最強お嬢様の重課金ガトリング砲無双記

かるみあ

文字の大きさ
6 / 21
淑女の嗜みはガトリングですわ

最高峰のメイド、見つけましたわ!

しおりを挟む


 VRMMO『ワールド・オブ・カラピーヌ』の王都は、かつてない熱気に包まれていた。
 広場に集まったプレイヤーたちが、巨大な掲示板を見上げながら口々に騒いでいる。

​『聞いたか? 次の公式イベント、タッグ制のサバイバルだってよ!』
『報酬に激レアの『空間魔法の書』があるらしいぜ。これさえあれば、重量制限なんておさらばだ!』

​ そんな喧騒を、セシリアは、愛用のガトリング砲を日傘のように肩に担ぎながら、優雅に眺めていた。

​「あら。何やら皆さん、お行儀が悪くていらっしゃいますわね。そんなに慌てなくても、ゴミ(敵)ならいくらでもわたくしが片付けて差し上げますのに」

​ セシリアが微笑みながら通り過ぎようとすると、先ほどまで熱く語っていたプレイヤーたちが、氷を投げつけられたかのように一瞬で静まり返った。

 それどころか、『ひいっ!セシリア天災だ!』『目を合わせるな、金の暴力が来るぞ!』などと失礼なことを呟きながら、クモの子を散らすように道を開けていく。

​「ふふ、皆様、わたくしの放つ高貴なオーラに気圧されて言葉を失っていらっしゃるようですわね。……困りましたわ、淑女として、これ以上存在感を抑える方法など存じませんのに」

​ セシリア本人は周囲の恐怖を「敬意」と脳内変換していた。まぁ、それはそれとして、掲示板の内容には興味を引かれた。
 公式イベント『ペア・サバイバル』。どうやら二人一組で挑まなければならないルールのようだ。
​ セシリア一人でも殲滅は可能だが、ルールとあれば仕方がない。
 しかし、適当な人物を相棒に選ぶわけにもいかなかった。

​「ペア……。そうですわ、わたくしの傍に立つのですから、わたくしに相応しい給仕をしてくださるメイドが必要ですわね」

 戦場は過酷だ。
 お掃除(殲滅)の合間に、優雅に紅茶を淹れ、美味しいパンを差し出してくれる。
 そんなプロフェッショナルがいれば、日々の活動もより一層はかどるというものだ。

​「決まりましたわ。まずは一億ゴールドのパンの欠片を拾うに相応しい、気品ある給仕係(メイド)を『お買い上げ』しに参りましょう!」

 セシリアは逃げ惑う一般プレイヤーたちには目もくれず、可憐なメイドが落ちていそうな(?)高レベルフィールドへと、軽やかな足取りで踏み出した。




​ 王都から少し離れた高レベル帯フィールド『静寂の廃都』。
 そこは強力なモンスターが徘徊する危険地帯だが、その一角にある崩れた岩陰に、一人の少女が潜んでいた。

​「はぅ……今日も誰にも見つからず、平和に過ごせそうです……」

​ 彼女の名前はモカ・マリーノ。
 極度の引っ込み思案である彼女は、誰の目にも触れたくないという一心で隠密スキルを磨き続け、いつの間にか最高峰プレイヤーにまで登り詰めてしまった少女だ。
 
 彼女が発動させているパッシブスキル【鉄壁の隠密】は、自身の防御力を隠密性に変換する。装備をガチガチに固めた彼女の存在は、今やシステム上「そこには誰もいない」も同然のレベルにまで消えていた。

 モカは膝を抱え、ガクガクと震えながら、人がいなくなるのを待つ。
​ だが、その静寂は、場違いな金属音と優雅な足音によって破られた。

​「あら。このあたりは、少し空気が淀んでいらっしゃいますわね。お掃除のしがいがありますわ」

​ ガシャリ、とガトリング砲を杖代わりに突き立て、一人の少女が廃墟に降り立つ。
 そう、セシリアだ。
 彼女は周囲を警戒する様子もなく、まるで自分の庭を散歩するかのように悠然と歩いていた。

​(な、何……? あの人、隠れる気もゼロだし、あんな大きな武器を持って……。だ、ダメですよ、そんなに目立ったらモンスターに囲まれちゃう……!)

​ モカは岩陰から息を殺して見守る。
 本来なら、隠密中のモカを視認できるプレイヤーなどこのサーバーには存在しない。
 だが、セシリアがふと足を止め、モカの隠れている岩の方へ顔を向けた。

​「……あら? まぁ、まぁ! あんなところに、とっても素敵なメイドさんが落ちていますわ!」

​ セシリアはぱぁっと顔を輝かせ、一直線にモカへと歩み寄る。

​(えっ!? !? な、なぜ見つかったんですかぁぁ!? 私、スキル全開ですよ!? 防御力も隠密性も最大のはずなのに!?)

​ 驚愕に目を見開くモカを余所に、セシリアは至近距離まで詰め寄ると、満足げに頷いた。

​「その片目を隠した慎ましやかな佇まい……まさに、わたくしの傍に控えるに相応しい逸材ですわね!」

​ システム上の隠密判定など、セシリアの「メイド服への執着心」の前では無力に等しかった。
 こうして、世界最高の隠密(ひきこもり)は、世界最悪の天災(お嬢様)に、物理的に補足されてしまったのである。​

​「ひ、ひぃっ……!? ご、ごめんなさい、ごめんなさい! 見逃してくださいぃ……っ!」

​ モカは半泣きになりながら、全速力でその場から離脱しようとした。トップランカーである彼女の移動速度は、本来なら他者の追随を許さない。
 しかし、逃げようとした彼女の細い肩を、白く柔らかな、けれど万力のような力がガシッと掴み取った。

​「まぁ、そんなに照れなくてよろしくてよ。わたくし、逃げる方を追いかけるのも嫌いではありませんわ」

 その言葉が耳に届いた瞬間、モカの思考が不自然なほど静まった。
 震えは止まらない。けれど、視界だけが冴え渡る。
 地面のひび割れ。
 崩れた塔の影。
 巡回中のモンスターの足音の間隔。
 風向き。

(……三手で、振り切れます)

 肩を掴む指の力が、ほんのわずかに緩む刹那。
 モカの姿が、すっと揺らいだ。
 地面を蹴る音はない。砂埃も立たない。
 掴まれていたはずの身体は、煙のようにその場から消え、数メートル先の瓦礫の影へと滑り込む。
 トップランカーの名に相応しい、教科書通りの隠密機動。
 ――上位勢にも通用するだろう。……だが相手はあのお嬢様だ。

「まぁ、すごいですわね」

 楽しげな声が、すぐ真横から響く。
 ガトリング砲の銃身が、逃走ルートの先を優雅に塞いでいた。

「逃げる瞬間の呼吸の乱れ、確かに聞き届けましたわ。わたくしのガトリングが奏でる重低音に比べれば、あまりに可愛らしい合図ですこと」
「う、嘘……」

 お嬢様には見えていない、音も立てていない。
 システム上、自分は存在しないはずなのに。
 それでもこのお嬢様は、迷いなく最短距離に立っている。

​「決まりましたわ。貴女、とってもいい反応をなさいますのね。わたくしのメイド(ペア)として合格ですわ!」
​「……えっ、あ、あの……ペア!? 私、そんな……ひっ!?」

​ セシリアはモカの言い分を一切聞くことなく、その細い手首を掴むと、まるでぬいぐるみでも運ぶかのような軽やかさで彼女を引きずり始めた。

​「さあ、まずは実践へと参りましょう。相性が悪ければタッグなど組めませんもの」
「ところで、お名前は?」
「も、モカ・マリーノです! わ、私、同意してませんよぉ……!」

 こうして、一人の引っ込み思案な少女が、天災お嬢様の手によって強引に表舞台へと連れ出されていくのであった。




 お嬢様に手首を掴まれたまま連行された先は、フィールドの門番たる巨大なゴーレムが居座る難所だった。
 並のプレイヤーなら数人がかりで挑むボスを前に、セシリアは楽しげに鼻歌を歌いながらガトリング砲を水平に構える。

​「あら、ちょうどいいところに大きなゴミが落ちていますわね。モカさん、まずはわたくしがお手本を見せて差し上げますわ」
​「えっ、あ、あの、無理ですよぉ! あんな大きな相手、逃げるしかありませんって!」

​ モカが震えながら制止しようとするが、セシリアの人差し指はすでに引き金にかかっていた。
 直後、静寂の廃都に地響きのような轟音が鳴り響く。
​ 毎分六千発。放たれた弾丸の嵐は、ゴーレムの重装甲を紙細工のように削り取り、周囲一帯を爆風と衝撃波の海へと変えていく。

​「ひ、ひゃああああああっ!?」

​ お嬢様のすぐ背後にいたモカは、立つだけで精一杯だ。

「今ですわモカ! やっておしまい!」
​「無茶言わないでくださいよぉ……!」

 爆風に煽られながら、モカは反射的にしゃがみ込む。
 視界の端で、ゴーレムのコアが露出しているのが見えた。
 分厚い装甲が削れ、胸部中央に淡く脈動する光。

(む、無理です……あんなところまで近づいたら――)

 ゴーレムの腕が振り上がる。
 衝撃波が一直線に走る。
 その時、モカの足が勝手に動いた。
 地面を蹴り、瓦礫の影へ。
 恐怖で涙目のまま、身体だけが最適解を選び続ける。

(ち、違います……私、逃げてるだけで――)

 次の一歩で、ゴーレムの懐に入り込んでいた。
 モカは震える手で短剣を握る。

「ひぃぃ……ご、ごめんなさい……!」

 謝りながら、突き出す。
 コアの中心、わずかな亀裂に刃が正確に吸い込まれた。
 次の瞬間、光が内側から弾ける。
 ゴーレムの巨体が、音を立てて崩れ落ちた。

 瓦礫の上にへたり込んだモカは、まだ目をぎゅっと閉じたままだ。

「……あれ?」

 恐る恐る目を開ける。
 目の前には、完全に停止したボスの残骸。
 システムログには【討伐成功】の文字。

「わ、私……何もしてませんよね……?」
「まぁ!」

 セシリアが心底楽しそうに拍手する。

「最後の一突き、実にお見事でしたわ! わたくしのガトリングでさえ、あと三秒は余計に弾丸ゴールドを浪費するところでしたわ」
「え、ええええええっ!?」

 そう驚くモカに、セシリアがさらに畳み掛ける。

「早速受付に行きますわよモカ!」
「な、何がなんでも展開が早すぎませんか……?!」
「思い立ったが吉日――いいえ、淑女の直感は、運命すら待たせませんわ!」
「なんなんですかぁ、それ……」


 ​王都の広場にあるイベント受付所は、ペアを組む相手を探すプレイヤーたちでごった返していた。
 そこへ、煤(すす)だらけで涙目のメイドを引きずりながら、黄金のガトリング砲を担いだセシリアが颯爽と現れた。

​「あら、皆様、わたくしのために道を開けてくださるなんて。お気遣い痛み入りますわ」

​ 彼女は優雅に会釈しながら受付カウンターへ歩み寄る。

「受付の方。この方と、わたくし――セシリア・フォン・ローゼンブルクをペアとして登録なさい」
​『は、はい……っ、かしこまりましたぁ!』

​ 受付のNPCすら、セシリアの圧に引きつった笑顔で手続きを開始する。
 一方で、カウンターに突っ伏してプルプルと震えているモカに、周囲のプレイヤーたちがひそひそと囁き合った。

​『おい、見ろよ……あのトッププレイヤーの『隠密のモカ』だろ? なんで捕まってんだ?』
『しかもボロボロじゃないか……。あのお嬢様、あのモカを無理やり見つけて捕獲したのかよ……バケモノすぎるだろ……』

​ そんな外野の評価など、セシリアの耳には一文字も入らない。
 手続きが進む中、システムウィンドウが二人の前に表示された。

【ペア登録を完了しますか? ※期間中の変更はできません】
​「あ、あの……お嬢様……本当に私でいいんですかぁ? 私、逃げることしかできませんよぉ……っ」

​ 消え入りそうな声で最後の抵抗を試みるモカに対し、セシリアは彼女の肩に優しく(物理的には重厚に)手を置いた。

​「何を仰るのかしら。わたくしの背後でお掃除をサポートする。これほど名誉なことはありませんわよ? さあ、早く『はい』を押してご覧なさいな」

​ セシリアの笑顔の背後に、巨大な札束(の幻影)とガトリングの銃口が見えた気がして、モカは絶望しながらも承認ボタンを押した。

​【ペア登録が完了しました! チーム名:【ローゼンブルクお掃除隊】】
​「お、お掃除隊……。私の平和な隠居生活がぁ……っ」
​「ふふ、決まりましたわね! さあモカさん、まずはその煤けた服を着替えに参りましょう。わたくしに相応しい、最高級のメイド服を新調して差し上げますわ!」
​「えっ、そ、それはちょっと嬉しいかも……あぅ、でも、絶対その後に酷い目に遭わされますよねぇぇ!」

 お嬢様の高笑いと、メイドの悲痛な叫びを乗せて、王都の空にシステムメッセージのファンファーレが鳴り響いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

人見知りと悪役令嬢がフェードアウトしたら

渡里あずま
恋愛
転生先は、乙女ゲーの「悪役」ポジション!? このまま、謀殺とか絶対に嫌なので、絶望中のルームメイト(魂)連れて、修道院へ遁走!! 前世(現代)の智慧で、快適生活目指します♡ 「この娘は、私が幸せにしなくちゃ!!」 ※※※ 現代の知識を持つ主人公と、異世界の幼女がルームシェア状態で生きていく話です。ざまぁなし。 今年、ダウンロード販売を考えているのでタイトル変更しました!(旧題:人見知りな私が、悪役令嬢? しかも気づかずフェードアウトしたら、今度は聖女と呼ばれています!)そして、第三章開始しました! ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身

にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。  姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

退屈令嬢のフィクサーな日々

ユウキ
恋愛
完璧と評される公爵令嬢のエレノアは、順風満帆な学園生活を送っていたのだが、自身の婚約者がどこぞの女生徒に夢中で有るなどと、宜しくない噂話を耳にする。 直接関わりがなければと放置していたのだが、ある日件の女生徒と遭遇することになる。

処理中です...