世界で一番幸運で不幸な男

夢野 深夜

文字の大きさ
4 / 9

第2章 驚天動地(その2)

しおりを挟む

 ――願い事。

 IQ5000の高い知能を誇る俺は、願い事を言えば叶うという状況を一度も考えなかったわけではない。
 流れ星が現れる一瞬のうちで3回唱える願い事。7月7日の七夕で短冊に願い事を書き飾ったこと。
 そんな純粋な心で願ってきたこれまでの人生で、願い事を叶えてくれる存在が初めて目の前に現れた。

 皆なら、いったい何を願うだろうか――?

「――アナタはまず、クラスで馴染めるように願ったら?」

「おい栞菜。俺がクラスで浮いているという前提で話を進めるな。俺はしっかり地に足のついた学校生活を送っている。灯里は陸上部の大会で優勝できるように願ったらどうだ?」

「そういうのは願いで手に入れたら、価値が下がるんだよねぇ。自分の力で勝ち取るためにこれまで努力してきたのに、てさ。栞菜ちゃんは生物部に来てくれる生き物を願いで決められるんじゃないぃ?」

「う~、そういうのは運命に任せたい気持ちが。あ~でも……う~、悪魔の囁きだわ~ッ」

「“灯里”の囁きだけどな!」
「その言い方はウマくないよぉ」
「ネーミングセンスだけでなく、ギャグセンスも哀れね……」
 三人寄れば文殊の知恵というが、3人顔を突き合わせて相談するも、一向に決まらない。

『……あ、あの~、ちなみに、日の出までに決めてもらえると~……ゴニョゴニョ』
 ローズからそう切り出される。

「時間制限があるのか!」
「今晩だけって言っていたもんね」
「じゃあ、もう思いつくものを挙げた方がいいかもねぇ」
 う~んと唸る3人。

 あ、じゃあ――と栞菜が提案した。
「世界平和! なんてどう?」

「……お、おう。そんなアバウトな内容でいいのか?」
「“平和”という言葉の示す意味が、灯里たちの認識と同じだといいけどぉ」
 灯里がチラリとローズを見る。

『――あっ、もちろん判るよッ。”皆がになること”だよねッ』
 ローズが前のめりになり笑顔を向ける。

 幸せ――と、俺たちは互いの顔を見る。なんだか不安だ。

 ローズは俺たちのいまいちな反応に、ローズが焦る。
『えっ、だってほら! あれでしょッ? “皆がになれればいいんだよね?“』
 そのローズの言葉に俺たちは顔を寄せて話し合う。

「や、やっぱり不安ね……こっちから具体例を挙げた方がいいかしら?」
「その方がいいぜ、絶対」
「うんうん、その方がいいと思うよぉ」

 話し合った末――、

 栞菜が手紙を読み上げるように、スラスラと読み上げた。

 うん、うん。
 まあ、これで問題はないんじゃないか。


『その願いは――ムリなのよぉ』


「「「えっ!?」」」
 まさかの却下に俺たちは揃って驚きの声を上げる。

『ううぅ、ご、ごめんなさいぃ~ッ』
「り、理由は?」

『“未来”に直接影響を及ぼす願いは、私の神通力じゃあできないのぉ~ッ』
「……力及ばずってこと?」
『恥ずかしながら、未熟でして~ッ』
 灯里の疑問に、シクシクと涙を流すローズ。

「――俺たち3人分の願いとしてもか?」
『願いの合一は認められないんですぅ~ッ。願いは“人に掛けられるもの”という考えが根底にあって、それを理解できると分かってもらえるかもしれないけど、そもそも叶えられる願いは量も質も何でもいいわけではなくて、そして、それ一つで独立して存在できるわけでもないの。私が栞菜ちゃんと克樹くんと灯里ちゃんの“信仰”によって神通力を取り戻したように、今度は私から皆に叶えられる願い事が返ってくるようなものと思ってもらえれば――』

「――なんだか急に語り始めたぁッ?」
「ヤバいッ! 2人とも警戒して! 難しい話が来るよッ!」
「うぐぐぐぐぐッ!?」
「マズイぃ! 克樹が耐え切れずに苦しみ始めたぁッ? 自我が崩壊しそうだよぉ!」
「バカッ! だから夏休みの課題を計画的に進めろって言ったのにッ!」
「さ、最終日にまとめてやるつもりだったんだ……ガクッ」
「「克樹ぃぃ~~~ッッ!」」


閑話休題。


「――茶番はここまでにして、と。まさか、却下されるとはな」
「ほんとうにね。“未来”にまつわる願いは無理だなんてね」
「う~ん、じゃあ――」
 顔を突き合わせて相談していた俺たちの輪から、灯里が離れてローズに向き直る。

ってのは、どぉ?」
 首を傾げながら訪ねる灯里に、ローズが答える。

『――ムリですぅッ!』

 再び滔々と語りだしたため詳細を省くが、要点を掻い摘むと、”持続的な願い”はできないらしい。天寿を全うするまでどころか、1年1ヶ月1週間いや1日をまたぐような願いもできないそうだ。

「なんじゃそりゃッ!?」
「……ま、まあ、そんな都合の良い話は転がっていないよねぇ」
「な、なんて融通の利かなさ…………」

 ちなみに、次に俺が願った弟――という願いも拒否された。
 これは、”不特定多数に影響が出る願い”はNGとのことだった。

「――不特定多数って? 俺の弟は1人だけだぜ?」
「きっと、けいちゃんの枠を1名分作るわけだから、”あぶれる1名”のことを指してるんじゃなぁい?」
「ほーん、なるほど?」
「……それに、アナタたち足立家は、弟さんの受験の合否に全員影響を受けるでしょうね」
「ははぁ、お前らは本当に頭が回るなぁ」
 俺は適当に相槌を打ちつつ、一つ、妙案を覚える。

「まとめるとよ、“現実または過去において短期的かつ自身に関係する願い”なら、問題ないってことだよな?」
『ん――そう、かもしれませんッ』
「?」「?」
 栞菜と灯里は不思議そうに俺を見ている。



「――それならよ、ことはできるか? 具体的に言えば、5年前に、一時的に。俺はそこで“ある人”にお礼を言いたいんだよ」



「か、過去にぃ?」「お、お礼を?」
 灯里と栞菜の素っ頓狂な声を聞く。

「あっ、克樹が常日頃言っていた、“例のあの人”ぉ?」
「そうだ!」
 灯里と俺が指を差し合い、納得する。

「え、え? どういうこと?」
 一人、事情を全く知らない栞菜に説明する。
「実はよ、俺は――というか、俺と慶太は5年前に、交通事故に遭ったんだ」
「えッ!」
「厳密に言えば、“遭いかけた”だけどねぇ」
 灯里が補足を入れてくれつつ、俺が栞菜に説明した。

「その交通事故は慶太が乗用車に轢かれる際に、ヒーローみたいなお兄さんが颯爽と助けてくれたんだッ。その時にお礼を言えなかったのがずっと気になっていてよッ」
「そうなの?」
「いや、お礼はちゃんと言っていたみたいだよぉ。けいちゃんから聞いたぁ。でもこの通り、克樹はも~っと、お礼を言いたいみたぁい」

「改めて感謝の意を伝えたいんだッ! 俺はアナタに憧れてッ! アナタみたいなヒーローになりたくてッ! 恥ずかしながら、アナタの真似をしていますッ! ってさ」
「――あっ!? も、もしかして、あのヘンな自己紹介って……」
「シッ……それ以上は言っちゃダメだよぉ」
「あ……やっぱり……人助けをするヒーローには頭が上がらないけれど……なんというか……良薬にも副作用はあるものね……」
 栞菜と灯里が目を合わせ、溜め息を吐く。


 そして――、


『……う、うんッ。できると思いますッ。大丈夫ですよッ』

「え……まじ?」「ほ、ほんとぉ?」
「おいおい、ここまできて疑うのは今さらだぜ。もうすぐに、試せば分かることだ」
 俺はローズに期待の眼差しを向ける。

『では、行きますよ~~~ッッ。ムムムムゥ~~~ッッ』
 ローズが両手の指を合わせて、目を閉じ、集中する。
 それを見た栞菜と灯里が泡を食う。
「え、え、えッ!? も、もうッ!? 今すぐに!?」「えーと、ちょっと心の準備がぁ……」
「覚悟を求められるときは、いつだって突然だッ!」


『サテゲ、マハテ、タザツアカ、レメデ!』


 ローズが呪文(?)を唱えると――、



 ――世界が一変した。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます

なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。 だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。 ……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。 これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...