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第1話 無能と言われ、追放された日
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レオンは、目の前で突きつけられた金色の紋章をただ呆然と見つめていた。
「これが正式な除名証書だ。レオン・グレイス、お前は本日をもってパーティー《聖剣の焔》から追放する。」
淡々とした声。その声の主は、レオンの長年の仲間であり、リーダーである勇者アレクトだ。金色の髪をかき上げ、神々しいほど整った顔立ちでそれを見下ろしている。周囲の仲間たちも一様に、冷たい視線をレオンに向けていた。
「……どうしてだ、アレクト。俺は何か、やらかしたのか?」
「は? 何かって……空気を読めよ、お前のことだ。」
剣士ルガンが鼻で笑った。
「お前だけだぞ、パーティーの中で一度もスキルを発動したことがないのは。補助スキル一つまともに使えない癖に、いつも足を引っ張る。もう限界なんだよ。」
魔導士のフィーネがうつむきながら言葉を継いだ。
「ごめんなさい、レオン。でも、あなたと一緒に戦うのは、もう……怖いの。」
怖い? その言葉だけが胸の奥に刺さった。レオンはこれまで誰よりも仲間の盾になってきたつもりだった。毒ガスの中で倒れたルガンを背負って逃げたのも、夜通しアレクトの剣の錆を落としたのも自分だ。
それなのに、返ってくるのは「無能」の二文字。
「……わかった。そう言うなら、もう何も言わない。だが、一つだけ教えてくれ。」
アレクトは退屈そうに眉を上げた。
「なんだ?」
「誰が決めたんだ、俺は“無能”だって。」
その瞬間、場の空気がぴたりと止まった。炎の灯る会議室の中、アレクトの顔からは微笑が消え、代わりに冷たい光が宿る。
「結果がすべてだろう。実績も力もない奴は、無能。それ以外にどう言えってんだ。」
ルガンが面白そうに肩をすくめた。
「もういいだろ。こいつに同情するだけ、時間の無駄だ。」
数秒の静寂。そして、レオンは頷いた。
「――わかった。全部、理解した。」
手にしていた冒険者徽章を外し、机の上に置いた。カチリ、と小さな音が響く。
その音が、レオンの冒険者としての人生を終わらせる合図になった。
* * *
追放された当日、夜の街は雨だった。
レオンは薄い外套一枚で王都北門を出た。背にしょっているのは、使い古した剣と水筒、そして小袋に入った銀貨を数枚。
土の道を歩くたび、ぬかるみが靴に絡む。
頭上の空は雲に覆われ、星一つ見えない。
「……滑稽だな、俺。」
口に出した声は、やけに軽かった。心のどこかで予感していたのだ。いつかこうなると。
仲間たちの実力が上がるにつれ、レオンだけが取り残されていく。戦闘のたびに怪我し、後方支援ですら失敗した。
「役立たず」と陰口を叩かれながらも、仲間と笑顔で食卓を囲んだあの夜が、もう遠い。
王都から離れるほど、霧が濃くなった。森の入口に入ると、雨音が木々に吸い込まれて静寂に変わる。
そのとき――。
視界の端で、柔らかな光が瞬いた。
「……火?」
淡い、青白い炎のような輝きが宙に漂っている。
近づくと、それはまるで炎ではなく、人の姿をしているようにも見えた。
「誰だ?」
問いかけると、光が砕け、中心から透き通るような声が響いた。
『……やっと、見つけた。黎明の継承者……』
「は?」
目の前に現れたのは、奇跡のような存在だった。
銀の髪に、翡翠の瞳、肌は月光のように白い。
彼女はふわりと地に降り立ち、裸足のままレオンの前に立つ。
「あなたが、封印の鍵を持つ者。」
「封印? 鍵? 何の話だ。」
「あなたの名は、レオン・グレイス。千年前、我が主が託した“権能”を、その魂に宿している。」
あまりにも非現実的な言葉に、レオンは乾いた笑いを漏らした。
「すまん、女神さま。俺はただの追放者だよ。力も何もない。」
だが、次の瞬間、周囲に圧倒的な魔力の波が広がった。
森の木々が鳴動し、足元の大地が震える。レオンの胸が灼けるように熱くなる。
気づけば、右手の甲に未知の紋章が浮かび上がっていた。それは金色に輝き、炎と光が交じる模様。
『……それが、黎明の印。あなたこそ“黎明の王”の継承者。』
「嘘だろ……俺に、そんな力が……」
「無能と呼ばれる者ほど、眠る力は大きい。封印を解くには、絶望が必要だった。」
女神は穏やかに微笑んだ。その姿は、まるで長い眠りから目覚めた聖なる存在のようで。
レオンの喉が鳴る。心臓は、信じられないほど速く鼓動していた。
「……俺が、継承者? でも、そんなに都合のいい話があるかよ。」
「ならば、試してみるといい。」
光の槍が女神の手に生まれた。その先端から放たれる魔力が、空気を焼く。
「これを受け止められれば、あなたの言葉は現実になる。」
一瞬で放たれた光。
レオンは避けられなかった。反射的に右手を前に出しただけ。
だが、次の瞬間――“何か”が咆哮した。
爆発の中心にいたはずのレオンは、無傷だった。
代わりに、彼の掌を中心に光の結界が展開されている。幾何学模様が重なり、女神の槍を完全に飲み込んでいた。
「……な、なんだ……これ……」
『黎明の権能《オリジン・ブレイカー》が発動した。』
女神は微笑したまま、小さく呟いた。
「ようやく、目覚めの時が来た。」
レオンの身体が震える。力が内から溢れ出して止まらない。視界に、文字が浮かんだ。
==========
スキル:黎明の権能(発動条件・覚醒済)
効果:全魔法体系の支配、属性干渉権限付与
==========
「……は?」
そんなスキル、聞いたことがない。
レオンが冒険者として登録したとき、表示されたスキル欄には「無し」とだけ書かれていたはずだ。それが今、目の前にとんでもない表示が浮かんでいる。
女神は歩み寄り、彼の頬に触れた。冷たくて、どこか懐かしい温もり。
「あなたは選ばれた者。でも、今はまだ知らない。世界の真実を。」
「真実……?」
「この大地を蝕む“神の呪い”。それを解けるのは、あなたただ一人。」
レオンは混乱しながらも、何故かその言葉を否定できなかった。胸の奥深くに、確かな熱と衝動があった。
彼はゆっくり拳を握る。
「……いいだろう。試してみる。俺が、本当に何者か。」
その言葉に応じるように、印が光る。地の底から力がせり上がり、雷鳴が響く。
女神は微笑んだまま、その光へと溶けるように姿を消した。
『我が名はルミナ。再び会う日まで、黎明の王よ。』
光が消えたとき、森は静寂を取り戻していた。だが、レオンの心はもう以前の彼ではなかった。
手の中に残った微かな光が、まるで彼の選択を祝福するように脈打っている。
「無能、ね。……面白ぇじゃねぇか。」
レオンは空を見上げた。止んだ雨雲の隙間から、月が顔を出していた。
それはまるで、新しい世界の夜明けを告げるかのように、青白く輝いていた。
続く
「これが正式な除名証書だ。レオン・グレイス、お前は本日をもってパーティー《聖剣の焔》から追放する。」
淡々とした声。その声の主は、レオンの長年の仲間であり、リーダーである勇者アレクトだ。金色の髪をかき上げ、神々しいほど整った顔立ちでそれを見下ろしている。周囲の仲間たちも一様に、冷たい視線をレオンに向けていた。
「……どうしてだ、アレクト。俺は何か、やらかしたのか?」
「は? 何かって……空気を読めよ、お前のことだ。」
剣士ルガンが鼻で笑った。
「お前だけだぞ、パーティーの中で一度もスキルを発動したことがないのは。補助スキル一つまともに使えない癖に、いつも足を引っ張る。もう限界なんだよ。」
魔導士のフィーネがうつむきながら言葉を継いだ。
「ごめんなさい、レオン。でも、あなたと一緒に戦うのは、もう……怖いの。」
怖い? その言葉だけが胸の奥に刺さった。レオンはこれまで誰よりも仲間の盾になってきたつもりだった。毒ガスの中で倒れたルガンを背負って逃げたのも、夜通しアレクトの剣の錆を落としたのも自分だ。
それなのに、返ってくるのは「無能」の二文字。
「……わかった。そう言うなら、もう何も言わない。だが、一つだけ教えてくれ。」
アレクトは退屈そうに眉を上げた。
「なんだ?」
「誰が決めたんだ、俺は“無能”だって。」
その瞬間、場の空気がぴたりと止まった。炎の灯る会議室の中、アレクトの顔からは微笑が消え、代わりに冷たい光が宿る。
「結果がすべてだろう。実績も力もない奴は、無能。それ以外にどう言えってんだ。」
ルガンが面白そうに肩をすくめた。
「もういいだろ。こいつに同情するだけ、時間の無駄だ。」
数秒の静寂。そして、レオンは頷いた。
「――わかった。全部、理解した。」
手にしていた冒険者徽章を外し、机の上に置いた。カチリ、と小さな音が響く。
その音が、レオンの冒険者としての人生を終わらせる合図になった。
* * *
追放された当日、夜の街は雨だった。
レオンは薄い外套一枚で王都北門を出た。背にしょっているのは、使い古した剣と水筒、そして小袋に入った銀貨を数枚。
土の道を歩くたび、ぬかるみが靴に絡む。
頭上の空は雲に覆われ、星一つ見えない。
「……滑稽だな、俺。」
口に出した声は、やけに軽かった。心のどこかで予感していたのだ。いつかこうなると。
仲間たちの実力が上がるにつれ、レオンだけが取り残されていく。戦闘のたびに怪我し、後方支援ですら失敗した。
「役立たず」と陰口を叩かれながらも、仲間と笑顔で食卓を囲んだあの夜が、もう遠い。
王都から離れるほど、霧が濃くなった。森の入口に入ると、雨音が木々に吸い込まれて静寂に変わる。
そのとき――。
視界の端で、柔らかな光が瞬いた。
「……火?」
淡い、青白い炎のような輝きが宙に漂っている。
近づくと、それはまるで炎ではなく、人の姿をしているようにも見えた。
「誰だ?」
問いかけると、光が砕け、中心から透き通るような声が響いた。
『……やっと、見つけた。黎明の継承者……』
「は?」
目の前に現れたのは、奇跡のような存在だった。
銀の髪に、翡翠の瞳、肌は月光のように白い。
彼女はふわりと地に降り立ち、裸足のままレオンの前に立つ。
「あなたが、封印の鍵を持つ者。」
「封印? 鍵? 何の話だ。」
「あなたの名は、レオン・グレイス。千年前、我が主が託した“権能”を、その魂に宿している。」
あまりにも非現実的な言葉に、レオンは乾いた笑いを漏らした。
「すまん、女神さま。俺はただの追放者だよ。力も何もない。」
だが、次の瞬間、周囲に圧倒的な魔力の波が広がった。
森の木々が鳴動し、足元の大地が震える。レオンの胸が灼けるように熱くなる。
気づけば、右手の甲に未知の紋章が浮かび上がっていた。それは金色に輝き、炎と光が交じる模様。
『……それが、黎明の印。あなたこそ“黎明の王”の継承者。』
「嘘だろ……俺に、そんな力が……」
「無能と呼ばれる者ほど、眠る力は大きい。封印を解くには、絶望が必要だった。」
女神は穏やかに微笑んだ。その姿は、まるで長い眠りから目覚めた聖なる存在のようで。
レオンの喉が鳴る。心臓は、信じられないほど速く鼓動していた。
「……俺が、継承者? でも、そんなに都合のいい話があるかよ。」
「ならば、試してみるといい。」
光の槍が女神の手に生まれた。その先端から放たれる魔力が、空気を焼く。
「これを受け止められれば、あなたの言葉は現実になる。」
一瞬で放たれた光。
レオンは避けられなかった。反射的に右手を前に出しただけ。
だが、次の瞬間――“何か”が咆哮した。
爆発の中心にいたはずのレオンは、無傷だった。
代わりに、彼の掌を中心に光の結界が展開されている。幾何学模様が重なり、女神の槍を完全に飲み込んでいた。
「……な、なんだ……これ……」
『黎明の権能《オリジン・ブレイカー》が発動した。』
女神は微笑したまま、小さく呟いた。
「ようやく、目覚めの時が来た。」
レオンの身体が震える。力が内から溢れ出して止まらない。視界に、文字が浮かんだ。
==========
スキル:黎明の権能(発動条件・覚醒済)
効果:全魔法体系の支配、属性干渉権限付与
==========
「……は?」
そんなスキル、聞いたことがない。
レオンが冒険者として登録したとき、表示されたスキル欄には「無し」とだけ書かれていたはずだ。それが今、目の前にとんでもない表示が浮かんでいる。
女神は歩み寄り、彼の頬に触れた。冷たくて、どこか懐かしい温もり。
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「真実……?」
「この大地を蝕む“神の呪い”。それを解けるのは、あなたただ一人。」
レオンは混乱しながらも、何故かその言葉を否定できなかった。胸の奥深くに、確かな熱と衝動があった。
彼はゆっくり拳を握る。
「……いいだろう。試してみる。俺が、本当に何者か。」
その言葉に応じるように、印が光る。地の底から力がせり上がり、雷鳴が響く。
女神は微笑んだまま、その光へと溶けるように姿を消した。
『我が名はルミナ。再び会う日まで、黎明の王よ。』
光が消えたとき、森は静寂を取り戻していた。だが、レオンの心はもう以前の彼ではなかった。
手の中に残った微かな光が、まるで彼の選択を祝福するように脈打っている。
「無能、ね。……面白ぇじゃねぇか。」
レオンは空を見上げた。止んだ雨雲の隙間から、月が顔を出していた。
それはまるで、新しい世界の夜明けを告げるかのように、青白く輝いていた。
続く
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