思い出の夏祭り 〜君が私の気持ちに気づくまで〜

長岡更紗

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42.拓真くんのお願い

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 翌日、日勤が終わって拓真くんの病室に行くと、製菓学生のメンバーが来てくれてたみたいだった。
 一ノ瀬堂の紙袋と、速水皓月の紙袋が拓真くんの病室に置いてある。

「皆、来てくれたんだ?」
「あ、ミジュ。うん、さっさと帰ってったけど」
「どう? 傷はまだ痛むよね」
「ああー、こんくらいどうって事ない。一昨日のあの痛みに比べたら余裕」
「ねぇ、どうしてあの時すぐに連絡くれなかったの? 九時半には私が帰って来るの、知ってたでしょ?」
「いや、そのうち痛みも治るかな~って。でもどんどん酷くなってきて、マズイって思った時にはもう一ミリも動けなかった」

 ちょっと、マズイって思うのが遅すぎでしょー!!
 動けなくなってからじゃ、遅いんだよ! 特に一人暮らしはー!

「今度から、調子が悪いなと思ったら早目に言って! そうしたら様子だって見に行けるし、こんなに耐えなくても済むんだからね?」
「はい、身に沁みました」

 いつもと違ってしおらしい拓真くん。よっぽど今回のことがこたえたんだね。仕方ないから、これくらいにしておいてあげよう。
 ふっと息を吐くと安心したのか、拓真くんの表情は少し緩んで紙袋を取り出した。

「ああ、そうだコレ。母さんがミジュに渡してって」
「え?」

 その紙袋には、見た事もない店名が入ってる。

「あ、ごめん! うちの病院は、そういうの頂けない事になってて……」
「看護師のミジュじゃなくて、俺のお隣のミジュにだよ。うちからのお土産兼お礼」
「あ……そっか、それじゃあ遠慮なく頂こうかな」
「俺の地元の銘菓で、白のさざ波っていう和菓子。美味いぞ」
「帰ってゆっくり食べるね。ありがとう」

 その袋を貰うと同時に、拓真くんの家から持ってきた替えの寝巻きや下着を取り出して見せる。

「今日の分の着替え、置いておくね。一昨日来てた服はどこ?」
「あー……そこのナイロン袋だけど、いいよ、後で自分で洗濯するから」
「ここの洗濯機、一回二百円で乾燥機は三百円掛かるけど?」
「マジか。タコが買える!」
「ふふ、私が持って帰って洗濯して来てあげる」
「いーけど、あの時みたいに俺のパンツ握りしめんなよ」
「し、しないよ! っていうか、してないから!!」

 も、もう、なんて事言うの!! あの時は、ちょっと動揺しちゃってただけなのにー。
 拓真くんはハハハって軽く笑った直後、イテテと顔を引きつらせた。

「痛かったらちゃんと言って、薬を出してもらってね」
「大丈夫。俺、薬嫌い」
「もう、痛みを我慢する方がよっぽど辛いでしょ。出された薬はちゃんと飲んでるんでしょうね」
「一応、飲んでる」
「本当に? 言っておくけど、リナちゃんは一日に二十錠近く飲んでたんだからね? うっかり飲み忘れた、だなんて言ったら、リナちゃんに知らせて怒って貰うよ?」
「の、飲んでるって!」

 ちょっと慌ててる拓真くんもかわいい。
 まぁこれだけ脅しておけば、大丈夫かな? 妹のリナちゃんの前では、しっかりしたお兄ちゃんでいたいみたいだしね。

「じゃあ、ちゃーんと良い子にしててね、拓真くん」
「子どもじゃねーんだから」
「まだ未成年でしょ!」

 いつもは私の方が子ども扱いされるから、こういう時くらいはやり返しちゃえ。
 私は小さい子どもにするように、ちょっとムッとしてる拓真くんの頭にポンと手を乗せた。その時。

「ミジュ」

 拓真くんに乗せてた手の手首を、パシッと掴まれた。
 ひゃ、なに?

「帰んの?」
「え? ……うん」

 手が、拓真くんの頭の上からゆっくり下される。
 でもまだ、手首は拓真くんに握られたままで。

「どうしたの?」
「いや、もうちょっと居て欲しい。無理ならいーけど」

 ……え?
 今なんて言った?

 拓真くんが……『もうちょっといて欲しい』?!

「今日は土曜でバレーの練習があるから……あんまり長くはいられないよ?」
「売店で弁当買ってくれば? どうせ帰ってもコンビニ弁当なんだろ」

 ううっ! ……まぁその通りなんだけどね。

「……ここで食べてけよ。家に帰っても、一人なんだし」

 拓真くん……なんだろ、かわいい。照れてる?
 それとも一人でご飯を食べる私を、気遣ってるだけ?
 どっちにしても、私の答えは決まってる。

「それじゃあ、売店に行ってお弁当買ってくるね。あ、でも拓真くんはもう食べられるの?」
「今朝水から始めて、昼は重湯だった。夜は普通のお粥が出るってさ。腹減った」
「まぁ仕方ないね。じゃあ特に買うものもないかな。ちょっと行ってくるね」

そうして立ち上がろうとしたのに、まだ拓真くんは手を離してくれなかった。

「ん? 拓真くんも何か欲しい物あるの?」
「カップラーメン。ここのメシだけじゃ、全然足りねぇ」
「そうだろうけど、まだダメだよ。先生に食べても大丈夫って言われてからね」
「そん時のために買っといて。他の人の病院食見てても、俺あれじゃあ絶対足りねーもん」
「ふふ、分かった。じゃあ買ってくるね」

 ようやく手を離してくれたから立ち上がると、拓真くんもベッドから足を下ろす仕草を始めた。

「俺も行こうかな、売店」
「え? 私が買ってくるけど」
「先生に癒着しないようどんどん動けって言われてるしさ。優秀な看護師が傍にいるから、大丈夫だろ?」
「でも売店は結構遠いよ。痛いんでしょ?」
「ゆっくり行くよ」
「それじゃあ、手を貸すからゆっくりね」
「よっしゃ」

 謎の掛け声を出して、足をベッドの外に下ろして靴を履いている。
 立ち上がる時が大変だろうと思ったから、私の肩に手を置いて立ってもらった。

「どう?」
「平気。このまま肩貸しといて」

 私は拓真くんの右側で、左の肩を掴まれた状態で歩く。
 出来れば手を貸したかったけど、この身長差だと肩の方が良いみたい。
 仕事だと緊張しないと思うんだけど、プライベートだと気持ちが浮ついちゃうよ。距離的にはいつもバレーから帰る時と同じくらいなんだけど、肩に手があるだけでドキドキしちゃう。
 しかもエレベーターに乗ると、人が多くて密着せざるを得なくて。左肩に置かれてた手が移動して、右側に……!!
 本当に肩を抱かれてる状態だよ……っ! どうしよう、嬉しい……っ。
 でもあっという間に売店のある一階に着いちゃった。
 そのままエレベーターを降りて、売店の方に向かおうとした時。

「……園田?」

 目の前から、よく知る顔が、よく知る声で話し掛けてくる。

「どゆこと?」

 よ、よしちゃん……っ!!
 私の顔は引き攣る。
 今日はロングの日のよしちゃんが、売店の袋を持って。
 世にも奇妙な物を見たかのような顔で、私と拓真くんを交互に見てた。
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