どうも、邪神です

満月丸

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冒険者編

メルメルと愉快な旅の路2

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 さて、ドワーフ首都跡地を出発し、街道沿いに向かうのは北にあるギグ・シュトールですわ。ここは山岳の天辺にある城壁のない、ドワーフの都市ですの。南と違って緑豊かで山河が流れる美しい山脈、周辺のなだらかな丘陵部には整地された農地が見えます。牧歌的な風景ですね。
ここは稲作も盛んですから、水資源がとても豊富ですの。名水と謳われたシュトール水はゲンニ大陸一の清廉さを保つ美味しい水で、それで作られる米も質が宜しく、一定のグルメの間でも好まれていますのよ。まあ、ザーレドのようにお米を炊いて作るライスは、まだ一般では認知度が低いのですけどもね。

けれども、アタクシ達が訪ねた時、シュトールは少し浮き足立っている様子でしたわ。
その理由は、石造りの一等宿に通されて、夕餉をご馳走になっている時に教えて貰いました。

「…なに?ギグ・シュトールの米酒が生産できないだと?」
「はぁ、左様でございます…」

若いドワーフの給仕人にお酌をしてもらっていたおじい様が、素っ頓狂な声を上げました。
ギグ・シュトールのお酒は有名ですから、ゲンニ大陸でもさまざまな場所で需要があります。けれども、ギグ・シュトールの名水が枯渇しかかっているせいで、稲とお酒の材料が不足しつつある、とのこと。
これにはグルメ…たぶんグルメのおじい様も、真剣な顔で考え込みました。

「この酒が飲めなくなるとは…それは困る、大いに困るぞ」
「なんでそう困るんだよ、爺さん。お酒なんていっぱいあるじゃん」
「馬鹿者!米酒は我らにとっては重要なのだ!とても重要な…いや、まあ故郷の味とでも言おうか」

故郷の味?おじい様の故郷って、神界の事かしら?

「ともあれ、米も酒も無くなってもらっては困る。給仕人よ、この名水はどこから産出しておるのだ」

そう言って、おじい様はテーブルの上に銀貨を1枚。相変わらず金銭感覚がおかしい方ですわね。給仕人も驚くやらニヤけるやらで、締まらない表情ですわ。まあ、口は軽くなりましたけども。

「ええと、この街の名水は山頂にある《精霊の座》の泉から噴出しているそうです。一般人は立ち入り禁止ですので、ここを統治している街長に相談する必要がありそうですが」
「精霊の座?…ああ、精霊が長期間居座ると起きる、自エネの噴出による現象か。元素がここのように集まって巨大化すると、台風や地震になるのだったな。ティニマが管理している筈だが、名の通りに精霊王でも居座っていたのかね?」
「はぁ、魔法士様の知識に添えるかはわかりませんが、かつて古人のドワーフはここで精霊王と対話したことがあったそうです。なんでも、そのドワーフは精霊と対話できる才人で、その才能を気に入った水の精霊王がここに居座り、そこから名水が溢れて山河となって流れていったとの伝説もあります。まあ、どこまで本当かは存じませんが」
「いや、事実だ。あの女性はドワーフの田人だったからな。高次元の存在を知覚できる稀有な人間ということで、神界も少し騒ぎになった」
「は、はぁ?」

おじい様、隠す気がありませんわよ。ほら、給仕人も戸惑ってますし。
とりあえず、追加注文で気を反らせて更にチップを上乗せすれば、すぐに上機嫌になって引っ込んでいきました。ドワーフって単純な部分が多いのですよね。これで今の話は忘れてくださると良いのですけど。

「なんだよジジイ。その名水ってのを復活させるつもりかよ?」

行儀悪く椅子を揺らしながらお酒を飲むネセレへ、おじい様はニヤリと狡猾な笑みを浮かべました。

「無論のこと。私ならば難しい話でもない。まあ、3日以内にはなんとかしてみせよう」
「へっ、そりゃ結構なこった。そんじゃ、アタイも3日ほど暇を貰うぜ。護衛はそっちの姫サマだけでも十分だろ?」
「悪事を働かんのなら構わんさ」
「…あのぉ、ディタ・カロン。先程の神界とかはいったい…」

…あ、そういえばトゥーセルカ様がいらっしゃいましたわね。忘れてましたけど。
おじい様の正体を知らぬこの人を、どう誤魔化そうかと考えてると、

「忘却」

パチン、とおじい様が指を鳴らせば、トゥーセルカ様はボーっとしてから急にハッと我に返って、微笑みました。

「ああ、すみませんねぇ、少しボーッとしてしまいました。それで、何の話でしたか?」
「…あれ、さっきまでの事、覚えてないのか?」
「え?あ、はい、なんかすみません」
「…おじい様」
「ケッ!これだからインチキジジイは嫌いなんだ…」
「これが奇跡なんでしょうかね…使い方がアレですが」

本当にこの方は、むちゃくちゃな方ですわね。心なし頭痛が…。
ああ、先が思いやられますわ。


※※※


 次の日、おじい様が街長の元へ朝一番にすっ飛んでいくのを見送ってから、アタクシ達はトゥーセルカ様の護衛として、名所へと赴きましたわ。
街の西側にある高台からは、綺麗な海の景色が一望できました。朝日に反射して大海原がキラキラしていて、天光の輝きが海にもう一つの太陽を映し出しています。太陽は海から生まれるのだと考えていた古代の人々は、この光景を指して朝はティニマから生まれたのだ、と信じられていましたわね。おじい様と対になるような口伝ですから、一説ではルドラとティニマは夫婦神だとも。まあ、今ではヴァーベルとティニマが夫婦神だというのが定説なんですけども、おじい様の話しを聞くに全くそんな感じは無さそうです。まあ、何事も邪推で男女をくっつけたがるのは、どこの世界も同じなんでしょうね……あら、過去の自分を思い出させますわ。なんだか潮風がしょっぱいですわねぇ…。

トゥーセルカ様はその光景を見ながら、また楽器を弾くのですけども、やはり納得がいかない様子で首を振ります。何が問題なのかしら?

とりあえず、その日は何事もなく街散策を行って、一日が終わりましたわ。
ギグ・シュトールは山岳の上にありますから露店は少ないのですけども、お店はドワーフの工芸店が盛んでしたわ。一応は名所があるので観光地という事ですから、街興しの為に工芸を売っているのでしょうね。ドワーフの細工物は精巧で見事な彫金ですから、帝都の淑女の間でも人気のお土産品なのですわ。
…あら、この三日月の細工物、本物の宝石ですわね。値段は銀貨20枚…買いですわ!
うふふ、なんだか得した気分ですわね!どうせですし、ゲッシュのお土産も買っていきましょうか。
工芸なんて柄じゃないって言うでしょうから、一番お高い米酒でも購入していきましょう。もちろん、おじい様には見つからないように、ですわ。あの食い意地を見ていると、なんか不安になりますものね。

・・・・・・・・・・・・・・

 その日の夕食になっても、おじい様は帰ってきませんでした。帰ってこないということは上手くいっている、ということでしょうね、あの方の場合。そもそも心配など誰もしていませんけども。
そういえば、ネセレも帰って来ていない様子。どこで何をしているのか、なにやら心配になりますが…まあ監督はおじい様に任せてますし、アタクシはノータッチですわ。大丈夫でしょう。おそらく。きっと。

身繕いを終えてから、なんとなく今日は吹きさらしのテラスに出て、月見酒でもしましょうかしら。そんな考えつつ、食堂へ向かいます。
すると、そこにはトゥーセルカ様とケルティオが一緒のテーブルに着いて、雑談を交わしていました。変わった組み合わせですわね。

「なんだか、君とは他人のような気がしないんですよ!なんと言っていいんですかねぇ…そう、古い友人のような?」
「…奇遇ですね。私も、貴方とは何か妙な縁を感じています。前に火竜と出会った時に感じた感覚と、よく似ていますが」
「火竜!?なんと、君は火竜にも会った事があるんですか!?よかったら、その時の話しをお聞きしても?」
「ええ、構いませんが…といっても、お恥ずかしい内容なんですがね」

なにやら、二人は奇妙な縁を感じている様子ですわね。アタクシから見ても、二人の雰囲気は似ていますけど…おじい様がケルティオを気にかけているのと、関係ある理由なのかしら?
とりあえず、アタクシも暇でしたので、お二人の輪に加わることにしましたわ。アタクシの登場にケルティオは萎縮しているようですけども、アタクシの正体を知らないトゥーセルカ様はご機嫌よく了承してくださいました。ええ、人見知り気味のケルティオと違って、人懐っこい方で助かりますわ。

「いやぁ!冒険者って凄いんですね!盗賊討伐に下水掃除に素材収集に遺跡潜り、危険と隣り合わせな職業なんですねぇ!」
「そうですね、下水は…詰まっていたアレが崩れて本気で死ぬかと思いましたから…ははは…」

ああ、ケルティオの目が死んでますわ!と、とりあえず話題を変えましょうかしら。
と思っていれば、トゥーセルカ様は少し顔を伏せて、続けました。

「その点、僕はいつも友人に守ってもらってばかりで、自分では何も出来ないんですよ。キュレスタは、僕が故郷を発つ時からずっと共に居てくれたのですが…彼は才能ある商人なのに、僕は歌を歌うことしか出来ない。彼のように人を使う才も、お金を動かして誰かの手助けをする事も出来ない。…旅をしていて、なんだかそれが心苦しくなってしまって」

どうやら、トゥーセルカ様はご自分に自信がないご様子ね。どこかの誰かさんと同じで。
その言葉に、ケルティオもどこか戸惑った様子でしたわ。

「『君の歌には力がある、大勢の人が君の音楽を聞いて、多くの感銘を得ることでしょう。だから君は、その力を伸ばすことだけを考えればいいんですよ』…そう言われましたが、どうしても気後れしてしまって…僕は、彼が思うような才能など無いんです。確かに、歌を奏でれば多くの人が喝采の声を上げますが、それはきっとこの楽器のおかげです。物珍しさから、皆が褒めてくれる。けれども、それは僕の力じゃない」

トゥーセルカ様の抱く楽器は、確かに珍しい代物ですわ。かつて世界を旅しましたが、翼種の大陸でも見たことはありませんでしたので、思わず問いかけてしまいました。

「その楽器は、どこで手に入れられましたの?差し支えなければ、お聞きしても宜しいかしら」
「ほうほう、それは私も聞きたいなぁ」
「あら、おじい様?」

そこでやって来たのは、酒瓶片手のおじい様。何かしら、何かをやり遂げた顔をされてるんですけど、なんで酒瓶を持ってるのかしら。

「なんだその顔は。別にいいだろう。私は一仕事を終えてきたばかりなんだから」
「はぁ、そうですの。…それで、どうでした?名水は戻りそうですの?」
「交渉はしてきた。少し時間がかかるが、ま、明日には答えが来るだろう。連中はどうにも、定命の者とは違う時間軸に存在しているからな。返答まで間があるのだ」
「…とりあえず、全ては明日になってから、と?」
「そうとも言う」

そう言って、どっかりと座ったおじい様は酒瓶ごと一気飲み。んまぁ!はしたない!
行儀悪く話しを催促するので、トゥーセルカ様は戸惑いながらも、持っていた楽器…リュートを手に入れた経緯をお話されましたわ。
貧乏な農家出身で、天族の歌唱祭で優勝するために故郷を出たはいいけども、天族の歌唱法が真似できずに途方に暮れていたら、とても美しい人物に出会って楽器を貰い受けた、と。
その事を話すトゥーセルカ様は、本当にうっとりとされています。

「…本当に美しい方でした。満月に映えるあの相貌は、まさに女神と言っても過言ではない存在です。ああ、未だ僕の心の中にあたかも絵画の如く強く記憶されているんです!」
「そんなにお美しい方でしたのね…アタクシも一目、見てみたい気がしますわね」
「ええ!絶対にお目見えして損はないですよ!きっとこの世界で一番美しいディーネ・ベレスト(月の麗人)に違いありません!」

ディーネ・ベレスト…ええと、翼種の言葉で《最も美しい人》という意味と《最も愛しい人》という意味もありませんでしたっけ?
恍惚の表情で天を仰ぐトゥーセルカ様を見て、アタクシは思わず尋ねていましたわ。

「ひょっとして、トゥーセルカ様は…その方がお好きなのね?」
「はい!僕が一目惚れした、世界で最も愛しい御方ですよ!!」

ぶふっ!

と、おじい様が咳き込んでいました。何事?

「愛しきディーネ!我がアティマは貴方に奪われ、持ち去られてしまった!眠れぬ宵は身体を細らせ、青ざめた素顔に貴方を想う!二対の小鳥が喜びの朝を告げ、輝きを身に宿して舞い上がる姿にすら僕は嫉妬してしまうだろう!嗚呼、朝日がこんなにも憎らしい!貴方は輝きの人、月に身を隠す影の光!夜に焦がれし、我が愛せし月の麗人よ!!」

凄い噎せているおじい様は構わず、トゥーセルカ様は詩人らしく愛の詩を捲し立てていますわ。それはもう、相手を口説かんばかりの勢いで。熱烈ですわねぇ。アティマは、確か《魂》の意味でしたわね。翼種のアティマは情熱、情愛も意味しますから、かなり本気なんでしょうね。あらあら、素敵ですわぁ~!

「ちょ、ちょっと待った…!その、お前に楽器を与えたモノが男だったという可能性は無いのかね!?性別不肖だったのだろう!?」
「え?それは…そうかも知れませんが、問題ありませんよ!愛の前にはどうでも良いことです!」
「いやいやいや!どうでも良くないから!?」
「おじい様、なにを焦ってますの?」
「いや、だってさぁ…相手が同性だったらマズくね?うん、マズイじゃん?」
「?…どうしてマズイですの?」

思わず固まるおじい様へ、アタクシは不思議に思って言いましたわ。

「だって、同性同士でも結婚できるじゃありませんか」

そう作ったのは、おじい様達でしょうに。

その一言に、おじい様は「ぐふっ!」と声を上げて突っ伏しました。あ、あら?どうなさったのかしら?

「……お、おのれぇ………こんな罠を仕掛けていようとはぁ…謀ったな世界ぃ!!」
「…あの、カロン老?いったいどうしたんですか?さっきから」
「なんでもない!!なんでもないぞ!!私は全力で何も知らないと主張させて頂く!!全力でなっ!!!」

はぁ、と思わずケルティオと顔を見合わせてしまいましたわ。
トゥーセルカ様の愛の詩を横目に、おじい様は酒瓶呷ってから頭を抱えてました。変なおじい様ね。


※※※

 次の日、おじい様に連れられて、皆で山頂まで行くことにしましたわ。おじい様の顔を見て、山頂へ続く門前のドワーフは慌てた様子で敬礼してから扉を開けました。また何をやらかしたのやら。
そして頂上に着けば、そこは巨大な円形の窪地でした。ここに泉があったのでしょうけども、今は中央にちょろっとだけ水が溜まっている程度。どうやら、枯渇しかけているのは確かなご様子ね。
おじい様は窪地の中に入って、そこで座禅を組んで瞑想を始めました。精霊とお話をされているのかしら?
アタクシは見えませんけど、以前の精霊の友人とのふれあいを思い出しながら集中すると、なんとなく声が聞こえてきました。

『それでな、我の頼みはどうだ?深蒼の王ちゃん』
『ええ、貴方様のおっしゃる通り、この場に再び根を下ろす事は吝かではありません。ですが、我が友であったミクルとの契約は満了しましたから、我がここに居座るに値する理由が欲しく存じます。正直、ここより居心地の良い場所はあります故に』
『あー、そこをなんとかだな。ここの人らも君が居ないと困るって言っとるし、ここの者達が作り出す物はかなりの価値があるんだよ。それはもうかなりの』
『それは…世界が滅ぶレベルでしょうか?』
『うん、モチ。(主に私が世界を滅ぼすかもしれない)滅亡レベルで最重要』
『でしたら…仕方がありませんね。我も今暫くの間、ここに座を設けておりましょう。ですが、それだけでは我も納得はできませぬ。できれば、人々の祈祷を捧げて貰わねば、割には合いませんから』
『あ、まあそうだよな。うんわかった、そこは私から言っとくよ。そんじゃ、後は頼むぞ?』
『了承しました、ルドラ神よ』

…何かしら、なんか頭痛が酷くなりそうな会話が聞こえたような………………うん、気のせいですわね!!幻聴が聞こえるなんてアタクシも疲れてますわねー(現実逃避)

と、そこでおじい様がやおら立ち上がり、鎌杖を取り出してトンっと地面に付いてから、魔法詠唱を始めました。第9レベル…相変わらず壊れたレベルですわね。うちの師匠も大概人外ですけど、どっちも精霊王を召喚できるのでしょうから十分化物ですわ。
そして、魔法陣の展開と共に虚空から現れたのは、朝食途中だったらしき街長のドワーフ。スプーン片手に驚き戸惑ってますけど、そんな相手へおじい様が有無を言わさぬ速度で捲し立ててます。

「よいかね街長よ。この地に居る精霊王は人々の感謝の念が途絶えたために去ろうとしていたようだ。つまりは諸君らの信仰心の低迷が枯渇の原因なのだよ!」
「な、え、な、なんだってぇぇ!!?」
「つまり!精霊王を満足させる為に祭りを行いたまえ!!毎年この時期に1回、深蒼の王を満足させるような盛大な祝祭を上げるのだぁ!そして感謝を捧げよ!さすれば泉は復活するであろう!!多分な!!!」
「なんか最後がすごく不安だが…わ、わかったぜ!!つまりお祭りだな!?それで泉が復活するなら儲けもんだぜぇ!!おっしゃ野郎どもぉぉ!!祭りじゃああぁぁぁ!!!」

嫌にハイテンションな御方でしたわね。雄叫び上げながら山道を下っていきましたわ。

「なあ爺さん、あのドワーフに何したんだ?」
「なに、少しばかり記憶と認識を弄ってな、私が王都のお偉いさんだと錯覚させたのだ。ま、これで事がスムーズに進むのだから問題なかろう」

大有りですわよ!?
まったく本当にこの殿方は無茶苦茶をやりまくりますわね…本当に!

ともあれ、そんな経緯もあって、その日の夜に急遽ギグ・シュトールではお祭りが開催されました。そんなにすぐ出来るものなのかしら?とも思いますけども、まあドワーフは大らか過ぎてフットワークが軽いですから。大雑把に予定変更して始めたんでしょう。
で、お祭りには街の備蓄が遺憾なく解放されて、街中の人々が飲めや歌えや大騒ぎ。ドワーフは大酒飲みが多いですから、男も女も関係なしに酒を片手に大笑い。空気だけでも楽しげな代物になりましたわ。しかし、大丈夫なのかしら?この街の備蓄。

「なぁに大丈夫だ。倉庫を覗いたが、名水でなかなかボロ儲けをしていたようでな、かなりの蓄えがあったからこの程度の出費は平気だろう」

この方にプライバシーという言葉は無いのかしら。まあ、無いですわよね。神ですもの。神って覗き魔でしたっけ?

お祭りと言っても、ようは飲んで食べて騒いで、それから精霊王へ感謝を捧げるだけの行為ですから、小難しい儀礼はありません。ただ、おじい様が集めたガラス瓶を錬金術で変換し、水晶で出来た美しい女性像を作り上げましたわ。透明な相貌に穏やかな笑みを浮かべた、羽衣を纏った美しい女性ですわね。
で、「これが精霊王を象った石像であり、皆はこれに感謝の念を送るように!」と告知していました。ドワーフの酔っぱらい達も、ジョッキを掲げて「精霊王ばんざーい!」という感じで感謝していて…アレでいいのかしら?随分と酒くさそうな感謝ですけども。

すると、山頂からなにやら歓声が。

次いで、ドタドタと街長が駆け下りてきて、名水が噴出したと大興奮で捲し立てています。それにみんなが大騒ぎ、あっちこっちで精霊王バンザーイ!という感じの大合唱。
とりあえず、名水が復活したようで良かったですわ。これで米騒動も起きずにすみそうですわね。

 お祭りなので、トゥーセルカ様も気晴らしに楽器を弾いたら、なにやら多くの人々が褒めちぎってアンコールの大嵐。困った様子のトゥーセルカ様も、満更でもない感じで楽しげに歌を奏でていました。しかし、変わった演奏ですわねぇ。耳心地が良くて、音に乗って言葉が広がるその感覚は、今までの詩吟とは大きく違った手法ですの。けれども、一番の大きい部分は、トゥーセルカ様の歌だと思いますけどね。あの方の声はどっしりと落ち着いていて、時に力強く、時に穏やかな気持にさせられる色を乗せています。
キュレスタ様が惚れ込む気持ちもわかりますわねぇ。この歌声はきっと、世界中に広がるでしょう。ええ、そんな予感がします。

トゥーセルカ様の歌を聞きながら、ハディとケルトに絡んでいるおじい様を窘めつつ、ギグ・シュトールの夜は過ぎていきました。
ああ、肩肘張った使命もないし、気楽で良い旅ですわねぇ。


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