思い出の夏祭り 〜君が私の気持ちに気づくまで〜

長岡更紗

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 妹の事を、どうかよろしくお願いします!!



 体育会系の礼儀正しさで、きっちり頭を下げていたのが印象的だった。
 彼女の担当看護師は私ではなかったし、彼が頭を下げている相手も私ではなかったけど。

 それでも、通りすがりに見た光景は、ずっと目に焼き付いていた──




 私は形岡県立医科大学附属病院に勤務して、三年目のナースだ。その小児病棟に勤務している。仕事はハードだけどやり甲斐はあるし、先輩ナースにも恵まれていると思う。

「ええっ! あの人って、リナちゃんのお父さんじゃなかったの!?」
「違うよ、木下さん。リナちゃんのお兄ちゃんだって。高校三年生! 」
「えええ、見えない……っ! 私、この間、リナちゃんのお父さんだと思って敬語で話しかけちゃったよ」

 ナースステーションにいると、入院患者の母親たちの、そんな会話が聞こえて来た。
 池畑リナちゃんのお兄ちゃん……池畑拓真くんの事だ。リナちゃんはまだ七歳だから、見ようによっては確かに親子に見えるかもしれない。
 私の耳は、少しだけ大きくなってしまう。

「道理でおかしいと思ったんだよねぇ。池畑さんってさ、私達より結構年上なのに、えらく若い旦那さんを捕まえたんだなーって思って」
「私も最初そう思ってたー!」
「斎藤さんもー?!」
「拓真くんって貫禄あるから、高校生にはちょっと見えないよね!」
「分かるー!」

 そんな会話をしながら、二人は清潔室の方に戻って行った。
 リナちゃんを含め、今の二人の子供たちも、白血病患者だ。

「園田」

 突如後ろから声を掛けられてハッとする。首を後ろに向けると、同期の徳澤とくざわ芳佳よしか……よしちゃんがいた。

「リナちゃんの所の点滴交換に行くよ!」
「あ、うん」

 よしちゃんに言われて私は足を後ろに向けた。
 点滴の準備をすると清潔室の扉を開けて、ピロピロと音の聞こえてくるリナちゃんの病室に入る。

「失礼しまーす、点滴交換でーす」

 軽くノックして声を掛けながら扉を開けると、拓真くんがいた。
 いつの間に来てたんだろ? いるとは思ってなかったから、緊張しちゃう。

「こんにちは! 徳澤さん、園田さん!」
「こんにちは、拓真くん来てたのね。そう言えば、高校最後のバレーの試合はどうだったの?」
「はは、県ベストエイトで終わっちゃったよ」
「ベストエイトって、すごいじゃない!」

 よしちゃんは楽しそうに拓真くんと会話している。いいなぁ。
 拓真くんはバレー部で、中学の時から六年間頑張って来たみたい。私は運動音痴だし、バレーなんてルールすらもよく分かってないから、話に入り辛い。

「でも高校の三年間で、一回くらいは全国行ってみたかったなぁ」
「大学でもバレー続けるの?」
「いや、俺、大学は行かないから」
「そうなんだ。就職?」
「いや、専門学校」
「へぇ、なんの?」
「製菓だよ」
「お菓子!? やだ、似合わなーい!」

 よしちゃん、なんて失礼な事を!!
 でも当の拓真くんは、なんでもない事のように一緒に笑っている。
 私も笑っていいのかな? とりあえず微笑んでおこう。

「お兄ちゃんはねぇー、うちのパン屋さんの隣に、ケーキ屋さん作りたいんだって!」

 嬉しそうに、ベッドの上で熱を測っているリナちゃんがそう教えてくれた。
 リナちゃん達のご両親は、この鳥白市から遠く離れた海近市で、『うさぎ』というパン屋を営んでいるんだそう。

「ああ、リナちゃんはパン屋を継ぐんだっけ?」
「うん! 『うさぎ』はお兄ちゃんなんかにあげないんだから!」
「はは、分かってるって! リナが継いでくれるおかげで、俺も好きな事できる。ありがとな、リナ!」
「えへへへー」

 嬉しそうに目を細めて笑うリナちゃんと、これまたとろけるような笑顔で嬉しそうな拓真くん。
 ああ、いいなぁ。私にもあんな風に笑いかけて欲しい。

「園田、点滴確認」
「あ、はい」

 私はハッとして意識を集中させ、よしちゃんと一緒に点滴ラベルと滴下の確認を、声出しと指差しで確認しあった。

「じゃあ、また何かあったら呼んでね」
「うんー!」
「ありがとうございます、徳澤さん、園田さん」

 私の名前を呼んでくれた拓真くんに、少しだけ振り返って会釈する。
 何か話しかけたかったけど……結局何も言えなかったな。はぁ。

「園田、どうしたの?」
「何が?」
「溜め息」
「な、なんでもないよ!」

 いくら仲の良いよしちゃんでも、まさか高校生の男の子を好きになっちゃっただなんて言えない!
 私は三年制の看護学校を卒業して、看護師になって三年目。もう二十四歳になってる。拓真くんは十八歳だから、六歳もの年の差があるんだよね。
 高校生の男の子からしたら、おばさんにしか見られてないかもしれない……ぐすん。

 ああ……昔から、好きな人の前になると、何も話せなくなってしまう性格が恨めしい。
 私の初恋もそうだった。小学校三年生から、六年生まで好きだった人。三歳年上のお兄ちゃんの友達だった。
 たまにうちに遊びに来てくれるその人は、私の名前を優しく呼んでくれた。たったそれだけの事がすごく嬉しくて。あの人が来るのを、心待ちにしてたなぁ。
 折角遊びに来てくれても、私からは何にも話せなかったけど。結局お兄ちゃんとは高校が別になって、疎遠になって終わっちゃったんだよね。

 今は社会人だから、好きな人が相手でも、必要な事はちゃんと話せる。でもそれ以外のどうでも良い話っていうのが中々出来ない。
 こんな私だけど、リナちゃんの退院までに、少しでも拓真くんと仲良くなれたら……いいなぁ。
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