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冒険者編
主人公交代のお知らせ…え、もう交代してるって?
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「そんでね~、サレちゃんが言うには元素を移動させる自動制御?みたいなのを作る必要があるんじゃないなかってさ~。ようは~虚無がやってきた時に危ない状況の避難場所を作ってあげたらいいかもって~」
「あぁ!主上よ!この場に出会えましたのはまさに運命の如き導き!なんという栄誉!この喜びをお伝えするには言葉では言い表すことが出来ませんよ、我が主!!」
「んでね~、その避難場所を作るにしても、まずは元素が危険って判断して逃げ出すシステムが必要なわけなんだよね~。でもあたし、そういうの全然わかんないし」
「前に出会いましたるは1年と431日と29時間81分前ほどのこと!我が主に出会えなかったこの長きに渡る時間はまさに地獄の如きと形容できそうな苦楽の日々でありました!」
「そこでね、ル…カロンがそれを作ってくれたら~良いなって思って~…えっと、駄目?駄目かなぁ?でもこれからの対策には必須だと思うし~」
「あぁ我が主我が主!愛しき我が主上のお心に添えるようこのクラウンは誠心誠意を持って遣わしていただきますぅ!我が愛しき最も気高き御方よおぉぉっ!!」
えぇえい!ステレオで喋るな喧しい!?
ゲッシュの宿、両側でティニマとグリムちゃんに挟まれて飯がマズイ。おいこらお前ら、人の食事の邪魔すんじゃねーよ。っていうかティニマ!私は今休暇中だっつーの!仕事の話しをするんじゃねえぇぇ!!
「で、でもさ~、こういうのってやっぱル…カロンじゃなきゃ出来ないっていうか」
する努力が無いだけだろう!?精霊はそっちの管轄!これ以上は私は手は出さんからな絶対に!!自分でやりなさい!自分で!!
「えぇ~!カロンのいじわる~!!」
シャラァップッ!!
…で、グリムちゃん…もとい、クラウンは何でまたここに居るの?
「あぁ!ようやく私を見てくださいましたね我が主っ!!だって主上と会えぬ日々はまさに恋い焦がれる乙女のような心持ちだったのですよぉ!!」
はいはい、寂しかったんね~わかったわかった。
なんか甘えてくるグリムちゃんをナデナデしつつ、ティニマの話しを適当に聞き流しながら肉を齧る。ヴィン肉のローストは豪華で美味いぜ。
なお、グリムちゃんの衣装はいつもどおりの中肉中背、極彩色な道化衣装に顔を覆う道化面と帽子です。
ええとね、グリムちゃんは日によって顔立ちがコロコロ変わるんで、目立たないように絶対に外れない仮面を着けさせてる。同じ理由で服も脱げない。いいんだよ神なんだから、着替えも必要ないし。私と同じく邪神扱いだけど。顔はグリセルとアーヴェルの相貌を行ったり来たりしてて、たまに顔半分だけ別人になったりするという奇怪な性質なのだ。定まらぬのは正気だけじゃないんですね。
そして私に仕事を押し付けてくるティニマは、相変わらず人の天使ちゃん人形を化身に使ってやがる。
おい、それ私の。
「だってさ~、カロンの作ったのって上手でしょ?あたしだとなんかこう~…変?な感じになっちゃって」
それ、サレンちゃんには言わないようにね。ショック受けるから。
周囲を見れば、ああほら、ケルトとメルメルが死んだような目でこっち見てんじゃん。私を慕うグリムちゃんの正体は察せてないはずだけど、きっと面倒な存在なんだろうな~って思いが透けて見える。
あと、ティニマが居るのでトゥーセルカも居座って歌ってる。あの人、たまにここに来て歌うんだよね。たぶんティニマが目当てなんだろうけど、懲りないねぇ。でも客が入るんで繁盛してます。力を使わなくとも歌の腕前は凄まじい。さすが音楽の神様。
なお、トゥーセルカはメーシュカの吟遊大会で見事に優勝をかっさらいました。もちろん、力は使わずに。満員御礼で例年にない大反響だったらしく、優勝したトゥーセルカの名はこのゲンニ大陸でも瞬く間に広まっております。ま、頑張れよ。リュートの製法を聞きにドワーフがやって来てるみたいだけど、ナイロン弦が再現できるのか見ものであるな。
それと、ダーナちゃんがおたおたしながら給仕してて、
「ダーナちゃーん!こっちに水ちょうだいー!」
「そ、それくらい自分で入れなさいよねっ!」
「ダーナちゃん!この料理追加でー!」
「も、もうちょっと味わって食べなさいよ!作った人に申し訳ないと思わないの!?」
「ダーナお嬢さぁぁん!!結婚してくれー!!」
「知らないわよバカっ!!」
って感じでからかわれてる。反応が面白いから、冒険者連中にとっては恰好の玩具やね。まあ最後のはマジかも知れないんで、メルメルが危ない目を向けているが。それと、ウサギさんのシーナちゃんも来てて、合間を縫ってダーナちゃんと楽しげに話してる。見てて癒やされるわぁ。っていうか、冒険者連中も癒やされてる。ほっこりしてるもの。
そう、ゲッシュの宿は今日も繁盛している。一時期の閑古鳥がまるで嘘のようだ。
なんと言っても、我らが来てからもう一年以上経ってるしね。ハディも13才になったし、時の流れは早いもんだ。嫌がらせは私とメルメルの力で尽く邪魔され、私の裏工作もあって撃退できており、うんこを投げつけられることはもうない。悪い噂とかも流れたみたいだけど、そこはメルメルの裏工作、彼女のお兄さんの力で揉み消された。あと豚子女史のさりげなーい宣伝効果もあるね。たまにハディがお菓子食べに遊びに行っててご機嫌取りしてるから、宿自体の心象は良いはずだ。
それに、依頼を達成する回数も50を超えたし、そこそこに名が知れてきているというのもある。ごろつきな冒険者とは違う、公序良俗に反しない名うての冒険者って少ないからさ、相手の弱みにつけ込んだ依頼料の釣り上げとかもしないから、一般からの評判も悪くない。で、信頼が増えれば増えた分、ゲッシュの宿に来る依頼の話が多くなる。で、その名声にあやかろうと、ごろつきな冒険者連中がやってきて宿に在籍し、メルメルによって調教…もとい、性根を叩き直されるわけである。
おかげさまで宿は随分と良くなりました。えがったえがった。…え、ネセレはどうなのって?えっとねー、彼女は相変わらずですよ、飲んだくれて夜に外に出て悪徳商人の帳簿をチョロまかしたり、いろいろと。酷い悪行だけはするなよって言っておいたんで、まあ義賊的行動ならいっか、って感じでお目溢ししている。それで一定の金銭を受諾していたとしても、まあ目を瞑ろうか。裏街道の連中も彼女を一目置いてて、彼女の部下連中もそっち側で情報収集のラインも整っている。うむ、順調であるな。
そんな、順調過ぎて怖いくらいにうららかな一日に、私は食事!酒!散策!寝る!の繰り返しである。みんなの目線が完全にプー太郎を見るようなアレだけど、私は休暇中だ。文句言われる筋合いはねぇぜ。
まあそんな感じで、今日もゴロゴロするためグリムちゃんとティニマを流しつつ飯を食っていたところ。
「しゅじょおおぉぉぉ!!!」
バッターン!とけたたましい音を立てて扉が開かれた。あれ、なんかデジャヴュ。
見たくないので見なかったけど、あちらはお構いなしにこっちすっ飛んできて机にダーンっ!と両手ついて叫んだ。
「すぐに!すぐにお帰りください!!」
「あ~、どこのどなたか知りませんが人違いじゃなかろうかね~」
「貴方の存在を間違えるわけ無いでしょう父上!?」
かっ~!やだね、バラしやがったよこいつ。
私の息子の登場に周囲のマイパーティ以外の連中はざわざわしてる。凄腕魔法士であらゆる過去が不肖なミステリアスジジイが台無しだな。嗚呼、仕方ないので相手してやるか~…。
私が睨めば、ヴァルスも少し気後れしたようだけど、すぐに立ち直って言った。
「主上、冥…仕事場の一部で綻びが発見されました。おそらく連中の仕業かと」
「…なに?」
思わず立ち上がる。そりゃマズイ。だって冥府の次元に虚無が侵攻されたら、とんでもないことになるじゃん。
あ~でも休暇…う~んでも世界には変えられんしな~。
ま、いっか。修繕したらとっとと戻ってくれば。ちゃっちゃっとやってぱっぱっと直しちゃいましょう。
「わかった、すぐに戻ろう。クラウン、私と一緒に帰るぞ。お前だけここに置いていったら、何をしでかすかわかったものじゃないから………って、いねぇし!?」
「なんかヴァルちゃんが飛び込んで来たら、影の中に消えちゃったよ~。でも、なんか大変そうだね~、あたしも見に行っていい?」
「う、うむ、構わん。むしろ、何かあった時にお前が居れば助かる。…それでは、クラウンが消えたのが非常に気になるが…仕方あるまい。メル、私はしばし留守にするが、何かあれば頼むぞ。くれぐれも!」
「え、ええ、わかりましたわ」
返事を聞いてから、とりあえず適当に呪文唱えて奇跡を行使。今回はアレだよ、魔法に見せかけた転移だから。体面って大事。
しかし、とんだ残業になりそうだな。あぁ~あ。
※※※
「なにやら騒動が起こったようですね…何事も無ければ良いのですが」
「おじい様なら大丈夫ですわ、きっと」
というか、カロンでなんともならなかった場合、それは世界秩序の崩壊を指すので何が何でもなんとかしてほしい、というのが定命の者たちの本音である。
神の仕事は神に任せ、小さき人間は日々を懸命に生きるのだ、と二人は現実逃避しつつ、午後のお茶に舌鼓を打っていた。
その時だ。
外で身なりの良い人物の応対をしていたゲッシュが、ドタドタと何かを掲げてやってきた。
「お~い、メルメルよぉ!なんかお前ら宛に手紙が来てるぜぇ!」
「あら、手紙、ですの?誰から…」
ゲッシュから受け取った手紙を手にし、メルは少し柳眉を潜めた。宛名はカロン御一行様、とあったのだ。
おもむろに封蝋を取り、中身を取り出して読んでから、思わず口元に手を当てる。
「…まぁ、なんてこと」
「どうされました?」
「依頼ですわ。アレギシセル侯爵からの!」
その言葉に、ケルトはかなり顰めっ面をした。理由は言うまでもない。
そんなケルトを置いておいて、やってきたハディが手紙を覗き込んでいる。
「んで、内容は何だって?メル姉」
「なんでも、南大陸の一部の村が音信不通になってしまったそうですわ。古代遺跡がある山岳周辺の村々が。それを名うての冒険者であるアタクシ達に調査してもらいたい、という内容ですの」
「それは、困りますね。いろいろと」
そう、いろいろとマズイ。
ケルトはまあ当人の気持ちの問題なのでさしたる事ではないが、メルサディールが今現在、南大陸に向かうのはマズイのだ。現在の帝国と半獣の王国との衝突寸前の状況を見るに、勇者が、しかも敵国の皇女が国境付近をうろうろしているなど、痛くない腹を探られるだけの理由にしかならない。なにより、メルは婚約話を蹴っ飛ばしている。今更、どの面下げてあちらに赴けばいいというのか。
これはメルの実力如何の話ではない。国の問題なのだ。いかな勇者とて、国そのものを相手取って敵対行為をするにはリスクが大きすぎる。
「おじい様もいませんし、アタクシは向かえないとなれば…この話はご破産という事で宜しいですわね?」
「そうですね、それが一番良いかと」
「ふ~ん、俺もよくわかんないけど、いいよ」
そんな感じで、アレギシセル侯爵からの依頼に関しては、メル直筆のお断りの手紙を認める事で終わることとなったのだ。…そう、この時は。
転機は一ヶ月後にやってきた。
「…冒険者が行方不明?」
「そうそう、そうなんだよ!なんかよぉ、侯爵に声かけられた別のパーティ…まあジャド達なんだがな?が向かったんだが、音信不通になっちまった!」
「…おかしな話ですね。アレギシセル侯爵直々の依頼というからには、当然ですが冒険者には位置情報を知らせる魔法のリングを取り付けられるはずです」
「え、そんなのがあるの?」
「はい。魔法に長けたアレギシセル家だからこそ取り扱える、先祖伝来の量産型魔法道具ですよ。これさえあれば、冒険者が金銭を持ち逃げすることもありませんし、逃げても捕まえられますし、冒険者側が外すことは出来ません。ようは、簡易の首輪ですね」
「うわぁ…なんかそれはそれで嫌だなぁ」
「冒険者は信用がありませんから」
「そうなんだぜ!その魔法リングを取り外せる方法があって、連中は前金持って逃げたのか、とか、あちらさんは言ってるけど、そんな連中じゃないのは俺がよーく知ってんだよ!だからよぉ、できれば腕の良いお前らに頼みたいんだわ」
ゲッシュの言葉に、集まっていた三人は、再び顔を見合わせた。
「だ、そうだけど。どうする?爺さんはまだ帰ってこないし」
「いつになるかわかりませんからね。時の流れが違うでしょうし、下手をすれば数年は戻ってこないかも」
「そりゃ困る!?このままじゃウチの宿の信用問題にもなりかねねぇ!だからメルメル、どうにかならねーか?」
「ですが…アタクシがあちらに赴くのは無理ですわ。流石に今、ヴェシレアを刺激するのは責任問題以前の行動ですもの。下手を打って戦争ともなれば、いろいろと厄介になります」
「そ、そっか…そうだよな…すまねえ、無理を言ったぜ」
消沈するゲッシュを見て、ハディは思わず声を上げていた。
「なあ、それじゃ俺達だけが見に行くってのは、問題ないんだよな?」
「え?…え、ええ、それは良いですけど…けれども、おじい様も居ない現状、ハディ達だけではちょっと心配な感じが…」
「大丈夫だって!俺達だって強くなったし、その辺の魔物が相手なら問題なく蹴散らせるさ!なぁケルト!」
「え~、まあそうですねぇ、問題は無いと言えば無いのですが~」
「そういうことだから!だから、俺らで行ってくるよ!」
微妙に行きたがらないケルトを引きずるように言うハディに、メルは少し思案してから、ため息を一つ。
「まあ、無理をせずに様子を見に行くだけならば。いつまでも子供扱いするのも違うでしょうしね」
「それじゃ?」
「わかりましたわ。けれども、決して無理をしないこと。実力以上の存在を相手にする際、相対してからでは遅いのですからね。わかっているでしょうけども」
「もちろんさ!」
以前のクレイビーとの戦いは、確かにパーティーの中の意識を変えていた。決して勝てぬ相手との戦いは死を意味する。メルが出てこなければ、あのまま全滅していただろうから、尚の事。
とりあえず認めたメルであったが、ややブラコン気質な彼女、心配なので別の手を打つことにする。
「ネセレ、貴方も暇をしてらっしゃるんでしょう?」
離れたテーブルに両足掛けて、銀貨を数えていたネセレはその言葉に舌打ちをする。
「言っとくが、アタイはタダ働きはゴメンだぜ。そういうのは慈善家に頼むんだな」
「同じパーティですのに、随分な態度ですのね」
「アタイはお前らの仲間になった気はねーよ。あのクソジジイが原因だからな」
「強情ですこと」
そう言い、メルは席を立ってネセレの机に近づいて、何かを置いた。
眉を上げたネセレがそれを手に取れば、金色の輝きが。
「とりあえず、前金で金貨1枚。彼らの依頼に同行して可能な限り護衛、及び何が何でも生命を助けるのが依頼内容です。残りは日数に応じて日当銀貨5枚で如何?」
「乗った」
護衛としては破格な内容に、ネセレは一にも無く答えた。
一方、なにやら実力的に信頼されていないように感じたのか、ハディが不満げに唇を尖らせる。
「そんな大金出さなくてもいいのに」
「子供はお金の事で心配なんてしなくても宜しいのよ、ハディ?それに、信頼されたかったら、もっと強くなることですわね。アタクシを退けられるほどに強く」
「メル姉より強い人間ってこの世界の居るの?」
「意外と多いかも知れませんわよ?」
状況次第で負けもありうるのが戦いの世界だ。メルはその辺はシビアに考えている。
何より、どこか胸騒ぎがするのだ。
(南大陸…聞いた瞬間、何かゾワゾワした感覚が奔りましたわ。本当は行かせるべきでは無いのでしょうけども、放置するのも嫌な予感がします。…悔しいですけど、ネセレと一緒に調査してもらうのが一番ベターですわね)
ついでに、ここに居ないカロンに悪態をつく。肝心な時に居ないのだから困る。
…こういう経緯により、ハディ・ケルト・ネセレの三人パーティは、南大陸へと向かうことになったのである。
「あぁ!主上よ!この場に出会えましたのはまさに運命の如き導き!なんという栄誉!この喜びをお伝えするには言葉では言い表すことが出来ませんよ、我が主!!」
「んでね~、その避難場所を作るにしても、まずは元素が危険って判断して逃げ出すシステムが必要なわけなんだよね~。でもあたし、そういうの全然わかんないし」
「前に出会いましたるは1年と431日と29時間81分前ほどのこと!我が主に出会えなかったこの長きに渡る時間はまさに地獄の如きと形容できそうな苦楽の日々でありました!」
「そこでね、ル…カロンがそれを作ってくれたら~良いなって思って~…えっと、駄目?駄目かなぁ?でもこれからの対策には必須だと思うし~」
「あぁ我が主我が主!愛しき我が主上のお心に添えるようこのクラウンは誠心誠意を持って遣わしていただきますぅ!我が愛しき最も気高き御方よおぉぉっ!!」
えぇえい!ステレオで喋るな喧しい!?
ゲッシュの宿、両側でティニマとグリムちゃんに挟まれて飯がマズイ。おいこらお前ら、人の食事の邪魔すんじゃねーよ。っていうかティニマ!私は今休暇中だっつーの!仕事の話しをするんじゃねえぇぇ!!
「で、でもさ~、こういうのってやっぱル…カロンじゃなきゃ出来ないっていうか」
する努力が無いだけだろう!?精霊はそっちの管轄!これ以上は私は手は出さんからな絶対に!!自分でやりなさい!自分で!!
「えぇ~!カロンのいじわる~!!」
シャラァップッ!!
…で、グリムちゃん…もとい、クラウンは何でまたここに居るの?
「あぁ!ようやく私を見てくださいましたね我が主っ!!だって主上と会えぬ日々はまさに恋い焦がれる乙女のような心持ちだったのですよぉ!!」
はいはい、寂しかったんね~わかったわかった。
なんか甘えてくるグリムちゃんをナデナデしつつ、ティニマの話しを適当に聞き流しながら肉を齧る。ヴィン肉のローストは豪華で美味いぜ。
なお、グリムちゃんの衣装はいつもどおりの中肉中背、極彩色な道化衣装に顔を覆う道化面と帽子です。
ええとね、グリムちゃんは日によって顔立ちがコロコロ変わるんで、目立たないように絶対に外れない仮面を着けさせてる。同じ理由で服も脱げない。いいんだよ神なんだから、着替えも必要ないし。私と同じく邪神扱いだけど。顔はグリセルとアーヴェルの相貌を行ったり来たりしてて、たまに顔半分だけ別人になったりするという奇怪な性質なのだ。定まらぬのは正気だけじゃないんですね。
そして私に仕事を押し付けてくるティニマは、相変わらず人の天使ちゃん人形を化身に使ってやがる。
おい、それ私の。
「だってさ~、カロンの作ったのって上手でしょ?あたしだとなんかこう~…変?な感じになっちゃって」
それ、サレンちゃんには言わないようにね。ショック受けるから。
周囲を見れば、ああほら、ケルトとメルメルが死んだような目でこっち見てんじゃん。私を慕うグリムちゃんの正体は察せてないはずだけど、きっと面倒な存在なんだろうな~って思いが透けて見える。
あと、ティニマが居るのでトゥーセルカも居座って歌ってる。あの人、たまにここに来て歌うんだよね。たぶんティニマが目当てなんだろうけど、懲りないねぇ。でも客が入るんで繁盛してます。力を使わなくとも歌の腕前は凄まじい。さすが音楽の神様。
なお、トゥーセルカはメーシュカの吟遊大会で見事に優勝をかっさらいました。もちろん、力は使わずに。満員御礼で例年にない大反響だったらしく、優勝したトゥーセルカの名はこのゲンニ大陸でも瞬く間に広まっております。ま、頑張れよ。リュートの製法を聞きにドワーフがやって来てるみたいだけど、ナイロン弦が再現できるのか見ものであるな。
それと、ダーナちゃんがおたおたしながら給仕してて、
「ダーナちゃーん!こっちに水ちょうだいー!」
「そ、それくらい自分で入れなさいよねっ!」
「ダーナちゃん!この料理追加でー!」
「も、もうちょっと味わって食べなさいよ!作った人に申し訳ないと思わないの!?」
「ダーナお嬢さぁぁん!!結婚してくれー!!」
「知らないわよバカっ!!」
って感じでからかわれてる。反応が面白いから、冒険者連中にとっては恰好の玩具やね。まあ最後のはマジかも知れないんで、メルメルが危ない目を向けているが。それと、ウサギさんのシーナちゃんも来てて、合間を縫ってダーナちゃんと楽しげに話してる。見てて癒やされるわぁ。っていうか、冒険者連中も癒やされてる。ほっこりしてるもの。
そう、ゲッシュの宿は今日も繁盛している。一時期の閑古鳥がまるで嘘のようだ。
なんと言っても、我らが来てからもう一年以上経ってるしね。ハディも13才になったし、時の流れは早いもんだ。嫌がらせは私とメルメルの力で尽く邪魔され、私の裏工作もあって撃退できており、うんこを投げつけられることはもうない。悪い噂とかも流れたみたいだけど、そこはメルメルの裏工作、彼女のお兄さんの力で揉み消された。あと豚子女史のさりげなーい宣伝効果もあるね。たまにハディがお菓子食べに遊びに行っててご機嫌取りしてるから、宿自体の心象は良いはずだ。
それに、依頼を達成する回数も50を超えたし、そこそこに名が知れてきているというのもある。ごろつきな冒険者とは違う、公序良俗に反しない名うての冒険者って少ないからさ、相手の弱みにつけ込んだ依頼料の釣り上げとかもしないから、一般からの評判も悪くない。で、信頼が増えれば増えた分、ゲッシュの宿に来る依頼の話が多くなる。で、その名声にあやかろうと、ごろつきな冒険者連中がやってきて宿に在籍し、メルメルによって調教…もとい、性根を叩き直されるわけである。
おかげさまで宿は随分と良くなりました。えがったえがった。…え、ネセレはどうなのって?えっとねー、彼女は相変わらずですよ、飲んだくれて夜に外に出て悪徳商人の帳簿をチョロまかしたり、いろいろと。酷い悪行だけはするなよって言っておいたんで、まあ義賊的行動ならいっか、って感じでお目溢ししている。それで一定の金銭を受諾していたとしても、まあ目を瞑ろうか。裏街道の連中も彼女を一目置いてて、彼女の部下連中もそっち側で情報収集のラインも整っている。うむ、順調であるな。
そんな、順調過ぎて怖いくらいにうららかな一日に、私は食事!酒!散策!寝る!の繰り返しである。みんなの目線が完全にプー太郎を見るようなアレだけど、私は休暇中だ。文句言われる筋合いはねぇぜ。
まあそんな感じで、今日もゴロゴロするためグリムちゃんとティニマを流しつつ飯を食っていたところ。
「しゅじょおおぉぉぉ!!!」
バッターン!とけたたましい音を立てて扉が開かれた。あれ、なんかデジャヴュ。
見たくないので見なかったけど、あちらはお構いなしにこっちすっ飛んできて机にダーンっ!と両手ついて叫んだ。
「すぐに!すぐにお帰りください!!」
「あ~、どこのどなたか知りませんが人違いじゃなかろうかね~」
「貴方の存在を間違えるわけ無いでしょう父上!?」
かっ~!やだね、バラしやがったよこいつ。
私の息子の登場に周囲のマイパーティ以外の連中はざわざわしてる。凄腕魔法士であらゆる過去が不肖なミステリアスジジイが台無しだな。嗚呼、仕方ないので相手してやるか~…。
私が睨めば、ヴァルスも少し気後れしたようだけど、すぐに立ち直って言った。
「主上、冥…仕事場の一部で綻びが発見されました。おそらく連中の仕業かと」
「…なに?」
思わず立ち上がる。そりゃマズイ。だって冥府の次元に虚無が侵攻されたら、とんでもないことになるじゃん。
あ~でも休暇…う~んでも世界には変えられんしな~。
ま、いっか。修繕したらとっとと戻ってくれば。ちゃっちゃっとやってぱっぱっと直しちゃいましょう。
「わかった、すぐに戻ろう。クラウン、私と一緒に帰るぞ。お前だけここに置いていったら、何をしでかすかわかったものじゃないから………って、いねぇし!?」
「なんかヴァルちゃんが飛び込んで来たら、影の中に消えちゃったよ~。でも、なんか大変そうだね~、あたしも見に行っていい?」
「う、うむ、構わん。むしろ、何かあった時にお前が居れば助かる。…それでは、クラウンが消えたのが非常に気になるが…仕方あるまい。メル、私はしばし留守にするが、何かあれば頼むぞ。くれぐれも!」
「え、ええ、わかりましたわ」
返事を聞いてから、とりあえず適当に呪文唱えて奇跡を行使。今回はアレだよ、魔法に見せかけた転移だから。体面って大事。
しかし、とんだ残業になりそうだな。あぁ~あ。
※※※
「なにやら騒動が起こったようですね…何事も無ければ良いのですが」
「おじい様なら大丈夫ですわ、きっと」
というか、カロンでなんともならなかった場合、それは世界秩序の崩壊を指すので何が何でもなんとかしてほしい、というのが定命の者たちの本音である。
神の仕事は神に任せ、小さき人間は日々を懸命に生きるのだ、と二人は現実逃避しつつ、午後のお茶に舌鼓を打っていた。
その時だ。
外で身なりの良い人物の応対をしていたゲッシュが、ドタドタと何かを掲げてやってきた。
「お~い、メルメルよぉ!なんかお前ら宛に手紙が来てるぜぇ!」
「あら、手紙、ですの?誰から…」
ゲッシュから受け取った手紙を手にし、メルは少し柳眉を潜めた。宛名はカロン御一行様、とあったのだ。
おもむろに封蝋を取り、中身を取り出して読んでから、思わず口元に手を当てる。
「…まぁ、なんてこと」
「どうされました?」
「依頼ですわ。アレギシセル侯爵からの!」
その言葉に、ケルトはかなり顰めっ面をした。理由は言うまでもない。
そんなケルトを置いておいて、やってきたハディが手紙を覗き込んでいる。
「んで、内容は何だって?メル姉」
「なんでも、南大陸の一部の村が音信不通になってしまったそうですわ。古代遺跡がある山岳周辺の村々が。それを名うての冒険者であるアタクシ達に調査してもらいたい、という内容ですの」
「それは、困りますね。いろいろと」
そう、いろいろとマズイ。
ケルトはまあ当人の気持ちの問題なのでさしたる事ではないが、メルサディールが今現在、南大陸に向かうのはマズイのだ。現在の帝国と半獣の王国との衝突寸前の状況を見るに、勇者が、しかも敵国の皇女が国境付近をうろうろしているなど、痛くない腹を探られるだけの理由にしかならない。なにより、メルは婚約話を蹴っ飛ばしている。今更、どの面下げてあちらに赴けばいいというのか。
これはメルの実力如何の話ではない。国の問題なのだ。いかな勇者とて、国そのものを相手取って敵対行為をするにはリスクが大きすぎる。
「おじい様もいませんし、アタクシは向かえないとなれば…この話はご破産という事で宜しいですわね?」
「そうですね、それが一番良いかと」
「ふ~ん、俺もよくわかんないけど、いいよ」
そんな感じで、アレギシセル侯爵からの依頼に関しては、メル直筆のお断りの手紙を認める事で終わることとなったのだ。…そう、この時は。
転機は一ヶ月後にやってきた。
「…冒険者が行方不明?」
「そうそう、そうなんだよ!なんかよぉ、侯爵に声かけられた別のパーティ…まあジャド達なんだがな?が向かったんだが、音信不通になっちまった!」
「…おかしな話ですね。アレギシセル侯爵直々の依頼というからには、当然ですが冒険者には位置情報を知らせる魔法のリングを取り付けられるはずです」
「え、そんなのがあるの?」
「はい。魔法に長けたアレギシセル家だからこそ取り扱える、先祖伝来の量産型魔法道具ですよ。これさえあれば、冒険者が金銭を持ち逃げすることもありませんし、逃げても捕まえられますし、冒険者側が外すことは出来ません。ようは、簡易の首輪ですね」
「うわぁ…なんかそれはそれで嫌だなぁ」
「冒険者は信用がありませんから」
「そうなんだぜ!その魔法リングを取り外せる方法があって、連中は前金持って逃げたのか、とか、あちらさんは言ってるけど、そんな連中じゃないのは俺がよーく知ってんだよ!だからよぉ、できれば腕の良いお前らに頼みたいんだわ」
ゲッシュの言葉に、集まっていた三人は、再び顔を見合わせた。
「だ、そうだけど。どうする?爺さんはまだ帰ってこないし」
「いつになるかわかりませんからね。時の流れが違うでしょうし、下手をすれば数年は戻ってこないかも」
「そりゃ困る!?このままじゃウチの宿の信用問題にもなりかねねぇ!だからメルメル、どうにかならねーか?」
「ですが…アタクシがあちらに赴くのは無理ですわ。流石に今、ヴェシレアを刺激するのは責任問題以前の行動ですもの。下手を打って戦争ともなれば、いろいろと厄介になります」
「そ、そっか…そうだよな…すまねえ、無理を言ったぜ」
消沈するゲッシュを見て、ハディは思わず声を上げていた。
「なあ、それじゃ俺達だけが見に行くってのは、問題ないんだよな?」
「え?…え、ええ、それは良いですけど…けれども、おじい様も居ない現状、ハディ達だけではちょっと心配な感じが…」
「大丈夫だって!俺達だって強くなったし、その辺の魔物が相手なら問題なく蹴散らせるさ!なぁケルト!」
「え~、まあそうですねぇ、問題は無いと言えば無いのですが~」
「そういうことだから!だから、俺らで行ってくるよ!」
微妙に行きたがらないケルトを引きずるように言うハディに、メルは少し思案してから、ため息を一つ。
「まあ、無理をせずに様子を見に行くだけならば。いつまでも子供扱いするのも違うでしょうしね」
「それじゃ?」
「わかりましたわ。けれども、決して無理をしないこと。実力以上の存在を相手にする際、相対してからでは遅いのですからね。わかっているでしょうけども」
「もちろんさ!」
以前のクレイビーとの戦いは、確かにパーティーの中の意識を変えていた。決して勝てぬ相手との戦いは死を意味する。メルが出てこなければ、あのまま全滅していただろうから、尚の事。
とりあえず認めたメルであったが、ややブラコン気質な彼女、心配なので別の手を打つことにする。
「ネセレ、貴方も暇をしてらっしゃるんでしょう?」
離れたテーブルに両足掛けて、銀貨を数えていたネセレはその言葉に舌打ちをする。
「言っとくが、アタイはタダ働きはゴメンだぜ。そういうのは慈善家に頼むんだな」
「同じパーティですのに、随分な態度ですのね」
「アタイはお前らの仲間になった気はねーよ。あのクソジジイが原因だからな」
「強情ですこと」
そう言い、メルは席を立ってネセレの机に近づいて、何かを置いた。
眉を上げたネセレがそれを手に取れば、金色の輝きが。
「とりあえず、前金で金貨1枚。彼らの依頼に同行して可能な限り護衛、及び何が何でも生命を助けるのが依頼内容です。残りは日数に応じて日当銀貨5枚で如何?」
「乗った」
護衛としては破格な内容に、ネセレは一にも無く答えた。
一方、なにやら実力的に信頼されていないように感じたのか、ハディが不満げに唇を尖らせる。
「そんな大金出さなくてもいいのに」
「子供はお金の事で心配なんてしなくても宜しいのよ、ハディ?それに、信頼されたかったら、もっと強くなることですわね。アタクシを退けられるほどに強く」
「メル姉より強い人間ってこの世界の居るの?」
「意外と多いかも知れませんわよ?」
状況次第で負けもありうるのが戦いの世界だ。メルはその辺はシビアに考えている。
何より、どこか胸騒ぎがするのだ。
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