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同僚と一緒にいたら好きな人に「お似合い」と言われてしまった女騎士は、喫茶店のイケオジマスターに告白する。
中編
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ザラがヴォルニーに通い始めて、二ヶ月。
グレンとたくさん話すようになり、彼の人となりにザラは心底惚れてしまった。
彼は三十八歳で独身らしい。十年前に喫茶ヴォルニーを始めて、細々と働いているんだと彼は笑った。
その笑顔を見るたび、ザラの胸はぎゅっと掴まれたようになる。
グレンは大人の男の人だ。彼はいつも仕事しているザラに尊敬の念を持って接してくれているが、実はザラはまだ二十歳。年齢より上に見られることは多いが、グレンにしてみれば二十歳も二十五歳も大して変わらないかもしれない。
自分の年齢を伝えたとき、全く動じもせずに「お若いですね」と微笑んだグレン。ザラをそういう対象に見ていないから、そんなに驚きもしなかったのだろう。
ザラは子どもの頃から一般的な女の子に比べると大柄で、口数も少なかった。弱いものいじめをしている人が大嫌いで、そんな光景を見ると男が相手だろうが大人が相手だろうがいつでも割って入った。
そして友人に勧められるまま、騎士になった。
女として着飾ることもせず、男と同等の扱いを受ける騎士職に就き、ますます女らしさとは縁遠くなってしまった。
そんなザラの初めて恋した相手が、グレンだ。優しく接してくれたグレンに、ザラは驚くほど簡単に恋に落ちてしまった。
彼の優しさは特別なものではなく、ヴォルニーの常連客全員に向けたものだとわかっていながら。
「はぁ……」
ザラは勤務時間中にグレンのことを考え、思わずため息を吐いた。
「どうしたんだよ、ザラ。らしくねぇなぁ」
同僚であるニコラスがザラの背中をバシッと叩いてきた。
正義感が強いのだからと背中を押され、ザラが騎士となるきっかけとなった友人である。付き合いが長いので、なんでも相談できる間柄だ。まだグレンへの気持ちを話してはいなかったが、男性の意見を知りたいとザラは口を開いた。
「聞いてもらえるかな」
「なんだ、悩みか? なんでも言えよ、俺とお前の仲だろ」
いつもと変わりない明るいニコラスの顔を見て、ザラは少しほっとしながら事情を話した。
「最近、私はヴォルニーという喫茶店に通っているという話をしたと思うけど……」
「ああ、そうだったな。それがどうかしたか?」
「そこのマスターに、恋……したみたい」
「は? 誰が?」
「わ、私……」
いくら旧知の仲といえど、こんなことを告白するのは恥ずかしく、ザラの顔は熱くなる。
「うそ……だろ……?」
「え?」
「あ、いや、ど、どんな奴なんだよ、そのマスターってのは」
心なしか、ニコラスの顔が青ざめて見えた。女らしさのかけらもないザラが恋をするなんて、考えてもいなかったのだろう。
確かに、こんな男とも女とも言えないような者が顔を赤らめてこんなことを話し出したら、気持ち悪くもなるだろうなと申し訳なくなる。
「すごく、いい人だよ。大人っていうか、実際三十八歳で年上なんだけど」
「はあ?! 二十も年上じゃんか!」
「じゅ、十八だってば」
「かわんねーよ、それ騙されてるんじゃねぇのか、ザラ!」
「騙すとかはないって! 私が勝手に、懸想してるだけだし……そういう人じゃ、ない……」
きっぱり言い切れずに尻すぼみになってしまったためか、ニコラスの口元はへの字に結ばれている。
「どこの、誰だって?」
「だから、喫茶ヴォルニーのマスター、グレンさん」
「よし、俺も連れてけ」
「え、なんで?!」
「どういう奴か、見定めてやる」
「ええ~……」
そんなつもりで言ったのではなかったのだが、なぜかニコラスは怖い顔をしているので、いやだとは断れなくなってしまった。
グレンとたくさん話すようになり、彼の人となりにザラは心底惚れてしまった。
彼は三十八歳で独身らしい。十年前に喫茶ヴォルニーを始めて、細々と働いているんだと彼は笑った。
その笑顔を見るたび、ザラの胸はぎゅっと掴まれたようになる。
グレンは大人の男の人だ。彼はいつも仕事しているザラに尊敬の念を持って接してくれているが、実はザラはまだ二十歳。年齢より上に見られることは多いが、グレンにしてみれば二十歳も二十五歳も大して変わらないかもしれない。
自分の年齢を伝えたとき、全く動じもせずに「お若いですね」と微笑んだグレン。ザラをそういう対象に見ていないから、そんなに驚きもしなかったのだろう。
ザラは子どもの頃から一般的な女の子に比べると大柄で、口数も少なかった。弱いものいじめをしている人が大嫌いで、そんな光景を見ると男が相手だろうが大人が相手だろうがいつでも割って入った。
そして友人に勧められるまま、騎士になった。
女として着飾ることもせず、男と同等の扱いを受ける騎士職に就き、ますます女らしさとは縁遠くなってしまった。
そんなザラの初めて恋した相手が、グレンだ。優しく接してくれたグレンに、ザラは驚くほど簡単に恋に落ちてしまった。
彼の優しさは特別なものではなく、ヴォルニーの常連客全員に向けたものだとわかっていながら。
「はぁ……」
ザラは勤務時間中にグレンのことを考え、思わずため息を吐いた。
「どうしたんだよ、ザラ。らしくねぇなぁ」
同僚であるニコラスがザラの背中をバシッと叩いてきた。
正義感が強いのだからと背中を押され、ザラが騎士となるきっかけとなった友人である。付き合いが長いので、なんでも相談できる間柄だ。まだグレンへの気持ちを話してはいなかったが、男性の意見を知りたいとザラは口を開いた。
「聞いてもらえるかな」
「なんだ、悩みか? なんでも言えよ、俺とお前の仲だろ」
いつもと変わりない明るいニコラスの顔を見て、ザラは少しほっとしながら事情を話した。
「最近、私はヴォルニーという喫茶店に通っているという話をしたと思うけど……」
「ああ、そうだったな。それがどうかしたか?」
「そこのマスターに、恋……したみたい」
「は? 誰が?」
「わ、私……」
いくら旧知の仲といえど、こんなことを告白するのは恥ずかしく、ザラの顔は熱くなる。
「うそ……だろ……?」
「え?」
「あ、いや、ど、どんな奴なんだよ、そのマスターってのは」
心なしか、ニコラスの顔が青ざめて見えた。女らしさのかけらもないザラが恋をするなんて、考えてもいなかったのだろう。
確かに、こんな男とも女とも言えないような者が顔を赤らめてこんなことを話し出したら、気持ち悪くもなるだろうなと申し訳なくなる。
「すごく、いい人だよ。大人っていうか、実際三十八歳で年上なんだけど」
「はあ?! 二十も年上じゃんか!」
「じゅ、十八だってば」
「かわんねーよ、それ騙されてるんじゃねぇのか、ザラ!」
「騙すとかはないって! 私が勝手に、懸想してるだけだし……そういう人じゃ、ない……」
きっぱり言い切れずに尻すぼみになってしまったためか、ニコラスの口元はへの字に結ばれている。
「どこの、誰だって?」
「だから、喫茶ヴォルニーのマスター、グレンさん」
「よし、俺も連れてけ」
「え、なんで?!」
「どういう奴か、見定めてやる」
「ええ~……」
そんなつもりで言ったのではなかったのだが、なぜかニコラスは怖い顔をしているので、いやだとは断れなくなってしまった。
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