無自覚に世界最強だった俺、追放後にチートがバレて全員ざまぁされる件

fuwamofu

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第6話 噂になる「名無しの英雄」

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 フェンバルドの大通りは、戦後の混乱が嘘のように賑わっていた。  
 黒煙が上がった北門の跡も修復が進み、人々は不安よりも「救われた」という喜びの色を強く見せている。  
 だが、その中心に俺の名前が流れていることを、当の本人だけが複雑な気分で見ていた。  

「きっと、リオさんがいなければ、町は壊滅していました。あの人たちは恩人を忘れません」  
 宿の二階の窓から外を眺めながら、リリアが嬉しそうに言う。  
 彼女の尻尾は上機嫌に揺れていた。  
「嬉しいって言いたい気持ちはわかるけど……俺は別に名乗った覚えもないぞ」  
「でも、“名無しの英雄”って呼び名、すごくかっこいいですよ!」  
「やめてくれ。その呼ばれ方が一番落ち着かない」  
 俺は苦笑しつつ、窓から目を逸らした。  

 宿の下の食堂では、既に噂が広がっていた。  
 “黒狼群を一撃で薙ぎ払った光の槍”“神殿を逃れた聖者と共に動く青年”“救世主が生まれた”——どれも誇張に満ちていた。  
 俺が望んだのはそんな称号じゃない。ただ、目の前のものを守ること、それだけだったのに。  

 セリアが静かに扉を開け、部屋に入ってくる。  
「落ち着かないようですね」  
「これだけ大げさに話が広がれば、落ち着く方が無理だろう」  
「人々は希望を求めています。あなたはその象徴となってしまった」  
 セリアの声は穏やかだが、どこか遠くを見つめるようだった。  

「神殿も動くでしょう。今回の魔獣出現は単なる偶発ではありません。黒霧の発生源がフェンバルド近隣にあるとしたら……王都がこれを放置しません」  
「つまり、また追われるってことか」  
「“保護”の名の下に、あなたを管理しようとするでしょうね」  
 俺は息を吐いた。  
「まるで、昔のギルドと同じだな。力を認めるよりも先に、枠にはめたがる」  
「組織とはそういうものです。ですが、あなたが拒めば、彼らは確実に“異端”と見なす」  

 そうなれば、この町も巻き込まれる。俺の存在そのものが災いの種になる。  
 窓の外では子どもたちが「英雄ごっこ」をして遊んでいた。  
 木の棒を振り回し、「リオ様だぞー!」と笑いながら。  
 胸の奥に温かく、そして痛いものが同時に広がる。  

***  

 夜、宿屋の裏庭で剣を振っていると、リリアが小さな灯りを持って近づいてきた。  
「練習中ですか?」  
「ああ、体を鈍らせると、動きがぎこちなくなるんだ」  
「でも、リオさんはもともとすごく強いじゃないですか」  
「“強い”んじゃない。勝手にそうなってただけだ。俺自身、未だにこの力の取り扱い方が分かっていない」  
 振り下ろした木剣が夜気を裂く。音が静寂に吸い込まれる。  
 リリアはそんな俺の背中を見つめ、しばらく黙っていたが、やがて柔らかく言った。  

「……そんな孤独な目、しなくていいですよ」  
「え?」  
「誰かを救おうとするたびに、リオさんは一人になっちゃう。でも、私はそばにいます。ずっと」  
 その言葉に胸を打たれた。  
 照れ隠しに頭をかくが、顔の熱は簡単には引かなかった。  
「ありがとう。……それを聞くと、少し救われるな」  
 リリアが微笑み、星空を見上げた。  
「英雄さんなんて呼ばれたって、リオさんはリオさんのままです」  
 小さな声でそう呟く。  

***  

 翌朝、フェンバルドの広場にギルドの使者が現れた。  
 王都の紋章をつけた馬乗りの使者たちが、街の中央で布告を読み上げる。  
「“名無しの英雄”に告ぐ。王都は正式にその功績を称え、聖堂にて叙勲の儀を行う。近日中に王都への来訪を命ず——」  
 広場が大きくざわめいた。誰もが英雄の名が称えられる展開を喜んでいるようだった。だが、セリアだけは青ざめた顔で呟く。  
「やはり、来ましたか……彼らはあなたの力を欲している」  
「行ったらどうなる?」  
「表向きは栄誉。実際には拘束です。王に仕える“神器”として扱われるでしょう」  
「なるほど。鎖の種類が違うだけだな」  

 リリアは怒ったように拳を握る。  
「そんなの嫌です! せっかく自由になったのに、また誰かの道具にされるなんて!」  
「俺も行く気はない。だが問題は、それで彼らが諦めるかどうかだ」  
 セリアは深く頷いた。  
「おそらく、諜報部が既に動いています。魔道通信によれば、この町の周辺に神殿騎士が配備され始めたとの報です」  

 その瞬間、宿の外から緊急の鐘が鳴った。  
 人々がざわめき、通りに兵士たちが駆け込んでくる。  
 窓の外に目をやると、王都の紋章を掲げた旗が、列をなして町へ入っていた。  
「……早すぎる」  
 セリアが低く呟く。  
「彼らの目的は私ではない。リオ様、あなたを“保護”するという名の拘束です」  
 リリアが息を呑む。  

 荷をまとめる暇もない。俺たちは裏口から宿を抜け、裏通りを駆け抜けた。  
 遠くから命令の声や鎧の軋みが響く。  
 フェンバルドの石畳が夜明けの光に濡れている。  
 逃亡ではない。だが、戦う必要もない。力を使えば、人々を再び巻き込むことになる。  

 門の近くで、腰を抜かした商人が呟くのが聞こえた。  
「なあ、お前聞いたか? 英雄様が“神殿を裏切った”って……」  
 その言葉に胸が痛んだ。  
 まだ何も裏切っていない。けれど、権力から見れば、従わない者はすべて同じ「敵」になる。  

 城壁の影に身を潜めながら、俺は深く息を吐いた。  
「どうやら、“名無しの英雄”って呼び名、本当に皮肉だな」  
「英雄だからこそ、世界はあなたを放っておけないのでしょう」  
 セリアが小さく微笑む。その横顔はどこか覚悟を宿していた。  

「行きましょう、南へ。古代遺跡のひとつ、“風の谷”が近いはずです。神殿の手が届かぬ地です」  
 リリアが頷き、俺の腕を掴む。  
「どこまでも行きます。だって、リオさんの物語はまだ始まったばかりですから」  

 朝日の向こうに広がる新たな風景に、俺はわずかに笑った。  
 ——名無しの英雄? そんなもの、俺には似合わない。  
 ただ守りたい者がいる。それだけで十分だ。  

 その決意を胸に、俺は再び歩き出した。  

(第6話 終)
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