どうも、邪神です

満月丸

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冒険者編

誰にでも黒歴史ってあるよね

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「わ~!船って気持ちいいもんだなぁ~!!」
『ふむ、潮風が良い心地だ…人の感覚で体験するのも奇妙だが、面白いものだ』

数日後、準備を終えた一行はケンタックを発ち、南へ2日かけた場所にある港湾都市へと赴いた。この港湾都市エーメルは、古代人の物語で語られる「鍛冶屋エーメルの冒険」で、彼ら勅使一行が初めて上陸した場所であるとされる。故に、その土地についた名も鍛冶屋と同名なのであった。
さて、そのエーメルで乗り合い船に乗船し、あまり大きくない小規模船で大海峡を渡る。
かつて、大地神にして地母神ティニマの嘆きにより、一つであったゲンニ大陸は真っ二つに割れてしまったという。その名残がこの海峡であり、水平線の彼方には薄靄の掛かった南大陸が目に見える。
カモメが船と並走し、ついでになんでかカラスも飛んでいる。カモメの鳴き声と、アホーアホーと気の抜けるカラスの声を聞きながら、船は波を蹴り返しながらそこへ向かって進んでいた。

「お~坊主!船に乗るのは初めてか!?」
「ああ!海は見たことあったけど、超えるのは初めてなんだ!すっごいなぁ、これ!なんで櫂も無いのに勝手に進んでるんだ!?」
『見たところ、魔法道具でも使っているのか?』

ハディの言葉に、浅黒い顔の船乗りは快活に笑った。

「おう!これこそが帝国の最新鋭の技術で作られた帆船!錬金術の動力で動く自走船ってわけだ!!」
「自走船!?」
「詳しいことは聞くなよ!俺にもわからんからな!!」

がっはっは!と笑う船乗りに、ハディは興味津々に質問している。
それを少し離れた場所で、欄干にもたれかかりながらケルトとネセレが見ている。

「…はっ!ガキはお気楽でいいもんだぜ」
「ですが、ハディの興奮も少しわかりますよ。錬金術、改めて凄まじい分野ですね。世に広まり始めて既に15年。これを作り出した神と、それを習得し改良を成し得たメルサディール様には頭が上がらない思いです」
「本当にいいことばかりかねぇ」

ネセレの懐疑的な言葉に、ケルトはキョトンとして相手を見返す。
ネセレは、海を眺めながら気だるげに呟く。

「便利になるのは良いことだぜ。だが、急速に便利になりすぎてるようにも思える。この動力ってのもそうだ。本当に、無尽蔵に活用できるシロモンなのか?」
「…ヴァルは天光神より与えられているとされます。太陽が落ちぬ限り、永遠に流れ出ると」
「どっかのお偉いさんが、勝手にそう主張してるってだけの話だろうが。実際、あのジジイを見て考えろよ。あいつの同類が、本当に全知全能で全てを把握しているような怪物に思えるか?」

そう言われれば、なんだか尻窄みになってしまう。どうにも、神であってもなんでもこなせる訳ではないらしいのは、見ていてわかる。
例えば、カロンは相手の心を読むことが出来ない。賭け事でも、賽の目を見えないところで操ることは出来るが、必ず特定の目を出すことは出来ない。因果律を操ることは出来ず、時を逆戻しすることも出来ない。それは、神ですら手を加えられない不可分領域だ、と当人がぼやいていた。
ネセレは、そんなカロンの不完全性を引き合いに出しながら言う。

「つまり、この錬金術ってけったいなシロモンも、必ずどこかで打ち止めになる。だってそうだろ?資源ってのは使った分だけ消えていくもんだ。金貨を稼いでも、使えばなくなる。その金貨も作る奴が居なけりゃ、いつかどこかに消えてなくなる……いや違うか。どっかに隠されちまうんだろうな。ま、つまりは…アタイはそのヴァルってのに、そこまで楽観視はしてねーってこった」
「…神に限界があるように、エネルギーにも限界がある…」

それはつまり、世界の終わりでもある。
それはまさに、終末の予感だ。宇宙的恐怖に類似した可能性に、定命の者であるケルトは思わずゾッとする。
世界の終わりなど、誰だって考えたくもない。
しかし話題を振った当の本人は、どうでも良さそうに欠伸しながら頭を掻いている。

「ま、アタイらの世代じゃ関係ねーことだろうがな。つまりは、どうでも良いことだってこった」
「…しかし、もしその仮定が事実ならば、我々のしていることは、未来を消費している事かもしれない」

未来が安価に消費されているのならば…ならば、終末を迎える未来の人々は、転生した自分たちは、過去の自らを呪うのだろうか?
そんな益体も無い事を考えるが、内心で抱く予感に心が震える。
気づくべきでは無かったのかも知れない、と心の何処かで呟く。しかし、いつかは気づく必要のあることなのかも知れない。けれども、知ったところで何が出来るというのか。所詮、個人で出来ることなど些末だというのに。
そんな黙したケルトを眺めてから、ネセレはウンザリしたように舌を出す。

「…お~いケルト~!なんかさ、おっちゃんが動力部を見せてくれるってさ!一緒に見に行かないか!?」

潮風に負けまいと叫ぶ声に、ケルトはハッとなった。
途端、頭の中で渦巻いていた不安が去っていくかのような…。
そんなケルトへ、ネセレはバシンと背を叩いて促す。

「行ってこいよ。ずっと先の事をうだうだと悩んでいるよりかは、別のことを考えた方が健全だぜ?ガキンチョ」

ネセレの言葉に思わず肩の力を抜いてから、ケルトは頷いた。

「…そうですね。それじゃ、少し行ってきます」
「勝手に行って来い。船から落ちなきゃ安い」
「ははは、それじゃネセレもお気をつけて。酔っ払って落ちないように」
「アタイを誰だと思ってやがる?」

ハディの背を追うその背中を横目で見て、ネセレは一人、両手を広げて悪態をつく。

「…ったく、ほんっとうに小難しく考えがちなんだよ、頭でっかちめ」


※※※


船で超えて、着いたのは対岸となる南大陸の北端の港湾だ。エーメルと違い、こちらはあまり都市として発展はしておらず、むしろ城塞に近い形状になっているのは、戦争を意識した作りだからか。
官吏による厳しい身元チェックを終え、冒険者の旅券を返してもらった一同は「城塞湾イーミル」に降り立った。とはいっても、ここにあるのは商人用の大きな倉庫と大小様々な船舶、そして宿泊施設だけだ。規律的な問題なのか、大衆食堂はあっても店舗は少ないので、基本的に旅人は通過していくだけの場所だ。

降り立ってまず最初に思ったのは、少し暑い、という点だろうか。やや寒冷なケンタックと違い、海峡を渡れば南大陸は温暖な気候となっている。目と鼻の先だというのに、海を線引きにして気温が格段に変わるというのも、奇妙な話であるが。神か自然の神秘と言うやつなのだろう。
つまり、南大陸は北大陸より温暖な気候であり、南に行けば行くほど亜熱帯となる。ちなみに、南は胡椒栽培などが盛んであるので、ケンタックでは比較的、他大陸より香辛料が安かったりする。

閑話休題。

さて、一行はイーミルからも発ち、南へほんの数時間ほど進んだ先にある…というか、イーミルからでも見える大きな都市影へと向かった。
こちらが、南大陸におけるデグゼラス帝国唯一の主要都市。
アレギシセル侯爵が統治する「大都市ラドリオン」である。
…そして、ケルトにとっての生家があるのも、ここである。

「うわぁ、ケンタックと同じくらいに広いんだなぁ~」

入都税を払い、検問を超えた門を通れば、やはり広大な農地が広がっている。だが規模はケンタックより狭く、栽培している植物や野菜も北大陸とは違う。比較的、暖かい地方で育てることの出来る野菜が多いように思えた。現在はノークの月(4月くらい)なので、まだ青さの残る、トマトに似た植物が多く見られるだろうか。
…なお、この世界の麦は寒暖差があろうが水が少なかろうが育てることが可能なように改良されているため、小麦畑はこちらでも見ることが出来る。
その農地を抜ければ、その先は都市に通じる内門だ。
ケンタックと同じくそこを抜ければ、広がるのは大都市の街並み。

ケンタックは、木材の梁の合間に白い漆喰の三角屋根な建築物が一般的であったが、ラドリオンは主に石材建築が多く散見される。屋根は少なく、かろうじて庇のような出っ張りがついている程度で、天井は傾斜しているが歩けないことは無い。というか、歩けるように道になっている場所もあり、通路として繋がっている部位もある。また、屋根の上には何の用途か不明だが壁が多くあり、やや日照に悪い作りとなっているのが特徴か。
大通りは人々が多くひしめいているが、ここは通りの左右に市場が併設されているらしく、通りに面してズラーッと天蓋付きの露店が並んでいるのが圧巻である。また、夕方らしく農作物を扱う露店商の掛け声が勇ましく流れ合い、日持ちできない商品の値段が叩き売りされているようだ。それに庶民な主婦層が喧々囂々と値切り合戦しながら買い込んでいる。中流階級の人々のようだが、その熱意は見ていて実に清々しい。
賑やかしい大通りをキョロキョロ見ているハディは完全にお上りさんで、ネセレが小突いて連れてこなければどこかに行ってしまいそうであった。逆に、ネセレは慣れたもので、ケルトはフードを深く被って俯きがちだ。

「おいガキンチョ共。とりあえず宿取るぞ、宿。この街でまともと言えば…あそこだな」

勝手知ったる様子でネセレが案内し、二人は顔を見合わせる。
どうやら、ネセレはラドリオンへ来るのは初めてではないらしい。

ネセレが裏路地らしき場所を通った先は、そこそこに人通りのある中通り。家路を行く人々がまばらに見えるそこを通り、更に曲がりくねった小道を抜けた先の通りに件の宿があった。ただし、外見は凄まじく薄汚い。風に揺れる看板はボロボロで、すでに何が書かれてるかわからない。

「…なぁ、大丈夫なのか、ここ」
『エクトプラズムでも出てきそうな建物だな』
「怖いなら別の宿取ってこいよ。言っとくが、ラドリオンでこの時間帯、表通りの宿は全部取られてるぜ。なんたってケンタックとの交易の要なんだからな」

そう言われれば何も言えず、二人は渋々とネセレの後をついていった。
カラン、とドアベルが鳴り、室内の暗さに眉根を寄せる。
外装とは違い、そこそこに小奇麗な小部屋だった。
その奥から主人らしき小男がやってきた。足を引きずり、醜い容貌で片眼鏡の老爺だが、ネセレの顔を見て目を見開いた。

「おお!これはネセレ様!お久しぶりでやんす!」

変な語尾の老爺へ、ネセレはニヤッと笑って手を上げた。

「けっ!まぁだくたばってなかったか、ネムド。ここは相変わらず小汚ぇ宿だな」
「表通りには出れない場所でやんすからねぇ。…おっと、そちらの方々は?」
「依頼対象、兼同行者、兼子守りってとこだな」
「ははは…ネセレ様も後継を取る時代になったんでやんすねぇ、歳は取るもんです」
「バカ言え、アタイはまだまだ現役だっつーの。ま、こいつらはそっちのモンじゃねえよ、堅気の連中だ」
「おやおや」

会話を聞いていて、なんだかハディとケルトは顔を見合わせる。明らかにまともな宿では無さそうである。そもそも、ネセレの伝という時点で怪しむべきであったのかも知れないが。

ともあれ、特に問題もなく宿を一部屋取り…異性だがネセレはそういうのを一切気にしない、また手を出した相手はひどい目に会うので無問題である…ようやく三人は人心地をつけたのである。
部屋は薄汚れてはいるが、ベッド三人分と机一つある程度でそこそこに空間はある。…カロンが居れば「狭い部屋だなぁ」と感じたかも知れないが、この世界の居住空間など基本的に手狭である。基本、プライベートスペースとは、軒があって横になって寝られればいいだけなのだから。

※※※

…その夜。
ネセレは一人でどこかで出かけてしまい、二人はその怪しい宿の一階で食事を摂ることにした。
しかし、そこはお世辞にも良い雰囲気の場所では無いようだ。
薄汚れた場末の酒場、煉瓦造りのそこは明かりが少なめで全体的に薄暗く、隅の方は相手の顔もよく見えないだろう。床はゴミが散乱し、木製テーブルの上には酒杯と食事、そして何に使用するのかわからない品々。歓談する男達の人相は悪く、如何にもスネに傷持ちなその雰囲気は堅気の者とはいい難い。賭博に興じてダイスを振る者や、壁の盤にナイフを投げる者、カウンターでは如何にも怪しげな取引現場らしきローブとフードの男が数名。

とりあえず、ケルトはここに来たのを後悔した。

しかしハディは臆する様子もなくカウンターに座り、主人…あの醜い老爺とは別人の、無口そうな男へ注文した。それに肩を竦めて諦め、ケルトは踵を返しかけた足をカウンターへ向けることとなった。

「じゃ、俺はクロネパンと水と…あと今日のオススメってなに?」
「………今日は豆煮込みだな」
「あ、じゃあそれ一品。ケルトはどうする?」
「では、同じのを」
「………一人銅貨8枚だ」

支払いは前払いらしく、テーブルに銅貨を出すと主人はすぐに引っ込み、二人の前に食事を出した。
野菜を挟んだクロネパン…焼いて時間が経ってないのか柔らかく、やや大きいそれと、大きいビーンズとジャガイモのような野菜が入ったトマト煮込み。ほかほかと暖かなそれに、ハディは笑顔になりながら齧り付いた。

(……毒は、入ってないですよね)

さり気なく警戒しつつもそもそと食べるケルトは、ちらりと酒場内を見回す。
どうにも、注目されているように感じたのだ。自分たちの顔は知られていないはずだが、どういうことか、と内心で更に警戒を高めていると、

「…お」

食べていたハディが、自然な動作で木製スプーンを振るう。

カキィン!と硬質的な音を立てて床に落ちたのは、一本の小さなナイフ。

思わず腰を浮かしかけたケルトと裏腹に、ハディはそれを拾いながら、投げた男へ放った。

「おじさん、危ないよ?」
「…なんだ、随分と肝の座ったガキだな」

ナイフを空中で掴み、男はニヤリと笑う。頬の大きなキズ跡が歪み、引きつったようになった。
一般人が見れば悲鳴を上げて逃げ出しそうな人相だが、ハディは気にもせずにクロネパンを齧りつつ、男と会話を続けた。

「別に攻撃するつもりじゃなかっただろ。狙いは逸れてたし」
「…へっ、見た目通りってわけじゃなさそうだな。流石、あのネセレの連れなだけはある」
「おじさん、ネセレの知り合いかなんか?」
「ここであの女を知らねえ奴はいねえさ」

そう言いながら、男はハディの隣に来て座った。それにやはりケルトが戦々恐々となるのだが、ハディは気にした様子もない。思わずケルトがハディに引きつった顔を向けるのも仕方がないだろう。
そんなビクつくケルトに、男は肉食獣のような顔を向ける。

「そっちは…ま、警戒するもんじゃねえや。敵意はねぇってこのガキが言ってただろう」
「しかし…」
「こんなのはここでの挨拶代わりだよ」

周囲を見れば、確かにギャラリーは楽しげにこちらを観察している程度で、誰も殺気立った様子もない。おそらく、本当にただの挨拶代わりだったのだろう。主人は咎めることすらしない。
どうにも調子が狂う、と一般人的感覚のケルトは溜息ついて、諦めて席についた。

「おじさんさ、なんか用でもあるの?」
「本当に臆さねえガキだな。用って言うよりは、興味があるってのが正しい。あのネセレが十年ぶりに戻ってきて、お前らみたいなケツの青いガキ共を連れてきた。気にしねえ連中はここにはいねえよ」
「へぇ、ネセレってこっちじゃそんなに有名人なんだ?」
「おいおい、北っ側でも有名だろ。あの皇帝の王冠を盗み出した、天下の大盗賊様だ」
「ん~…俺って田舎育ちだから、あんまりよく知らないんだ」

正確に言えば、関わり合いになりたくなかった、というのが正しい。命を狙われている手前、出来るだけその手の情報すら聞きたくなかったので、ハディは意図的に無視していたのだ。

「おじさんの口ぶりじゃ、ネセレってこの辺で育ったのか?」
「いんや、あの女がどっから来たのかはよく知らねえ。噂じゃどっかの盗賊一家の一人で、5才の時点で飛び出してきたとかって話だが…ま、あの女は規格外だったからな。親元も苦労しただろうよ」
「規格外?すっごい強いってのは知ってるけど」
「ああ、あの女の腕前は知ってるのか」
「いっつも地面に転がされてるよ」

ハディの言葉に男は目を丸くしてから、思わずといった風情で笑った。

「なんだなんだ!それじゃマジでお前ら、あの女の後継なのか?」
「う~ん、俺は盗賊にはなるつもりないけど…カロン爺さんがネセレへ、俺達を鍛えてくれって言ったらしいんだ」
「カロン?そりゃぁ………珍しいな。ネセレが他人の言うことを聞くなんざ」
「まあ、ネセレってカロン爺さんに頭が上がらないし。クソジジイ!って叫びながら結局はちゃんと言うことを聞くんだ」
「はぁぁ、あのネセレが…7才でラドリオンの国庫に侵入した、あのチビがねぇ。そりゃ大層、おっかねえジジイなんだろうな」
「怖い…うん、怖いっていうより、人でなし?なんかネセレも、小さい頃にカロン爺さんのせいで酷い目にあったって話だし、俺もひどい目にあった…うん、凄い目にあったな…」
「ハディ、ハディ!大丈夫ですか?目が死んでますよ!?」

ケルトの声に答えることもなく、ハディは遠い目をしている。過去の記憶が蘇ったのかも知れない。内側でレビが呆れたようにため息を吐いている。

「誰にでも天敵が居るってことかねぇ、そりゃいいことを聞いた」
「…一応言っておきますが、あの御老人をどうこうしようなどと考えないほうが懸命ですよ」
「ほお、そりゃどうしてだ?若造」
「………………世の中、知らないほうがいいことって多いと思いませんか?」
「お~いケルト、なんか目が死んでるけど」

虚ろな口調でふふふと微笑むケルトに、男は流石に気味悪く感じたようだった。

「随分とまぁ、厄介な奴が背後に居るようだな。カロンっていやぁ、最近有名になってる北側の冒険者だろ。それじゃ、まさかとは思うがお前らも同じ冒険者パーティなのか?」
「ああ、ネセレもパーティの一員だよ」
「…たまげたなぁ、こりゃ。あの女が冒険者とは…遂に年貢の納め時が来たんだろうな」

男の会話に聞き耳を立てていたのか、周囲の連中がひそひそと囁き合っている。彼らにとって、ネセレが冒険者になったのは随分とセンセーショナルな話題なようだ。

「やっぱり、ネセレってこっちだと凄い奴って見られてるんだな」
「あぁ~、まあ、そうだな。凄いと言えば凄い。厄介と言えば厄介で、厄災みたいな女だって見解がほとんどだろうな。なんと言っても、ラドリオンの麻薬窟の連中に喧嘩売って、背後に居た裏の組織を根絶やしにしたんだからな。存在自体が気に食わねぇとか言って。…ああ、あの女がまだ10になる前の話だぜ?とんでもねぇ規格外だったよ」
「古くから「タビト」と呼ばれているのでしたね、彼女のような存在は」
「そうそう、まさにそのタビトだよ。ラドリオンを自在に駆け回り、影みたいに現れては疾風のように去る。狙った獲物は根こそぎ頂き、歯向かう奴は容赦なく叩き壊す。国も組織も関係ねぇ。勢力図なんざあってないようなもんで、好き勝手かき回してはメチャクチャにしやがる。まさに人災だ」
「そんなおっかなかったのか?」
「そりゃおっかねぇさ。よぉく考えて見ろよ。ナイフ一本で魔法をぶった切り、空中を蹴って自在に宙を駆け回り、残像を残しながら数人を一瞬で昏倒させられるバケモンだぜ?あんなのと敵対してみろよ、確実に潰されるのはわかりきってやがる。ああ、まさに当たらなきゃ問題ねぇって感じで飛び回ってたな。ありゃ見事なもんだった」

しみじみと言う相手は、どうやらネセレの幼い頃を知っているようだ。
それに、ハディは思ったことを呟く。

「そんじゃ、そのネセレを真正面から捕まえたカロン爺さんって、本当に凄いんだなぁ」
「…なにぃっ!?」

思わず大声あげて立ち上がった男と、余計な事を言わないでください!と視線を送るケルト。しかしハディは反対を見ているのでその視線には気づかない。

「勝ったって、あの歩く人災に!?小さい巨人とか金色の怪物とか言われてた、あのバケモンに勝ったってのか!?」
「ああ、うん。魔法を使って一瞬で捕まえてて。…あ、でもこの間、ネセレがカロン爺さんにリベンジしてたなぁ。なんか俺にはよくわかんない魔法ばかりでさ、平原が一瞬で水で包まれて、そこにネセレが捕まったけど、次の瞬間は空に飛び上がって逃げ出してた。で、爺さんの魔法でもの凄い数の火の矢が飛んだけど、ネセレは全部避けたり切ったり。でも爺さんに攻撃しようとしても、屈折?とかいうので幻覚を見せられてて当たらなくて、外したところに影の中から腕を伸ばして捕まって…まあ、そこからは一方的だったよ」
「…言っておきますけど、あんな魔法は普通に使えませんからね。精霊詠唱破棄だけでなく呪文まで破棄ってなんなんですか。なのになんで発動するんですか。しかも7レベル魔法をポンポンと…当人は魔法って言い張りますし、絶対に魔法じゃないです。あれは奇跡です奇跡。魔法であってたまりますか」

魔法士として思うところが多すぎるようで、ケルトが死んだ目で呟いている。
ハディの話しをあっけにとられて聞いていた男は、しかし次いで、腹を抱えて大爆笑した。

「はっはっはっ!!なんだ、そのジジイはマジモンの化物ってことか!そりゃ愉快痛快爽快な話だぜぇ!!おい聞いたかお前ら!?ネセレ以上のバケモンが現れたってよ!!」

男の発言にざわざわしていた連中は笑いだし、なにやら上機嫌そうに話し合っている。
そんな喧騒を見て、ハディは瞬きを繰り返している。

「…なぁ、おじさんってネセレを嫌ってるのか?」
「あん?…いやいや違う。確かにあいつは、まあ俺らにとっては雲の上の存在だがな?しかし、それよりも上が居るって事はだな、世界は広いってことを教えてくれたんだよ。ま、あのクソアマの性格がクソガキ過ぎて、腹立ってたってのもあるがな」

10年前までのネセレは非常にやんちゃをしていたようだ。
現在も随分とやんちゃだが、それ以上だったのだろう。

「面白いもんだぜ、世界ってのは!人生、何があるのかわからねぇもんだなぁ!」

そう言って快活に笑う男に、なんだかハディとケルトは奇妙な物を見た気分になったのである。


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