5 / 17
05.最終同意
しおりを挟む
ようやく許可が降りて、美乃梨の気が変わらないうちに坂下さんに電話する。
出来れば最終同意も早目にして欲しいとお願いすると、骨髄採取予定の病院の医師と連絡を取って調整してくれた。
そして今日、十月十五日に最終同意だ。
俺と美乃梨、坂下さんに医師、それに第三の証人として弁護士が呼ばれている。
美乃梨は最後にごねるんじゃないかとドキドキしてたけど、もう覚悟を決めたのかすんなりと同意書にサインをしてくれた。
それを確認した上で医師が説明してくれる。
「最終同意後の撤回は出来ません。レシピエントはこれから前処置と呼ばれる、致死量を超える抗がん剤の投与と放射線照射が行われるます」
致死量を超えるという言葉を聞いて、ゾッとする。普通に考えると、死ぬって事だ。
最初の面談で説明を受けているから、頭では分かってる。全ての悪いものを破壊してから、俺の骨髄液を入れる事で、良くなっていくんだって事は。
「移植が終わるまでは造血機能を失うので、もしドナーに何かあって移植が出来なくなると、レシピエントの生命に関わるんです」
患者の、生命。
もし俺が当日に事故したり怪我をしたり風邪を引いただけでも、提供者の命が最優先だからと移植は取りやめになってしまう。
そうなったら、患者は……。
ゾッとして俺は首を左右に振った。
「もしも怪我をしたり風邪を引いたりした場合は、すぐに私にご連絡くださいね。前処置の前なら、日程をずらす事も可能かもしれませんから」
坂下さんが柔らかく言ってくれるので少しホッとする。怪我と風邪には注意しよう。
どうしようもない不慮の事故というのはあるんだろうけど、せめて自分の不注意で起こる怪我はないようにしないと。
その後も色々と注意を受けた。
入院の二週間前からは激しい運動をしない事。
喫煙、飲酒は控える事。
海外渡航はしない事。
十二月に移植の予定なので、インフルエンザの予防接種を任意だが受けて欲しいとも言われた。坂下さんが費用の半額を助成出来ると言ってくれたけど、いつも会社がやってくれるので辞退する。
それと、コーディネートが始まってから、終了するまでは献血をしてはいけないらしい。そういえば、二十歳の時に献血をしてから一度もした事がなかったな。提供が終わったら、また献血をしに行こう。
女性は妊娠しないようにとか、ネイルアートをしないようにとかもあるみたいだけど、まぁ俺には関係のない話だ。
「それと、採取前健康診断というのがありまして、最終的な健康チェックを徹底的に行います」
「まだあるんですね。もしそれに引っかかったらどうなるんですか?」
「再検査をして、それでも駄目なら提供は出来ませんので、コーディネート終了となります」
「え? 最終同意後でもですか?」
「はい」
それなら最終同意前に健康診断をすれば良いと思うんだが……。金銭的な問題かな?
提供者に掛かる検査や入院等の費用は、全部患者側が払う事になっている。候補者が多ければ多いほど、検査が多ければ多いほど、患者の金銭面での負担は増える。
一体いくら掛かってるのか俺には分からないが、その健康診断をパスしないとまた探し直しで検査費用が嵩む事だろう。
割と健康には自信があるから、大丈夫だとは思うが……不安だ。ここまできたら、絶対に提供者になりたいって気持ちもある。
「それをパスすれば、今度は自己血採血という流れになります。四百ミリリットルを二日に分けて採血する事になります」
四百ミリリットルを二回って事は、八百ミリリットルって事か。
骨髄液を一気に取ると貧血になるため、自己輸血用の採血を事前にするんだ。
つまり、採る血の量イコール、骨髄液を採る量って事だよな。
患者が成人男性だと一リットルくらい採られるみたいだから、女性か、小柄な男性かな?
「すみません、レシピエントが女性か男性かくらいは教えてくれるんですよね?」
その問いには、坂下さんが答えてくれる。
「はい、最終同意が終わりましたので、希望されればレシピエントの簡単なプロフィールは教えられますよ」
「希望します!」
即答すると、坂下さんは優しく微笑んで教えてくれた。
「レシピエントは形岡県に在住の、十代の男の子です」
十代の、男の子。
プロフィールと言っても、個人が特定されないようにザックリとしか教えてもらえなかった。
十代というと、十歳から十九歳まで。十歳にしては採る量が多いし、十九歳にしては少ない。
中学生か高校生ってところかな。最近の小学生は発育が良いから、もしかしたら小学生かもしれないが。
今までどこの誰にあげるか分からなかった骨髄液に、明確な行き先を教えてもらえた気がした。
結局会えるわけでもないんだが、それでも十代の未来ある少年の命を救えるかもしれないと思うと、それだけで誇らしい気持ちになれる。
待ってろ。絶対に採取まで辿り着いて、提供するからな。
全ての説明が終わると、俺は美乃梨と一緒に病院を出た。
美乃梨も患者の情報を貰ったからか、親近感のようなものを抱いたようだった。
「その子が、晃と同じDNAを持つ事になるのかと思うと、なんだか不思議ね。元気になって貰いたいって思っちゃった」
「そうだろ?」
「ちゃんと提供、出来ると良いわね」
美乃梨のあまりの変わりように、俺は微笑みながら頷く。
パートナーに理解してもらえるって、やっぱり嬉しいな。
俺は手を伸ばし、久々に美乃梨の手を取る。少し驚いたような顔をした美乃梨がニッコリと笑って、俺たちはそのまま手を繋いで帰った。
出来れば最終同意も早目にして欲しいとお願いすると、骨髄採取予定の病院の医師と連絡を取って調整してくれた。
そして今日、十月十五日に最終同意だ。
俺と美乃梨、坂下さんに医師、それに第三の証人として弁護士が呼ばれている。
美乃梨は最後にごねるんじゃないかとドキドキしてたけど、もう覚悟を決めたのかすんなりと同意書にサインをしてくれた。
それを確認した上で医師が説明してくれる。
「最終同意後の撤回は出来ません。レシピエントはこれから前処置と呼ばれる、致死量を超える抗がん剤の投与と放射線照射が行われるます」
致死量を超えるという言葉を聞いて、ゾッとする。普通に考えると、死ぬって事だ。
最初の面談で説明を受けているから、頭では分かってる。全ての悪いものを破壊してから、俺の骨髄液を入れる事で、良くなっていくんだって事は。
「移植が終わるまでは造血機能を失うので、もしドナーに何かあって移植が出来なくなると、レシピエントの生命に関わるんです」
患者の、生命。
もし俺が当日に事故したり怪我をしたり風邪を引いただけでも、提供者の命が最優先だからと移植は取りやめになってしまう。
そうなったら、患者は……。
ゾッとして俺は首を左右に振った。
「もしも怪我をしたり風邪を引いたりした場合は、すぐに私にご連絡くださいね。前処置の前なら、日程をずらす事も可能かもしれませんから」
坂下さんが柔らかく言ってくれるので少しホッとする。怪我と風邪には注意しよう。
どうしようもない不慮の事故というのはあるんだろうけど、せめて自分の不注意で起こる怪我はないようにしないと。
その後も色々と注意を受けた。
入院の二週間前からは激しい運動をしない事。
喫煙、飲酒は控える事。
海外渡航はしない事。
十二月に移植の予定なので、インフルエンザの予防接種を任意だが受けて欲しいとも言われた。坂下さんが費用の半額を助成出来ると言ってくれたけど、いつも会社がやってくれるので辞退する。
それと、コーディネートが始まってから、終了するまでは献血をしてはいけないらしい。そういえば、二十歳の時に献血をしてから一度もした事がなかったな。提供が終わったら、また献血をしに行こう。
女性は妊娠しないようにとか、ネイルアートをしないようにとかもあるみたいだけど、まぁ俺には関係のない話だ。
「それと、採取前健康診断というのがありまして、最終的な健康チェックを徹底的に行います」
「まだあるんですね。もしそれに引っかかったらどうなるんですか?」
「再検査をして、それでも駄目なら提供は出来ませんので、コーディネート終了となります」
「え? 最終同意後でもですか?」
「はい」
それなら最終同意前に健康診断をすれば良いと思うんだが……。金銭的な問題かな?
提供者に掛かる検査や入院等の費用は、全部患者側が払う事になっている。候補者が多ければ多いほど、検査が多ければ多いほど、患者の金銭面での負担は増える。
一体いくら掛かってるのか俺には分からないが、その健康診断をパスしないとまた探し直しで検査費用が嵩む事だろう。
割と健康には自信があるから、大丈夫だとは思うが……不安だ。ここまできたら、絶対に提供者になりたいって気持ちもある。
「それをパスすれば、今度は自己血採血という流れになります。四百ミリリットルを二日に分けて採血する事になります」
四百ミリリットルを二回って事は、八百ミリリットルって事か。
骨髄液を一気に取ると貧血になるため、自己輸血用の採血を事前にするんだ。
つまり、採る血の量イコール、骨髄液を採る量って事だよな。
患者が成人男性だと一リットルくらい採られるみたいだから、女性か、小柄な男性かな?
「すみません、レシピエントが女性か男性かくらいは教えてくれるんですよね?」
その問いには、坂下さんが答えてくれる。
「はい、最終同意が終わりましたので、希望されればレシピエントの簡単なプロフィールは教えられますよ」
「希望します!」
即答すると、坂下さんは優しく微笑んで教えてくれた。
「レシピエントは形岡県に在住の、十代の男の子です」
十代の、男の子。
プロフィールと言っても、個人が特定されないようにザックリとしか教えてもらえなかった。
十代というと、十歳から十九歳まで。十歳にしては採る量が多いし、十九歳にしては少ない。
中学生か高校生ってところかな。最近の小学生は発育が良いから、もしかしたら小学生かもしれないが。
今までどこの誰にあげるか分からなかった骨髄液に、明確な行き先を教えてもらえた気がした。
結局会えるわけでもないんだが、それでも十代の未来ある少年の命を救えるかもしれないと思うと、それだけで誇らしい気持ちになれる。
待ってろ。絶対に採取まで辿り着いて、提供するからな。
全ての説明が終わると、俺は美乃梨と一緒に病院を出た。
美乃梨も患者の情報を貰ったからか、親近感のようなものを抱いたようだった。
「その子が、晃と同じDNAを持つ事になるのかと思うと、なんだか不思議ね。元気になって貰いたいって思っちゃった」
「そうだろ?」
「ちゃんと提供、出来ると良いわね」
美乃梨のあまりの変わりように、俺は微笑みながら頷く。
パートナーに理解してもらえるって、やっぱり嬉しいな。
俺は手を伸ばし、久々に美乃梨の手を取る。少し驚いたような顔をした美乃梨がニッコリと笑って、俺たちはそのまま手を繋いで帰った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~
紗沙
恋愛
剣の名家にして、国の南側を支配する大貴族フォルス家。
そこの三男として生まれたノヴァは一族のみが扱える秘技が全く使えない、出来損ないというレッテルを貼られ、辛い子供時代を過ごした。
大人になったノヴァは小さな領地を与えられるものの、仕事も家族からの期待も、周りからの期待も0に等しい。
しかし、そんなノヴァに舞い込んだ一件の縁談話。相手は国の北側を支配する大貴族。
フォルス家とは長年の確執があり、今は栄華を極めているアークゲート家だった。
しかも縁談の相手は、まさかのアークゲート家当主・シアで・・・。
「あのときからずっと……お慕いしています」
かくして、何も持たないフォルス家の三男坊は性格良し、容姿良し、というか全てが良しの妻を迎え入れることになる。
ノヴァの運命を変える、全てを与えてこようとする妻を。
「人はアークゲート家の当主を恐ろしいとか、血も涙もないとか、冷酷とか散々に言うけど、
シアは可愛いし、優しいし、賢いし、完璧だよ」
あまり深く考えないノヴァと、彼にしか自分の素を見せないシア、二人の結婚生活が始まる。
青天の霹靂ってこれじゃない?
浦 かすみ
恋愛
贅沢三昧でとんでもない王妃だった私、国王陛下の(旦那)から三行半を突き付けられた!
その言葉で私は過去を思い出した。
第二王妃からざまぁを受ける羽目になった私だが、おや待てよ?
それって第一王妃の仕事もうやらなくていいの?
自分磨きに独り立ちの為に有効使わせてもらいましょう!
★不定期更新です
中盤以降恋愛方面の話を入れていく予定です。
誤字脱字等、お見苦しくてすみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる