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アリシア編
50.この線で繋がりそうね
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「ザーラは、ルナリア様に王族の特権を使わせたいと思っていたのではないしょうか」
「特権を……自分自身とロメオを、守るためね」
答えを導けたアリシアは、一人納得した。
ヒルデは、リーン派に特権を使われることを恐れていたに違いない。死という恐怖で支配している者が、リーン派の特権によって守られることで、己が告発されてしまうからだ。
だから一番懐柔しやすいであろうルナリアを、早く殺す必要があった。それをザーラ自身にさせるとは、やることがえげつない。
それに、ルナリアたちが中庭で逢瀬をしていた時、フリッツがなぜいきなり特権を振りかざしてきたのかも、ようやく納得がいった。きっと、ルナリアがザーラに聞いたことを、フリッツに話してしまったのだ。
そして例の謹慎処分の騒ぎがあり、フリッツはその時に特権のことをヒルデに伝えてしまったのかもしれない。
その話の出所がザーラだと見抜いたヒルデが、忠誠心を試すようにザーラ自身にルナリアの暗殺を命じる……なくはない話だ。
「この線で繋がりそうね」
「はい。しかし、もう少し私の勝手な憶測にお付き合い願えますか?」
「遠慮なく言って」
「ありがとうございます。話は遡りますが、ハナイでマーディア王妃様が療養なさっていた時のことなのですが」
アリシアはハナイの森別荘で、マーディアを心配するザーラの顔を思い出す。
「当時、何度かザーラは近くの街に出ることがあったそうです」
「街に?」
「はい。そしてなんらかの書を習得したという情報が入ってきました」
「書を? なんの?」
「街の習得師に聞きましたが、覚えていないそうです」
なんからの、書。異能であろうか、魔法であろうか。どちらにしても、習得すれば軍への報告義務があるはずだ。しかしルーシエが把握していないとなれば。
「軍には報告できないものを習得した、ということね?」
「だと思われます」
「あなたのことだから、目星はついているんでしょう」
「はい。魔法の書なら闇魔法、異能の書なら呪いの異能かと」
そこまで聞けば、誰でもわかる。あれは、あの悲しい事件は、ザーラが引き起こしたものだったのだと。
「闇魔法にも呪いの異能にも、人の精神を壊すものがあったわね」
「はい」
ルーシエの肯定の言葉を聞き、アリシアはグッと奥歯を噛んだ。
マーディアが心神喪失状態から中々回復せず、最終的にあのような凶行に及んだ理由。それは第一王女が殺されたからというだけでは、なかったのだ。
人の精神は高レベルの者であっても簡単に壊せるものではないが、元々病んでいたマーディア相手なら十分に効果は発揮しただろう。
「マーディア様の精神をそれで操作し、シウリス様とルナリア様を殺すように仕向けた、ということ?」
「私の憶測に過ぎませんが」
「ザーラから書を取り出せれば、証拠にはなるわね」
「証拠になり得るものはすでに取り出しているでしょう。恐らくはなにも出てきません」
むう、とアリシアは腕組みをした。証拠というものを揃えるのは、中々大変である。
もしザーラが習得したままだったとしても、それだけではまだヒルデが黒幕だとは言えない。
あの時、周りの目があったとは言え、ザーラはルナリアに蘇生処置を施して生き返らせている。それを鑑みるに、ザーラはヒルデに殺人を教唆されたと考えるのが妥当ではあるのだが。
なんにしても、すべて憶測に過ぎないのが残念である。
「どちらにしろ、ヒルデ様はリーン派を潰したいようね」
「あのシウリス様を暗殺できる人間などいないでしょうから、精神的に崩す意味でも今回ルナリア様を狙ったのかもしれません」
果たしてヒルデのその思惑は、成功しているのかいないのか。
火に油を注いでいるだけのような気も、しないではない。
「とにかくまずは、ザーラに共犯と黒幕を吐かせることね」
「私がいたします」
「いいわ。あなたたちにばかり、嫌な役目を押し付けられないもの。拷問は私が……」
そう立ち上がってザーラの待つ地下牢に行こうとした時。
「筆頭……」
コンコンと扉が鳴って、ジャンが入ってくる。
「どうしたの、ジャン」
ジャンは、顔の右半分を歪ませて。
「ザーラが、牢獄で死んでる」
そう、告げられた。
「特権を……自分自身とロメオを、守るためね」
答えを導けたアリシアは、一人納得した。
ヒルデは、リーン派に特権を使われることを恐れていたに違いない。死という恐怖で支配している者が、リーン派の特権によって守られることで、己が告発されてしまうからだ。
だから一番懐柔しやすいであろうルナリアを、早く殺す必要があった。それをザーラ自身にさせるとは、やることがえげつない。
それに、ルナリアたちが中庭で逢瀬をしていた時、フリッツがなぜいきなり特権を振りかざしてきたのかも、ようやく納得がいった。きっと、ルナリアがザーラに聞いたことを、フリッツに話してしまったのだ。
そして例の謹慎処分の騒ぎがあり、フリッツはその時に特権のことをヒルデに伝えてしまったのかもしれない。
その話の出所がザーラだと見抜いたヒルデが、忠誠心を試すようにザーラ自身にルナリアの暗殺を命じる……なくはない話だ。
「この線で繋がりそうね」
「はい。しかし、もう少し私の勝手な憶測にお付き合い願えますか?」
「遠慮なく言って」
「ありがとうございます。話は遡りますが、ハナイでマーディア王妃様が療養なさっていた時のことなのですが」
アリシアはハナイの森別荘で、マーディアを心配するザーラの顔を思い出す。
「当時、何度かザーラは近くの街に出ることがあったそうです」
「街に?」
「はい。そしてなんらかの書を習得したという情報が入ってきました」
「書を? なんの?」
「街の習得師に聞きましたが、覚えていないそうです」
なんからの、書。異能であろうか、魔法であろうか。どちらにしても、習得すれば軍への報告義務があるはずだ。しかしルーシエが把握していないとなれば。
「軍には報告できないものを習得した、ということね?」
「だと思われます」
「あなたのことだから、目星はついているんでしょう」
「はい。魔法の書なら闇魔法、異能の書なら呪いの異能かと」
そこまで聞けば、誰でもわかる。あれは、あの悲しい事件は、ザーラが引き起こしたものだったのだと。
「闇魔法にも呪いの異能にも、人の精神を壊すものがあったわね」
「はい」
ルーシエの肯定の言葉を聞き、アリシアはグッと奥歯を噛んだ。
マーディアが心神喪失状態から中々回復せず、最終的にあのような凶行に及んだ理由。それは第一王女が殺されたからというだけでは、なかったのだ。
人の精神は高レベルの者であっても簡単に壊せるものではないが、元々病んでいたマーディア相手なら十分に効果は発揮しただろう。
「マーディア様の精神をそれで操作し、シウリス様とルナリア様を殺すように仕向けた、ということ?」
「私の憶測に過ぎませんが」
「ザーラから書を取り出せれば、証拠にはなるわね」
「証拠になり得るものはすでに取り出しているでしょう。恐らくはなにも出てきません」
むう、とアリシアは腕組みをした。証拠というものを揃えるのは、中々大変である。
もしザーラが習得したままだったとしても、それだけではまだヒルデが黒幕だとは言えない。
あの時、周りの目があったとは言え、ザーラはルナリアに蘇生処置を施して生き返らせている。それを鑑みるに、ザーラはヒルデに殺人を教唆されたと考えるのが妥当ではあるのだが。
なんにしても、すべて憶測に過ぎないのが残念である。
「どちらにしろ、ヒルデ様はリーン派を潰したいようね」
「あのシウリス様を暗殺できる人間などいないでしょうから、精神的に崩す意味でも今回ルナリア様を狙ったのかもしれません」
果たしてヒルデのその思惑は、成功しているのかいないのか。
火に油を注いでいるだけのような気も、しないではない。
「とにかくまずは、ザーラに共犯と黒幕を吐かせることね」
「私がいたします」
「いいわ。あなたたちにばかり、嫌な役目を押し付けられないもの。拷問は私が……」
そう立ち上がってザーラの待つ地下牢に行こうとした時。
「筆頭……」
コンコンと扉が鳴って、ジャンが入ってくる。
「どうしたの、ジャン」
ジャンは、顔の右半分を歪ませて。
「ザーラが、牢獄で死んでる」
そう、告げられた。
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