9 / 120
創世編
成長くらいします
しおりを挟む
ヴァルスが家出しました。嘘です。
なんか王様を辞めて、見聞を広める旅に出たいって嘆願してたんで、オーケー出したらマジで王様やめて国を出ていった。マジか。
なんか、ガリガリくんの件で思う所が多かったようで、広い世界を見て周ったガリガリくんみたいに、自分も世界を見てみたいんだってさ。あと、長く始祖のような不老の存在がトップに居ると、国が停滞するかもしれないって気づいたらしい。……え、私は気づいてたのかって? き、気づいてたに決まってんじゃんやだなぁ、ははは。
不老の者がトップになるのは、神が政治をすることに等しい。人々は無条件にトップの言うことへ盲目的になり、思考することを放棄するようになる。だってさぁ、神や不老者が政治をすることの不毛さを考えてみなよ? 何があってもトップの言うことに従うようになるし、誰よりも長生きだから誰もが頼りにしてくる。終いには、自分の人生の指針まで決めてほしいって言い出すんだよ。呆れるわ。自分の道くらい自分で決めなさい。
まあ、ヴァルスもそんな感じの統治をしてきたので、なんでも道を指し示す事に不安を感じたようだ。だから、見聞を広めるために旅に出たみたい、ってさ。
ヴァルスも長生きだから、当然だけど子は何度か残している。その子孫の一人を選び、彼へ教育を施してから王様に選んで、自身は国を出奔したのだ。
で、その着の身着のままなヴァルスの旅に着いていこうとする人間は後を絶たなかったんだけど、当然ながら全員お引取りくださいって感じでヴァルスは内緒で国を出た。こそこそと盗人みたいに逃げるのもアレだけど、当人は楽しそうだった。
ところがどっこい。
撒いたと思ってた当人すら欺いて、着いてきた人間が一人だけいた。
そう、鍛冶屋の子のエーメルの、その更に子供の……あの田の人である元少年・現老人の魔法使いの爺さんだ。歳を食っただけあって食えない爺さんになっててね、転移魔法を用いてヴァルスに着いていったのだ。まあ、ヴァルスも田人の爺さんならいいや、って感じで同行を認めて、そのまま北大陸へ渡っていってしまった。その後、どうやら東大陸へと船で移動していったらしい。
……まあ、そんな塩梅でヴァルスは国を離れ、彼の王国は他人の手に渡ったことになる。そうなると、なんか私としても愛着がやや薄れた感じになるのだが、まあしっかりと様子は見ることにする。
……見るだけとか言ったけど、王国の領内で魔物に殺された女性のお腹の中の子供とか助けちゃった。生まれる直前だったし、なんか目についたから可哀想だったんで。まあ、こういうこともあるよね。
一方、私の方の動きはというと。
死の尖兵システムを構築して、冥府の番人を増やすことにした。
いえね、なんか人形だけだと恐怖感が足りないかなぁって思って。なら、恐怖を煽る意思ある存在が欲しいなぁって思ったら、なんかポンッと思いついたのが悪人のリサイクルである。
冥府の刑期に課された悪人の中で、更生の余地がありそうな連中を選んで、彼らに死の尖兵となって冥府の獄卒になってもらうことにしたのだ。見た目は死神くんと同じ感じだが、彼らの方がくすんだ色合いのローブである。死神くんは真っ黒だから、現世だと目立つね。なお、私は紫ローブなので特別な感じがするでしょう? え、しない? そんなー。
で、死の尖兵は獄卒と同時に、現世での不純な魂の回収係も兼任してもらうことにする。ほら、地縛霊とか怨霊とか、そんな感じの。肉体との縁が切れて魂だけになった存在だけど、意思が強いとそのまま現世に留まって悪さしたりするから、尖兵達にそれらの回収をするよう指示しておいた。これで無駄な死人が減ればいいんだけども。
……けれども、知恵ある悪霊は気配を消すのも得意なので、見つけるのは至難の技だそうだ。私なら一発だが、いつも下界を見ているわけではないので、そうもいかない。あと忙しいし。
そんな感じで冥府も拡充を施し、ちょっとだけ賑やかしくなった。うむ、そのうち刑場も拡充しようかなぁ?
