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第3話 森で出会った涙の少女
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朝日が差し込み、木々の間を金色に染めていく。夜の冷えがまだ残る森の中を、レインとリア、そしてスライム――神獣ルミナが並んで歩いていた。鳥の鳴き声と、遠くで流れる小川の音が混じり合い、まるでこの場所だけが世界の穏やかさを取り戻しているようだった。
「ふふ、ルミナって不思議ですね。見ていると、なんだか心が落ち着きます。」
リアが笑うと、ルミナは嬉しそうにぷるんと跳ねて、彼女の肩の上に飛び乗った。
「懐かれたな。」
レインは苦笑いする。昨日出会ったばかりなのに、ルミナはもう家族のように二人に懐いていた。
「神獣のルミナは“心の波長”に反応して従うと言われています。あなたたちの波長が合っている証拠ですね。」
「波長か。オレたち、そんなに似てるように見える?」
リアは少し考えてから微笑んだ。「やさしさの質が似ている気がします。どちらも、自分が傷つくことを恐れていない優しさです。」
その言葉に、レインは複雑な表情を浮かべた。
「……それで仲間に嫌われたんだけどな。」
「それは、見る目のない人たちですね。」
リアの言葉には怒りに似た感情が籠もっていた。
森の空気が一瞬、静まる。彼女の言葉の奥には、単なる励ましではなく、何かを知っているような響きがあった。
レインが言葉を探していると、突然、ルミナが「ピィイイッ」と鳴き、空中に光を放った。
「どうした?」
ルミナが指す方向――木々の間に、もう一人の少女が倒れていた。
服は破れ、体中に擦り傷。焦げ跡があることから、何かに襲われたのだろう。髪は栗色で、年はリアより少し下くらいに見える。
「また……?」レインは駆け寄り、彼女を抱き起こした。「おい、大丈夫か!」
少女の唇がかすかに動いた。「た、助けて……妹が、まだ森の奥に……」
「妹?」
「はい……魔物に、連れ去られて……お願いです、助けて……」
声は弱々しく、すぐに意識が途切れた。
レインは彼女をそっと木の根元に寝かせた。リアがすぐに癒しの魔法を放つと、少女の傷が光とともに癒えていく。
「リア、彼女を頼む。俺は妹を探す。」
「待ってください、危険です! 一人で行くなんて――」
「大丈夫。ルミナもついてる。」
ルミナが「ピュルッ」と鳴き、まるで誇らしげに体を膨らませた。リアは一瞬ためらったが、決意したように頷いた。
「……わかりました。必ず、生きて帰ってきてください。」
レインは軽く笑う。「任せとけ。」
*
森の奥は、さっきまでの穏やかさが嘘のように重苦しかった。木々が不自然に折れ、地面には大きな爪跡が残っている。魔物の気配が濃い。
レインは剣を抜き、ルミナと共に慎重に進む。すると、遠くの茂みから小さな泣き声が聞こえた。
「……あれだな。」
彼が駆け寄ると、そこには幼い少女が木の根に絡まれていた。泣きじゃくりながら必死に手を伸ばしている。その背後には、黒い霧のような魔物――シャドウウルフが牙を剥き、今にも飛びかかるところだった。
「間に合え!」
レインは瞬時に剣を振り抜く。光が迸り、ウルフの体を一閃した。その勢いに押され、魔物は断末魔を残して霧のように消える。
「今の……オレの技じゃない……」
振り下ろした剣は眩いほどに光を帯びていた。まるで、神の力が宿ったかのように。
しかし考えている暇はなかった。少女に駆け寄り、絡まった蔦を外す。
「もう大丈夫だ。怖かったな。」
「お兄ちゃん……ありがとう……」
涙に濡れた小さな顔が、ほんの少し笑った。その笑顔を見た瞬間、レインの胸の奥に温かい何かが広がった。
彼は少女を抱き上げ、ルミナと共に来た道を戻る。
*
戻った先では、リアが少女の姉を介抱していた。レインが妹を連れて戻る姿を見ると、リアは心底ほっとしたように息をついた。
「妹さん!」
倒れていた少女――姉が目を開け、妹を見つけて泣き崩れた。二人は強く抱き合い、離れようとしなかった。
「よかった、本当によかった……」
リアは目元をぬぐう。そんな彼女を見て、レインも自然に微笑んだ。
「さて、怪我も治ったことだし。ここに長くはいられないな。盗賊や魔物がまだいるかもしれない。」
「その前に……」リアが言いかけて、彼の腕を掴む。「レイン、その剣……見せてもらえますか?」
レインは抜き身を手渡す。刃が淡く光を帯び、紋章のような模様が浮かび上がっていた。それは昨日リアが見た神の印と同じだった。
「やはり……あなたの中の加護が、剣にも宿り始めています。」
「宿り……?」
「加護の力が、周囲の物質に影響しているのです。あなたが意識せずとも、神はあなたを通して力を具現化させている。」
「俺、やっぱり普通じゃないんだな……」
自嘲気味の笑みを浮かべるレイン。けれどリアは首を振った。
「普通ではない。でも、恐れる必要はありません。神があなたを選んだのなら、それには理由があるはずです。」
レインは空を見上げた。木々の隙間から、まばらに光が差し込んでいる。その光が、まるで彼の未来を照らしているように思えた。
「理由、か……。だったら、見つけてやるさ。オレのこの力の意味を。」
リアはほほえみ、ルミナが再び彼の肩に乗る。金色の球体のような体が、嬉しそうに輝いた。
姉妹は二人に深く頭を下げた。
「本当に……本当にありがとうございました。お二人がいなければ、私たちは――」
「いいさ。」レインは手を振る。「困ってる人を助けるのは……冒険者の仕事だからな。」
その言葉に、リアが少し驚いた顔で彼を見つめた。
「もう一度、冒険者になるつもりですか?」
「“追放された”だけで、やめたつもりはなかったよ。」
焚き火の残り火が、ぱちぱちと弾けた。
「じゃあ次は、王都だな。」
「はい。おそらく、あなたに加護を与えた神々の痕跡が、王都の教会にあるはずです。」
「教会か……。皮肉だな。前のパーティーも、あそこで俺を“無能”って断じたのに。」
リアは首を振り、静かに言った。
「きっと、今度は真実の目があなたを見ることになります。」
レインは苦笑しながら肩をすくめた。
「真実か……。じゃあ、見せてやろう。オレがどれだけ“無自覚”に強くなっちまったのかをな。」
風が吹き、木の葉が宙で踊る。ルミナが空へ跳ね、瞬間、光の粒が降り注いだ。
まるで神々が、彼の決意に頷くかのように――。
こうして、神に選ばれし最弱の青年と王女の旅は、新たな段階へ踏み出した。
(続く)
「ふふ、ルミナって不思議ですね。見ていると、なんだか心が落ち着きます。」
リアが笑うと、ルミナは嬉しそうにぷるんと跳ねて、彼女の肩の上に飛び乗った。
「懐かれたな。」
レインは苦笑いする。昨日出会ったばかりなのに、ルミナはもう家族のように二人に懐いていた。
「神獣のルミナは“心の波長”に反応して従うと言われています。あなたたちの波長が合っている証拠ですね。」
「波長か。オレたち、そんなに似てるように見える?」
リアは少し考えてから微笑んだ。「やさしさの質が似ている気がします。どちらも、自分が傷つくことを恐れていない優しさです。」
その言葉に、レインは複雑な表情を浮かべた。
「……それで仲間に嫌われたんだけどな。」
「それは、見る目のない人たちですね。」
リアの言葉には怒りに似た感情が籠もっていた。
森の空気が一瞬、静まる。彼女の言葉の奥には、単なる励ましではなく、何かを知っているような響きがあった。
レインが言葉を探していると、突然、ルミナが「ピィイイッ」と鳴き、空中に光を放った。
「どうした?」
ルミナが指す方向――木々の間に、もう一人の少女が倒れていた。
服は破れ、体中に擦り傷。焦げ跡があることから、何かに襲われたのだろう。髪は栗色で、年はリアより少し下くらいに見える。
「また……?」レインは駆け寄り、彼女を抱き起こした。「おい、大丈夫か!」
少女の唇がかすかに動いた。「た、助けて……妹が、まだ森の奥に……」
「妹?」
「はい……魔物に、連れ去られて……お願いです、助けて……」
声は弱々しく、すぐに意識が途切れた。
レインは彼女をそっと木の根元に寝かせた。リアがすぐに癒しの魔法を放つと、少女の傷が光とともに癒えていく。
「リア、彼女を頼む。俺は妹を探す。」
「待ってください、危険です! 一人で行くなんて――」
「大丈夫。ルミナもついてる。」
ルミナが「ピュルッ」と鳴き、まるで誇らしげに体を膨らませた。リアは一瞬ためらったが、決意したように頷いた。
「……わかりました。必ず、生きて帰ってきてください。」
レインは軽く笑う。「任せとけ。」
*
森の奥は、さっきまでの穏やかさが嘘のように重苦しかった。木々が不自然に折れ、地面には大きな爪跡が残っている。魔物の気配が濃い。
レインは剣を抜き、ルミナと共に慎重に進む。すると、遠くの茂みから小さな泣き声が聞こえた。
「……あれだな。」
彼が駆け寄ると、そこには幼い少女が木の根に絡まれていた。泣きじゃくりながら必死に手を伸ばしている。その背後には、黒い霧のような魔物――シャドウウルフが牙を剥き、今にも飛びかかるところだった。
「間に合え!」
レインは瞬時に剣を振り抜く。光が迸り、ウルフの体を一閃した。その勢いに押され、魔物は断末魔を残して霧のように消える。
「今の……オレの技じゃない……」
振り下ろした剣は眩いほどに光を帯びていた。まるで、神の力が宿ったかのように。
しかし考えている暇はなかった。少女に駆け寄り、絡まった蔦を外す。
「もう大丈夫だ。怖かったな。」
「お兄ちゃん……ありがとう……」
涙に濡れた小さな顔が、ほんの少し笑った。その笑顔を見た瞬間、レインの胸の奥に温かい何かが広がった。
彼は少女を抱き上げ、ルミナと共に来た道を戻る。
*
戻った先では、リアが少女の姉を介抱していた。レインが妹を連れて戻る姿を見ると、リアは心底ほっとしたように息をついた。
「妹さん!」
倒れていた少女――姉が目を開け、妹を見つけて泣き崩れた。二人は強く抱き合い、離れようとしなかった。
「よかった、本当によかった……」
リアは目元をぬぐう。そんな彼女を見て、レインも自然に微笑んだ。
「さて、怪我も治ったことだし。ここに長くはいられないな。盗賊や魔物がまだいるかもしれない。」
「その前に……」リアが言いかけて、彼の腕を掴む。「レイン、その剣……見せてもらえますか?」
レインは抜き身を手渡す。刃が淡く光を帯び、紋章のような模様が浮かび上がっていた。それは昨日リアが見た神の印と同じだった。
「やはり……あなたの中の加護が、剣にも宿り始めています。」
「宿り……?」
「加護の力が、周囲の物質に影響しているのです。あなたが意識せずとも、神はあなたを通して力を具現化させている。」
「俺、やっぱり普通じゃないんだな……」
自嘲気味の笑みを浮かべるレイン。けれどリアは首を振った。
「普通ではない。でも、恐れる必要はありません。神があなたを選んだのなら、それには理由があるはずです。」
レインは空を見上げた。木々の隙間から、まばらに光が差し込んでいる。その光が、まるで彼の未来を照らしているように思えた。
「理由、か……。だったら、見つけてやるさ。オレのこの力の意味を。」
リアはほほえみ、ルミナが再び彼の肩に乗る。金色の球体のような体が、嬉しそうに輝いた。
姉妹は二人に深く頭を下げた。
「本当に……本当にありがとうございました。お二人がいなければ、私たちは――」
「いいさ。」レインは手を振る。「困ってる人を助けるのは……冒険者の仕事だからな。」
その言葉に、リアが少し驚いた顔で彼を見つめた。
「もう一度、冒険者になるつもりですか?」
「“追放された”だけで、やめたつもりはなかったよ。」
焚き火の残り火が、ぱちぱちと弾けた。
「じゃあ次は、王都だな。」
「はい。おそらく、あなたに加護を与えた神々の痕跡が、王都の教会にあるはずです。」
「教会か……。皮肉だな。前のパーティーも、あそこで俺を“無能”って断じたのに。」
リアは首を振り、静かに言った。
「きっと、今度は真実の目があなたを見ることになります。」
レインは苦笑しながら肩をすくめた。
「真実か……。じゃあ、見せてやろう。オレがどれだけ“無自覚”に強くなっちまったのかをな。」
風が吹き、木の葉が宙で踊る。ルミナが空へ跳ね、瞬間、光の粒が降り注いだ。
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(続く)
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