「僕が望んだのは、あなたではありません」と婚約破棄をされたのに、どうしてそんなに大切にするのでしょう。【短編集】

長岡更紗

文字の大きさ
87 / 173
好きな人に結婚を申し込まれて舞い上がっていたら、初夜に「君を愛することはない」と言われました。

中編

しおりを挟む
「ん、んん……」

 朝の光が差し込んでいて、私は目を開けた。
 隣のオルター様は私の手を握ったまま、私を見て微笑んでいて。

「おはよう、ミレイ」

 ち、ち、ち、近いですっ!

「お、おはようございますっ」

 うう、声が裏返っちゃった……
 でもオルター様はそんなこと、気にもしない様子で最高の笑みを浮かべてくれる。

「ありがとう、ミレイ。君のおかげでいい夢が見られた」
「それはよかったです」
「最初、魔女の森で迷った俺は蛇に噛まれたんだが、斬ろうとすると大蛇へと変貌して、それから……」

 オルター様は、夢の内容を詳細に話し始めた。全部知ってるんだけど、私はうんうんと頷いて聞いてあげる。
 夢の中は自分の欲望が出ちゃうから、知られてると思わない方がいいものね。

「それでなんと、バクが猫になったんだ。こんな小さなふわふわの猫で……ミレイにも見せてやりたかった」
「ふふ。喜んでくれるだけで十分です」
「本当にありがとう、ミレイ。これからもよろしく頼む」
「はい」

 そうして私は、毎日オルター様の夢に入り続けた。
 美味しいものを食べたり、空を飛んだり、一緒に猫になってじゃれあったり。
 バクの私を優しく撫でて、ぎゅうっと抱きしめたりもしてくれる。

 だけど、それはもちろん夢の中でだけだ。
 現実の私たちは、寝る時に手を繋ぐ以上の行為はなにもない。
 それも当然、私たちは利害が一致しているだけの白い結婚なのだから。

 夢の中でオルター様がバクを大切にしてくれるたび、泣きそうになる。
 もちろん、現実でも私を大切に扱ってくれているけれど。必要だから優しくしてくれているだけに過ぎないもの。
 私はどんどんオルター様を好きになっていく。だけど返ってくるのは、愛情ではなく感謝の気持ちだけ。
 それが悲しくて、つらい。


「ミレイ……最近君は、悲しそうな顔をすることが増えたな」

 いつものようにベッドに入ろうとした時、オルター様が凛々しい眉を下げながらそう言った。

「そんなこと……ありませんよ?」
「まだ若いミレイにこんなことを押し付けてしまって、本当に申し訳ないと思っている」

 一緒に暮らし始めて一年。私は十七歳になった。
 先日祝ってくれた誕生日は本当に嬉しくて。
 でも私の機嫌を損ねないよう、義務でしてくれたんだと思うと悲しくて。

 オルター様は紳士で、決して私に手を出そうとはしない。
 子どもとしか思われていないんだろうと思う。私に、魅力がないから。

「ミレイ……すまない」

 オルター様に謝らせてしまった。私のバカ。気を使わせてしまうだなんて。
 ちゃんと笑わなくちゃって思うのに、歪んだ変な笑みしか見せられない。

「利害の一致している結婚なんですから、謝る必要なんてありません。さぁ、寝ましょう?」

 私が手を差し出すと、いつものように握ってくれる。
 ベッドの中で、ただ手を繋ぐだけ。最初はそれだけですごく胸が鳴ったというのに、今は寂しさで悲鳴を上げているよう。

「……おやすみ、ミレイ。君も良い夢を」
「はい、ありがとうございます」

 同じ夢を、見ているんですけどね。とても幸せな夢を、毎日。


 目を瞑ってしばらくすると、いつものように夢の中へと入ることができた。
 まだ寝始めたばかりで、夢の世界は広がっていないようだ。
 同時に眠ると、悪夢を食べる手間がないから助かる。

「やあ、バク」

 パッとオルター様が現れた。もちろん私はすでにバクの姿。

「オルター様、今日はなんの夢を見るばく?」
「今日は夢はいいんだ」
「……夢は、いい?」

 どういう意味だろう。もう夢を見る必要はないってこと? どうして……
 私はもう、バクの姿であっても必要ないの?

「ぼくはもう、必要ないばくか……?」

 現実の私では言えない言葉も、バクの姿なら心のままに言える。
 夢の中だからって言い訳をして。

「いや、俺には君が必要だよ。けど、君のご主人にとって、俺は必要な人間じゃないんだ」
「そんなことは」
「あるんだよ」

 私が否定する前に、オルター様は自分で肯定してしまった。
 そんな風に言うけど、オルター様だって私を必要としてくれていないじゃない。必要なのはバクであって、私じゃないんでしょう?

「悪夢を見たくないという俺のわがままのせいで、ミレイの前途ある将来を奪ってしまった。彼女の家が借金まみれだったのをいいことに、無理やり結婚させてしまったんだ」
「それは仕方ないばくよ。誰だって悪夢なんか見たくないばく」
「だからと言って、本人に気持ちがないのに無理やり結婚させてしまうのは最低だ。自分でもわかっていたんだが、あの時はとにかく悪夢から解放されたくて……浅慮だったと思っている」

 毎夜悪夢に襲われていたなら、どんな手段をとってでも解放されたいと思うのは当然だわ。責める気なんて起こらない。
 むしろ私は幸せだった。仮初めとはいえ、夫婦になれたんだから。
 バクの姿ではそれを伝えられずにいると、オルター様は難しい顔のまま続けた。

「まだ十六歳になったばかりの少女に無茶はさせられない。だから手は出さないと誓った。彼女がいつか、離婚したいと切り出した時には迷わず送り出せるように。せめて、清い体のままここを出ていけるように……愛することはないと、彼女に告げた」
「……」

 私はなにも言えなかった。
 まさかそんな考えでいたとは、露ほどにも思っていなかったから。

「だけどミレイは、日に日に美しくなっていってな……十も年の差があるというのに欲情してしまうなんて、情けない話だ」
「よく……じょう……?」
「ああ、バクにはわからんかな」
「わ、わかんないばく」

 バクな私は、はわはわと口を動かしながらわからないふりをした。
 というか、実際わからないんだけど……欲情って、どういうこと? オルター様が、私に? 全然そんな態度じゃなかったのに!
 けど、欲情と愛情は別物だってことは、経験のない私にだってわかる。単純に喜んじゃいけない。

「実は俺は、ミレイのことを昔から知っていてな。弟たちの世話を一生懸命している姿を何度も見かけた。この子には幸せになってほしいと、俺はずっと望んでいたんだ」

 オルター様の告白に、私の口は自然と開いた。まさか私のことを知っていたなんて……!

「幸せになってほしいと思っていたくせに、俺自身がミレイを不幸にしてしまっている……もう耐えられない」
「ミレイは不幸だなんて思ってないばくよ」
「いいや、見ていればわかる。日に日に元気がなくなっているんだ。いくら借金がなくなるからと言って、結婚などするのではなかったと、後悔しているんだろう」
「そんなことはな──」
「優しいな、バクは。だがもう決めたんだ。彼女を……ミレイをもう、解放してあげようと思う」
「……かいほう」
「ああ」

 オルター様は硬い決意の表情で首肯した。解放って、つまり……

「ミレイは自分から離婚を言い出しにくいだろう。だから俺から離婚を言い渡そうと思う」
「え、ええ!!?」
「起きたら伝えるつもりだ。バク、君には世話になったから、ちゃんと別れを伝えたかった」

 オルター様の温かい手が私の頭を優しく往復する。
 私の態度がオルター様に決意させてしまったの? そんな……
 あんな態度、とるんじゃなかった!!

「イヤばく……別れはイヤばく……!」
「すまない。また誰かの夢を幸せにしてやってくれ」
「ぼくがいないと、オルター様はまた悪夢に悩まされるばくよ!」
「そうはならないんだ」

 オルター様に否定され、私はバクのまま首を傾げた。

「どういうことばくか」
「実は一週間前に、とうとうスキルの除去に成功したんだ。バクの力を借りなくても、悪夢は見なくなった」

 スキルの除去。確かにオルター様は、教会にスキルの除去を願い出ていると言ってはいたけれど。
 でも十年以上も成功していないという話だった。それが成功していたの?
 喜ぶべきことなのに、全然喜べなかった。
 確かにここ一週間は、同時に寝て同時に起きることが続いていたから、悪夢を食べる手間がないなとは思っていたけれど。
 悪夢を見なくなったということはつまり、オルター様に夢喰いは必要ないってことだ。
 小娘相手に、本当は欲情なんてしたくないんだろう。私と離婚すれば、オルター様も本来結ばれるべき人と結婚できる。私もバクも、本当に必要なくなったんだ……。
 ぎゅっと歯を食い縛っていると、オルター様はやわらかな声を出した。

「最後にひとつだけ、わがままを言っていいか?」
「……なにばくか?」
「君は今まで色んなものに変身してきたが……ミレイには、なれるか?」

 ミレイに? なれるというより、戻る、だけど。
 どうして、私なんかに。

「なれるばくよ」
「では、ミレイになってもらいたい」
「どうしてばくか?」

 この一年、一度も私を出してと言わなかったオルター様が、どうして今になってそんなことを言い出すのか。
 不思議に思って彼を見上げると、少し困ったような、悲しそうな顔をしていた。

「伝えたいことがあるんだ。実際には伝えられないから、せめて夢の中で彼女に話しておきたい」
「……わかったばく」

 なにを言われるんだろうと不安になりながらも、私は変身を解いた。
 私には直接言えない話って……欲情しているという話だったし、まさか現実ではできないからって夢の中で?

「すごいな、ミレイそのままだ」

 元の姿の私を見て驚くオルター様。
 それもそのはず、イメージじゃなくて私自身なのだから。

「ミレイ……」

 オルター様が優しく目を細めて私を見ている。
 なにを言われるのか、なにをされてしまうのか。心臓がバクバクして破裂しそう。
 口から軽く息を吸い込んだオルター様は、ゆっくりと言葉を紡ぎ始めた。

「俺は、君と結婚できてよかった」
「……え?」

 オルター様の言葉を聞いた瞬間、私の心の中に風が吹いた気がした。
 その瞬間、イメージは夢の中で再現されて、草原が広がり風が吹き抜けていく。
 たなびくオルター様の黒髪が、現れた太陽の光でキラキラと輝きを見せる。

「悪夢を食べるバクのスキル持ちが、いつも健気に頑張っているミレイだとわかった時は、罪悪感しかなかった。十も年上の俺に嫁がせて申し訳ないと。君には幸せになってほしいと思っていたから」

 私を利用することに罪悪感を持つオルター様は、やっぱり優しくて正義の人だと思う。

「オルター様は、いい人ばくよ。ミレイもそう思ってるばく」
「ミレイはいい子だからな」
「そ、そんなことは──」
「素敵な女性だよ。一緒に暮らしているうちに、いつの間にかどうしようもなく彼女を愛してしまっていた」
「あ……い……」

 周りの景色が、色鮮やかな花で咲き乱れ始めた。
 甘い香りが鼻腔をくすぐっていく。

「ああ。愛している、ミレイ。このままずっと、そばにいてほしかったと思うほどに」

 オルター様は優しく、でも悲しく微笑んだ。
 そばにいてほしかったという過去形の言葉に、私は喜んでいいのか泣いていいのかわからなくなる。

「オルター様……」
「伝えたかったのはこれだけだ。さぁ、これが最後の幸せな夢になる。楽しませてくれるか、ミレイ。いや、バク」
「……わかったばく」

 バクだと思われている今、きっとなにを言っても無駄になる。
 起きた時には、ちゃんと私の気持ちを伝えなきゃ。

「ミレイと一緒の夢は、今までで最高の夢となるな。俺はこの記憶さえあれば、幸せに生きていける」

 夢の中だけで満足しようとしているオルター様を見ていると、その優しさに泣けてきてしまう。
 私を手放したくないと思えるくらいに、楽しい夢を見せなくちゃ。

「たくさん、たくさん遊ぶばくー!」

 私がそう言うと、たくさんのかわいい動物たちが現れて。
 オルター様は『ミレイの姿でその喋り方もかわいいな』と笑っていて。
 私たちは何度も顔を合わせて笑い、気のゆくまで遊んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妹に婚約者を奪われた上に断罪されていたのですが、それが公爵様からの溺愛と逆転劇の始まりでした

水上
恋愛
濡れ衣を着せられ婚約破棄を宣言された裁縫好きの地味令嬢ソフィア。 絶望する彼女を救ったのは、偏屈で有名な公爵のアレックスだった。 「君の嘘は、安物のレースのように穴だらけだね」 彼は圧倒的な知識と論理で、ソフィアを陥れた悪役たちの嘘を次々と暴いていく。 これが、彼からの溺愛と逆転劇の始まりだった……。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

元カレの今カノは聖女様

abang
恋愛
「イブリア……私と別れて欲しい」 公爵令嬢 イブリア・バロウズは聖女と王太子の愛を妨げる悪女で社交界の嫌われ者。 婚約者である王太子 ルシアン・ランベールの関心は、品行方正、心優しく美人で慈悲深い聖女、セリエ・ジェスランに奪われ王太子ルシアンはついにイブリアに別れを切り出す。 極め付けには、王妃から嫉妬に狂うただの公爵令嬢よりも、聖女が婚約者に適任だと「ルシアンと別れて頂戴」と多額の手切れ金。 社交会では嫉妬に狂った憐れな令嬢に"仕立てあげられ"周りの人間はどんどんと距離を取っていくばかり。 けれども当の本人は… 「悲しいけれど、過ぎればもう過去のことよ」 と、噂とは違いあっさりとした様子のイブリア。 それどころか自由を謳歌する彼女はとても楽しげな様子。 そんなイブリアの態度がルシアンは何故か気に入らない様子で… 更には婚約破棄されたイブリアの婚約者の座を狙う王太子の側近達。 「私をあんなにも嫌っていた、聖女様の取り巻き達が一体私に何の用事があって絡むの!?嫌がらせかしら……!」

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

さようなら、たったひとつの

あんど もあ
ファンタジー
メアリは、10年間婚約したディーゴから婚約解消される。 大人しく身を引いたメアリだが、ディーゴは翌日から寝込んでしまい…。

ジェリー・ベケットは愛を信じられない

砂臥 環
恋愛
ベケット子爵家の娘ジェリーは、父が再婚してから離れに追いやられた。 母をとても愛し大切にしていた父の裏切りを知り、ジェリーは愛を信じられなくなっていた。 それを察し、まだ子供ながらに『君を守る』と誓い、『信じてほしい』と様々な努力してくれた婚約者モーガンも、学園に入ると段々とジェリーを避けらるようになっていく。 しかも、義妹マドリンが入学すると彼女と仲良くするようになってしまった。 だが、一番辛い時に支え、努力してくれる彼を信じようと決めたジェリーは、なにも言えず、なにも聞けずにいた。 学園でジェリーは優秀だったが『氷の姫君』というふたつ名を付けられる程、他人と一線を引いており、誰にも悩みは吐露できなかった。 そんな時、仕事上のパートナーを探す男子生徒、ウォーレンと親しくなる。 ※世界観はゆるゆる ※ざまぁはちょっぴり ※他サイトにも掲載

【完結】愛され公爵令嬢は穏やかに微笑む

綾雅(りょうが)今年は7冊!
恋愛
「シモーニ公爵令嬢、ジェラルディーナ! 私はお前との婚約を破棄する。この宣言は覆らぬと思え!!」 婚約者である王太子殿下ヴァレンテ様からの突然の拒絶に、立ち尽くすしかありませんでした。王妃になるべく育てられた私の、存在価値を否定するお言葉です。あまりの衝撃に意識を手放した私は、もう生きる意味も分からなくなっていました。 婚約破棄されたシモーニ公爵令嬢ジェラルディーナ、彼女のその後の人生は思わぬ方向へ転がり続ける。優しい彼女の功績に助けられた人々による、恩返しが始まった。まるで童話のように、受け身の公爵令嬢は次々と幸運を手にしていく。 ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2022/10/01  FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、二次選考通過 2022/07/29  FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、一次選考通過 2022/02/15  小説家になろう 異世界恋愛(日間)71位 2022/02/12  完結 2021/11/30  小説家になろう 異世界恋愛(日間)26位 2021/11/29  アルファポリス HOT2位 2021/12/03  カクヨム 恋愛(週間)6位

さようなら、私の愛したあなた。

希猫 ゆうみ
恋愛
オースルンド伯爵家の令嬢カタリーナは、幼馴染であるロヴネル伯爵家の令息ステファンを心から愛していた。いつか結婚するものと信じて生きてきた。 ところが、ステファンは爵位継承と同時にカールシュテイン侯爵家の令嬢ロヴィーサとの婚約を発表。 「君の恋心には気づいていた。だが、私は違うんだ。さようなら、カタリーナ」 ステファンとの未来を失い茫然自失のカタリーナに接近してきたのは、社交界で知り合ったドグラス。 ドグラスは王族に連なるノルディーン公爵の末子でありマルムフォーシュ伯爵でもある超上流貴族だったが、不埒な噂の絶えない人物だった。 「あなたと遊ぶほど落ちぶれてはいません」 凛とした態度を崩さないカタリーナに、ドグラスがある秘密を打ち明ける。 なんとドグラスは王家の密偵であり、偽装として遊び人のように振舞っているのだという。 「俺に協力してくれたら、ロヴィーサ嬢の真実を教えてあげよう」 こうして密偵助手となったカタリーナは、幾つかの真実に触れながら本当の愛に辿り着く。

処理中です...