何かとヴァーベルへ用事(と言う名の駄弁り)があれば、神界へ赴くこともある。のだが、相変わらず私への風当たりは良くない。あからさまってわけじゃないけど、「なんでこいつ居るの?」って感じの目で見られることもある。六元神たちは比較的まともなんだけど、小神達の態度がなんか……山中で熊を見つけた登山者のような態度だ。そして「とっとと帰ってくれ!」と言わんばかり。君たちさぁ、仮にも神様に対して失礼じゃない? とか思うけど、神々の管轄はヴァーベルなので、ついでに奴へ文句を言いにいった。
「あぁ~……悪いなぁ。なんか、エレゲルの奴が『世界は光の元に調和を保つべきだ!』って主張しててな。死の神のお前に対抗意識を持ってるみたいなんだわ」
なに、その中ニっぽい理由。っていうか、光の調和ってなによ。
「なんってーか……俺ら原初の神の中で、太陽神とか言われてる俺は天の光、つまり天光神とも呼ばれてるんだ。だから、俺は光の象徴なんだとさ」
はぁ、それはまた……お似合いですね。
「やめろよ、俺だってなんかこそばゆいんだよ。……で、お前は夜の神だろ? だから夜の時を刻む神ってことで、夜刻神。……どうよ?」
背中が痒くなりますね、マジで止めてください。
「まったくだぜ。……でさ、お前ってようは闇の神って側面もあるんだよ。だから、光の世界……つまり俺を唯一神として統治する世界を所望しているエレゲルにとっちゃ、お前は不倶戴天の敵ってわけだ」
いやどういう訳だ。
私は世界を維持する為に居るんだけど、なんで闇と光で争い合うみたいな構図になってんの。
「ちなみに、ミシュレイアは闇側だそうだ」
でしょうね。……その割には、私への視線が良くないけど。
「ミシュレイア的には、お前って月の神でもあるじゃん? だから闇を照らす光って側面もあるわけだ。闇の神々が統治する世界を所望するミシュレイアにとって、お前は光側でもあるんだとさ」
いや、だからどういう訳だ。
闇なのか光なのか、どっちだよ。どっちにしたいんだよ、あんたら。
「どっちでもあるんだろ。だから、どっちつかずなお前は、どっちの勢力にも嫌われてるってわけだ」
止めてくださいよね。ただでさえ下界では風評被害で邪神扱いされてるってのに、ひどい話だぜ。
……ところでさ、君から生まれたのにミシュレイアは闇側なんだね。天光神さま。
「それで呼ぶな……世界が光ばかりってのもアレだろ? だから、夜に生きる者の為に、昼間でも活動しやすい加護を作っときたいって思ったんだよ。でも闇の神を作るにしても、なんかもう俺じゃ難しいって感じなんだ。たぶん、世界のイメージが固定しちまったんだろう。お前が闇で、俺が光って感じで」
勝手に決めないでほしいよね、まったく。
「それが世界ってもんなんだろ、たぶん」
ヴァーベルの癖に知的な台詞を言いやがるぜ。
「どういう意味だ。……ま、お前って下界に干渉するのは否定的だし、神を造ってくれって言っても嫌がるだろ? だから、俺とティニマが影の神を造ったんだよ。それがミシュレイアだ」
影、ねぇ。闇とどう違うのか私にはわからん。
「大丈夫だ。俺にもわからん」
おいこら。
「だけど、影も闇の一部だろうよ。だって光の中で生まれる闇なんだし」
はぁ……それはまぁフワッとした概念で。
しかし、神々の間でも派閥があるのか。光と闇の。
……本当に人間っぽい連中だなぁ。
「俺らが人間だからじゃないか? ほら、子供は親に似るって言うし」
あ、はい、そうですね(獣種を見ながら)
……ま、視線に関してはどうでもいいや。ただ、私に手を出さないように、とは言っておいてよ。不干渉なら何もしないけど、何かするなら消し飛ばすつもりだし。
「お前、本当にそういう点では容赦ないよなぁ」
君らが甘いんだよ、ティニマといい。
「……そうだな。そうかもなぁ」
なんだ、ため息なんか吐いて。殊勝な態度じゃないか。
「いやな、ティニマも最近、ちょっとずつ変わってきてるんだよ。あいつの始祖が死んで、責任を感じてるみたいでな」
ああ……サレンを思いっきり可愛がってたからね。彼女が死んで、酷い落ち込みようだったけど、それが契機になったのか。
「人を叱るのは苦手だって言ってたけどな、最近じゃ、叱ることも増えたって言ってたぜ。だからか、翼種の連中の増長も抑えつつあるらしいぜ」
へぇ、良いことじゃないか。あの傲慢を絵に描いたような連中が大人しくなるなら、悪くないんじゃないかな。
「まあな。しかし……神ってのになっても、俺らは人間なんだなって、そう思ったぜ」
ふぅん、なんでそう思った?
「人間は、成長する生き物だからだよ」
……なるほどね。
※※※
【古代神話の中で、神が人を星にするという逸話は多く存在している。これは、星と天体は神の身体を表していると古代の人々が信じており、その一部になる事は彼らにとって名誉ある事象だと信じられていたのである。つまり、その多くはただのおとぎ話だ。
しかし、中には本当に星となったとされる者も存在している。
口伝童話集に収録されている「7つ子ペッレ」の話では、幼い少年が原因不明の病に掛かり、天に祈っていると神から啓示を受けて病を癒す方法を知り、旅に出るという話がある。タイトルの「7つ子ペッレ」とは主人公ペッレの事を指すのだが、この7つ子とは神が与えた祝福の数だ。ペッレは神の手によって、6回死んでも生き返るという奇跡を受け取ったという。そしてその奇跡を用いて、旅の途中で6回死にながらも、ペッレは病を克服して故郷に帰る、という形で締められる。
さて、この話を聞いたところで、所詮ただのおとぎ話であろう、という感想を持つ人が多いと思うが、これにはちゃんとした原典がある。そう、かの有名な冒険家ヴォイ・ジャ・ペッレである。
彼は幼い頃から奇妙な病に悩まされて苦悩していたが、青年期に旅へ出て病を克服し、そのまま冒険家として世界中を旅して回った、世界初の自著伝を遺した人物である。3000年以上もの昔の、しかも民間の生活記録などはまさに貴重であり、人類史の重要な文化記録としても登録されている。
そんなペッレを助けたのは、神であるとペッレ自身が語っている。その神は「エレゲル」と名乗り、天光神の眷属としてペッレを救うために、導くものである一体の精霊を遣わしたと。
このエレゲルという神だが、その逸話に関しては謎に包まれており、現在ではどこの神殿でも姿を見ることは叶わない、遺失された存在である。ただ、光を支配する神の一柱と当人は名乗ったということから、良き神であったのは確かだ。
そしてペッレは、7回目の死、つまり人生の終わりの時に、このエレゲルが迎えに来て星になった、と別の資料では語られている。これを記したのは、始祖ヴァルスと共に旅をしていた原初の魔法使いエーティバルトであり、彼の死を看取ったのはヴァルス本人であるとされる。比喩なのか暗喩なのかはわかりかねるのだが、確かにエーティバルトの象形皮紙には「エレゲルによってペッレは星となった」と記されている。記録魔と言われたエーティバルトのメモは数多く存在しているが、当初を執筆している少し前に、この皮紙はエーディバルトの物である、との鑑定が出たらしいので、神の記述に関しての関心は高まる一方である。
なお、ペッレの死後、星読み師の記録によれば、確かに小さな星が一つ「ガマガエル座」の傍に出現しているのが確認されている。この因果関係が立証されればペッレは本当に星となったことが証明されるのだが、古代の資料が少ない現在としては立証は難しいだろう。
以降の、神の手によって星となるという、この定形的な童話の原型は、ひょっとしたらペッレの物語が大きく関係しているのかも知れない。
つまり、ペッレは全ての冒険物語に雛形となった、偉大なる先駆者でもあるのだ。
レ・サイアのエスケル著「古代人の物語」より】
なんか王様を辞めて、見聞を広める旅に出たいって嘆願してたんで、オーケー出したらマジで王様やめて国を出ていった。マジか。
なんか、ガリガリくんの件で思う所が多かったようで、広い世界を見て周ったガリガリくんみたいに、自分も世界を見てみたいんだってさ。あと、長く始祖のような不老の存在がトップに居ると、国が停滞するかもしれないって気づいたらしい。……え、私は気づいてたのかって? き、気づいてたに決まってんじゃんやだなぁ、ははは。
不老の者がトップになるのは、神が政治をすることに等しい。人々は無条件にトップの言うことへ盲目的になり、思考することを放棄するようになる。だってさぁ、神や不老者が政治をすることの不毛さを考えてみなよ? 何があってもトップの言うことに従うようになるし、誰よりも長生きだから誰もが頼りにしてくる。終いには、自分の人生の指針まで決めてほしいって言い出すんだよ。呆れるわ。自分の道くらい自分で決めなさい。
まあ、ヴァルスもそんな感じの統治をしてきたので、なんでも道を指し示す事に不安を感じたようだ。だから、見聞を広めるために旅に出たみたい、ってさ。
ヴァルスも長生きだから、当然だけど子は何度か残している。その子孫の一人を選び、彼へ教育を施してから王様に選んで、自身は国を出奔したのだ。
で、その着の身着のままなヴァルスの旅に着いていこうとする人間は後を絶たなかったんだけど、当然ながら全員お引取りくださいって感じでヴァルスは内緒で国を出た。こそこそと盗人みたいに逃げるのもアレだけど、当人は楽しそうだった。
ところがどっこい。
撒いたと思ってた当人すら欺いて、着いてきた人間が一人だけいた。
そう、鍛冶屋の子のエーメルの、その更に子供の……あの田の人である元少年・現老人の魔法使いの爺さんだ。歳を食っただけあって食えない爺さんになっててね、転移魔法を用いてヴァルスに着いていったのだ。まあ、ヴァルスも田人の爺さんならいいや、って感じで同行を認めて、そのまま北大陸へ渡っていってしまった。その後、どうやら東大陸へと船で移動していったらしい。
……まあ、そんな塩梅でヴァルスは国を離れ、彼の王国は他人の手に渡ったことになる。そうなると、なんか私としても愛着がやや薄れた感じになるのだが、まあしっかりと様子は見ることにする。
……見るだけとか言ったけど、王国の領内で魔物に殺された女性のお腹の中の子供とか助けちゃった。生まれる直前だったし、なんか目についたから可哀想だったんで。まあ、こういうこともあるよね。
一方、私の方の動きはというと。
死の尖兵システムを構築して、冥府の番人を増やすことにした。
いえね、なんか人形だけだと恐怖感が足りないかなぁって思って。なら、恐怖を煽る意思ある存在が欲しいなぁって思ったら、なんかポンッと思いついたのが悪人のリサイクルである。
冥府の刑期に課された悪人の中で、更生の余地がありそうな連中を選んで、彼らに死の尖兵となって冥府の獄卒になってもらうことにしたのだ。見た目は死神くんと同じ感じだが、彼らの方がくすんだ色合いのローブである。死神くんは真っ黒だから、現世だと目立つね。なお、私は紫ローブなので特別な感じがするでしょう? え、しない? そんなー。
で、死の尖兵は獄卒と同時に、現世での不純な魂の回収係も兼任してもらうことにする。ほら、地縛霊とか怨霊とか、そんな感じの。肉体との縁が切れて魂だけになった存在だけど、意思が強いとそのまま現世に留まって悪さしたりするから、尖兵達にそれらの回収をするよう指示しておいた。これで無駄な死人が減ればいいんだけども。
……けれども、知恵ある悪霊は気配を消すのも得意なので、見つけるのは至難の技だそうだ。私なら一発だが、いつも下界を見ているわけではないので、そうもいかない。あと忙しいし。
そんな感じで冥府も拡充を施し、ちょっとだけ賑やかしくなった。うむ、そのうち刑場も拡充しようかなぁ?
何かとヴァーベルへ用事(と言う名の駄弁り)があれば、神界へ赴くこともある。のだが、相変わらず私への風当たりは良くない。あからさまってわけじゃないけど、「なんでこいつ居るの?」って感じの目で見られることもある。六元神たちは比較的まともなんだけど、小神達の態度がなんか……山中で熊を見つけた登山者のような態度だ。そして「とっとと帰ってくれ!」と言わんばかり。君たちさぁ、仮にも神様に対して失礼じゃない? とか思うけど、神々の管轄はヴァーベルなので、ついでに奴へ文句を言いにいった。
「あぁ~……悪いなぁ。なんか、エレゲルの奴が『世界は光の元に調和を保つべきだ!』って主張しててな。死の神のお前に対抗意識を持ってるみたいなんだわ」
なに、その中ニっぽい理由。っていうか、光の調和ってなによ。
「なんってーか……俺ら原初の神の中で、太陽神とか言われてる俺は天の光、つまり天光神とも呼ばれてるんだ。だから、俺は光の象徴なんだとさ」
はぁ、それはまた……お似合いですね。
「やめろよ、俺だってなんかこそばゆいんだよ。……で、お前は夜の神だろ? だから夜の時を刻む神ってことで、夜刻神。……どうよ?」
背中が痒くなりますね、マジで止めてください。
「まったくだぜ。……でさ、お前ってようは闇の神って側面もあるんだよ。だから、光の世界……つまり俺を唯一神として統治する世界を所望しているエレゲルにとっちゃ、お前は不倶戴天の敵ってわけだ」
いやどういう訳だ。
私は世界を維持する為に居るんだけど、なんで闇と光で争い合うみたいな構図になってんの。
「ちなみに、ミシュレイアは闇側だそうだ」
でしょうね。……その割には、私への視線が良くないけど。
「ミシュレイア的には、お前って月の神でもあるじゃん? だから闇を照らす光って側面もあるわけだ。闇の神々が統治する世界を所望するミシュレイアにとって、お前は光側でもあるんだとさ」
いや、だからどういう訳だ。
闇なのか光なのか、どっちだよ。どっちにしたいんだよ、あんたら。
「どっちでもあるんだろ。だから、どっちつかずなお前は、どっちの勢力にも嫌われてるってわけだ」
止めてくださいよね。ただでさえ下界では風評被害で邪神扱いされてるってのに、ひどい話だぜ。
……ところでさ、君から生まれたのにミシュレイアは闇側なんだね。天光神さま。
「それで呼ぶな……世界が光ばかりってのもアレだろ? だから、夜に生きる者の為に、昼間でも活動しやすい加護を作っときたいって思ったんだよ。でも闇の神を作るにしても、なんかもう俺じゃ難しいって感じなんだ。たぶん、世界のイメージが固定しちまったんだろう。お前が闇で、俺が光って感じで」
勝手に決めないでほしいよね、まったく。
「それが世界ってもんなんだろ、たぶん」
ヴァーベルの癖に知的な台詞を言いやがるぜ。
「どういう意味だ。……ま、お前って下界に干渉するのは否定的だし、神を造ってくれって言っても嫌がるだろ? だから、俺とティニマが影の神を造ったんだよ。それがミシュレイアだ」
影、ねぇ。闇とどう違うのか私にはわからん。
「大丈夫だ。俺にもわからん」
おいこら。
「だけど、影も闇の一部だろうよ。だって光の中で生まれる闇なんだし」
はぁ……それはまぁフワッとした概念で。
しかし、神々の間でも派閥があるのか。光と闇の。
……本当に人間っぽい連中だなぁ。
「俺らが人間だからじゃないか? ほら、子供は親に似るって言うし」
あ、はい、そうですね(獣種を見ながら)
……ま、視線に関してはどうでもいいや。ただ、私に手を出さないように、とは言っておいてよ。不干渉なら何もしないけど、何かするなら消し飛ばすつもりだし。
「お前、本当にそういう点では容赦ないよなぁ」
君らが甘いんだよ、ティニマといい。
「……そうだな。そうかもなぁ」
なんだ、ため息なんか吐いて。殊勝な態度じゃないか。
「いやな、ティニマも最近、ちょっとずつ変わってきてるんだよ。あいつの始祖が死んで、責任を感じてるみたいでな」
ああ……サレンを思いっきり可愛がってたからね。彼女が死んで、酷い落ち込みようだったけど、それが契機になったのか。
「人を叱るのは苦手だって言ってたけどな、最近じゃ、叱ることも増えたって言ってたぜ。だからか、翼種の連中の増長も抑えつつあるらしいぜ」
へぇ、良いことじゃないか。あの傲慢を絵に描いたような連中が大人しくなるなら、悪くないんじゃないかな。
「まあな。しかし……神ってのになっても、俺らは人間なんだなって、そう思ったぜ」
ふぅん、なんでそう思った?
「人間は、成長する生き物だからだよ」
……なるほどね。
※※※
【古代神話の中で、神が人を星にするという逸話は多く存在している。これは、星と天体は神の身体を表していると古代の人々が信じており、その一部になる事は彼らにとって名誉ある事象だと信じられていたのである。つまり、その多くはただのおとぎ話だ。
しかし、中には本当に星となったとされる者も存在している。
口伝童話集に収録されている「7つ子ペッレ」の話では、幼い少年が原因不明の病に掛かり、天に祈っていると神から啓示を受けて病を癒す方法を知り、旅に出るという話がある。タイトルの「7つ子ペッレ」とは主人公ペッレの事を指すのだが、この7つ子とは神が与えた祝福の数だ。ペッレは神の手によって、6回死んでも生き返るという奇跡を受け取ったという。そしてその奇跡を用いて、旅の途中で6回死にながらも、ペッレは病を克服して故郷に帰る、という形で締められる。
さて、この話を聞いたところで、所詮ただのおとぎ話であろう、という感想を持つ人が多いと思うが、これにはちゃんとした原典がある。そう、かの有名な冒険家ヴォイ・ジャ・ペッレである。
彼は幼い頃から奇妙な病に悩まされて苦悩していたが、青年期に旅へ出て病を克服し、そのまま冒険家として世界中を旅して回った、世界初の自著伝を遺した人物である。3000年以上もの昔の、しかも民間の生活記録などはまさに貴重であり、人類史の重要な文化記録としても登録されている。
そんなペッレを助けたのは、神であるとペッレ自身が語っている。その神は「エレゲル」と名乗り、天光神の眷属としてペッレを救うために、導くものである一体の精霊を遣わしたと。
このエレゲルという神だが、その逸話に関しては謎に包まれており、現在ではどこの神殿でも姿を見ることは叶わない、遺失された存在である。ただ、光を支配する神の一柱と当人は名乗ったということから、良き神であったのは確かだ。
そしてペッレは、7回目の死、つまり人生の終わりの時に、このエレゲルが迎えに来て星になった、と別の資料では語られている。これを記したのは、始祖ヴァルスと共に旅をしていた原初の魔法使いエーティバルトであり、彼の死を看取ったのはヴァルス本人であるとされる。比喩なのか暗喩なのかはわかりかねるのだが、確かにエーティバルトの象形皮紙には「エレゲルによってペッレは星となった」と記されている。記録魔と言われたエーティバルトのメモは数多く存在しているが、当初を執筆している少し前に、この皮紙はエーディバルトの物である、との鑑定が出たらしいので、神の記述に関しての関心は高まる一方である。
なお、ペッレの死後、星読み師の記録によれば、確かに小さな星が一つ「ガマガエル座」の傍に出現しているのが確認されている。この因果関係が立証されればペッレは本当に星となったことが証明されるのだが、古代の資料が少ない現在としては立証は難しいだろう。
以降の、神の手によって星となるという、この定形的な童話の原型は、ひょっとしたらペッレの物語が大きく関係しているのかも知れない。
つまり、ペッレは全ての冒険物語に雛形となった、偉大なる先駆者でもあるのだ。
レ・サイアのエスケル著「古代人の物語」より】
1
あなたにおすすめの小説
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
転生小説家の華麗なる円満離婚計画
鈴木かなえ
ファンタジー
キルステン伯爵家の令嬢として生を受けたクラリッサには、日本人だった前世の記憶がある。
両親と弟には疎まれているクラリッサだが、異母妹マリアンネとその兄エルヴィンと三人で仲良く育ち、前世の記憶を利用して小説家として密かに活躍していた。
ある時、夜会に連れ出されたクラリッサは、弟にハメられて見知らぬ男に襲われそうになる。
その男を返り討ちにして、逃げ出そうとしたところで美貌の貴公子ヘンリックと出会った。
逞しく想像力豊かなクラリッサと、その家族三人の物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる