22 / 79
22.ホテル
しおりを挟む
三島さんが連れて行ってくれたのは、市内で有名な鳥白グランドホテルの最上階、お洒落なバーラウンジだった。
バーって言うから市内の繁華街の地下の、小さなバーを想像しちゃってたんだけど……思えば、皇商事の社員だもんね。こういうところの方が慣れてるのかな。
窓際の席は、夜景が良く見える。
「ここの夜景が綺麗で好きなんだよね」
三島さんが微笑みを浮かべながらそう話しかけてくる。うーん、夜景かぁ。
「うちの病院からも、夜景が綺麗に見えるんですよ。小児病棟は十階だし、ここより高いかな? こんな夜景を見てると、夜勤を思い出しちゃうなぁ」
「そ……そっか」
あれ? あ、もしかしてこういう時はちょっとバカっぽくても『すごーいきれーい』なんて言葉を言っておくべきだった? 折角連れてきてもらったのに、悪い事言っちゃったかな。
ちょっとショックを受けてそうな三島さんだったけど、すぐに気を取り直したみたいで、私達はお酒を飲みながら軽い食事を楽しんだ。
「大樹は今、何してんの?」
「お兄ちゃんは今、他県の病院で、レントゲン技師をしてますよ」
「そうなのか。元気?」
「元気ですよー。相変わらず一人でフラフラしてますけど」
「っぷ、フラフラって」
三島さんは、眼鏡の奥の瞼を優しく細めて笑っている。
「ミジュちゃんは? 誰か良い人いないの?」
「い、いませんよ」
「まぁ折角の日曜に、バレーの試合観戦で一日潰してるんだもんな。恋人はいないか」
三島さんは、世の中のバレー観戦好きにものすごい失礼な事を言って、ハハハと笑っている。
まぁ確かに私には、恋人はいないんだけど。
「けど、お陰でいつも練習に来てくれて有難いよ。ボール出しとか球拾いまでさせて、申し訳ないけどさ」
「ううん。皆が頑張ってるの見るの、楽しいし」
「晴臣や鉄平なんか、ミジュちゃんがいる時といない時とじゃ、全然気合いが違うから、笑いそうになるよ」
「そうなんですか?」
それって……拓真くんは変わらないって事だよね。まぁ、当然なんだけど……。
そんな話をしながら、しばらくゆっくりとお酒を飲んでいると、スマホにメッセージが入った音がした。
しまった、こういう時はマナーモードにしとかなきゃいけなかったんだっけ。
「ご、ごめんなさいっ」
「いいよ、どうぞ」
三島さんに促されてスマホを確認すると、拓真くんだった。
『まだ飲んでるのか? そろそろ切り上げた方が良いと思うけど』
絵文字も何もなくて、なんだかちょっと怒っているような文章に見える。それとも、心配してくれているのかな?
『ありがとう、大丈夫。適当に帰るよ』
時刻はもう夜の十時に近かった。確かにそろそろ切り上げた方が良いかもしれない。
『今どこ?』
拓真くんのその問いに、私は素直に場所を伝える。
『鳥白グランドホテル』
『今すぐ帰って来い!』
間髪入れずに返事が戻って来た。しかも何故か命令口調。何かあったのかな。
「三島さん、ごめんなさい。私、そろそろ帰らなきゃ」
そうして席を立とうとすると、向かい側から手が伸びてきて、私の手を強く握られてしまった。
「三島さん?」
「このまますんなり帰れると思った?」
……え?
眼鏡の奥の三島さんの目が……意地悪そうに笑ってる。
「ホテルでする事って言ったら……もう分かるよね」
ホテルで……する事!?
「えっと、私……」
「まだ帰さないよ。俺のお願いを聞いてくれるまでは」
ど、どうしよう。
掴まれた手は、私なんかじゃ振り解けそうになくて。
鋭い瞳で睨まれると、蛙みたいに動けなくなっちゃう。
そんな中で鳴る、メッセージの受信音。きっと、拓真くんから。
逆の手でスマホを見ようとすると、三島さんに取り上げられてしまった。
「うるさいから、ちょっと電源切らせてもらうね」
そしてそのまま私のスマホは、三島さんのポケットの中へ。これは……まずい状況かも。
「か、返してください! 私、そんなつもりじゃ……っ」
「生憎だけど、俺は最初からそのつもりだったんだよ。悪いけど、諦めて。口止め料は、ちゃんとしっかり貰わないとね」
相変わらずの素敵な笑顔でそんな風に言われても、私は恐怖しか感じなかった。
どうしよう……どうしたら……
私、そんなに軽率な行動を取ってたの?
そんなつもりは、本当になかったのに……!
誰か……
助けて、拓真くん!!
バーって言うから市内の繁華街の地下の、小さなバーを想像しちゃってたんだけど……思えば、皇商事の社員だもんね。こういうところの方が慣れてるのかな。
窓際の席は、夜景が良く見える。
「ここの夜景が綺麗で好きなんだよね」
三島さんが微笑みを浮かべながらそう話しかけてくる。うーん、夜景かぁ。
「うちの病院からも、夜景が綺麗に見えるんですよ。小児病棟は十階だし、ここより高いかな? こんな夜景を見てると、夜勤を思い出しちゃうなぁ」
「そ……そっか」
あれ? あ、もしかしてこういう時はちょっとバカっぽくても『すごーいきれーい』なんて言葉を言っておくべきだった? 折角連れてきてもらったのに、悪い事言っちゃったかな。
ちょっとショックを受けてそうな三島さんだったけど、すぐに気を取り直したみたいで、私達はお酒を飲みながら軽い食事を楽しんだ。
「大樹は今、何してんの?」
「お兄ちゃんは今、他県の病院で、レントゲン技師をしてますよ」
「そうなのか。元気?」
「元気ですよー。相変わらず一人でフラフラしてますけど」
「っぷ、フラフラって」
三島さんは、眼鏡の奥の瞼を優しく細めて笑っている。
「ミジュちゃんは? 誰か良い人いないの?」
「い、いませんよ」
「まぁ折角の日曜に、バレーの試合観戦で一日潰してるんだもんな。恋人はいないか」
三島さんは、世の中のバレー観戦好きにものすごい失礼な事を言って、ハハハと笑っている。
まぁ確かに私には、恋人はいないんだけど。
「けど、お陰でいつも練習に来てくれて有難いよ。ボール出しとか球拾いまでさせて、申し訳ないけどさ」
「ううん。皆が頑張ってるの見るの、楽しいし」
「晴臣や鉄平なんか、ミジュちゃんがいる時といない時とじゃ、全然気合いが違うから、笑いそうになるよ」
「そうなんですか?」
それって……拓真くんは変わらないって事だよね。まぁ、当然なんだけど……。
そんな話をしながら、しばらくゆっくりとお酒を飲んでいると、スマホにメッセージが入った音がした。
しまった、こういう時はマナーモードにしとかなきゃいけなかったんだっけ。
「ご、ごめんなさいっ」
「いいよ、どうぞ」
三島さんに促されてスマホを確認すると、拓真くんだった。
『まだ飲んでるのか? そろそろ切り上げた方が良いと思うけど』
絵文字も何もなくて、なんだかちょっと怒っているような文章に見える。それとも、心配してくれているのかな?
『ありがとう、大丈夫。適当に帰るよ』
時刻はもう夜の十時に近かった。確かにそろそろ切り上げた方が良いかもしれない。
『今どこ?』
拓真くんのその問いに、私は素直に場所を伝える。
『鳥白グランドホテル』
『今すぐ帰って来い!』
間髪入れずに返事が戻って来た。しかも何故か命令口調。何かあったのかな。
「三島さん、ごめんなさい。私、そろそろ帰らなきゃ」
そうして席を立とうとすると、向かい側から手が伸びてきて、私の手を強く握られてしまった。
「三島さん?」
「このまますんなり帰れると思った?」
……え?
眼鏡の奥の三島さんの目が……意地悪そうに笑ってる。
「ホテルでする事って言ったら……もう分かるよね」
ホテルで……する事!?
「えっと、私……」
「まだ帰さないよ。俺のお願いを聞いてくれるまでは」
ど、どうしよう。
掴まれた手は、私なんかじゃ振り解けそうになくて。
鋭い瞳で睨まれると、蛙みたいに動けなくなっちゃう。
そんな中で鳴る、メッセージの受信音。きっと、拓真くんから。
逆の手でスマホを見ようとすると、三島さんに取り上げられてしまった。
「うるさいから、ちょっと電源切らせてもらうね」
そしてそのまま私のスマホは、三島さんのポケットの中へ。これは……まずい状況かも。
「か、返してください! 私、そんなつもりじゃ……っ」
「生憎だけど、俺は最初からそのつもりだったんだよ。悪いけど、諦めて。口止め料は、ちゃんとしっかり貰わないとね」
相変わらずの素敵な笑顔でそんな風に言われても、私は恐怖しか感じなかった。
どうしよう……どうしたら……
私、そんなに軽率な行動を取ってたの?
そんなつもりは、本当になかったのに……!
誰か……
助けて、拓真くん!!
0
あなたにおすすめの小説
看病しに行ったら、当主の“眠り”になってしまった
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全36話⭐︎
倒れた当主を看病する役目を振られた使用人リィナは、彼の部屋へ通うことになる。
栄養、灯り、静かな時間、話し相手――“眠れる夜”を整えていく。そして、回復していく当主アレクシス。けれど彼は、ある夜そっと手を握り返し、低い声で囁く。
「責任、取って?」
噂が燃える屋敷で、ふたりが守るのは“枠(ルール)”。
手だけ、時間だけ、理由にしない――鍵はリィナが握ったまま。
けれど、守ろうとするほど情は育ち、合図の灯りはいつしか「帰る」ではなく「眠る」へ変わっていく。
看病から始まった優しい夜は、静かな執着に捕まっていく。
それでも、捕獲の鍵は彼ではなく――彼女の手にある。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
訳あり冷徹社長はただの優男でした
あさの紅茶
恋愛
独身喪女の私に、突然お姉ちゃんが子供(2歳)を押し付けてきた
いや、待て
育児放棄にも程があるでしょう
音信不通の姉
泣き出す子供
父親は誰だよ
怒り心頭の中、なしくずし的に子育てをすることになった私、橋本美咲(23歳)
これはもう、人生詰んだと思った
**********
この作品は他のサイトにも掲載しています
橘若頭と怖がり姫
真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。
その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。
高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。
冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない
彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。
酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。
「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」
そんなことを、言い出した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる