを――」
「お前たちはただの操り人形だ。神々に人格を書き換えられ、制御されている」
リオはゆっくりと右手を上げた。
掌から放たれた光は優しかった。
「だが、その鎖は今、俺が断ち切る」
光が彼らを包み、模造勇者たちは地面に膝をつく。
鋼のように固かった目元に、再び人の感情が戻る。
「……俺たちは……何を……していた? 神の声が……頭の中に……」
「もういい。休め」
リオの言葉と同時に、彼らは眠りに落ちた。
だが、空は沈黙を許さなかった。
雷鳴のような声が大空を震わせる。
『創世者リオ。お前は己の立場を忘れた。
お前が再構成したこの世界は、我々の楽園となるはずだった。拒むのか、我が創造物よ!』
「お前たちは勝手に名付けた“神”だ。俺の創造した“世界”の中で、人々が祈りを学んでできた概念に過ぎない。
にもかかわらず、己を中心に世界を廻そうとした。なら、創った俺が止める」
雷光が降り注ぐ。だが、その全てがリオの前で霧散する。
まるで“怒り”が概念すら打ち消すように、風が逆巻いた。
「神が人のためにあるんじゃない。人が神のためにいるわけでもない。
それを履き違えるなら、神と呼ぶ意味もない!」
リオの叫びは、雷よりも重く響いた。
その叫びが届いた瞬間、天界の亀裂から巨大な腕が伸びる。
世界を一つ潰せるほどの神の手だ。
「創世者。お前の怒りなど、我らには届かぬ。
お前の中にも神の欠片がある。ならばその心ごと併合して――」
リオは静かに微笑んだ。
「……いいだろう。なら、俺の本当の力を見せてやる」
足元の大地が輝き、空間が色彩を失う。
声も、光も消えた静寂の中で、リオだけが存在していた。
「創世“零”式、展開」
その瞬間、世界が反転する。
天も神も人も、すべての“定義”が塗り替えられる。
光が世界の至るところからあふれ、天界の亀裂が溶けるように閉じた。
「これは……存在の書き換え……!」
エリスが膝をつく。
「リオ……神々の階層を削除してる……」
「必要ない層だろ。上も下もない。全員が同じ場所で生きればいい」
空の彼方で、神々の悲鳴が木霊した。
尊大さも威厳も失い、ただひとつの存在として崩れ散る。
リオはその光景を見上げながら、静かに言った。
「これが、俺の怒りだ。奪いを正す怒り。破壊じゃない、再生のための怒りだ」
光がやがて薄れていく。
亀裂の消えた空から、純粋な青が広がった。
リリアーナがリオに駆け寄る。「リオ、大丈夫?」
彼は微笑んで答える。「……ああ。すまなかった。少しだけ、本気を出しすぎた」
エリスが苦笑する。「あなたの“少し”は、天界一つ分よ」
リオは少し肩をすくめると、視線を北に向けた。
その先には、まだ燃え残る小さな光。
神々の核、“永劫の門”の残滓がゆらゆらと光っている。
「残りはあれだけか」
「まるで世界の中心みたい」リュミエルが呟く。
リオは静かに頷いた。
「行こう。
創った責任を、最後まで果たす」
その声に、誰もが頷く。
風が吹き、雲が裂け、光が一筋、彼らの進む道を照らした。
神すら沈黙したその日、初めてリオの中に怒りが芽生え、そしてそれは、世界を救うための“光”となった――。
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