どうも、邪神です

満月丸

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冒険者編

小さな奮起

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「くっ!?何ということを…!?」
「うわわわっ!?あのデカブツが…迫ってくるじゃないかぁ!?」

結界が破れて後、取り付いていた巨大な魔物とムカデ達は、ここぞとばかりにワラワラと天から降ってきたのだ。ドドンッ!と地響きを立てて降り立ったワーム達は、地中に潜り込んでからは水を得た魚のように家々を壊して周り、残された巨大な大蛇は滑空しては根こそぎ建物を崩して上昇を繰り返している。
それを目の当たりにし、ケルトは怒りの目でアズキエルを睨めつけた。

「まさか、貴方がクレイビーの仲間だったとは…!」
「ふふふ、僕の演技も悪いものじゃないようですね。上手く騙されてくれてありがとうございます、ケルティオさん」

アズキエルは紫色の瞳を眇めながら、愉悦の笑みを浮かべて、戸惑う人々を睥睨していた。

「先生はずっと貴方を危険視していました。だから、貴方の注目を外すためにも、あんなのを持ってきたんですけども。なんとか上手くいって一安心です」
「…貴方は虚無教の信徒なのですか?」
「ええ、そうです。僕は、虚無教が助祭士、アズキエルです。今度は無いでしょうけど、まあよろしく」

そう言って一礼する少年へ、ケルトは杖を向けて恫喝した。

「クレイビー…貴方の先生とやらは今頃、議事堂ですか?」
「御名答、先生はあの人に会いたくて会いたくて堪らない様子でしてね。だから、勇者さまを呼びました。けれども目的のあの人は姿を見せずに、とてもがっかりしてたんですよ。…でも」

紫の瞳が、暗い輝きを帯びて、こちらを見つめる。

「でも、貴方達が死んでしまえば、あの人も出てこざるを得ないでしょうね。だから、僕はその手助けです」
「…貴方は虚無教に属することがどういうことか、わかっているのですか?その果てに迫るのは死。ただの消滅でしかないというのに」
「生きとし生けるものは、いつか必ず滅びます。…ええ、そうです………あの御方は、虚無の御方は、僕にとっての最愛にして敬愛せし主なのです。その御方の述べる通りに、僕はただ使命を全うするだけですよ」

恍惚な色を讃えた瞳で、天を仰ぐ。
どだい、まともとは言えない様子に、ケルトは引きつった声を上げる。

「…魅了、ですか。あんな幼子に、なんて酷いことを…リーン!」
「ど、どうするんだいケルティオ!?あの子供はいったい…」
「おっと、もうお喋りする暇はないようですね」

ふとアズキエルは我に返ったように、空へ腕を差し出す。
次の瞬間、その腕に食らいつくように掻っ攫うワスプ。一瞬、食べられたのかと思いきや、アズキエルは平然とした顔で、ワスプに腕を掴まれたままに天へと飛んでいった。

「それじゃあ、ケルティオさん。頑張って先生の期待に応えてくださいね?」

ケラケラと笑い声を残して去っていく少年に、ケルトはギリッ、と杖を強く握りしめる。
しかし、今は呆けている場合ではない。再びの轟音と悲鳴に、我に返ってから周囲へ大声を出す。

「…皆さん!すぐに魔物を掃討しましょう!」
「で、ですが…!あんな魔物をどうすれば…」

慌てふためく魔法士たちへ、ケルトは思考しながらも指示を飛ばす。

「まずは小さな魔物から狙ってください!必ず複数人で動き、固まりすぎないように!あの落ちてきたワームは感知の魔法で出現場所が予測できます!まず一人が感知で予測し、出現と同時に周囲の方々で一斉掃射すれば、倒すことは難しくはないはず!」
「だ、だがあの巨大な魔物はどうするんだ…!?」
「あれは…」

と、そこで議事堂へ向かっていた巨大な大蛇が、醜い大声を上げていた。
天を見上げれば、そこには白銀の鎧を纏い、鋭い剣を振るうラーツェルの姿が。
ラーツェルはどうやってか空を駆けるように宙を踏み、凄まじい速度で駆けながら大蛇へ攻撃を開始していた。

「あちらは英雄殿がいます!皆さんは小さな魔物の退治を!」

ラーツェルの出現に勇気づけられたのか、魔法士や警備兵は顔を見合わせて頷きあった。
動き出した周囲を尻目に、ケルトは天を見上げて大蛇を観察する。

(…物理攻撃はあまり効いていませんね。しかしラーツェルさんの武器はおそらく、魔法道具。じわじわと攻撃が効いてくるとは思いますが…やはり、私が行かねば!)

ケルトは頷き、杖を振るって詠唱し、宙を飛んだ。
そのまま風のように空を舞い、遠距離からの攻撃を開始したのだ。


・・・・・・


「…あ、あれ?僕は…」

その場に残されたのは、腰を抜かしているカーマスだけだ。どうすれば良いのかわからない内に周囲は動き出し、彼だけが取り残されていた。

「え、えっと…僕も戦うべき、だよね?」

しかし頭上を見上げれば、空を覆わんばかりの巨大な大蛇の魔物が、未だ我が物顔で浮遊している。そのあまりの巨大さに、カーマスはゴクリと喉を鳴らした。
あんな存在を相手に立ち向かうことが、どれほど恐ろしいか。
おぞましい様相、一飲みで人間を食らってしまえる凶悪さ。
そんな死を体現する怪物を前に、カーマスの意気は完全に萎えてしまっていたのだ。

「…は、はは…あ、あんなの相手に戦うなんてバカバカしい…そ、そうだ、キルシュカイア卿に任せてしまえばいい、そうしよう…」

だが、それを否定するように空を舞う、一陣の閃光。
輝く光線を放つのは、カーマスがもっとも見下していた男だった。
それを見て、カーマスは逃げかけていた足を、ぐっと踏み留めた。

「…なんで…」

しかし立ち向かう意気地は出ずに、ただ苦悶の声だけを漏らす。

「なんで、戦えるんだ…!?あんなのに…!?」

あまりにも規格外、見たこともない怪物。
そんな存在に立ち向かえる人間は少なく、カーマスもまた、そんな人間の一人だ。
だからこそ、解せない。
ちっぽけなプライドが警鐘を鳴らすのだ。

「なんで、落ちこぼれの君が…なんで立ち向かえるんだ!?どうしてっ!!」

今まで明確に見下していた相手が、実は自分よりずっと強いのだと突きつけられ、カーマスはやり場のない失意と敗北感に襲われていた。
それは八つ当たり染みた怒りの感情となり、彼を震わせ…

…不意に、カーマスの背後でワームが雄叫びを上げた。

「…ひぃっ!?」

振り向けば、地中から顔を出したワームがそこにいた。ワームは牙だらけの口をジャキジャキ動かし、誰のものかもわからない肉片を噛み砕いていた。

「う…わあああぁぁぁっっ!?!?」

人間を食らう怪物を至近距離で目にし、カーマスは恥も外聞もなく逃げ出した。
もはや、先程までの怒りなど、欠片も存在しないまま…。


・・・・・・・


「…はぁ!はぁっ…!!」

どこをどう動いたかわからない程に逃げ、震える足が瓦礫に引っかかって無様に転倒した。ざり、という砂を噛む感触に眉をしかめ、拳を握って呻く。

「くそ…くそっ…!」

戦うべきだ、という心の声は大きい。
カーマス家の、貴族の魔法士の責務として剣を取り、戦ってこそが騎士の本懐。だから、立ち向かうべきなのだ。なにより、彼の自慢の姉ならば、自らが先陣を切って魔物の前へ躍り出ただろう。それに習い、自らもそうすべきだ、と。
だがそれよりも、心に渦巻くのは、恐怖。
圧倒的な存在を前に萎縮する、自らの弱さを露呈する、本当の自分自身の姿だ。

「くそぅ…!!」

這いつくばり、悔しさに涙する。
このまま何も出来ずに心が折れて、蹲りそうになった、その間際。

「…なんだね、アレだけ偉そうにしていた割には、随分と意気地のないひよっこだな?」
「っ!?だ、誰だい!?」

声に顔を上げれば、そこには壁にもたれ掛かる、老爺がいたのだ。
黒髪で紫のローブ、不敵な笑みを浮かべる老人は、笑みを深めてカーマスを見下ろしていた。

「なんとも、ケルトがお前を気にしていた割には、大した存在ではなかったようだな」
「な、あ、貴方は…?ケルト、って…ケルティオの仲間なのかい!?」
「うむ、私はあれの師匠の一人でな」

その言葉に、思わず怪訝な顔をした。ケルトがメルサディールに師事していたのは知っていたが、ならばこの老人は何者なのだろうか?
そんなカーマスの顔を楽しげに見やってから、老人は肩を揺らして両手を広げた。

「それで、お前はどうするのかね?このままそこで這いつくばって、大勢の人間が殺されるのを見続けるか?」
「そ、それは…」
「怖いかね?まあ、それもそうだな。誰だってあんな気味の悪い怪物を前にすれば萎縮する。もし私が普通の人間ならば、さっさと尻尾を巻いて逃げていただろうなぁ」

しみじみと言うが、とてもそんな様子には見えないほどに落ち着いている老人は、カーマスの前へ歩み寄って、見下ろしてきた。

「…で、いつまでそこに這いつくばっているつもりだ?今もお前の仲間は戦い、その生命を散らしているというのに」
「………」
「命が潰える間際の声が聞こえんかね?守るべく立ち向かう勇気の声が聞こえんかね?それらは全て、お前の中にもあるというのに。…まあ私にはあまり理解できそうにない感情だが」
「…どうして」

カーマスは絞り出すように声を出す。それに老人は眉を上げて聞いていた。

「…どうして!ケルティオはあんなのに立ち向かえるんだ!?彼が特別だから…!?メル教授に、勇者に認められるほどの才能を持っていたから!?僕は…僕は、彼にすら劣るっていうのかい!?」
「何を当たり前のことを」

一刀両断である。
思わず呻くカーマスへ、老人は耳をほじりながら続ける。

「あいつにはもともと特別な才能があった。ただ、ここでは開花できなかったから、私やメル達の手で開花させたのだ。だからお前が知っているあいつと違って当然だろう。まあ、だからといってすぐにあんなにまで成長したわけではないがな」
「…く、僕は、落ちこぼれ以下ってわけか…」
「阿呆。落ちこぼれだの天才だの、何を小さいことで競っておるんだ。言っておくがな、私に言わせればそんなのはどんぐりの背比べみたいなもんだ。世界全体で見ればこの学園の魔法の総合的な能力なんて大したことないのだから、自慢しても偉くもなんとも無いぞ。ぶっちゃけ、メルディニマ大陸の翼種の方がよっぽど魔法が上手だしな」

それは当たり前のことである。魔法を創造したティニマを祖とする翼種が、魔法を得意としているのは当然のことだ。
だがしかし、差別化したがるのが人の性。どんぐり帽子を欲しがるのも人の性だ。

それらを纏めて鼻で笑い飛ばしながら、老人は小馬鹿にしたように肩を竦めた。

「小さな世界にいればいるほど、人は無自覚に周囲より高みへ登ろうとするものだ。それ自体はいいのだが、ここでは努力という実情が伴っておらんな。安易な魔法至上主義を掲げる連中ほど、たいして何もしていない空っぽの連中。それ以外に褒められる部分がないからだ。本当の偉人とは、何を成し、何を残せたかが全て。若いお前たちまで、何も成せていない木偶の坊どもの仲間になってどうする」
「あ、貴方は…その、魔法士なのに、かなりバッサリ言い捨てますね…」
「正直が私の取り柄だからな」

ははは、と軽やかに笑っているが、カーマスには笑えない。特に、今までずっと拠り所にしていた思想を否定されたのに、反論一つ出せない現状に涙すら出てくるほどだ。
そんな若人へ、老人は言い含めるように告げる。

「さて、小童。ケルトは努力でもって自らの才能を開花させ、あの戦場にいる。あいつは理不尽を跳ね返すために努力し、勇者の伴としてここにいる。それで、お前はどうするね?」
「…」
「努力を厭うのならば去れ。己が心に負けるのならば去れ。ここはお前には相応しくない。貴族の末弟として家に帰り、適当に騎士ごっこに明け暮れればそれでよかろう」
「っ…!!」
「お前が慕う姉の影を見下ろしながら、周囲の揶揄に黙して耳を塞げばそれでよい。…違うかね?」

…カーマスは、姉の姿を思い返す。
高慢だが、自慢の姉だった。カーマス家では初めての女性騎士として世に出て、魔法騎士団の一員として名声を馳せている。それに憧れを抱くとも、決して追いつけない才能という格差に、彼の世界は明確に歪んでいった。
比較という差別、格下という侮蔑、実力が伴わない大言壮語な子供など、大人にとっては笑い話にしかならない。それでもいつかは姉を超えるのだと叫ぶ彼へ、人々は、彼を可哀想なものとして見るようになっていった。
彼の言動は全て、そのコンプレックスの裏返しでしか無い。

「…僕は…僕だって戦いたい…!誰の手も借りない!僕一人だって、やれば出来るんだ!」
「やれば出来る、しかし見返りに死ぬかもな」
「っ…!」
「一人で戦おうなどと考えること自体が甘いのだ。孤高に戦える存在など、人外か勇者くらいなもの。凡人がどれほど足掻いても、その高みには登れんよ」
「じゃあどうすれば…!?」
「阿呆、お前の頭は飾りか?」

トントン、と頭を叩いて、老人はニヤリと笑った。

「魔法だけが全てではないが、魔法が有益なのは確かだ。そして何より役に立つのは、人の手。考えろ。力がなければ補えばいい、束ねればいい、お前にはその力があるのではないかね?」

その言葉に、カーマスは思わず目を見開く。

そんな相手へ、老人は飄々と笑った。

「小さな力といえど、無力ではない。そしてまとめるのには才覚が要る。私には無い才覚がな……ま、せいぜい頑張ってみろ、定命の者よ」

それだけ言うと同時に、老爺の姿が一瞬でかき消えた。
周囲を見回せど、彼の人の姿は影も形もない。まるで化生に鼻を摘まれたかのような気分だった。

…突如、背後で響く大音声。

咄嗟に振り向けば、家々を壊しながら、うねりを上げるムカデが宙を舞い、再び地面へと潜っている光景だった。
血みどろな警備兵が槍を手に立ち向かっているが、その士気は芳しくはない。

「………」

カーマスは、ぐっと拳を握ってから、胸中で悪態をついた。

(あのケルティオだって出来たんだ。僕に、僕に出来ないはずがないじゃないか…!)

瞼裏に浮かぶのは、気に食わない瞳をしたクラスメイト。
落ちこぼれと言われ、蔑まれながらも、どこか超然と、ここではないどこかを見つめていたあの不思議な瞳は、いつもカーマスの心をかき乱していたのだ。
弱い者は、みんなそれ相応の態度をとる。
貴族という強いステータスの前では頭を垂れ、媚びた目をして諂うへつらうものだ。
なのに、それには屈せずピンと背を伸ばして歩くその姿を見て、カーマスは明確な敗北感を抱いていたのだ。
どうして、あんなに堂々としていられるのか、落ちこぼれのくせに。

「…くそ…まさか、僕が君なんかに…負ける、なんてね…」

しかし、一度認めれば、あとは楽だ。
胸中の霞がかった何かがストンと落ちて、途端に思考がクリアになる。
大きく息を吸って吐いて、それから空を駆けるクラスメイトへ、一瞥をくれる。

…あの高みに、自分はたどり着けないだろう。
ならば、低くともこの地を踏みしめ、一歩ずつ歩いて行くしかないのだ。

カーマスは覚悟を決めた。
それが揺らがないように、咆哮を上げながら抜剣し、呪文を唱えながら駆け出した。

驚く警備兵の前へ躍り出て、剣先を掲げて障壁を作る。
ガキィン!と結界に阻まれ、突進してきたムカデは衝撃でそのまま宙を舞ってから、再び地面に潜り込んでいく。既に穴だらけなそこを見回し、カーマスは声を張り上げた。

「警備兵!ここからの指揮は僕、レティオ・カーマスがる!」
「は…しかし」
「非常事態だ!それとも今から隊長殿へ許可を取りに行くかい?」

その一言に何も言えなくなった相手へ、カーマスはそのまま捲し立てる。

「まず僕が敵を止める!その間にできるだけ弓などの遠距離武器で攻撃してくれ!無い場合は投石でも良い!相手に行動を移させるな!」
「はっ!しかし、大丈夫なのですか!?」
「ふっ、僕を誰だと思っているんだい?」

カーマスは細剣を構え、呪を紡いで不思議な光を集わせる。
ボゥ、と宿った光は刀身にまと纏わりつき、発光しながら明滅を繰り返している。

…不意に、地面がかすかに揺れた。

―――来る

そう直感したカーマスは、足元の瓦礫を強化した脚力で蹴り飛ばし、遠くへ打ち付けた。
墜落先で大きな音を立てて砕けたそれへ、更に地面から轟音立てて飛び上がったムカデが、瓦礫へと食らいつく。
その瞬間、カーマスは構え、穿孔の如き突きを放ちながら詠唱する。

「『輝ける第4位の精霊を招致せん!追尾し堅き縛光にて敵を封じよ!』ベシュト・エマ・セクト=ブリテ・セレシス!」

一条の閃光が真っ直ぐ突き抜け、ワームの身体を見事に穿った。更にそれは紐のようにワームへ絡みつき、グルグルと地面へ縫い留めたのだ。

「今だ!一斉攻撃!!」

雄叫びが震え、警備兵達が一斉にワームへ攻撃した。
矢が雨のごとく降り注ぎ、ワームの硬い甲殻へ次々と棘を生やしていく。誰かの投げた岩がワームの柔らかな眼球を抉り、いっそう奇怪な咆哮を上げていた。しかし、それだけで倒れるほどワームも弱くはない。
削られ苦悶の声を上げながらも、さながら怨嗟のような咆哮を上げつつ、手近な人間へとその鋭い牙を晒した。
悲鳴を上げる人々、一人の人間が腕に噛みつかれ、そのおぞましい力で腕がちぎれ飛ぶ。

「…セクト・カトゥ・マ・セルス!」

それに背筋を泡立たせながらもカーマスは今までにない集中で震える呪を紡ぎ、剣先で空に印を刻む。
そして剣先の虚空に一つの光球を作り出し、留めた。

「ズーフド・トル・セット!セクト・カトゥ・マ・セレシス!」

二度目の詠唱。
それは1つ目の光に呼応するように明滅し、次いでぐるぐると剣へと纏わりついて、刀身に凄まじい輝きを宿したのだ。
その剣を手に、カーマスは構えた。

(…く!やっぱり…やっぱり想像してたけどキッツい!!二重呪文なんて使うもんじゃないってほんとに!!)

二重呪文、それは使い手が少ない高難易度の技だ。
呪文の上乗せで威力は増したが、当然のように操作の難易度は跳ね上がる。しかし5レベルより上の魔法が使えないカーマスなりの、苦肉の策であった。
フラフラしながら前へ出て、肉片をぐちゃぐちゃと咀嚼するワームへ、決めポーズ取りながらそれを突きつける。

「気持ち悪い魔物め!このレティオ・カーマスが貴様を塵に変えて」

その口上を言い終わるより先にワームが口を出した。
ボケッとしたカーマスへ、その二本の牙がキシャァァ!と襲い…

「う、わあああぁぁぁっ!?」

反射的にカーマスが頭を抱えて剣を敵に放り投げた。暴挙である。
しかし敵も反射的にそれを飲み込み、咀嚼し、

「…ぐ、ぎゅ………ギュガアァァァ!!?」

内側から輝く光の本流が漏れ出て、身体を派手に爆散させ、粉々に吹っ飛んだのだ。
魔物の肉片と核がバラバラと降りかかる中、カーマスは呆然と地面に尻餅をついている。

「お、おおぉ!!さ、さすが!お見事ですカーマス殿!!」

しかし警備兵のその歓声に、はっとなりながら立ち上がって前髪バッサァ。

「は、っはっはっは!!それも当然だね!なんといっても、この僕だからね!!」
「おお!さすがは魔法伯のご子息!素晴らしい!
「ならば急いで次の魔物へ向かいましょう!」
「はっは……え」
「まだまだ都市で暴れている魔物は多いのです!それに、今の魔法ならあの影の魔物も倒せるのでは!?」
「は…う、うん、まあ、そうだね…」
「さ!お早く!!」
「ははは…はぁぁ…」

急かされる中、カーマスは風に吹かれて乾いた笑いを漏らす。
どうやら、まだまだ命がけは続くようだった。
しかし、一度深呼吸して意識を切り替えたカーマスは、目を見開いて周囲へ視線を向ける。
自らを見つめてくる、大勢の警備兵。彼らの戦意はまだ挫けてはおらず、血塗れでも武器を手放してはいない。
…そして、壊れた家々から這い出た市民が、不幸に嘆きながら跪き、魔物へ怒りの声を上げているのが目に入った。子供が親を求めて泣きながら歩き回り、足を失った男の苦悶の声がここまで届く。
そんな人々をも見回して、カーマスは声を張り上げた。

「これより、残りの魔物を掃討する!しかし人手は圧倒的に足りない…戦える者は市民でも魔法士でも関係なく武器を持ってくれ!敵は強大で数も多い、一丸となって敵勢へと向かおう!怪我人、および無力な市民は門へと避難を!周囲の魔法士へは僕が伝令を出す!」
「はっ!」
「…残りはまだまだ多い!だが僕らが負けるわけにはいかない…仲間の死は、それだけで損害だ。皆、必ず生き残るぞ!!」

喝采と咆哮。
カーマスの声に呼応するように、戦える人々は武器を手に立ち上がる。

そんな人々の只中で、カーマスは高揚感と同時に、胸の内に灯った暖かな何かに、ぐっと拳を握った。


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