12 / 116
第12話 必ず、セヴェリ様を生かしてみせます
しおりを挟む
「リック、サイラス……どうして」
部屋に勝手に入ってきた二人を、眉を寄せて迎える。リックバルドはズンズンとサビーナに向かい、サイラスは後ろで扉を閉めている。リックバルドがいるから大丈夫だとは思うものの、体は勝手に強張った。
「セヴェリ様から話を聞いた。お前を気遣って下さっていて、様子を見るようにと言われてな。サイラスはサビーナに謝らせるという名目で連れて来た」
「……名……目?」
名目という事は、謝らせるつもりはないという事だろうか。リックバルドが何を言っているのか、理解出来ない。
サビーナが首を捻らせていると、サイラスがヘラヘラと笑いながら近づいてくる。思わず体を壁に寄せ、警戒態勢をとった。
「やだなぁ、警戒しないでよ。名演技だったでしょ、僕」
サイラスの言葉に、サビーナは目を見開いた。
「演、技?」
「サビーナちゃんったら、中々大声出してくれないんだもん。ダメだよ? ああいう時は、ちゃんと声を出さないと」
「な……え? ど、どういう事?!」
サビーナが二人を交互に見ると、リックバルドが満足そうにニヤリと笑みを見せてくる。
「俺の作戦も中々のものだろう。お優しいセヴェリ様は、これでお前の事を誰よりも気にしてくれるようになる」
「な、な……っ! つまり、おかしな噂がセヴェリ様の耳に入ったのもサイラスが迫ってきたのも、全部リックのシナリオ通りだったって事!?」
「あはは、当然だよ。僕があんな風に無理矢理女の子を襲うわけないでしょ? ねぇ、リックバルド殿」
「知るか」
サイラスの言葉を一蹴すると、リックは視線をサビーナに戻した。
「すまんな。お前に知らせると、上手く演技が出来んだろうから黙っていた」
「うう……酷いよ、リック、サイラス……」
「ごめんね、サビーナちゃん。でもあの怯えたサビーナちゃんを見てると、変な性癖に目覚めそうだよー」
申し訳なさそうに謝りつつも、困ったように笑っているサイラス。一気に肩の力が抜けた。手をベッドの上に置くと、ハァーっと長い息が漏れる。
「っもう! サイラス、演技が上手すぎだよっ!」
「あはは、ありがとー。でもリックバルド殿に釘を刺されてなければ、結構本気になっちゃってたかもしれないな」
口元はヘラヘラ緩んだまま、あり得ないくらいの流し目を送ってくる。まったく、この流し目で何人の女の子を騙くらかしてきたのだろう。この男に処女を奪われた子たちを、心底同情する。
「お前程度の男に、サビーナはやれん」
「お前程度だなんて、ヒドイなー。じゃあセヴェリ様ならいいんですか?」
「セヴェリ様にサビーナをやるとは言ってない。サビーナにセヴェリ様を惚れさせるだけだ」
「リックバルド殿も素直じゃないですね。『俺の大事な妹に手を出したらその首掻っ切って、魔物どもの餌にしてやる』って凄んでたのは誰でしたっけ?」
サイラスの言葉にサビーナは目を見張った。いつもサビーナをけちょんけちょんに扱(こ)き下ろす兄が、そんな風に言ってくれていたなんて信じられない。
「え、リック……本当に?」
「嫁入り前の娘の体を汚されては、親父に申し訳が立たんからな。言っておくが、セヴェリ様にも簡単に体を明け渡すなよ。惚れさせて惹きつけて焦らして、上手くこちら側に誘導しろ」
「……無茶な。だって、セヴェリ様はレイスリーフェ様の事を愛してらっしゃるみたいだよ?」
セヴェリが言っていた唯一無二の存在とは、彼にとってレイスリーフェに相違ないだろう。愛する婚約者がいるというのに、付け入る隙があるとは思えない。
「前にも言っただろう。レイス様の方には、もうそんな気持ちは持っておられない。それはセヴェリ様も感づいておられるはずだ。傷心のセヴェリ様を落とすのに、絶好の機会と言えるだろう」
リックバルドの言葉に、サイラスが「え、そうなの?」と驚いている。彼もレイスリーフェのセヴェリへの愛がなくなっているという事は、初耳だったのだろう。
「うう……それにしても他に適役がいるんじゃない? キアリカさんとか」
「キアは守ってやりたいと思わせるタイプじゃないからな。お前のような男に免疫のない、馬鹿な女の方がセヴェリ様を落としやすい。今回の件で、ますます確信を得た」
「うー。じゃあその馬鹿な女に、良い知恵をお授けください、我が兄上~」
落としやすいと言われても、どうしていいかさっぱり分からない。ここは悔しいが、下手(したて)に出て指示を仰ぐ他ない。
「既にお前を気にしてくださっている状態になったからな、もうお前が策を弄する必要はない。強いて言うなら、誠心誠意セヴェリ様に尽くせ。そして脈ありと感じたら、こちらもその気があるように控えめに主張しろ」
「控えめに主張って何、難しいよっ」
「いいからやれ。もうお前に選択権はない」
「ひーーーー」
横暴な兄の言い分に、サビーナは頭を抱える。そもそも脈があるとは一体どういう状態なのか、見当がつかない。恋愛小説ならば行間の文章などから読み解く事は出来るが、現実でそれに気付けるかどうかは甚だ疑問である。
「頑張って、サビーナちゃん! 期待してるよ!」
「うう、期待しないで……」
本当に期待して欲しくない。ないのだが、セヴェリを落とせなかった時の事を考えるとゾッとした。
謀反を実行しようとするセヴェリ。サビーナが彼を止められなければ、リックバルドは謀反の企てを、皇帝陛下に密告する事だろう。例え使用人達が路頭に迷おうとも、無闇な戦乱を起こして班員達を死なせるよりマシと考えるに違いない。
そしてそうなれば、謀反を企てたセヴェリやマウリッツは、処刑されてしまうかもしれないのだ。
やるしかない。どうにかして、彼を自分に振り向かせる以外にない。
でも、どうやって……?
やはりそこから思考は先に進まず、サビーナは大きな溜め息を吐いた。
「案ずるな、また何か仕掛けてやる」
「……また馬鹿な噂でも流す気? 勘弁してよね」
「もうそんな回りくどい真似はせんさ」
ニヤリと悪どい笑みを見せるリックバルドが怖い。次は一体何をしようというのか。
「一応聞くけど、何するつもりなの」
「聞けばお前は警戒するだろう。知らん方が良い」
「うん、そう言うと思ったけどね……」
サビーナの胃がキリキリと痛む。本日は病欠ではなかったが、本当に病気になってしまいそうだ。
「大丈夫? サビーナちゃん」
「うん……それよりサイラスは平気だったの?」
「え? ああ、うん。何のお咎めもなかったよ。僕がサビーナちゃんを襲ったっていう確たる証拠はひとつもないしね。まぁセヴェリ様への心象は悪くなっちゃったけど、これくらいは予想の範囲内だよ。問題なし!」
そう言ってから、サイラスはちょっと悲しそうに眉を下げて続けた。
「でも、サビーナちゃんが僕を信じてくれなかったのはちょっとショックだったな。演技だって気付いてくれるかと思ったのに」
「う、ごめん……」
「まぁいいんだけどね、リックバルド殿にはサビーナちゃんにバレないようにって指示を受けてたし」
「サビーナは、演技でも大声を出せる女じゃないからな」
確かに、とサビーナは自分で納得して頷いた。今から悲鳴を上げてみろと指示された所で、上手く上げられる気がしない。仕方がなかったと割り切るしかないだろう。
「ところで、そっちはどうなの? シェスカル隊長とリカルドさんは、賛成派か反対派か分かった?」
「いや……まだ本格的な探りを入れていない。逆に探られて反対派だとバレるのが怖いからな。お前がセヴェリ様を落とすまで、時間稼ぎをしてる状況だ。セヴェリ様さえこちらにつけば、二人を説得させられる自信はある」
「うう、結局そこかぁ……」
もしもオーケルフェルト騎士隊の全員が反対派だったなら、セヴェリを落とさずとも、騎士隊のみんなで説得してもらえると思った。そもそも騎士隊が動かなければ、謀反を起こせるはずもないのだから。
「ところでサビーナ、何だ? このボロ切れを纏った小瓶は」
リックバルドは机の上に置いてあったアデラオレンジの種が入った瓶を手に取り、不思議そうに眺めている。
「ボロ切れって……し、刺繍だよ、一応……」
そういうと、後ろでブッと吹き出すサイラスの姿が見えた。笑われても仕方がない品だが、ちょっと傷つく。
「何が入っているんだ?」
「アデラオレンジの種。何となく、入れておいたの」
そう説明するとしばらく考えていたリックバルドだったが、意味ありげにフッと笑ってそれを返してくれた。
「じゃあな、サビーナ。今日はゆっくり本でも読んで休んでいろ」
「またね、サビーナちゃん」
「うん……ばいばい」
二人を見送ると、手に小瓶を持ったまま、ボフンと布団に埋もれる。
どうにかしてセヴェリを誘惑する。その決心をしたは良いが、サビーナの胸はチクチクと痛んだ。
実際に彼を落とせる自信はなかったが、あの優しいセヴェリを騙そうとしている事に罪悪感が募ってしまって。
セヴェリ様……騙してしまう事を、お許しください……
しかし、騙してでも彼を止めたいと思う気持ちは本当だった。
このままセヴェリが罪人となり、地に落ちるくらいなら。
体を張ってでも、止める覚悟は出来た。
サビーナは起き上がると、出来損ないの小瓶からアデラオレンジの種を取り出す。
彼の母親は、セヴェリが処刑になる事など望んでいないはずだ。もし彼女が生きていたなら、きっとセヴェリを止めてくれたに違いない。
アデラオレンジの種を握りしめると、何故だかそう思えた。
「アデラ様……必ず、セヴェリ様を生かしてみせます」
サビーナは己の決意を、そのオレンジの種だけに告げたのだった。
部屋に勝手に入ってきた二人を、眉を寄せて迎える。リックバルドはズンズンとサビーナに向かい、サイラスは後ろで扉を閉めている。リックバルドがいるから大丈夫だとは思うものの、体は勝手に強張った。
「セヴェリ様から話を聞いた。お前を気遣って下さっていて、様子を見るようにと言われてな。サイラスはサビーナに謝らせるという名目で連れて来た」
「……名……目?」
名目という事は、謝らせるつもりはないという事だろうか。リックバルドが何を言っているのか、理解出来ない。
サビーナが首を捻らせていると、サイラスがヘラヘラと笑いながら近づいてくる。思わず体を壁に寄せ、警戒態勢をとった。
「やだなぁ、警戒しないでよ。名演技だったでしょ、僕」
サイラスの言葉に、サビーナは目を見開いた。
「演、技?」
「サビーナちゃんったら、中々大声出してくれないんだもん。ダメだよ? ああいう時は、ちゃんと声を出さないと」
「な……え? ど、どういう事?!」
サビーナが二人を交互に見ると、リックバルドが満足そうにニヤリと笑みを見せてくる。
「俺の作戦も中々のものだろう。お優しいセヴェリ様は、これでお前の事を誰よりも気にしてくれるようになる」
「な、な……っ! つまり、おかしな噂がセヴェリ様の耳に入ったのもサイラスが迫ってきたのも、全部リックのシナリオ通りだったって事!?」
「あはは、当然だよ。僕があんな風に無理矢理女の子を襲うわけないでしょ? ねぇ、リックバルド殿」
「知るか」
サイラスの言葉を一蹴すると、リックは視線をサビーナに戻した。
「すまんな。お前に知らせると、上手く演技が出来んだろうから黙っていた」
「うう……酷いよ、リック、サイラス……」
「ごめんね、サビーナちゃん。でもあの怯えたサビーナちゃんを見てると、変な性癖に目覚めそうだよー」
申し訳なさそうに謝りつつも、困ったように笑っているサイラス。一気に肩の力が抜けた。手をベッドの上に置くと、ハァーっと長い息が漏れる。
「っもう! サイラス、演技が上手すぎだよっ!」
「あはは、ありがとー。でもリックバルド殿に釘を刺されてなければ、結構本気になっちゃってたかもしれないな」
口元はヘラヘラ緩んだまま、あり得ないくらいの流し目を送ってくる。まったく、この流し目で何人の女の子を騙くらかしてきたのだろう。この男に処女を奪われた子たちを、心底同情する。
「お前程度の男に、サビーナはやれん」
「お前程度だなんて、ヒドイなー。じゃあセヴェリ様ならいいんですか?」
「セヴェリ様にサビーナをやるとは言ってない。サビーナにセヴェリ様を惚れさせるだけだ」
「リックバルド殿も素直じゃないですね。『俺の大事な妹に手を出したらその首掻っ切って、魔物どもの餌にしてやる』って凄んでたのは誰でしたっけ?」
サイラスの言葉にサビーナは目を見張った。いつもサビーナをけちょんけちょんに扱(こ)き下ろす兄が、そんな風に言ってくれていたなんて信じられない。
「え、リック……本当に?」
「嫁入り前の娘の体を汚されては、親父に申し訳が立たんからな。言っておくが、セヴェリ様にも簡単に体を明け渡すなよ。惚れさせて惹きつけて焦らして、上手くこちら側に誘導しろ」
「……無茶な。だって、セヴェリ様はレイスリーフェ様の事を愛してらっしゃるみたいだよ?」
セヴェリが言っていた唯一無二の存在とは、彼にとってレイスリーフェに相違ないだろう。愛する婚約者がいるというのに、付け入る隙があるとは思えない。
「前にも言っただろう。レイス様の方には、もうそんな気持ちは持っておられない。それはセヴェリ様も感づいておられるはずだ。傷心のセヴェリ様を落とすのに、絶好の機会と言えるだろう」
リックバルドの言葉に、サイラスが「え、そうなの?」と驚いている。彼もレイスリーフェのセヴェリへの愛がなくなっているという事は、初耳だったのだろう。
「うう……それにしても他に適役がいるんじゃない? キアリカさんとか」
「キアは守ってやりたいと思わせるタイプじゃないからな。お前のような男に免疫のない、馬鹿な女の方がセヴェリ様を落としやすい。今回の件で、ますます確信を得た」
「うー。じゃあその馬鹿な女に、良い知恵をお授けください、我が兄上~」
落としやすいと言われても、どうしていいかさっぱり分からない。ここは悔しいが、下手(したて)に出て指示を仰ぐ他ない。
「既にお前を気にしてくださっている状態になったからな、もうお前が策を弄する必要はない。強いて言うなら、誠心誠意セヴェリ様に尽くせ。そして脈ありと感じたら、こちらもその気があるように控えめに主張しろ」
「控えめに主張って何、難しいよっ」
「いいからやれ。もうお前に選択権はない」
「ひーーーー」
横暴な兄の言い分に、サビーナは頭を抱える。そもそも脈があるとは一体どういう状態なのか、見当がつかない。恋愛小説ならば行間の文章などから読み解く事は出来るが、現実でそれに気付けるかどうかは甚だ疑問である。
「頑張って、サビーナちゃん! 期待してるよ!」
「うう、期待しないで……」
本当に期待して欲しくない。ないのだが、セヴェリを落とせなかった時の事を考えるとゾッとした。
謀反を実行しようとするセヴェリ。サビーナが彼を止められなければ、リックバルドは謀反の企てを、皇帝陛下に密告する事だろう。例え使用人達が路頭に迷おうとも、無闇な戦乱を起こして班員達を死なせるよりマシと考えるに違いない。
そしてそうなれば、謀反を企てたセヴェリやマウリッツは、処刑されてしまうかもしれないのだ。
やるしかない。どうにかして、彼を自分に振り向かせる以外にない。
でも、どうやって……?
やはりそこから思考は先に進まず、サビーナは大きな溜め息を吐いた。
「案ずるな、また何か仕掛けてやる」
「……また馬鹿な噂でも流す気? 勘弁してよね」
「もうそんな回りくどい真似はせんさ」
ニヤリと悪どい笑みを見せるリックバルドが怖い。次は一体何をしようというのか。
「一応聞くけど、何するつもりなの」
「聞けばお前は警戒するだろう。知らん方が良い」
「うん、そう言うと思ったけどね……」
サビーナの胃がキリキリと痛む。本日は病欠ではなかったが、本当に病気になってしまいそうだ。
「大丈夫? サビーナちゃん」
「うん……それよりサイラスは平気だったの?」
「え? ああ、うん。何のお咎めもなかったよ。僕がサビーナちゃんを襲ったっていう確たる証拠はひとつもないしね。まぁセヴェリ様への心象は悪くなっちゃったけど、これくらいは予想の範囲内だよ。問題なし!」
そう言ってから、サイラスはちょっと悲しそうに眉を下げて続けた。
「でも、サビーナちゃんが僕を信じてくれなかったのはちょっとショックだったな。演技だって気付いてくれるかと思ったのに」
「う、ごめん……」
「まぁいいんだけどね、リックバルド殿にはサビーナちゃんにバレないようにって指示を受けてたし」
「サビーナは、演技でも大声を出せる女じゃないからな」
確かに、とサビーナは自分で納得して頷いた。今から悲鳴を上げてみろと指示された所で、上手く上げられる気がしない。仕方がなかったと割り切るしかないだろう。
「ところで、そっちはどうなの? シェスカル隊長とリカルドさんは、賛成派か反対派か分かった?」
「いや……まだ本格的な探りを入れていない。逆に探られて反対派だとバレるのが怖いからな。お前がセヴェリ様を落とすまで、時間稼ぎをしてる状況だ。セヴェリ様さえこちらにつけば、二人を説得させられる自信はある」
「うう、結局そこかぁ……」
もしもオーケルフェルト騎士隊の全員が反対派だったなら、セヴェリを落とさずとも、騎士隊のみんなで説得してもらえると思った。そもそも騎士隊が動かなければ、謀反を起こせるはずもないのだから。
「ところでサビーナ、何だ? このボロ切れを纏った小瓶は」
リックバルドは机の上に置いてあったアデラオレンジの種が入った瓶を手に取り、不思議そうに眺めている。
「ボロ切れって……し、刺繍だよ、一応……」
そういうと、後ろでブッと吹き出すサイラスの姿が見えた。笑われても仕方がない品だが、ちょっと傷つく。
「何が入っているんだ?」
「アデラオレンジの種。何となく、入れておいたの」
そう説明するとしばらく考えていたリックバルドだったが、意味ありげにフッと笑ってそれを返してくれた。
「じゃあな、サビーナ。今日はゆっくり本でも読んで休んでいろ」
「またね、サビーナちゃん」
「うん……ばいばい」
二人を見送ると、手に小瓶を持ったまま、ボフンと布団に埋もれる。
どうにかしてセヴェリを誘惑する。その決心をしたは良いが、サビーナの胸はチクチクと痛んだ。
実際に彼を落とせる自信はなかったが、あの優しいセヴェリを騙そうとしている事に罪悪感が募ってしまって。
セヴェリ様……騙してしまう事を、お許しください……
しかし、騙してでも彼を止めたいと思う気持ちは本当だった。
このままセヴェリが罪人となり、地に落ちるくらいなら。
体を張ってでも、止める覚悟は出来た。
サビーナは起き上がると、出来損ないの小瓶からアデラオレンジの種を取り出す。
彼の母親は、セヴェリが処刑になる事など望んでいないはずだ。もし彼女が生きていたなら、きっとセヴェリを止めてくれたに違いない。
アデラオレンジの種を握りしめると、何故だかそう思えた。
「アデラ様……必ず、セヴェリ様を生かしてみせます」
サビーナは己の決意を、そのオレンジの種だけに告げたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
看病しに行ったら、当主の“眠り”になってしまった
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全36話⭐︎
倒れた当主を看病する役目を振られた使用人リィナは、彼の部屋へ通うことになる。
栄養、灯り、静かな時間、話し相手――“眠れる夜”を整えていく。そして、回復していく当主アレクシス。けれど彼は、ある夜そっと手を握り返し、低い声で囁く。
「責任、取って?」
噂が燃える屋敷で、ふたりが守るのは“枠(ルール)”。
手だけ、時間だけ、理由にしない――鍵はリィナが握ったまま。
けれど、守ろうとするほど情は育ち、合図の灯りはいつしか「帰る」ではなく「眠る」へ変わっていく。
看病から始まった優しい夜は、静かな執着に捕まっていく。
それでも、捕獲の鍵は彼ではなく――彼女の手にある。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~
紗沙
恋愛
剣の名家にして、国の南側を支配する大貴族フォルス家。
そこの三男として生まれたノヴァは一族のみが扱える秘技が全く使えない、出来損ないというレッテルを貼られ、辛い子供時代を過ごした。
大人になったノヴァは小さな領地を与えられるものの、仕事も家族からの期待も、周りからの期待も0に等しい。
しかし、そんなノヴァに舞い込んだ一件の縁談話。相手は国の北側を支配する大貴族。
フォルス家とは長年の確執があり、今は栄華を極めているアークゲート家だった。
しかも縁談の相手は、まさかのアークゲート家当主・シアで・・・。
「あのときからずっと……お慕いしています」
かくして、何も持たないフォルス家の三男坊は性格良し、容姿良し、というか全てが良しの妻を迎え入れることになる。
ノヴァの運命を変える、全てを与えてこようとする妻を。
「人はアークゲート家の当主を恐ろしいとか、血も涙もないとか、冷酷とか散々に言うけど、
シアは可愛いし、優しいし、賢いし、完璧だよ」
あまり深く考えないノヴァと、彼にしか自分の素を見せないシア、二人の結婚生活が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる