14 / 39
14.九日目。プレゼントを選ぶ私
しおりを挟む
というわけで、九日目の本日はベッドマットを買いに町までやってきた。
子どもたちは広場を駆け、大人たちは店先で買い物をしたり歓談したりしている。
大きな町ではないものの、活気があるのは良いものです。
イライジャ様も、その様子を笑顔で見ていらっしゃった。
首も治ったようでなによりですね。あの首痛めポーズを見られないのは少し残念ですが。
「晴れて良かったな、クラリス」
「はい、本当に」
雨が降っていたら、マットを荷台に載せられませんからね。幌もありませんし。
「目的のマットを買う前に、なにか欲しいものはないか?」
「欲しいもの、ですか?」
急に欲しいものと言われても、ぱっと出てこない。
もちろん、あの小屋は足りないものだらけではあるけれども。
ただ、残りたったの十二日でこの生活は終わってしまうのだから、色々買い足しても無駄になる可能性が高いのだ。
マットはもう限界だから必要だけど、それ以外では物を増やすべきではないと思う。
「いえ、私は特に……イライジャ様はなにか欲しいものでもあるのですか?」
「俺の欲しいものは、そなたの笑顔だけだ」
何を言ってらっしゃるのか、この王子様は!!
私の笑顔など見て、どうなるというのです!
「物で釣ろうなどと、浅ましい考えであったな」
どうして寂しげに笑っているというのか……そんな顔に弱い私は、きっと殿下に甘いのだろう。
「わかりました」
「わかったとは?」
「私は、イライジャ様が選んでくれたものならば、なんでも喜びます」
パッと明るくなるイライジャ様のお顔。まったく、イライジャ様も単純なんですから。
「クラリス!」
「ですが!」
私は人差し指をピッと上げる。
「最初のうちのイライジャ様はろくにご飯も食べず、ジョージ様と同じ暮らしを望まれていたはず。つまり、プレゼントにかけられるお金は、ゼロということです」
「つまり盗んでこいと!?」
「誰がそんなことを申しましたか!」
「冗談だ」
王子の冗談は笑えませんが!?
イライジャ様は顎に手を当て、うーんと唸っている。
「お金をかけずにプレゼントなど……道端の花くらいしか思い浮かばないが、それではさすがに喜んではもらえぬだろう」
ふふ、王子はおばかさんですね。
私はたとえそれが石ころだって嬉しいというのに。
でも町に来て、お金を掛けずにプレゼントというのは、イライジャ様には難しいかもしれない。
小屋に戻れば買い物はできないし、王都に戻っても庶民のお店で買い物など楽しむことはないに違いない。
せっかくなので、少額の買い物を体験してもらいたい気持ちが膨れ上がった。
「では……五百ジェイアまでで選んでいただけますか?」
「一般庶民はそんな少額でプレゼントを選ぶのか?」
「相手によってさまざまでございますが、ちょっとしたプレゼント交換であれば妥当な額かと」
「プレゼント交換か、いいな、それは!」
「え?」
イライジャ様の意気揚々としたお顔! これは、もしや……
「クラリスも五百ジェイアで俺にプレゼントしてくれ!」
やっぱりでございますか!!
「で、ですが王子、私などがイライジャ様になにをプレゼントすればよいものか……」
「そなたの贈り物であれば、俺はなんだって嬉しい!」
そんな、キラキラした顔をなされても!
「では、一時間後にここで落ち合おう!」
「お一人で行動なさるおつもりでございますか?! 危のうございます!」
「大丈夫だ、誰も俺が王子などとは思わないだろう。俺は王都で病気療養中のはずだからな」
「そうでございますが……あ、イライジャ様!」
私がお止めする前に、イライジャ様は揚々と去ってしまわれた。
まったく、私の気も知らないで……!
ああ、まさか私までプレゼントを選ぶ羽目になってしまうとは……
欲しいものはなんでも手に入れられる王子に、一体なにを選べばいいというのか!
しかもたった五百ジェイア。この金額設定をした自分が恨めしい。
せめて、千ジェイアと言っておけばよかった。
私は色々と後悔しながら、町のお店を覗いていった。
お土産物屋に入ると、わけのわからない木彫りの置物なんかがあって、一度手に取るもすぐに元に戻した。
誰かが一生懸命作った物であることはわかっているけれど、王子の部屋には合わなさすぎる。
書店に入ってもピンとくるものはないし、雑貨店のものは王子とイメージが違う。
困った、どうすれば……。
そうだ、手頃なところでハンカチなんかいいかもしれない。ちょうど“別れ”という意味もあることだし。
建国祭が終われば、もう一緒にはいられないのだから。
ハンカチを探そうと一度外に出るも、ふと思いとどまる。
後に残らない物の方がいいかもしれない。
イライジャ様が私を偲ぶことなどないとわかっているけれども、物が残っていては罪悪感を抱いてしまいかねない。お優しい方だから。
となると……
私はイライジャ様への贈り物が決まり、次の店へと向かった。
子どもたちは広場を駆け、大人たちは店先で買い物をしたり歓談したりしている。
大きな町ではないものの、活気があるのは良いものです。
イライジャ様も、その様子を笑顔で見ていらっしゃった。
首も治ったようでなによりですね。あの首痛めポーズを見られないのは少し残念ですが。
「晴れて良かったな、クラリス」
「はい、本当に」
雨が降っていたら、マットを荷台に載せられませんからね。幌もありませんし。
「目的のマットを買う前に、なにか欲しいものはないか?」
「欲しいもの、ですか?」
急に欲しいものと言われても、ぱっと出てこない。
もちろん、あの小屋は足りないものだらけではあるけれども。
ただ、残りたったの十二日でこの生活は終わってしまうのだから、色々買い足しても無駄になる可能性が高いのだ。
マットはもう限界だから必要だけど、それ以外では物を増やすべきではないと思う。
「いえ、私は特に……イライジャ様はなにか欲しいものでもあるのですか?」
「俺の欲しいものは、そなたの笑顔だけだ」
何を言ってらっしゃるのか、この王子様は!!
私の笑顔など見て、どうなるというのです!
「物で釣ろうなどと、浅ましい考えであったな」
どうして寂しげに笑っているというのか……そんな顔に弱い私は、きっと殿下に甘いのだろう。
「わかりました」
「わかったとは?」
「私は、イライジャ様が選んでくれたものならば、なんでも喜びます」
パッと明るくなるイライジャ様のお顔。まったく、イライジャ様も単純なんですから。
「クラリス!」
「ですが!」
私は人差し指をピッと上げる。
「最初のうちのイライジャ様はろくにご飯も食べず、ジョージ様と同じ暮らしを望まれていたはず。つまり、プレゼントにかけられるお金は、ゼロということです」
「つまり盗んでこいと!?」
「誰がそんなことを申しましたか!」
「冗談だ」
王子の冗談は笑えませんが!?
イライジャ様は顎に手を当て、うーんと唸っている。
「お金をかけずにプレゼントなど……道端の花くらいしか思い浮かばないが、それではさすがに喜んではもらえぬだろう」
ふふ、王子はおばかさんですね。
私はたとえそれが石ころだって嬉しいというのに。
でも町に来て、お金を掛けずにプレゼントというのは、イライジャ様には難しいかもしれない。
小屋に戻れば買い物はできないし、王都に戻っても庶民のお店で買い物など楽しむことはないに違いない。
せっかくなので、少額の買い物を体験してもらいたい気持ちが膨れ上がった。
「では……五百ジェイアまでで選んでいただけますか?」
「一般庶民はそんな少額でプレゼントを選ぶのか?」
「相手によってさまざまでございますが、ちょっとしたプレゼント交換であれば妥当な額かと」
「プレゼント交換か、いいな、それは!」
「え?」
イライジャ様の意気揚々としたお顔! これは、もしや……
「クラリスも五百ジェイアで俺にプレゼントしてくれ!」
やっぱりでございますか!!
「で、ですが王子、私などがイライジャ様になにをプレゼントすればよいものか……」
「そなたの贈り物であれば、俺はなんだって嬉しい!」
そんな、キラキラした顔をなされても!
「では、一時間後にここで落ち合おう!」
「お一人で行動なさるおつもりでございますか?! 危のうございます!」
「大丈夫だ、誰も俺が王子などとは思わないだろう。俺は王都で病気療養中のはずだからな」
「そうでございますが……あ、イライジャ様!」
私がお止めする前に、イライジャ様は揚々と去ってしまわれた。
まったく、私の気も知らないで……!
ああ、まさか私までプレゼントを選ぶ羽目になってしまうとは……
欲しいものはなんでも手に入れられる王子に、一体なにを選べばいいというのか!
しかもたった五百ジェイア。この金額設定をした自分が恨めしい。
せめて、千ジェイアと言っておけばよかった。
私は色々と後悔しながら、町のお店を覗いていった。
お土産物屋に入ると、わけのわからない木彫りの置物なんかがあって、一度手に取るもすぐに元に戻した。
誰かが一生懸命作った物であることはわかっているけれど、王子の部屋には合わなさすぎる。
書店に入ってもピンとくるものはないし、雑貨店のものは王子とイメージが違う。
困った、どうすれば……。
そうだ、手頃なところでハンカチなんかいいかもしれない。ちょうど“別れ”という意味もあることだし。
建国祭が終われば、もう一緒にはいられないのだから。
ハンカチを探そうと一度外に出るも、ふと思いとどまる。
後に残らない物の方がいいかもしれない。
イライジャ様が私を偲ぶことなどないとわかっているけれども、物が残っていては罪悪感を抱いてしまいかねない。お優しい方だから。
となると……
私はイライジャ様への贈り物が決まり、次の店へと向かった。
4
あなたにおすすめの小説
あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜
瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。
まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。
息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。
あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。
夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで……
夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。
次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました
Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。
そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。
お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。
挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに…
意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。
よろしくお願いしますm(__)m
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」
母に紹介され、なにかの間違いだと思った。
だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。
それだけでもかなりな不安案件なのに。
私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。
「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」
なーんて義父になる人が言い出して。
結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。
前途多難な同居生活。
相変わらず専務はなに考えているかわからない。
……かと思えば。
「兄妹ならするだろ、これくらい」
当たり前のように落とされる、額へのキス。
いったい、どうなってんのー!?
三ツ森涼夏
24歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務
背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。
小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。
たまにその頑張りが空回りすることも?
恋愛、苦手というより、嫌い。
淋しい、をちゃんと言えずにきた人。
×
八雲仁
30歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』専務
背が高く、眼鏡のイケメン。
ただし、いつも無表情。
集中すると周りが見えなくなる。
そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。
小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。
ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!?
*****
千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』
*****
表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
理想の男性(ヒト)は、お祖父さま
たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。
そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室?
王太子はまったく好みじゃない。
彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。
彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。
そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった!
彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。
そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。
恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。
この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?
◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。
本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。
R-Kingdom_1
他サイトでも掲載しています。
英雄魔術師様とのシークレットベビーが天才で隠し通すのが大変です
氷雨そら
恋愛
――この魔石の意味がわからないほど子どもじゃない。
英雄魔術師カナンが遠征する直前、フィアーナと交わした一夜で授かった愛娘シェリア。フィアーナは、シェリアがカナンの娘であることを隠し、守るために王都を離れ遠い北の地で魔石を鑑定しながら暮らしていた。けれど、シェリアが三歳を迎えた日、彼女を取り囲む全ての属性の魔石が光る。彼女は父と同じ、全属性の魔力持ちだったのだ。これは、シークレットベビーを育てながら、健気に逞しく生きてきたヒロインが、天才魔術師様と天才愛娘に翻弄されながらも溺愛される幸せいっぱいハートフルストーリー。小説家になろうにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる